37
無理だった。
甘かった、というか35話で使った言い回しをそのまま使ってしまった。(ベタ)
「ねぇ、ニフェール君?
あれ、どうにかできない?」
「無理ですね。
いまのあいつには何も聞こえてないかと」
オーミュ先生、無理ですよ。
今のあいつには手紙しか関心はありません。
「ティアーニ先生が暴走するのとほぼ同じです。
放置した方が僕たちの心にダメージ無くていいと思うんですが?」
「……暴れ出したりしないわよね?」
「触れなきゃ何も無いとは思いますけどね」
今のホルターは手紙に触れなきゃ自分の中に籠ってる感じ?
ならそこに触れなきゃ何もしませんよ。
「はぁ……分かったわ、他の先生にも言っておく方がいいわよね?」
「無駄な正義感を発揮してあいつを刺激するようなことさえしないのなら。
そこら辺大丈夫?」
「まぁ、多分大丈夫でしょう。
ティアーニ先生の時と同じ対応して下さいと言えば分かると思うわよ」
ティアーニ先生、そこまで有名になっちゃったんですね……。
クラスの面々も過去のホルターの異常行動は見ている。
なので、生暖かい視線を送るのみ。
暴走理由は知らなくても何となくお相手からの手紙というのは分かるのだろう。
一部男女どちらなのかで賭けている馬鹿どもがいるが。
そして昼食時。
「昨日、修道院に行ったのですよね?
どうでした?」
「男性が夜中に敷地内に入っていたことを声で気づいたようです。
まぁ、どんなことをしているのかは気づいてなかったようですが」
ジル嬢が妙に楽しそうに聞いてくる。
「一通り説明したんです?」
「流石に野菜プレイは教えませんでしたよ?
それ説明しちゃうとどれだけ冷たい目で見られるか……」
「あら? 私たちには全力でぶつけて来た癖に?
お優しいですのねぇ?」
「あなた方はこの程度の揶揄いじゃ大してダメージ受けませんからねぇ?
でも、あちらの面々は今後もあの修道院にいることになります。
そして、あちらの面々のうち四名はロッティ姉様の僕。
そんな方たちが野菜プレイの話を聞いたら?」
「……見に行きそうですね」
「ええ、僕もそう思いました」
本当にやりかねないからなぁ!
ロッティ姉様の濃厚な性格を少し薄くした僕たちでも大して変わらない。
目を輝かせて見に行くんじゃないの?
「同じ敷地内でそんなことが行われていると知ったらどうなることやら。
なので、基本黙ってます。
あぁ、一応こちらの大まかな予定は伝えておきました。
なので、後はそれに合わせて相手を潰す策を練らないと」
「必要なら俺たちを使うことも考えろよ?
学園外への伝手は期待できないだろうが、学園内なら何とかなるから」
「その辺りは信用してるよ。
とはいえ、作戦がまだ決まってないんだ。
なんで、もう少し待って」
どう考えても人員不足なんだよなぁ……。
うちの面々フル稼働させても人手が足りない。
騎士側は信用という点で無理な部隊があるし。
それに、第四と第七もどうするかなぁ……。
全く、頭痛くなりそうだ。
ついでに強盗ギルドの壊滅予定もある。
それと北部の暗殺者達の行動に対してあちら側がどういう反応をするか。
建国祭までにまだやることあるなぁ……あ、冬季試験もか。
女装の話もあったな。
学園の指導だけは「不動の構え」のお陰で落ち着いたけどさ。
「個人的にはお前が二人いればなぁと思うときがあるよ」
「侯爵方の胃へのダメージが倍になるのか?」
「あ……そっちもあるのか」
フェーリオ、考えが足らん!
父親の胃に穴空くぞ?
「まぁ、何とかうまく調整してみるさ。
うちの部下たちがとても有能だから、ある程度どうにか出来るだろ」
「カル達にも休みは与えてやれよ?」
「僕も休み欲しいんだけど?」
そこ、視線逸らさない!
◇◇◇◇
クッソ寒い夜の街の中でもまだ少し怪し気な明かりが漏れる場所。
北部テュモラー領領都の繁華街の隅にある娼館街。
私はこれからこの奥にある娼館ギルドに顔を出す。
私は王都商業ギルドの一員。
ぶっちゃけて言えば今回はメッセンジャー兼追及役。
面倒な役回りだが、王都でここの暗殺者ギルドがやらかした以上仕方ない。
一緒に連れて来たコカ殿達も結構緊張しているようだ。
そりゃそうだろうなぁ、なんせ王都と北部の全面戦争一歩手前だ。
犯罪者ギルド同士の戦争である以上ろくでもない戦いになりかねない。
だからこそお互いこうならないように調整していたはずなんだがなぁ。
「失礼、私王都商業ギルドの者です。
こちらに娼館ギルドの長、クリー様はおられますか?
