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25. 起死回生の一手、今日からはじめます!~わたしのエピローグ~

 27歳となる冬。

 ある日わたしは、SNSで突然こんなつぶやきをする。

 

『もし、バンドやりたいって言ったら、わたしとバンド組んでくれる人、もしくはドラム足りないよって人いないかな?』

 

 反響は凄かった。

 

『バンドやるの!?』

 

『そらちゃんと組めるの? ヤバっ!』

 

 そんな一般の方からの返信が並ぶ。

 

 そして、少しすると若手芸人“黄昏星”のツッコミ、なおや君から、

 

『キーボード!!』

 

 と返信が来た。

 

 彼は『平成お笑い同世代!』で共演したメンバーの1人である。

 年はわたしの1つ下で、メンバーの中では仲が良い方だ。

 なんと言っても、彼はピアノが弾ける。

 そして、ギャンブルが大好きで、常にヒヤヒヤするような危なかしい生活をしている。

 

 きっとこの話に乗ってくるのではないか? と、わたし自身もどこか期待していたかもしれない。

 

 

 続いて、やはり彼もこのつぶやきに反応した。

 

『ベース参加希望! 絶対やで!』

 

 そう、毎度お馴染み風上さんである。

 風上さんはベースが弾けて、歌もうまい。

 そして、もう相棒と言えるほど、番組でも毎週絡んでいる。

 ギターを弾ける人は沢山いるけれども、ベースとなると風上さんは貴重な存在だ。

 

 

 そんなやりとりが話題になる中、再び『佐藤美空の二人っきりナイト』が開催された。

 

 今回のゲストは、『佐藤美空のトークライブ』で話が盛り上がった、バンドマンの五十嵐悠斗さんだ。

 

 彼はボーカル&ギターを担当し、いくつものバンドを掛け持ちしているお忙しい方。

 年はわたしより3つ上だ。

 前髪が目にかかっていて、顔全体がハッキリ見えないのが、いかにもバンドマンって感じがする。

 でも、話してみると、話しやすい印象なのだ。

 

 そして、彼は若い女の子達からモテモテなので、スキャンダルも絶えない。

 若くして一度結婚し、すぐに不倫をして離婚するという、激しめの人生を送っている。

 

 バンドマンとは、まさに付き合ってはならない3Bなのかもしれない……。

 

 しかし、音楽の腕は天才的。彼が生み出す楽曲はどれも心を震わすものばかりだ。

 

 トークライブで、わたしは五十嵐さんからバンドの魅力を沢山教えてもらった。そして、よりバンドという形に憧れを抱いていた。

 

 わたしはこの『二人っきりナイト』でやってみたかったことがあった。

 それは、ずっと練習していたドラムの初披露である!

 

 あのTAKUMAさんとのスキャンダルで、早々公表することになってしまった、ドラムを練習しているという事実……。

 

 しかしまだ、その練習の成果を、わたしはどこにも見せていない。

 なので、今日このステージで!!

 

 五十嵐さんと歌う90分。互いの曲を熱唱し、二人っきりで作り出す今宵だけのハーモニーに、観客は大いに盛り上がっていた。

 そして、五十嵐さんの楽曲をハモりながら、ついにわたしはドラムを披露した。

 

 本当にドラムの練習してたんだ!! という衝撃が観客側からひしひしと伝わってきた。

 

「はい! ちゃんとね、ドラム練習していました!」

 

 観客から拍手が返ってきた。

 

「なんでドラムやろうと思ったの?」

 

「バンドを支えるリズム隊に興味がありまして、バンドを組んでみたくて、ずっとね、ドラムの練習してたんですよ。もちろん、デビューする予定は、とくにまだないんですけど……」

 

「そうなの?」

 

「これ、わたしがバンドのボーカルでは、意味がないんですよ! わたしがギターでも、ファンの皆さんから見て、今とさほど変わらない光景になってしまいますし、やっぱり違うことをしてみたいので。挑戦というか」

