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無理だった。
甘かった、というか数点忘れていた。
「ニフェール、頼む!
何でクリアできねえのか分からねえんだ!
助けてくれ!!」
そうだな、まずはお前の件を忘れていたよ。
今は授業中、いつも通り剣術の指導をしているとホルターが泣きついてきた。
でも、そんな大騒ぎするほどの話じゃないはずなんだがなぁ。
「といっても、今まで説明したこと以上の情報は無いぞ?
というか、スロムとかにも聞いたか?」
「聞いたよ!
皆お前と同じことしか言わねえんだ!」
「なら、それが答えじゃないの?
どうせお前、まだ技術でどうにかなると思ってんじゃないの?
足さばきとかの訓練に時間かけてんでしょ?」
「……」
そこで黙るなよ。
まぁ、こちらも簡単に想像できるから指摘してるんだけど。
「同じように技術でどうにかしようとして失敗したスロム。
あいつがクリアした理由は一つ。
技術を捨てたからだよ」
「技術を捨てた?」
ピンとこないか?
「あいつは元々次席だけあって技術も筋力もあった。
で、僕のお題では技術は何の役にも立たない。
それに気づいたから力づくで剣を吹っ飛ばされないようにした。
だからあいつはクリアしたんだ」
……もしかしてまだ納得できない?
なんか不満げなんだけど?
「ちなみに、他の奴らも同じだな。
第一、バドは大した技術は持って無いぞ?
それでも素直さだけでクリアしたんだ。
なら技術なんて役に立たないと判断したんじゃねえの?」
「でも、技術が必要な時もあるだろ?!」
「その場合もあるだろうよ。
でも、今回は技術は一切求められてない。
そんなときに技でどうにかしようなんて考える方がおかしいんだよ。
必要な時に使うのが正しいのであって、不要な時に使っても意味無いだろ?
まぁ、この試練についてはいくら技に拘泥してもクリアは出来ない。
それでも技にこだわるのなら好きにしたらいい」
「おまっ、それって次の段階に進めないってことかよ!」
「そりゃそうだよ、クリアできない方向に進むのなら見捨てるしかない」
何唖然としているんだ?
こちらはずっと技に頼るなって言ってるのに……
「頼むよ! どうにかクリアできないか?」
「対策は全て言っている。
そして、その対策でクリアしている者がいる。
なら、これ以上言うことは無いよ。
まぁ、もう言えるほどの対策が無いと言うのもあるけどね」
本当に言えることは言ってるしなぁ。
「正直、僕としてはなんでそんなに僕の指導を嫌がるのかが分からない。
関心なかった奴ならそれでもいいんだけど、お前は指導されたがってたよな?
その割には指導に反する事しかしていない。
お前は何をしたいんだ?」
「いや、強くなりたいだけだけど……」
「ならなんで受け入れない?
もしくは、僕以外の人に教えを乞いたいのならそう言ってくれ。
僕も色々と忙しい。
やる気のない奴に構っていられない」
ホルターが自分の言葉で僕に説明できるようになるまで待つ。
色々と言葉を尽くそうとしているのが分かるので、じっと待っていると――
「本当にあの試験で強くなれるのか?」
――一番呆れる内容をぶちまけて来た。
「なぁ、お前は本気で言ってるのか?
確か最初に言ったよな?
武器落としクリアだけでは大して意味無いって」
つまり、あれ合格しても強くはなれないよ?
「でも、あの程度のこともクリアできないようでは今後の訓練も無理じゃね?
だって、僕の指示まともに聞けないって言ってるのと同じなんだもの。
そんな人、その後の指導だってまともに聞かないでしょ?
なら指導受ける必要無くない?」
「……」
分っかるかなぁ?
「それとも『技』という単語を神聖視し過ぎてる?
なら、こう言えば通じるかな?」
そう言って、その場でパッと思いついた戯言を発表する。
「剣を両手で強く握り、手首を固め、何があっても揺らがぬ姿勢を保て。
これぞ『不動の構え』也」
お お っ ! !
え……お前ら、本気で驚いてるの?
ホルター、何だよその夢心地な表情は!
マジ? こんな寝言じみた単語でやる気出ちゃうの?
バド、その澄んだ視線は止めて!
嘘つきな自分が恥ずかしくなるから!
スロム、その呆れた視線は止めて!
こんな馬鹿ばかしいネタを振った自分が恥ずかしいから!