王都のギルドから手紙をお持ちしたのですが」
王都の娼館ギルドほどでは無いが、それなりに礼儀を知る者が対応してくれた。
どっちのギルドでも黒服着ているんだな。
「はい、しばしお待ちください」
王都のギルドからという事で、急ぎ確認しに行った。
そりゃそうだろうなぁ。
娼館ギルド間の連絡はあるだろう。
けど、商業ギルドが娼館ギルドに来ることはほぼ無いだろう。
私も正直記憶に無い。
全速力で戻ってきたのだろうか、真っ白い息をばら撒きながら近づいてきた。
多分先程の黒服なんだろうけど、息切れしかけているようだ。
「お、お待たせいたしました!
クリー様の所へご案内致します!!」
うっわぁ、涙目になりながら案内されてしまった。
まぁ、北部と王都の間はこういうやり取りはほぼ無いからなぁ。
もしかすると今の長たちの中では初めてなんじゃないのか?
黒服に案内され、クリー様の執務室に入る。
……やっぱり王都ほどキラキラした感じはしないな。
とはいえ、随所に金掛けた物を使っているようだ。
「あの婆様からの手紙を商業ギルドと明言して持ってくるとは何があった?
普段ならついでに持って来るだけだったろうに」
「私も内容は大体把握しているつもりではありますが……。
まずはこちらの手紙をご確認いただければ幸いです」
手紙を渡し、読み始めるとどんどん表情が……。
「ちょっと待っておくれ、王都で何が起こったんだい?」
「書いてありますでしょ?
手紙の通りですよ?
この街の暗殺者ギルドと強盗ギルドの連合部隊が王都で馬車を襲撃。
その者たちは捕縛したら毒を飲んで死にました」
顔引き攣ってますよ?
「なお、襲撃された方は貴族の犯罪者を捕まえるために協力された方。
夫が犯罪者で協力者が奥方でした。
陛下も奥方の正しき心に感動され、希望を聞かれたところ修道院に入りたいと。
その願いを叶え王家の馬車で送ったところ襲撃を受けました」
……倒れないでね?
「その後、王都の暗殺者ギルドが調べたところ、襲撃第二組を見つけました。
それがこちらのコカ殿率いる者たち。
そこでなぜ王都側ギルドに許可を得ず動くのか確認しましたところ――」
「待っておくれ!
許可を得ていないのかい?!」
ほぅ、これで驚くということは最低でも娼館ギルドは敵ではなさそうですね。
当然と言う反応を見せたら……【妖魔】にお出まし頂きたかったのですが。
「ええ、おかげで王都のギルドが集まって情報収集に動いたとご理解下さい。
続きですが、王都で行動する場合に許可を貰うことを知らなかったようです。
本来、ギルドの長に説明の義務があることはご存じかと思いますが?」
顔色真っ青な状態で首だけ頷いている。
「で、王都側での調査結果ですが……。
コカ殿達は何も知らずに王都で仕事することを命ぜられたと判断してます。
ただし、当然ですがなぜ北部として王都で暴れようとしたのか?
北部以外の全犯罪者ギルドと戦争するつもりなのか詰問しに来ました」
「待っておくれ! 戦争なんてする気は無いわ!!
これからすぐに全ギルドを集結させて暗殺者と強盗に問いただすわ!
それまで詰問等待って頂戴!」
あぁ、滅茶苦茶ビビってますね。
当然ではあるのですけど。
「……分かりました。
では、しばし待たせて頂いましょうか」
「こちらの方を別室にお連れして!
そして、他のギルドの長たちを至急集めて!
動きが遅れるだけ北部が壊滅に近づくのよ!!」
黒服たちが必死な表情で動き出す。
そりゃあそうでしょうねぇ、この国の犯罪者ギルド集団四つ(東西南に王都)。
全部受けきることは王都側でも無理ですね。
ならどうするか?
問題の暗殺者と強盗の状況次第ですが、二人の首で王都側に寛恕いただく位?
とはいえ、大人しく捧げるかが疑問ですけどね。
当人たちだって死にたくないでしょうし。
さてさて、どういう言い訳をしてくるんでしょうねぇ?
それから一時間程度で長が全員集合。
顔の青さはそのままにクリー様が説明し始めた。
私も脇に座らせていただき話を聞くこととする。
「――という訳で、現状暗殺者と強盗が王都に喧嘩を売った形になっている。
そして、規則違反により国内の他地域とも戦争の可能性がある」
「なんだよ、その規則って。
聞いたことねえなぁ」
どう見ても「オラ知らねぇ」と言わんばかりの発言をする暗殺者の長。
確かヘリンだったか?