 

「ほぉー」

 

「これだから……、ゼロからバンドをつくるか、ドラムが足りてないぞぉーってバンドにちょっと挙手して頂いて、入れて頂くか……」

 

「もしゼロからつくるなら、メンバーは決まりそうなの?」

 

「いや、全然ですよ。ただ、やりたい人って呼びかけたら、なにわメモリーの風上さんがベースやれるぞ! 黄昏星のなおや君がキーボードやれるぞ! って、今言ってくれてるところですね」

 

「ギター枠はあいてるんだ?」

 

「そう……ですね。というか、ギター選ぶのむずくないですか? それなりに弾けるぞって方はいるので、じゃあどういう方を? ってなるんですよ。できたらね、めっちゃできる人がいいじゃないですか?」

 

 わたしが本音をこぼし、客席からも笑いが聞こえた。

 

「なら、俺とバンドやる?」

 

「えっ!?」

 

「ギターやりましょうか?」

 

「え、ホントですか!? てか、いくつ掛け持ちするんですか?」

 

 五十嵐さんファンからの拍手と黄色い声援が一気にとんできた。

 

 こんなパターンは想像していなかったが、五十嵐さんがメンバーだったらかなり強い。

 人気実力があり、バンドというものを分かっているプロだ!

 

 もしかしたら、この先バンド結成が本当にあるかも? そんな期待も匂わせながら、『二人っきりナイト』は幕をおろした。

 

 皆、これからが気になるところだったが、わたしはこの『二人っきりナイト』を最後に、一度音楽活動を休止した。

 

 え、なんで!? ということだが、それは、産休に入るからだ。

 

 実は、わたしはおなかに新しい命を授かっていた。

 ゆとりたっぷりの衣装で歌い終えた『二人っきりナイト』が、産休前のラストライブだった。

 

 

 レギュラー番組『爆エン! MUSIC!』は、風上さんとゲストMCが行う形で続くこととなった。

 嘗ての爆エン! メンバーや、夫である三栗屋さんが来る回もあったため、これはこれで喜ばれていた。

 

 わたしは、その様子をテレビで見ていた。

 

 

 ×  ×  ×

 

 

 そして、3月、娘が生まれた。

 

 わたしは、娘が生まれたその日、SNSに病院から、新曲『ハッピーバースデー』を歌う動画をアップした。

 眠る娘と病室の窓にアカペラが響く。

 沢山の『おめでとう』メッセージが寄せられた。

 

 娘の名前は、『くるみ』と名付けた。

 あのノートに書いた『くるみ』である。

 

 これから来る未来へ、そんな想いが込められている。

 

 

 

 そして、仕事復帰したわたしは、ずっと考えていたことを行動に移す。

 

 そう、バンド活動を始めるのだ!

 何かを始めるのに遅いなんてことはない。

 

 ステージ上での発言は、冗談なのかと思いきや、五十嵐さんは割と本気だった。

 

 そう、つまりメンバーは揃った!!

 

 嘗てスキャンダルを起こしたことがあるなど、ちょっと問題ありな人材をバンドメンバーに迎え、音楽で“起死回生”を目指す異色の4人組バンド『起死回生の一手』をここに結成した!!

 

 ギター五十嵐悠斗

 ベース風上朔真 (なにわメモリー)

 ドラム佐藤美空

 キーボードなおや (黄昏星)

 

 バンドのプロデューサー的立ち位置は、バンドをよく知る五十嵐さんが担当。

 楽曲の作詞作曲は、曲ごとに五十嵐さんとわたしで行い、全員がボーカルを務めて行く特殊なスタイルだ。

 

 アーティストと芸人がコラボしている点や、『みんなの爆笑エンターテインメント!』と『平成お笑い同世代!』がコラボしている点も、かなり話題となった。

 

 わたしは髪の毛先をピンクに染め、これをバンドスタイルとした。これまで黒髪のわたししか見てこなかったファン達は、最初はとてもざわざわしていた。

 