……この馬鹿げた単語でクリアするまで押し切るか。
「さて、この技を覚えれば僕の試練なんて簡単にクリアできるはず。
で、試練受ける奴は?」
一斉に「ハイ!」「ハイッ!」と騒ぎ出すバカ共。
こいつら……僕の苦労も分からずに……。
いかん、殺気ぶつけてしまいそうだ。
というか、ホルター?
「そうそう、こう言うのが知りたかったんだよ!」なんて言うな!
お前、買い物行って騙されるとか無いか?
「二割引きの所、今から三十分だけ二十パーセント引き!」
とか言われたら喜んで買っちゃうタイプ?
数値的には同じなのに後者の方が嬉しいんだろ?
詐欺師ギルドが狙ってきそうだよなぁ……。
なお、この後に一発で成功したのが八割。
二度目で成功したのが一割五分。
三度目で全員クリアした。
……ねぇ、なんなのこれ?
真面目に指導を考えた僕の時間を返せ!!
「大変だな、お前……」
「スロム、分かってくれるか?」
「そりゃあなぁ、言ってること同じで技として纏めたらいきなり成功だぞ?
俺たちも目を疑った。
あいつら、単純すぎないか?」
「詐欺師に会ったら簡単に騙されて廉価品を高額で買わされそうな気がするよ。
この後、あいつらの夢を砕かないと……」
「え、砕くのか?」
なんで驚くんだよ?!
「当たり前だろ!
あんな一秒かからずに思いついた戯言を後世に残されるのは恥だろうが!!」
「あぁ、確かに」
二人で呆れた後、今回クリアした奴らに残酷な説明をしに向かう。
「あ~、皆合格おめでとう。
次回から剣の振り方を教えるからね」
「やっとだぜ……。
もっと早く『不動の構え』を教えてくれよ!!」
同時に「そうだそうだ!」と騒ぎ出す愚か者共。
無理だって、そんなものないんだから。
「え~、なぜ今まで『不動の構え』を教えなかったか。
簡単です。
なんせ、そんなものは存在しませんから」
「「「……は?」」」
今日合格した皆が唖然としている。
そうだよなぁ、簡単に言っちゃうと僕に騙されて合格しただけだし。
「簡単に言うと、『不動の構え』と抜かしたアレは僕が指導した内容そのまま。
何も変えてません。
ただ、技っぽい言い回しにしただけです」
「え……え?」
「つまり、バドから始まった合格者は皆あんな戯言用意しなくても合格してます。
むしろ、お前らは同じことを技っぽく言ってやらんと合格できない。
どれだけ人の言うことを聞く気がないか、よ~くわかりました。
そして、あんな一瞬で考え着いた戯言を用意しないとヤル気が出ないことも。
ねえ……もう教えなくていいよね?」
「ちょ、ちょっと待てよ!
嘘だろ? あの構え嘘なの?
信じちまったよ!!」
ホルター、お前本当に……ダメだろ、そんなんじゃ。
「スロムは気づいたようだよ? 説明したのと戯言が同じだって。
『大変だな』って哀れまれてしまったよ。
お前ら、詐欺師とかの被害に遭って無いよな?
あんな馬鹿話に本気で信じて……今までの説明と一切変わってないのに。
騙され過ぎだよ」
本日合格者は皆膝をつき、涙を流すバ……奴もいた。
「とりあえずこの学年では『不動の構え』=愚か者って感じになるのかな?
……面白そうだから騎士団にちょっと教えてあげようかな?
うちらの代を馬鹿にするときに使ってって言えば……」
「止めてくれ!
お前の兄貴に伝えるんだろ?
絶対広めるんじゃねえのか?」
「馬鹿な!
マーニ兄だけじゃないよ?
第一部隊隊長のラクナ殿とか?
第二部隊の副隊長のホルターのお兄さんとか?
第五部隊副隊長のオーミュ先生の旦那さんとか?
それに騎士団長と副団長にも教えてあげたいなぁ。
あ、ジャーヴィン侯爵やチアゼム侯爵もだね。
教えないと恨まれそうだし」
「ザケンな!
絶対言うんじゃねえぞ?!」
「あぁ、『言ってくれ』ってことだな?
分かった、ついでだから陛下や王妃様にも伝えておこうか。
楽しんでくれると思うし」
「あ~~!!!
なんでこんな奴がそこまで伝手あるんだよ!」
「それだけ色々振り回されたからねぇ……」
ホルターが絶叫するが、僕を止められないのが分かっている以上何もできない。
まぁ、言わないでおくけどね。
でも、ホルターの場合はペスメー殿との繋がりがあるからねぇ。
多分、僕が言いふらさないか後日聞くんじゃないかな?
