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楓花と別れ、屋敷に帰宅。
自室でホッとしたタイミングでイリエル様が来てくれた。
「ほんっとごめんね! 女の子になってるからって油断してた」
「まぁ髪を短くしたのも、男っぽい格好をしたのもオレだからな。自己責任ってやつやろ。でも、先に教えておいてほしかった」
「完全に忘れてたの! 学校って子供がいる所じゃない?しかも教師っていう監督者もいるから、普段はあまり細かく見てなくって…」
神様も忙しいんやもんな。仕方ねぇか。
「明日からは服装とか気をつけるよ。あんな目に合うくらいならスカート履く方がマシやし」
「それがいいかもしれないね」
イリエル様はもう一度謝ってくれたあと、消えてしまった。忙しいのにありがとう。
翌日は、カティアさんにお願いして女の子らしい服装にしてもらい、化粧もしっかりとしてもらった。
理由を聞かれたから話したんやけど、びっくりしてた。さすがのカティアさんでもそんな風習は知らなかったらしい。
おかげで学校へも護衛するためについてくるとか言い出して、止めるのに苦労した。
気持ちは嬉しいけど、メイドさん同伴で授業とかオレだけやなくみんな気まずいやろ…。
まぁ、授業参観にうちのお母さんが来たときの緊張感程ではないやろうけどな。
女の先生なんて半泣きで授業してたもんなぁ。お母さんって接客時以外だと圧がすっげーから。
あの頃はお母さんに嫌われてると思ってたから、てっきりオレにイライラしてるんやと思ってたけど、実際はなんやったんやろ。わかんねぇや…。
ちゃんと手も上げて答えようと頑張ってたんやけどな。当てられなかったからそれも意味はなかったけど。
アヤさんに送ってもらい学校に行って教室に入ると、ミヌエットとリンに挨拶されたからこちらも返す。
仲良くしてるようで何よりだ。
「二人は楓花見てない?」
「今日はまだ…。てっきりご一緒に登校されるものかと」
「みてないのー」
昨日もたまたま登校した時に会っただけやからな。
何かあったとか…?でも学校の敷地内でそんな事あり得るんやろうか。
迎えに行けばよかったか、とか考えてたら廊下から騒がしい声が…。
「いいじゃねぇか。ケチケチすんなよ! な?」
「茉莉花姉様はダンジョン行っててくださいよ!」
「いや、こっちのが面白そうだし」
この声、楓花と姉の茉莉花か。
教室に茉莉花が入ってくると、生徒たちは波が引くように離れていく。
なんか見覚えがある光景やなーと思ったら、これあれや。オレのクラスに理乃姉が来た時と一緒。
つまり、そういうことだよな。やれやれ…。
「おっ…いるじゃねぇか! おっす!」
「おはよレイアちゃん」
「おはよ」
ミヌエットとリンはオレの後ろに隠れてるし、やっぱり怖いんやろうな。
つまり、この学校のトップ。番長とかヤンキーとか呼び方は色々あるやろうけど、茉莉花はそういう存在。
「レイア、昨日の話考えてくれたか?」
「ん…?」
なんの話や。
「茉莉花姉様! だからそれは…!」
「うるせぇよ。こんな俺好みの女、そうそういねぇからな。諦めるのは止めた!」
茉莉花は昨日と違い、耳も尻尾も出てて、楓花の姉だってのも納得。
楓花より尻尾も多くて大きいのはやっぱり姉だからか?