 

 バンドメンバーには3つの公約がある。

 

 1、 不倫しない

 2、 嘘をつかない

 3、 すぐに謝る

 

 このバンド公約発表に、世間からは笑いが起きてきた。

 

 わたしは、シンガーソングライター佐藤美空としてのソロの活動だけでなく、こうして『起死回生の一手』のドラム兼ボーカルとして、新たな一歩を歩み始めた。

 

 

 バンドコンセプトは、夜の大人達。

 楽曲は、どれも大人の色気をまとった、きわどい、あばずれたラインナップだ。

 過激な歌詞やMVで、攻めたバンドとなった。

 

 わたし達はまず『起死回生の一手、今日からはじめます!』で衝撃デビュー!

 

 その後「スキャンダラスなわたし達 あなたもお金も大好き」というフレーズから始まる『スキャンダラスなわたし達』で、バンドは世に注目される。

 

 このMVでは、わたしはきらびやかな椅子に座り、左うちわ。

 上からお札が降ってくるという演出だ。

 

 やがて、『スキャンダラスなわたし達に起死回生の一手を』という1stアルバムをリリース!

 

 ・起死回生の一手、今日からはじめます!

 ・スキャンダラスなわたし達

 ・プラトニックな愛だから

 ・今夜は朝までパーティーナイト

 ・下剋上でありんす!

 

 などなど、なかなかな楽曲がアルバムには収められ、歌詞カードには刺激的な歌詞が並んだ。

 大人の夜は、不倫を匂わせる。

 

 シンガーソングライターの佐藤美空では、しないこと、できないことをこのバンドではやっていきたいという願望が強かった。

 それは、バンドを掛け持つ五十嵐さんも同様で、このバンドにしかない個性を強く押し出していこうということになった。

 

 当たり前だが、実際のわたし達には、やましいことなどない。

 これは、音楽の中だけのこと。

 そう、今のところ……。

 いやいや、今後もあってはならないのだ。

 

 ただ……

 あの風上さんと、たった一度の“いけないキス”をしたという、わたしの黒歴史は、墓場まで持って行くことになるだろう。

 これは口が裂けても言えない……。

 

 

 

 わたしの活動が多方面に広がる中、『爆エン! 恋のキューピット』にも新たな動きがあった。

 

 爆エン! から生まれた『ですよね宣言!』、アンサーソングの『あなたを愛する宣言!』、これらに続き、3部作の締めくくりというような形で『共に生きる宣言!』がリリースされることとなった。

 

 もちろんのこと、もう爆エン! というコント番組は存在しないのだが、アイドルであり、恋のキューピットである我々の活動は、不思議な形で続いていた。

 3部作とは、恋の歌、愛の歌、そして共に生きていく夫婦の歌である。

 

 各音楽番組に『爆エン! 恋のキューピット』として出演することができ、幸せだった。

 

 

 

 30になる頃、わたしに新たにラジオの仕事が舞い込んだ。

 

 不定期で行っていた『佐藤美空のトークライブ』、これがラジオ局の方の目にとまり、このトークをラジオでやってみませんか? というオファーを受けることとなった。

 

『佐藤美空のトークラジオ〜あなたにボイスを届けたい!〜』

 

 というタイトルで、番組は4月からスタートした。

 ラジオでは、シンガーソングライターとして作った『ボイス!君に届け』という新曲がテーマ曲として使われた。

 

 毎週、パーソナリティのわたしが、今もっともトークしたい方をお呼びし、様々な話を聞く30分である。

 番組内では『今宵の一曲』というコーナーが必ずあり、ゲストのリクエストソングを流す。中には、リクエストにより、わたしが弾き語りでゲストの前で歌う回も。

 

 そして、このラジオが始まってからも、並行してトークライブも不定期で続けることにした。

 ステージも、何より大切にしたいからだ。

 

 

 そして今日もまた、ラジオの収録だ!

