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第8話 違い

「真剣に考えていただけませんか」


「ま、待ってください、急に言われましても・・それに私とキルナン王子は身分が違いすぎます・・!」


「リエン、言いましたよね、キルナンと呼んで欲しいと」


 キルナンはリエンに近付き、そっと大きな手で頰に触れてくる。


「・・・あっ」


 接触に思わず心臓がバクバクし、リエンは硬直してしまう。

 優しくリエンを見つめるキルナンのグレーの瞳をじっと見ていると、何かの魔法にかかったかのように何もできなくなってしまう。


 それでも、リエンはなんとか頑張って口を開く。


「・・あの・・私とキルナンの結婚は身分差があるので、国王がお認めにならないと思います。なので・・」


「昨日、私は国王である父に私のリエンへの気持ちを伝えました。元々私は次男で国王の跡を継ぐわけでもないので、好きにして良いと言われました」


(あぁ〜、だから、さっきはすぐに国王の前まで通されたのね)


 リエンは、国王が意外にも受け入れているような事実と、兵団員である自分に対しても否定的でないことに驚く。


「民衆が黙っていませんよ。地に落ちた兵団員である私との結婚なんて。キルナン、あなたも何を言われるか」


「私は構いません。リエン、あなたさえいてくれれば」


 一歩も引く様子がないキルナンの態度に、リエンは徐々にキルナンに心揺れ動いていく。


「でも、二頭追うものはっていうし・・」


「二頭・・?」


「キルナン、今私達兵団はこの前私が対峙した魔獣討伐のために必死で動いています。正直なところ、今はそのことでいっぱいいっぱいで、他のことを考えられる状態では・・ありません。結婚のことは、魔獣討伐後の返答でも良いでしょうか・・私のような身分で失礼なことを承知で申し上げております」


 リエンは目をギュッとつぶり、キルナンから顔が見えないように下を向く。

 頬に触れていたキルナンの手が、すっと離れていくのを感じたとき、リエンは胸がズキンとした。


(怒ったかな・・私にあきれたかもね・・)


「構いません」


「・・えっ?」


「あなたの考えを尊重します」


「はい・・」


 まさかの返答にあっけに取られキルナンの方を見上げると、優しい眼差しでリエンを見ていた。


「ただし約束してください。その魔獣討伐後、私の結婚を前向きに考えると」


(勝手に、前向きに考えることになってる・・!)


「わ、わかりました・・」


 身分が格上の王子がここまで譲歩している以上、これ以上否定することもできず半ば強引に押し切られた。


(約束してしまったし、この件もあとで真剣に考えなきゃね・・)


「あの・・それでは私は調査に合流しますので・・」


 リエンはキルナンの前から去ろうとしたが、キルナンと繋いでいた手を強く握られ近くに引き戻される。


(あ、手を繋いでたんだった・・)


 手を繋いでいることをすっかり忘れていたリエン。


「待ってください。本当に、あなたはいつもすぐ私の元から去ろうとしますね」


(うっ・・)


 呆れたような顔のキルアンに、リエンは今までの自分の去り際を思い出して、図星に気まずくなる。


「それはっ・・私は女性として見られるのも扱われるのも慣れてなくて・・、つい恥ずかしくなって逃げたくなるんです」


「--あのような男社会にいながら、男性には慣れてないってことですか・・」


「え?何か言いましたか?」


「いえ、独り言です」


 ニコッと笑うキルナンは機嫌が良さそうで、リエンはひとまず安心した。


「リエン、これを付けていってください」


 そういうと、キルナンはリエンの手首に白い布を巻き最後に綺麗にリボン結びをしてくれた。


「あっ、これって・・」


「あなたはいつも血だらけになりますので。お守りだと思って、つけて行ってください」


 キルナンは白い布を巻いたリエンの手首を優しく掴むと自分の口元にもっていき、リエンの目を見ながら優しく口付けをする。


(きゃっーーー)


 リエンは恥ずかしさのあまり、心の中で叫び声をあげその場で固まってしまう。


「無事で私の元に戻ってきてください」


「は・・はい」


「絶対に待っていますので、魔獣討伐が終わったら必ず私の元に来ると約束してください」


「約束・・します」


 リエンの言葉にキルナンは優しい目で見つめると、リエンの頬をまた優しく撫でながら小さく呟く。


「ありがとう」


 ◇◇◇


 木々の間をビュンビュンと飛び抜けながら、リエンは先ほどのキルナンとの出来事を思い返す。


(調子狂っちゃったな・・まさか結婚の申し出なんて・・)


