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ざっくり読んでみると、皆仲良くしているようだ。
修道院長がいい人だとか同じ立場の他の人も優しいとか書いてある。
とりあえず文章の中には嫌な感じはしない。
ちなみに、セリナ様からホルター宛ての手紙もあったが、これは見ないでおく。
明日、アイツに渡すか。
さて、最後にヴィーナの手紙。
内容としては皆と同じだが、最後に一言。
「ラーミルとまた『砕拳女子』の話をしたいです」
最初の手紙でこれか……。
初手がこれとはなぁ……。
何見つけたんだろ?
「あれ、ティッキィ宛の手紙は無いんです?」
「あぁ、既に渡してますわ。
今、別室で読んでいるはずですけど」
「なら後で聞きますか。
そっちで何か情報を書いてあれば見たいですけど。
単純な恋文ならいいんですけどねぇ」
とりあえず、今日はティッキィと一緒に侵入しますか。
……他に割り込み無いよな?
「カル達はいます?
割り込みで何かないか確認したいんですけど」
「今日は何も無いと聞いてますわ。
なので、ティッキィと一緒に潜入で問題ありませんわよ?」
あ、事前にチェック頂いたんですね。
……なら、もう少ししたら寮に戻って夕食後また来ますか。
その後、軽くラーミルさんと話し合うが、ティッキィは戻ってこない。
読み直ししてるのか?
余程甘々なこと書いてあったのか?
「ラーミルさんすいません。
ティッキィ戻ってきたら今日侵入すること伝えてください。
僕は一旦寮に戻って、夕食後またここに来ます」
「かしこまりました。
伝えておきますね」
急いで寮に戻る。
なぜか夕食時にクラスメートが大騒ぎしながら飯を食っていた。
コッソリ耳を澄ますと……おい、『不動の構え』で合格したの喋ってるのか?
というか、ホルターとスロムは?
もう飯食って消えたのか?
ホルター、お前、こいつらきっちり面倒見とけよ。
どれだけお前らが恥ずかしい思いしても僕のせいじゃないからね?
僕知らないよ?
来週の学園の会話がどうなるか恐ろしく思いつつも再度チアゼム家に向かう。
カル達と集まると、ティッキィが妙にそわそわしている。
……若いねぇ。
いや、僕が言うことじゃないけど!
どう考えても僕より年上だけど!!
「ティッキィ、行けそうか?」
「あぁ、大丈夫だ……多分」
多分かい!
ん~、まぁ仕方ないなぁ、これは。
「とりあえず、僕と一緒に修道院に潜入。
部屋までは僕が背負って登るので、ちゃんと捕まっていてね。
その後部屋に入れてもらって話を聞く。
流れはそんな感じかな?
ティッキィはヴィーナの説明を邪魔しない限り横にいていいよ」
「感謝する!」
もうウッキウキだな。
……今更ながら連れて行くの不安になってきた。
「一応言っておく。
会った途端ヴィーナに襲い掛かるのは止めろよ?
キス・ハグ・胸揉む位までは会話の邪魔にならない程度なら許す。
それ以上は絶対ダメだぞ?」
「……努力する」
努力かい!
ったく、本気で不安になってきた。
なんとかチアゼム家を出て前回侵入したルートで修道院へ。
誰にも見つかることなく建物の前に到着。
「んで、俺を背負って登るんだよな?
今更ながらだが大丈夫なのか?」
「ベランダ側が壊れるほど重いのならマズいけどね。
普通の体重なら問題無いよ。
さ、背負うから僕の背に」
少々怯えつつも大人しく僕に背負われる。
さて、一気に登ろうとすると……多分ティッキィがゲロ吐きそうな気がする。
後頭部にすっぱい臭い付けられるのは嫌なので、ゆっくり登っていくか。
普段寮の自室に向かう時より時間をかけて登っていく。
たまにティッキィがビクンと震えるが、こんな事態は流石に経験無いだろう。
仕方ないと割り切ることにした。
多分、ティッキィには何時間にも感じられただろう。
実際は数分でヴィーナがいるはずの部屋のベランダに到着。
明かりは漏れていないので、もう寝ているようだ。
窓ガラスにノックする。
コンコンコン
それと同時にガタッと音がしたと思えば何者かが瞬時に窓に近づく。
……淑女科秘伝のあの歩法か?
