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【アニメ化決定】魔物使いの娘  作者: 天都ダム∈(・ω・)∋
第七章 たった一人の為の騎士

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刻むということ Ⅵ

暗い中、険しい山道を歩いていく必要――はなかった。

セキが生い茂った藪の中に、無造作に突っ込んでいくのを追いかけていくと、切り立った崖沿いに、大きなトンネルがあったからだ。

 天井は、ワイバーンでも屈んでいれば頭をぶつけない程度には高く、所々に階段やスロープがある、かなり広い。ところどころ、入り組んだ道もあるが――――。


「ソレンサは、採掘場だったのか」

「あァ。元々は、大きなルビーの原石が採れる鉱山だったらしィ、下の村はその拠点だったのサ」


 しかし、長年の採掘で資源を掘り尽くし、採算が取れなくなって、村を維持する意味もなくなった。その跡地に、セキ達が住み着いたというわけだ。

 人間たちの需要が尽きて、用がなければまず訪れない僻地で、崩れないように整備され、無数の分かれ道が存在するとなれば、格好の巣に違いない。


「村にゃァ竈も炉も残ってるから、時々火を入れたりしてなァ……シャララララ、まァ今となっちゃァただの死体置き場サ。寝床に置いといたら全滅しちまうんでねェ」

「お前らに死者を弔うって文化はねえのかよ」


 戦意を削がれたとは言え、仲良く話し合う間柄ではないし、いつでも首を刎ねる準備をしてはいるが。

 こうまで無防備に背中を見せられると、逆に斬り込み辛いのも事実だった。


「…………さァね」


 どうでも良さそうに言い捨てるセキ。


「ハクラ、シャラマ族の弔いは、食葬(、、)なんです」


 俺のマントの裾を小さくつまんで引いて、リーンは囁いた。


「……食、何?」

「彼らにとって、肉体は器であり、経験が宿るもの。魂は循環し、いずれ還ってくるものです。死者は血縁者が、居なければ仲間が、その肉を喰らって血と成して、引き継いでいくことを弔いとします。ですが……」

「喰えたもんじャねェヨなァ。あンなに腐られるとヨ」


 俺達の会話は、聞こえていたらしい。

 シャラシャラと笑う声は、あまりにも人間臭い、自嘲のそれだった。


「…………悪かったな」


 だからつい、そんな事を言ってしまった。


「…………お前は何に謝ッたンだ? 俺にか?」


 そう言い返してきた、セキの方が、これは正しい。

 ち、と舌打ちをして、空気を誤魔化すように、後ろを見る。


「アオ、ちゃんと伸びててくださいね」

『う――――む――――だが――――お嬢ォ――――』

「限界が来たら言ってくださいねー」


 そこには、リーンが歩く度に、じわじわと紐状に伸びて地面をマーキングしているスライムの姿があった。

 俺達を坑道の奥に引きずり込んで、待ち伏せしての袋叩き、という線も十分考えられるので――というか、俺はそれ以外に無いと思っているが、リーンはセキの言う『交渉』を聞くつもりらしい。


 だが迂闊に踏み込んで、迷って抜け出せなくなったらどうする、と俺が抗議した所、リーンはスライムを坑道の入り口付近にあった木の枝に突き刺して(!?)、そのまま細く細く伸ばして、道標にしているのだった。とんでもねえことをしやがる。


「もし途中でアオが切断されたりしたら、逃げるなり暴れるなりしましょう!」


 ……ということらしい。

 ちなみに、ニコはこれ以上山に足を踏み入れるのを、断固拒否したので、ソレンサの外に置いてきた。馬車の見張りにもなるし、仮に襲われても、あいつは一人でレレントまで逃げられるから大丈夫だろう……俺達の足はなくなるが。


「―――――不安になッてきた」

「今更かよ」

「こんな暴挙する奴と俺ァ交渉すンのか……?」

「………………」


その気持ちは何となくわかってしまうのが、本当に悔しかった――それにしても。


『シャラッ、シャ……シャララ…………』

『フゥ…………フゥウウ…………』

『ギィ……ギィィ……』


 連中の巣なのだから、当然といえば当然だが、坑道の至る所に、リザードマンやワイバーンが潜んでいた。

 ただし、どいつもこいつも息が荒く、壁に背をもたれかけたり、ぶっ倒れていたり、とてもじゃないが、襲ってやろうという体力が残っているようには見えない。


「ちょっと、失礼しますね」


 リザードマンの一体に近づいたリーンは、身体をまさぐって、逆印を探そうとしていたようだったが……。


「……駄目ですね、まだ出てきてません」

「そうかよ」


 コイツらも死んだら、腐っていくんだろう。その度に、ワイバーン達が捨てにいくのか。


「あァ、そこの脇道には入るなョ」


 セキが、メインの通路から伸びる、細い道を指して言った。


「外に出れなかッた連中が詰まッてる(、、、、、)。蓋をしてる岩を退けたら、溢レて出てきちまゥ」


 その言葉が、中の死体がどんな有様なのかを、詳しく聞かなくとも伝えてくれる。


「…………あァ、着イた」


 随分と坂を上って、トンネルを抜けて、たどり着いたのは、山の反対側だった。

 天井はないが、空は生い茂る枝葉のドームで閉じられていて、遠くからこのエリアの中を見ることは出来ないだろう。

 位置で言えば、山の中腹より少し上だろうか。


「ユニコーンの住処と、似ていますね」


 リーンが溢した言葉の意味を、俺は理解できなかったが、確認する余裕も、ありはしなかった。


「なんでだ」

「さァね、俺が聞きたいョ」


 セキが、他人事のように言うのを聞いて。

「ふざけんな、そんなわけねえだろ」

 俺は、その肩を掴み、詰め寄った。




「何でここに〝竜骸〟がある!?」




 赤竜ヴァミーリは、レレントで〝竜骸〟だった時と同じ様に、身体を丸めていた。

 ただ、骸であった頃と、決定的に違うのは。

 目を開いて、ただ一点を、じっと見つめている事だった。

 リーンでも無く、勿論、俺でもなく。


「俺が一番知りたいヨ、なんでコイツは俺を見てンだィ?」


 問いに答えられるものは、誰も居らず。

 代わりとばかりに、セキは言った。


「〝竜骸〟を返してやるヨ――代わりに、俺達を腐らせる、この呪いを解いてくレ」


 セキが差し出した右手には、魔女の印が刻まれていた。

 リーンが求めていた、呪いの証明。それは〝竜骸〟を動かした呪詛の主が誰であるかを示す証拠にもなる。

 それを見て。


「――――は?」


 俺の心臓が、高鳴った。

 知っている。俺は、この印を知っている。

 花と蔦が絡み合って、眼球を形成している、悍ましいこの模様を。




 忘れるわけがない。それは、俺にも(、、、)刻まれている(、、、、、、)のだから。




「……呪詛の対象は血、《命を貪る死と腐敗の呪い》」


リーンは、その逆印を見て、知識と照らし合わせ、照合していく。


「……この印を持っているのは、私の知る限り世界に一人だけです。闇と血と贄(、、、、、)を支配する、位階第二位、七大悪魔の一体、ティタニアス・グロウブロウドゥルと契約した魔女」


 何でお前が、ここで出てくる。


「この呪詛の主は――――魔女イスティラ」


 俺を見つめる、リーンの、翠玉の瞳が……僅かな恐怖で、揺れていた。


「ハクラ、あなたの、母親です」


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