【55話】カイジンの冥婚
修了式も終わった三月。美緒と那岐は学校から帰る花織と伊吹を見送ってクラスに残る。
「そうだ! 那岐に発表したいことがあります⋯⋯! じゃーんっ!!」
美緒はポケットに隠していたチケットを取り出す。那岐に高崎まつりの当選ハガキを見せつけた。
「展望ロビー——って、当てたのか⋯⋯!」
「そう!」
前回は電波塔の上から見たが、今年はそれよりも高い場所で合法的に花火を鑑賞できる。
「すごいな」
「えへへ~。でさ⋯⋯今年も一緒に花火見たいんだけど⋯⋯どう、かな?」
「もちろん」
「じゃあ、決まりね!!」
まだ、正午前だというのに学校は閑散としている。何百人もいる他の生徒たちは既に帰宅しているようだ。
美緒は鼻歌を口ずさみながら那岐と共に昇降口へと向かう。
「あっ」
下駄箱から靴を取り出した時、片一方が転がっていってしまった。
美緒が靴に手を伸ばした矢先、先に靴を履いていた那岐が拾い上げてくれる。那岐はそのまま、立ったままの美緒にローファーを履かせた。
「ありがとっ!」
「どういたしまして」
いつもは誰かしらいる校庭も人っ子一人おらず、二人の独占状態であった。
「わーーーッ!!」
たまらず美緒は大声を出しながら校庭を突っ切る。
「怪我するなよー」
そう言いながらも那岐は顔を綻ばせながら後を付いてくる。
淡いピンクの花の雲が美緒たちを出迎えた。二人は帰宅せず、鉄棒に寄りかかりながら花見をする。
「そう言えば那岐⋯⋯バイトしてたけど、何か欲しいものあったの?」
「まあ⋯⋯そんなとこかな」
那岐は手をポッケに入れながらそう答える。
「えー! 内緒なのー?」
「それよりさ⋯⋯ちょっと来て」
「えっ!?」
那岐は美緒の手を取ってグラウンドの中央に連れていく。
「突然、どうしたの?」
那岐が無言のまま腰に手を回してくる。
彼ら彼女の舞踏会が幕を開けた。
美緒はスカートをなびかせ、ローファーで軽快に踊る。那岐と美緒は舞踏会に相応しいドレスを身に纏っていた。
那岐がリードし、美緒がフォローする。言葉を発さなくても二人は息のあったダンスを披露する。
美緒は本当に幸せ者だ。
ボタンを少しでも掛け違えていたら、こんな幸せな時間は絶対になかった。
本当に夢みたい——
踊っている最中、急に那岐が美緒の身体から離れ、地面に跪く。
那岐はポケットから真四角のケースを取り出し、蓋を開けた。中からルビーの指輪が出てくる。
「ええぇ!!? これって——」
見覚えのある指輪に美緒は目を丸くした。
「結婚してくれ」
思っても見なかったサプライズに開いた口が塞がらない。
「那岐⋯⋯那岐——」
美緒は口を両手で抑えるが、ずっと好きでずっと支えてくれた大好きな人のプロポーズに涙が溢れてくる。
「はい⋯⋯っ!!」
美緒は声を涙で濡らしながらもそれに応える。
涙を流す美緒の左手薬指に那岐が指輪を嵌めてくれた。もっと見ていたいのに、拭っても拭っても涙が視界を邪魔する。
「うっ⋯⋯見えない——」
そのまま那岐の胸元に飛び込んだ。
「ありがと、那岐⋯⋯!」
那岐は泣きじゃくる美緒の背中をさすってくれる。
「那岐ーーーッ!! 大好きーーーッ!」
「俺もだよ」
強く抱きしめると、那岐も抱きしめ返してくれた。
美緒の指に嵌められた指輪が赤くきらりと輝く。
◇
八月。今回の夏祭りは那岐と二人で来ている。美緒は母の力を借りず、一人で浴衣を着付けた。
「伊吹くんもはなちゃん誘えたみたいで良かったね!」
「そうだな」
辺りはすっかり暗くなっている。もうすぐ花火が始まるとあって、多くの人々が場所取りを行っていた。
「美緒、ちょっといいか?」
「ん?」
「浴衣反対じゃないか?」
「嘘っ!?」
「ほらっ」
周りを見渡してみると、確かに美緒と同じ向きに浴衣を着ている人は見当たらない。
「ほんとだ!!」
「直してもいいか⋯⋯?」
「うんっ!!」
二人は物陰に移動し、美緒は那岐の前で浴衣をはだけさせる。那岐が左前から右前に直してくれた。
「——よし。これで大丈夫」
「ありがとっ」
帯を結んでフィナーレに入る。
会場となる建物に着くと、エレベーターに乗り込んだ。数字がどんどん増えていき、あっという間に二十一階に到着する。
扉が開くと、そこには抽選に当選した人たちが既に集まっていた。
夜の展望ロビーの眺めも絶景で、打ち上げ地点の河川敷も丸見えだった。
二人も楽しみに待っていると時間になった。烏川から打ち上げられた大量の火薬が光を発している。
打ち上げ花火が美緒の眼を色とりどりに染め上げた。