となるとヴィーナだな。
こちらの顔を見て、窓を開けてくれる。
「すまん、寒いんで中に入れさせてくれ。
土産は持って来た」
「はい、どうぞ中に」
大急ぎで中に入り、窓を閉める。
僕もティッキィも身体を震わせ寒い外から暖かい部屋に入れたことに安堵する。
「こちらに来られたということは手紙を見られたのですね?」
土産に抱きつかれながらヴィーナが小声で質問してくる。
セリナ様、諦めてね。
「あぁ、最初の手紙からアレが書かれるとは思ってなかったんで驚いたよ。
で、まずそちらから情報教えてもらえるかな?
その後外の現状を伝えるから」
「それは助かります。
それと、こちらも他のメンバーを呼びたいのですが?」
「ロッティ姉様のお友達たちかい?
構わないよ」
セリナ様がこっそり他四人を連れて来る。
もしかして、ヴィーナが代表してアレ書いたけど、皆同じ情報持ってたか?
「皆さんお久しぶりです。
情報共有させて頂きたいですが大丈夫?」
「ええ、構いませんわ。
こちらもその予定でヴィーナさんに代表して書いてもらいましたので」
予想通りではあるけどセレラル様が代表して話す。
やっぱりあの四人のまとめ役っぽいな。
「了解です。
では、ヴィーナ、説明お願い。
喋れるのなら土産とイチャつきながらでいいから」
「はい、では――」
ざっくり言うと、修道院では何も問題は発生していない。
人がいきなりいなくなったとかも無いようだ。
だが、夜に男性の声が聞こえたらしい。
……あれだよね?
どう考えても野菜プレイな人たちの声だよね?
ちなみに説明の間、土産に抱きつかれてご満悦だった。
まぁ、個人的には馬に蹴られたくないから止めないけどね。
「――というわけで、ご報告させていただきました」
「成程ねぇ。
ではこちらの情報だけど――」
現状の王都の情報を教えると皆呆れていた。
「ニフェール様、どんな無茶されてるのですか?」
セレラル様、そこまで呆れないでください。
「そこまで無茶したつもりは無いんですが……。
それと、ここで気づいた男性の話なんですが――」
そう言って、ほんの少しだけぼかした話をする。
具体的に言うと野菜プレイ。
あそこは詳細は伏せておいた。
まぁ、ちゃんと見てないからねぇ。
「……よくそんな情報得られましたわね?」
「偶然なんですけど、僕も正直驚いてます。
そんな訳で、現時点でこの修道院にまともな人は院長だけの可能性があります。
今後も調査続けますが、あまりこの場所で味方は期待しないでください」
「なんというか、冗談みたいな環境ですね」
「本当に、調査すればするほどろくでもない情報が入るのが恐ろしいですよ。
それと、来年二月上旬に僕らが襲撃します。
どうやって襲撃するかは検討中ですので、今は答えられませんけど」
「既にそこらが検討開始してる時点で驚きですわね」
仕方ないじゃないですか。
その位考えないと苦労するんですよ。
「とりあえず、そんな方向で進めます。
また、セリナ様。
今日貰った手紙に入っていたホルター宛ては明日渡します。
その返信をあいつが書いた時点で皆の手紙纏めて修道院宛てに送ります」
「ええ、それでお願いします」
「それとティッキィ、お前も返事書け」
……あれ? なんでそんな驚く?
「いや、今ここで十分に話しているが?」
「だからと言って手紙貰って返信しないと検閲する人たちに怪しまれるだろ?