 

「さぁ、始まりました。佐藤美空のトークラジオ~あなたにボイスを届けたい!~。パーソナリティの佐藤美空です! 本日はまたまた凄い方が来てくれていますよ!? 早速お呼びしましょう。本日のゲストは、声優の……!」

 

 さて、今日も、今のわたしをオンエアっ!!

 

 

 ×  ×  ×

 

 

 “もう一人のわたし”が結婚する頃には、“本当のわたし”も大人になっていた。

 

 相変わらず彼女は、わたしより少し先を生きていて、わたしとは真逆な人生を送っている。

 

 本当のわたしは、楽器も弾けないし、歌も歌わないし、演技もしない。

 

 引きこもって、この妄想を文字に起こし、ラジオを聴く、ただのオタクである。

 

 本来ならこの妄想は、ずっと封印されたまま墓場まで持って行くことになっていただろう。

 文字に書き起こすこともなく、心の中で深く眠り続けていただろう。

 

 まさか、書いてしまうとは思わなかった……。

 

「相当妄想してたんでしょうね?」

 

「相当です!」

 

 と、なろラジパーソナリティのお二人に言われてしまったが、文字に起こしたら、ちゃんとわたしのサクセスストーリーは事細かでございました。

 

 はい、相当だと思います……。

 

 

 小学生から続く妄想は、知らず知らずに、わたしに物語を考える力を与えてくれたのかもしれない。

 

 わたしは高校生の時、一度小説を書きたいと思い、挫折している。

 そして、つい最近までは、それほど小説には前向きではなかった。

 

 これは、青天の霹靂だ。

 雷にでも打たれたのかい?

 

 ラジオを通し、もう一度、小説を書くというところにわたしは帰ってきた。

 これもまた、運命?

 

 “もう一人のわたし”は、当たり前だが、実際には存在しない。

 なのに、これだけ彼女の人生を考え、寄り添い、共に歩んでしまうと、どこかの世界にはいるような気がしてくる。

 

 彼女はきっと、わたしより忙しく、今日も仕事に育児に奮闘している。

 

 きっと、「娘さんは、将来、アーティストと芸人どちらになるんでしょうね?」なんて何度も聞かれて、ちょっとため息をついている。

 

 そんなの、彼女のなりたいものになればいいじゃないか。

 

 誰がその二択と決めた?

 アニメを見て、魔法少女に憧れてみたり、突然、鬼退治したいなんて言い出すかもしれない。

 くるみちゃんの可能性は無限大だ。

 

 今日も幸せに暮らしているだろうか?

 

 今頃、何をしているだろうか?

 

 新曲はできたのだろうか?

 

 

 

 あぁ、妄想に終わりはない――

 

 END

なろラジで「書いてみたらいいと思います」と、判定を頂かなければ、一生文字に起こすことがなかったであろう、“もう一人のわたし”のサクセスストーリー!


うまくいきすぎ! ぶっとんでる!

そう思った方も多いことでしょう。


書き終わってから、もう一度ラジオを聴くと、また違った気持ちになりますね。


こんなどうかしている物語を、半年近くご覧いただき、誠にありがとうございましたっ!!(*≧∀≦*)ノ

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― 新着の感想 ―
 なろラジで、こちらのお話を読み終えたリスナーさんが、面白い!と絶賛されていたのを機に読ませていただきました。 ひとりの女の子の成長していく姿、その時々の心情、周りの大人たち、なんだか本当にそこに存在…
[良い点] 楽しくて思わず一気読みしてしまいました。 クールなイケメン漫才師、見てみたい!(かなりおいしいと思う) 黒歴史の相手役がいい味出してました。 とにかく面白かったです! [一言] いでっ…
[良い点] ∀・)いやぁ素晴らしい意味で目茶苦茶だ(笑)(笑)(笑)でも、ここまで振りきって描かれ切っていたので、もう傑作、否、名作という称号が与えらえておかしくない作品だと思います。「わたし」の捉え…
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