そして、『不動の構え』とは何か聞かれる。
誤魔化そうとするだろうから、不安になって僕に質問するだろうね。
まぁ、聞かれたなら面白おかしく説明するけど?
「まぁ、とりあえず僕から喋るのは止めておくよ。
とはいえ、聞かれたら答えるけどね」
「分かった、絶対だぞ! 絶対だからな!!」
だから、ネタにしか聞こえないんだって。
まぁ想定通りなら、そうだな……今週末か来週末くらいか?
その辺りでホルターがやらかすだろうから、そこで質問に答えてあげようかな。
いやぁ、楽しみだなぁ!
「……ニフェール、お前、なに考えてる?」
「いやぁ?
なにもかんがえていないよぉ?」
笑顔満点の僕を見て怯えるクラスメート。
何故に?
その後、偶然ではあるがオーミュ先生の授業。
クラスのほとんどが僕を睨み続けていた。
「ニフェール君、何、この状況?」
「教えてあげたいけど、こいつらが拗ねるからなぁ……言っていい?
さっきのルールには抵触しないはずだけど?」
「「「ダメ!」」」
そんなハモるなよ。
「だそうですんで、諦めてください」
「……もしかして知っても呆れる類の奴?」
「旦那さんと笑いながら酒飲めそうな馬鹿話」
あ~……と呆れてそうな、哀れんでそうな、そんな表情をするオーミュ先生。
「取りあえずここでは聞かないでおいてあげるわ。
でも、授業に集中しないのは問題ね……」
「なら、こいつらが集中してないと思ったら僕に命じてください。
その時はお教えしますよ」
「なっ! ちょっと待てよ!」
騒ぐクラスメートたち。
「言われたくなければちゃんと授業受けたら?
そしたら先生も聞かないだろうし、僕も聞かれていない以上答えられないな。
で、どうする?」
「……真面目に授業受けます(泣)」
いや、そんな苦痛に満ちた顔すんなよ。
真面目に授業受けるのなんて当たり前の事だろ?
「ニフェール君、これ、職員室内で言わない方がいい?」
「少し待って。
僕が黙っている条件をわざわざ解放してくれるんじゃないかと考えてる。
そしたら遠慮なく喋るから」
「期待しているわ。
アパームにいい酒用意しとかないと♪」
ウッキウキで授業を進めるオーミュ先生。
まぁ、想像通りですけどね。
というか、アパームのあんちゃんが飲むの?
オーミュ先生も結構飲みそうな……。
その後、授業を終え放課後。
「ニフェール、お前、本当に兄貴に言うなよ!」
「しつっこいなぁ、そんなに僕が信用できない?」
「お前への信用というより、ルールの穴をついてやらかしてきそうなんだよ!」
妙に理解度が高くなってきたな?
成長の証か、不信感の積み重ねか……。
「なら穴を埋めるようにしたら?
それはともかく、ペスメー殿とはいつ頃会う?」
「今週末にでも会ってくる」
「なら、僕が参加するのは来週の前半あたりかな?
ペスメー殿の都合のいい日聞いておいて。
僕も可能な限り合わせるから」
パァン先生のダンス講座が週一、週の後半に決まったんだよね。
前半がフェーリオ達に、後半が僕たち。
なんで、そこさえ避けれれば十分対応可能かな?
ホルターと別れ、今日は予定も無いのでどうしよ……あれ?
正門の前にカリムとナットが来ていた。
「おぅ、どうした、デートか?」
「デート半分、仕事半分かな。
ニフェール様、ラーミル様から呼び出しだよ。
ヴィーナ様たちから手紙届いたって!」
おぉ、連絡来たのか。
なら内容チェックして今後のこと話し合うか。
「了解、んじゃチアゼム家に行きますか。
あ、邪魔しないからイチャついていていいよ?」
「うん、ラーミル様からも許可貰っているからのんびりデートしながら戻るよ。
あ、ニフェール様は先に行っていいよ!」
あ、ハイ、お邪魔はしません。
カリム、顔真っ赤だぞ?
「んじゃ、お先に」
そう言ってさっさとチアゼム家へ。
「お待たせしました、ラーミルさん。
手紙見せて頂けますか?」
「ええ、六人全員が手紙出してきましたので、一通りご確認お願いします。
事前に確認しましたが、ヴィーナからの手紙に『砕拳女子』が入ってました」
あら、アレ入れられてたんだ。
「分かりました、とりあえず他五名分を先行して確認しますか」