 リエンは顔が緩むのを感じて、木の枝でピタッと止まると、自分の頬をパン!と思いっきり両手で叩く。


「私、しっかりしないと」


 気を引き締めると、リエンはリーゼルとの合流場所へと急ぐ。

 猫魔獣は竣敏に動けることから、姿を隠しやすい森や林など木々が生い茂った場所を行動範囲としているだろうと推測し、今はこのファーレ国有数の森林地帯に来ている。


 前回、猫魔獣と対峙した林とは違い、王都や街などから離れた位置にあるこの森林地帯は、人と出会すことは少ないが、その分傷を負った体を休めるには好都合だろうと予測してのことだ。


(確か合流場所はこの辺り)


 森林地帯奥深く中央付近に、一際背の高い木があり、その根本ら辺を合流地点としていた。


 リエンは木の枝に止まると、生い茂る木の葉に隠れて合流地点である木の根本を高い位置から見下ろす。しかし、そこには誰もおらずシンと静まり返っていた。


(おかしいわね、もうとっくに着いていてもいいのに。何かあったのかしら)


 いつリエンが来てもいいように、合流地点には数人必ず残しておくという話になっていた。


 リエンよりかなり早くに出発したリーゼルとリエンの班が、まだ着いていないということはありえなかった。


(どうしようか、このまま様子を見て誰か来るのを待つか、辺りを捜索するか・・)


 リエンは周囲を警戒しながら次の行動を決めかねていると、木の根本にシュッと1人どこからか出てきた。

 フードを被っていて、顔は見えない。


 リエンは注意深くその人物に目をやったまま、息を潜め動かずにいた。


 そのフードを被った人物は、辺りをキョロキョロと見回した後、木の根本で誰かを待っているかのように立っていた。


 リエンはフードを被った人物をしばらく見下ろしていたが、決したように木の枝からバッと飛び降りる。


「あっ、リエン班長」


 降り立ったリエンに気がつき、フードを被った人物が振り返り声をかける。リーゼルに預けたリエンの班の団員の男だった。


「リーゼルや他の皆んなはどうしたの?」


 リエンは、降り立ったところに留まったまま尋ねる。


「はい、他の場所を予定通り調査しています」


「合流地点には数人置くって約束だったけど、あなた1人なの?」


「はい。猫魔獣に似た魔獣を発見しまして、今リーゼル班とうちの班が総出で追跡しています」


「そう、それでリーゼルは私にどうしろと?」


「私が案内しますので、私の後に着いてきてください」


 団員である彼は薄暗い森林地帯へと移動しようと歩き出すも、背後のリエンが立ち止まったままのことに気づく。


「リエン班長・・?」


「どこにいるの、奴は」


「は・・」


「頑張ったわね、ありがとう、大丈夫あとは私に任せて」


「すみません、リエ・・」


 薄暗い中でもわかるほどに顔が真っ青な団員の彼は言葉を言い終わらないうちに、背後から心臓部分に鋭い鉤爪の手が勢いよく出てくる。一瞬で一刺しされた後、首が飛んでいき体はその場で横にグシャッと倒れた。


「な〜んでわかったのにゃ」


 倒れた彼の体の後ろから、手に血を滴らせた例の猫魔獣が出てきた。


「私は兵団全員に3人、あるいは4人で行動するよう命じている。単独行動に、違和感を感じない方が不思議でしょう」


「そ〜なんだぁ。せ〜っかく彼を捕まえて、うまく君をおびき出してもらおうと思ったのに。こいつも使えないなぁ」


 猫魔獣は、冷たい視線を下におろし首のない団員の体を足で蹴る。


「あなた・・人の体のような形をしてるけど、似てるだけで中身はゴミクズみたいだね」


 リエンは腰を落とし腰の剣のさやに手をやると、鋭い目で猫魔獣を見据える。


「やる気満々にゃんだねぇ〜」


「他にも団員がいたはず、彼らはどうしたの?」


(リーゼル達の所在が気になる・・)


 リエンは猫魔獣からの返答を静かに待つ。


「あぁ、彼ら?彼らなら、とっくにもう死んでるよ。泣きながら命乞いしてた人も、いたっけにゃあ〜?」


 ニタッと笑う猫魔獣の話が終わらないうちに、リエンは剣を取り出すと猫魔獣に向かって勢いよく走り出した。

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