接続章 裁かれる蒼の魔女《せいじょ》 Ⅰ
(どうして、テメーはそこまで出来んのかってのを、俺ァ聞いてんだよ)
声が聞こえる。
聞いたことのないはずなのに、懐かしい声。
(感謝の言葉だけなら、いくらでも吐けるさ。だって何も失わねー!)
(だけどお前はボロボロじゃねーか! 何度も何度も血を流して、馬鹿を見てると思わねーのかよ)
わたくしは、この竜を知らない。
だから、返事をするのは、わたくしじゃない。
(見てられないなら、着いてこないでよ。私は別に、来てくれなんて頼んでないよ?)
(うるせー。俺がいなかったらテメー、そこいらで出血多量でぶっ倒れて死ぬぜ!)
(そしたら、骨を持って帰ってよ。最期くらい、故郷の土で眠りた――あいたっ! 噛んだなぁ!)
(アホかテメー! いや、馬鹿アホだな。馬鹿アホだテメー!)
(……あのさ、なーんで君、メチャクチャ長生きなのにそんなに語彙力ないの?)
(やっぱりテメーは馬鹿だぜ、■■■■■)
(君も同じぐらい馬鹿だよ、■■■■■)
(なんだとォ!?)
(だって、■■■■■は人間が嫌いでしょ?)
(ああ、嫌いだね。吐き気がする。テメーといると、もっと嫌いになってくる)
わたくしは、この言葉の続きを、知らない。
だってこれは、わたくしじゃない。
(それが間違ってるんだよ。だってさ――――)
だけど。
(私はさ?)
きっと、同じ気持ちを、わたくしも、抱いてる。
†
「目を……覚まされましたか」
「…………ドゥ、グリー?」
視界いっぱいに広がる、痩せこけた、幽鬼のような頬。
歳を重ねるごとに、どんどんと肌が白くなっていく。
でも、だからこそ、見間違えようのない姿。
「ミアスピカに、向かったの、では……?」
「ええ……一昨日の話です……先程、レレントに戻りました……」
「そう……そう、ですか。あの、かあ――コーランダ大司教は、なんと……」
わたくしが尋ねると、ドゥグリーは、一瞬口を噤んでから。
「それは……ファイア様が……直接、尋ねるのが……よろしいでしょう」
そう言いました。
「…………え?」
どういう意味ですか、と問い返す前に、ドゥグリーは席を立ち、部屋の扉を、開け放ちました。
「ファイア様が、お目覚めになられました……大司教」
「え…………あ?」
それは、こんな所にいていいはずの人ではありません。
だって、ミアスピカ大聖堂の、大司教です。オルタリナ王国の中で、最も地位の高いお方なのです。
「ファイア……ああ、ファイア!」
大司教のみが纏うことを許された聖衣を、汚れることも厭わないで。
「か、あさま?」
どうして、こんな所に居られるのでしょう。
どうして、駆け寄ってきてくださるのでしょう。
どうして、抱きしめてくださるのでしょう。
どうして。どうして。どうして。どうして。
「良かった、無事で……頑張ったのですね、皆を救うために、頑張ったのですね――ああ、本当に良かった……」
「え、あ、あ? 何――何で、なんで」
温かい。嬉しい。悲しい。
怖い。欲しかった。温かい。
「ねえさま、ねえさまが、かあさま、ねえさまが、わたくしの為に」
「聞いています、全て、聞いています――ルーヴィも、あなたの為に、頑張ったんですね……あなたたちは、私の誇りです。私の、全てです」
ねえさま、ねえさま、ごめんなさい。
わたくしだけ、ごめんなさい。
でも、でも。
抑えきれないのです。
「う、わあああ……あぁぁぁぁ…………」
わたくしは。
わたくしは、ずっと、ずっと――――このぬくもりが。
ほしかったのです。