「ん?気になるか? いいぞ、お前なら触れても許してやる」
「いや…」
「レイアちゃん! ダメだからね…?」
ゾクッとした…。楓花からやっべぇ気配が。いつだったかの闇落ちしたミミみたいな雰囲気。
「遠慮すんなって。な? こっちこい!」
茉莉花がオレの腕をつかもうとしたところで、背後から”フシャーーーー”っと威嚇するような声。
ミヌエットかリンかわかんないけど、止めようとしてくれたらしい。
「あ?」
威嚇の声に動きを止めた茉莉花は明らかに不機嫌になり、オレを押しのけるようにしてミヌエットとリンの前に立つ。
「今、俺に威嚇しやがったか? 覚悟できてんだろうなぁ…?」
ミヌエットとリンは震えながらもまだ威嚇をしてて…。うん、見てらんねぇよ。こんなの。
「なぁ…」
「ちょっと待ってろ。お前の相手は後だ。売られた喧嘩を買わねぇのは俺の流儀に反する」
「二人はオレの友達なんだ。だから…」
「俺はお前に待てって言わなかったか?」
「待てるかよ。オレの友達だって言ってんだろ」
「……」
こちらに振り返った茉莉花は耳も尻尾も逆立ち、ブチギレてるだろうってのはわかる。
でもなぁ…。うちの姉に比べたらその程度か?って威圧感。
「レ、レイアちゃん! 茉莉花姉様は…」
楓花も声が震えてるから怯えてるんだろう。まぁ、姉が怖いのはよーくわかるぜ。
「テメェ…。俺がお前には手を出さねえとでも思ってタカくくってんのか? いくら気に入った相手とはいえ、噛みつかれりゃ躾くらいするぞ?」
「やってみろよ。殴りたいなら殴ればいいだろ」
慣れてんだよ、そんなものはな。なにより今は怪我くらい自分でも治せる。
胸ぐらを掴まれて引っ張られ、そのまま殴られるのかと思ったのに、いつまでたっても拳は飛んでこなかった。
「おもしれぇ。俺を相手に啖呵きった挙げ句、殴られるってなってもなお睨みつけてくるかよ…。益々気に入った。わかったよ、お前のダチにはもう手は出さねぇ。それでいいか?」
「ありがとな」
「そのかわり俺の女になれ」
「無理だな」
意味わかんねぇし。茉莉花の女になるってどういう意味だよ…。
茉莉花はショックで声も出ないって感じに固まってて。どーすんねんこれ…。
「レイアちゃん! 大丈夫? ごめんね、茉莉花姉様が…」
「別に楓花が謝る事でもねぇだろ。 それより…」
座り込んでるミヌエットとリンのが心配だ。
「大丈夫か? 悪かったな、巻き込んで…」
「レイア様ぁ…」
「怖かったのぉ…」
二人にすがりつかれてびっくりしたけど、オレのために威嚇してくれたんやからな。
「なんで怖がるくらいなら威嚇するの! 茉莉花姉様が危ない人なのはわかってたんでしょ!?」
「そ、それは…」
「なんか引けなかったのぉ…」
「ありがとな。でも無茶すんなよ?二人が殴られたりしたら嫌だからな」
「は、はい…」
「わかったのぉ…」
こんなに震えてるって…。茉莉花、どれだけ怖がられてんだよ。
まるで理乃姉にやられた奴らみたい。まぁ、でも…理乃姉なら茉莉花でも片手であしらうやろなぁ。
由乃姉と詩乃姉も言わずもがな。
「お、おい…。楓花」
「な、なんですか?」
「俺は今フラれたのか…?」
「え…うん。たぶん?」
茉莉花が今度は崩れ落ちたんやけど。大丈夫か、この人。
先生が来ても茉莉花は教室の後ろに座り込んでて、先生も少し気にしただけで声はかけず。
何事もないように授業は進み…。
「(な、なぁ楓花)」
「(うん?)」
「(どうしたんだよ、あの人。ほっといていいのか?)」
「(それをレイアちゃんが言う!?)」
「(オレのせいなのか?)」
「(他に誰がいるの…。でも、ほっといていいよ)」
「(でも…)」
「誰ですか、ボソボソと私語は慎みなさい。授業中ですよ」
さすが猫耳先生。耳はいいらしい。
休み時間になっても座り込んでる茉莉花。誰も近づかないのは怖いからなのか、なんなのか。
「なぁ、オレのせいか?」
「ぐすん…」
泣いてるのかよ…。
「悪かったって…。泣くなよ」
「フッたくせに優しくすんな! アホーーー!」
茉莉花はそう叫んで教室を出ていってしまった。フッたってなんやねん…。
しかもアホ呼ばわりしやがって。
「レイアちゃん…」
「楓花、どうしたらいい?」
「ほっとけばいいよ。多分ダンジョンにでもいって暴れたらまた元に戻るから」
情緒不安定かよ。メンヘラってやつか?妹の楓花がいいって言うならほっとくか。
今回はオレ悪くないしな。殴られそうになったくらいやからむしろ被害者やろ。
「あ、あの!」
「どうした、ミヌエット」
「今日、授業が終わりましたらうちに遊びに来てくださいませんか?」
「寮にってことか?」
「ええ。先程のお礼もしたいですし、昨日のお詫びも…」
「気にしなくていいって。 普通に遊びに誘ってくれてるのならお邪魔するけど」
「ではそれで! リンも喜びます」
隣でうなずいてるからわかるけどな。
「僕も行くから!」
「もちろんです。楓花様も是非」
「え、いいの?」
「なにか問題でも…?」
「ううん。てっきり僕は断られるかと」
「そんな訳あるはずないじゃないですか。是非ご一緒に」
なんかいいな。学校終わりに友達の家に行って遊ぶーとか。久しぶりだぜこういうの。もう懐かしいくらいだ。




