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第1話 妖怪ダンジョン出現(1)

「……お?」


 世界が暗転し、すぐに新たな光景が目の前に広がった。神様ってすげー。


「ここは……どこだ? 異世界なのか?」


 俺が立っていたのは4畳半ほどの狭い部屋。壁も床も天井も茶色い土がむき出しになっている。


「出入り口がない……。光源が無いのに明るい……不思議な部屋だな」


 そして俺は部屋の隅に立っている少女に目を向けた。


 ギャル神によって作られた【ダンジョンサポーター】のはずなんだが、目を固く瞑って全く動き出す気配がない。精巧なマネキンのようだ。


「あのー……すみません!」


 俺は少女に声をかけた。少女はピクリとも動かない。なんだよ、不良品か?


「まいったな……」


 俺は改めて少女の外見を観察する。


 鼻筋の通った綺麗な顔立ちだ。まつ毛は長く唇は薄い。身長は女性にしては結構高い方だろう。雑誌で見るモデルはこんな感じなんだろうか。

 俺はスッと少女の胸元に視線を落とす。


「フッ、胸はちっちゃいな。天は二物を与えぬってか……ん?」


 俺は少女の顔に視線を戻した。


 少女は目を開けていた。緑色の瞳が驚嘆した俺の顔を映す。少女は眉間に3本ほど皺を寄せ、俺を睨みつけていた。


「ぐふぅっ!?」


 次の瞬間、俺の胸板に少女の逆水平チョップが決まった。


●○


「マコト様、失礼いたしました」


 少女は透き通るような声でそう言うと、深々と頭を下げた。


「い、いや……気にしないでくれ……。人の身体的特徴を嘲った俺に非がある……から」

「お心遣い痛み入ります」


 先ほどの少女の逆水平チョップの衝撃に思わずうずくまった俺。しかし少女は顔色ひとつ変えることなく痛みに喘ぐ俺を見下ろしていた。

 こんな華奢な体のどこにあんなパワーが……。何とか痛みに耐え立ち上がる俺に少女は能面のように表情を崩すことなく自己紹介を始める。


「申し遅れました。これからマコト様のサポートをさせて頂く、【ダンジョンサポーター】のアリアと申します。宜しくお願い致します」

「ああ、こちらこそよろしく」


 俺は胸板をさすりながら返事をする。


「マコト様。早速ではありますがこちらの【ダンジョンコア】にお手を触れていただいてもよろしいでしょうか」


 アリアがパチリと指を鳴らすと、部屋の中心にバスケットボール大の光る球体が現れる。


「これは?」

「そちらは【ダンジョンコア】と言ってこのダンジョンの運営をして行くために欠かせない設備です。ダンジョンマスターが手を触れて初めて機能します」

「なるほどね」


 俺は豆電球のようにぼんやりと光るダンジョンコアに恐る恐る触れた。


「あ、あったかい」


 実家の湯たんぽを思い出した。

 その瞬間、部屋に無機質な機械音声が響いた。


『【転移者 マコト】をダンジョンマスターに任命します』

「うわびっくりした」

「無事、ダンジョンマスターとして認められたようです。良かったですね」


 アリアはニコリともせず言った。本当にそう思ってるか?


「で……こっからどうしたら良いんだ?」

「説明いたします。ダンジョンマスターの主な仕事はダンジョンの運営をすることです。

具体的にはモンスターやトラップをダンジョン内に設置し侵入者を殺害することでDPダンジョンポイントを稼ぎます。そしてDPを使ってさらにダンジョンを拡張していくわけです」