ちゃんと手紙のやり取りをしていることを印象付けないと」
「あぁ……」
「変にこちらの事情を探らせるような真似はすべきではない。
分かるな?」
「そうだな、仕方ない。
手紙なんてほとんど書いたこと無いが、何とかやってみよう」
納得はしてくれたようだ。
面倒そうだけど。
「ヴィーナと会話する位のつもりで書けばいい。
礼儀や作法なんて気にしなくていいんだから。
最低限、情報の漏洩だけは気を付けてくれればいい。
不安ならチェックするぞ?」
「……ラーミル様にチェックしてもらおう」
揶揄われる可能性を考えたのか?
まぁ、それで書いてくれるのなら構わないけど。
その後、少しティッキィとヴィーナにイチャつく時間を与えた上で解散。
すみませんねぇ、セリナ様。
顔赤くしてガン見していたのはホルターには伝えませんので。
帰りも行きと同じくティッキィを背負い、修道院からチアゼム家に戻ると……。
……なぁ女性陣、というかラーミルさんまで……何その取り調べ体制は?!
別に隠す気はないから落ち着いて!
ちゃんと全部白状するから!!
「……ちゃんとヴィーナとのイチャつく時間を確保してあげたのは高評価ですね」
「でももう少し一緒にいさせても良くない?」
「難しいわね、ニフェール様だって睡眠時間は必要よ?
それと手紙の件はあたしも賛成。
ラーミル様にちゃんと見てもらった方がいいわね」
上からラーミルさん、ナット、ルーシー。
僕だけじゃなくティッキィも小さくなって取り調べを受けていた。
カル、カリム、お前ら笑ってんじゃねえ!
「なぜ取り調べに発展しているのかは分かりませんが……。
保釈されたようでホッとしてますよ。
んで、満足されました?」
三人ともホクホクの表情なので、まぁ、満足なのでしょう。
「であれば今日はこれで僕は寮に戻ります。
ラーミルさん、ロッティ姉様には手紙渡したよね?
それとホルター宛ての手紙ください」
「はい、こちらですよ。
ホルターさんからの返答が届いてから送るんですよね?
早めに返答書くよう伝えておきます。
……ティッキィ、チェックするのなら早めに書いてくださいね?」
「……はい」
書くの苦手か?
ラーミルさん、すいませんがフォローお願いしますね。
その後、大急ぎで寮に戻って眠る。
流石に外が寒かったからなぁ。
風邪ひかないようにしないと。
次の日。
学園でクラスに行き、周囲を見渡す。
ちょうどホルターは一人でいたので、そそくさと近づき声をかける。
「ホルター、今いいか?」
「あぁ、どうし……おい、それ、まさか?」
僕が手紙を持っていたのをちゃんと見ていたようだ。
「お前のお望みの奴だよ……最新の奴だ、飛べるぞ?」
「どうやって飛ぶんだよ?!」
「お前の心がピョンピョンするんじゃねえのか?
どうせこの後浮かれまくるんだろ?」
「い、いや、そうだけどよ……」
「授業中には見るなよ?
没収されてもフォローしないぞ?
それと、早めに返すべきだと思うから来週頭までに手紙書いて寄越せ。
他の方々と合わせて送っとく」
「あぁ、分かった」
頑張って落ち着かせようと思っているのかもしれないが、既に浮かれてるぞ?
何でスキップして席に戻ろうとするんだよ?
あぁ! 手紙のニオイ嗅いでどうするんだ?!
多分大半は僕の手の脂の臭いだぞ?
「ニフェー、ホルターどうしたんだ?
どう見ても怪しいんだが……」
スロム、あんなキモいホルターよく見てるな?
お前の優しさを発揮して見なかったことにしてやれよ。
「お相手からの手紙だ。
今日は真人間に戻れないと思ってくれ。
基本放置しても大丈夫だとは思うけどな」
「……本当に大丈夫か?
騎士科の人間があんな感じと思われると流石に勘弁してほしいのだが?」
「ならあいつに張り付くか?
正直全ての行動を監視なんてできないだろ?
今日だけ我慢しとけ、な?」
僕は嫌だよ?
浮かれまくったアイツの面倒なんて見る気にならないよ。
あ……手紙に頬ずりしてやがる。
「……そうだな、暴走しない限り放置するか……面倒だし」
「だね」