「嘘つくじゃないよ!
全員、長になったときに前の長から教わっているはずさ!
それに、仮に教わっていなくてもこの集まりで新人の長に説明しているわ!
知らないとは言わせないよ!」
クリー様が必死になって叫ぶ。
そりゃあそうでしょうねぇ。
自分らの命を危険に晒した奴らに加減する理由はない。
ここぞとばかりに文句言うだろう。
当然、他のギルドも巻き込まれたくないのか全力で罵る。
「うっせえなぁ!
こっちは依頼主から仕事を受けて対応してんだよ!
それの何が悪い!」
「仮にそうなら、依頼を受けた時点で王都のギルドと調整するんだよ!
そして許可を得た時点で動けばいい話さ!
相手の地盤で勝手なことすればブチ切れられて当然だよ!
お前は王都側に『規則守れないクズです!』って宣言しちまったんだよ!」
はぁ……と溜息を吐き、クリー様は宣言する。
「あんた……いや、強盗のモリーもだね。
二人とも王都向けの依頼を受けること一定期間禁止!」
「なっ! ふざけんな!
北部が無能と思われるじゃねえか!」
「そうだ! 領主からの依頼を受けられないなんて言ったら飯の食い上げだ!」
「あんたらのお陰で既に無能扱いされてんだよ!
簡単な規則も守れないような奴がどうして有能と思われるのさ?!
それに、これ以上愚かな行動を繰り返すのならうちらは見捨てる。
国中の犯罪者から狙われて生きていけると思うな。
わざわざ各地からあんたらを殺すために暗殺者を送ってくれるだろうさ」
流石にこの発言には「ヤバッ!」と思ったのか少し頭を冷やしたようだ。
「一応言っておく。
ちゃんと約定を守れるのなら先程の禁止を解除する可能性はある。
しかし、そのつもりが微塵も見れないのなら……。
王都経由で暗殺者を依頼する。
あんたら二人を消すために動いてもらうよ」
「お、おい! 同じ街の犯罪者同士で殺し合うこともねえだろう!」
「あんたらがそれを選ばせたことを、まだ理解できないのかい!
国内の規則を守らないのなら国中から狙われる。
それを理解できないのなら死ぬしかないだろ?」
クリー様が二人に汚物を見るかのような視線を送る。
流石に本気であることが理解できたのだろう。
悔しそうに、それでも自分たちの命が大事だと見え、この話を受け入れる。
「……分かった。
一応確認だが、北部での仕事は受け入れていいんだな?」
「あぁ、そこまでは禁じない。
とはいえ、一応言っておくがこちらの方を暗殺するのはよしときな。
それをやったら確実に戦争だよ」
言われたことを実際に考えていたようで「チッ!」と舌打ちをする。
「そいつ位殺しても何にもならんだろ?」
「王都の商業ギルドが北部の商人を締め出すだろうね。
食糧、酒、いろんな物流が滞るだろうね。
そんなに北部の住人を飢えさせたいのかい?
加えて、確実に襲い掛かられるよ?
あんたらそれだけの暗殺者に対応できるのかい?」
「……」
王都の暗殺者ギルドの状況を知ってたら反応が変わったんでしょうけどね。
人数激減してますし。
でも、その情報が無い以上、クリー様の発言に反抗することはできない。
情報の有無が判断を分けるいい例ですね。
「では、これから今回の決定事項について手紙を書くので持って行って欲しい。
北部の他ギルドは争いたいとは一切思っていない。
どうかその辺りをあの婆さんに伝えておいて欲しい」
「ええ、ピロヘース様も他の方々が規則違反してるとは考えておられません。
今後もお互い規則を守り仲良くできればと思っております」
暗殺者と強盗を除く面々は安堵している。
厄介を引き起こした二人は――
「コカ!
なんでお前が帰って来てるんだよ!
何でアイツらを死なせた!!
お前があっちで死ねばよかったのに!!!」
「何言ってやがる?
あいつらも俺もあんたの指示に従っただけだろ?
俺はあいつらが失敗した後に実行しろとは言われたぞ?
先に襲撃しろとは言われていない。
文句言うこと自体が間違ってるだろうに」
「ぐぎぃ!!」
言い返せないでしょうねぇ、自分の指示なんだし。
これで言い返したら只の恥さらしだし。
「ヘリン、お前の指示で動いた奴らに文句言ってどうするんだい?
あとモリー、お前もだぞ?
部下に文句言うなよ?」
二人とも文句言いたくて仕方ない表情をしている。
大人しくしていられるのかねぇ?
【テュモラー領娼館ギルド】
クリー:娼館ギルドの長(表裏とも)
→ クラミジア感染症から