「DP?」

「はい。モンスターを召喚したりトラップを設置するために必要なポイントです」


 お金、に近いものなのだろうか。

 アリアは立て板に水の如く話を続けた。


「入手方法としては大きく2パターンあります。一つ目にダンジョン内に侵入者が現れた時。二つ目に侵入者を殺害した時ですね」


 ダンジョンを作る。敵を倒す。ダンジョンを大きくする。敵を倒す……を繰り返していくってことか。

 ギャル神から言われた『他の転移者を倒す』って話もきになるところだが、とりあえずはダンジョンを作らないと始まらないのだろう。


「じゃあ早速、『ダンジョン』ってのを作ってみるか。何から始めれば良いんだ?」

「とりあえず簡単な【モンスター召喚】からやって見ましょう。私が実演しますので見ていてください」

「分かった」


 アリアはダンジョンコアに近寄る。


「【モンスター召喚】」


 アリアがそう言うとダンジョンコアは紫色に光った。


「おおっ!?」


 ダンジョンコアの上空にふわふわと1冊の本が浮かんでいる。

 アリアは紫色のその本を手に取った。


「これは【モンスター辞典】。この世に存在するモンスターの情報が載っています。おおよそ4万8165種が網羅されています」


 アリアはパラパラと辞書をめくった。怪物の写真とともに細かな文字がずらりと並んでいる。


「その写真を選択したらモンスターが召喚されるのか?」

「そう言うことです。例えばー」


 アリアは辞書に目を落とす。

 そのページには【ゴブリン】と言う文字と共に緑色の肌の人間のような生物の写真が載っていた。


「【ゴブリン】」


 アリアがそう言うと部屋の中央に写真の生物が現れた。身長は50センチほど。ボロボロの布切れを腰に巻いている。


「こちらはゴブリンというモンスターです。弱いですが凡庸性が高く、非常に使い勝手の良いため、人気が高いです」

「へぇ、面白いな。俺の元いた世界ではヨーロッパで知られている邪悪な妖精だったんだが……この世界では実在してるのか」

「マコト様、随分お詳しいのですね」

「ああ。元いた世界では大学で民俗学を専攻してたから。そういうのには少し明るいんだ」

「へぇ、驚きました。ならば、こちらとしても説明がスムーズに行けそうですね」


 アリアは心底関心したように何度かうなづく。初めて表情が変わったような気さえする。


「それでは、マコト様。早速何かモンスターを召喚して見てください」

「ああ、やってみるよ」


 俺が承諾するとゴブリンは消えてしまった。どうやら本当にただの手本だったらしい。


「現在のDPは1000です。ゴブリンは1体50DPほどですね」

「分かった。じゃあゴブリンを召喚してみよう。えーっと……【モンスター召喚】」


 ダンジョンコアがオレンジ色に光った。ダンジョンコアの上空にはオレンジ色の本がふわふわと浮かんでいる。


「あれっ? さっきは紫色だったよな?」

「ですね……何かのバグでしょうか」


 とりあえず俺は辞書を手に取る。ふわふわと浮いていたはずの辞書がずっしりと重みを増した。うむ、不思議である。


「な、ナンジャコリャ……」


 適当に開いたページには【手長足長】と書かれてあった。異様に足の長い男が異様に腕の長い男を肩車している絵が添えられている。


「なんですか、このモンスターは!?」

「これって……」

「ええい、薄気味悪い。やり直しますよ!」


 アリアは俺の手から辞書をひったくるとダンジョンコアに投げつけた。辞書は一瞬で消える。そんな乱暴にせんでも……。


「マコト様、もう一度やり直してください」

「あ、ああ。【モンスター召喚】」


 オレンジ色の輝きと共に現れたのはまたしてもオレンジ色の辞書だった。


○●


4回目。


「一回電源落としますね」

「電源とかあんの?」


●○


6回目。


「【取扱説明書】」


 アリアはダンジョンコアに呼びかけ、出てきた分厚い本を読み始める。


「よくある質問……載ってませんね」


 家電かよ。


○●


 9回目。


「うう……。原因不明です。万事休すです。どうしようもありません」


 アリアがしょんぼりとしながら言った。


「まあ、しょうがないよ。ドンマイドンマイ」

「しかし、これではダンジョンが作れません!」


 俺はオレンジ色の辞書を開いた。うん、間違いないな。


「そこにあるモンスターも全く聞いたことがないものばかりです……」

「いや、これは妖怪だ」

「へ? 今なんと…?」

「【妖怪】。俺の世界に伝わっていた伝説の生き物たちのことだよ」


 アリアは眉をハの字にして首をかしげるのだった。


豆知識コーナー 【ゴブリン】


「私達の世界ではゴブリンは低い知能を持つ獰猛なモンスターと言う扱いですが、マコト様の世界ではどのようだったのですか?」

「少し違うかもな。ゴブリンは洞穴に住む夜行性でいたずら好きの妖精だと言われている」

「いたずらですか。ちょっと可愛げがありますね」

「まあな。人を道に迷わせたり人を転ばしたり……なんと言うか、クソガキって感じだよ」

「では、この世界と違ってそこまで畏怖の対象ではないということですね」

「いや、そうとは限らないな。あることが原因でゴブリンは邪悪を象徴するモンスターの代表格になったんだ。以来あらゆるフィクション作品で悪役として登場し続けている」

「その原因とは?」

「俺達の世界にある宗教の一つにキリスト教というものがある。キリスト教は民間伝承排斥運動を行い、様々な架空の生物を貶めた。中でもゴブリンは悪魔として扱いを受けるようになり、そのパブリックイメージは大きく歪曲したわけだ」

「そんな裏話が。宗教はどこの世界でも絶大な力を持つのですね」

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