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12 学期末試験前(2)

 次の日は土曜ということもあり、片岡からのお誘いを受けた。

「関崎、今日これから桂さんと一緒に内川くんを迎えに行くんだけど、一緒においでよ」

 生徒会活動は試験中休止なので特に問題はない。ただ片岡の家ではどうも遊んでしまいそうな気がして怖いところもある。あの内川もいるのだからなおのことだ。

「公立高校入試も近いし、気持ち入れ替えてラストスパートかけていこうよってことで、あれからずっと僕のうちに遊びに来てくれてるんだよ。関崎も最近忙しいようだからあまり声かけなかったけど、やっぱり内川くんもたくさんいるほうがうれしいと思うんだ。関崎、内川くんには連絡とってるの」

「いや、取ってない。気にはかかっていたんだが」

 予餞会のどたばたをはじめ気の重くなる話が続いたこともあってすっかり内川の様子伺いを失念していた。青大附高に予想通り滑って涙ながらに落ち込んでいたと聞く。片岡も親身になって寄り添っていたともいう。二人の濃すぎる友情には正直ついていけないものを感じたりもするのだが、

「とりあえずやる気取り戻したのはいいことだ。よし、俺も喝入れに行ってやるか!」

「あまりきついこと言わないでやってほしいんだけどな。あ、そうそう今日桂さんからもよかったら関崎を誘って来いって言われてるだ。たぶんお昼は焼肉とかおいしいものとか食べられると思うよ」

 

 桂さんの車に拾われ、家でセーターとジーンズに着替え、そのまま内川を迎えに出かけた。門の前で待っている内川を見つけ、乙彦が手を振ると、

「関崎先輩ですか! お久しぶりです!」

 相変わらずのんびりした笑顔で駆け寄ってきた。すぐに片岡がいつものお坊ちゃま雰囲気で、

「さあ、行こうか。今日は関崎もいるからにぎやかに過ごせるね」

 手招きする。もういつものことなので何も驚くことはない。

「さあてと、これからジンギスカンパーティだ。お前らこれから腹一杯食えよ。今日はな、ちゃーんと専用の鍋も用意してあるんだ。葱と野菜、専用のたれもある」

 桂さんのお言葉だけで腹が鳴る。あまりジンギスカンを食べる機会がこれまでなかった。B級グルメの大家・桂さんのことだ。さぞ絶品だろう。


 ──とりあえずは立ち直りすぎてるほど元気だってことだな。なによりだ。

 マンションについてさっそく桂さんの手伝い……せいぜい皿運びとジンギスカン鍋セット程度だが……を行い、山盛りのラム肉と同じくたっぷりした葱やらもやしやらを並べつつひたすら食いまくった。桂さんが言うには、ジンギスカンといっても最初からたれをつけて焼くのと、焼いてからつけるのと二通りの方法があるそうだ。あまり深いこと考えず乙彦はそのままこんもりした鍋に一枚ずつ並べてたっぷりしたたれにそのまま付けて食べた。さらっと口の中に溶けていくようだ。舌と一緒にとろけそうだ。

「じゃあ、今度はたれつけてから食べてみようか」

「はい、そうしてみます!」

 目を輝かせてまた二人仲良く肉を焼いている。やはり片岡と内川は心底馬が合うのだろう。このふたりをお見合いさせたことについては、乙彦も一役買ったと言っていいのかもしれない。たれを継ぎ足しながらぼんやり考えていると、

「あと二週間だけど、一回模擬試験みたいな感覚で稽古できたから、次は大丈夫だよ」

 片岡がさりげなく試験について触れている。聞き耳を立てていると内川も、

「はい! 俺もそう思います! 青大附高のわけわかんない試験問題に比べたら公立高校の過去問はものすごくかんたんだなって」

 それは否定しない。

「そうだよ。おっといもうちで去年の過去問解いてみて、ほとんど満点だったくらいだよ。今年いきなり難しくなるわけなんてないよ」

 励まし続ける片岡。妙に気合を込めて内川が答える。

「そうですよねそうですよね。がんばります絶対に! それに、片岡先輩のように可愛いフィアンセが出来るかもって考えたらそれだけでもう、やる気まんまんです」

「内川、お前」

 思わず頭が痛くなる。いったいどこまで片岡の諸事情を知っているのだろうか。結局内川は青大附高における片岡の真なる評価を知らないままですみそうだが、それでも「フィアンセ」がいるということはしっかり把握しているようだ。さすがに片岡も俯いてしまい黙々と肉をつついている。桂さんが助け舟を出した。

「あのなあウッチー、フィアンセは先のことだぞ。まずは『彼女』からだ。彼女をつくってまずはデートデビュー、ここからだぞ。まだデートしたことねえんだろ?」

「デートって何やるんですか」

 無邪気に内川が問い返す。非常識というなかれ、乙彦も実はそれを知りたい。青大附高はまれに見る男女交際華々しき学校だが、いわゆる「デート」とはどのようなことを意味するのか。兄貴分の片岡が口をつぐんでしまったので、代わりに桂さんが熱弁を振るう。

「つまりだな、デートとは、憎からず思う一組の男女が公園とか、遊園地とか、その他いろいろなところにふたりで出かけておしゃべりしたり、食事したり、手を握ったり、ちゅーしたりとさまざまなことを行うってことだな。もっとも許される範囲ってのはいろいろあるけれども、最初はグループデートがお勧めだぞ。仲間の彼女と集っていくほうが妙に緊張しないですむしな」

「いいですねえ、春の道をふたり肩並べて歩き、ふと後れ毛にまとわりついた桜の花をそっとふいてあげる、あいあい傘差して歩く、アイスクリームなめながら歩く、これぞ青春ですね!」

 もしかしたら内川を立ち直らせるためにあかるい高校生活の幻想を吹き込んだんじゃないだろうか。実際乙彦からするとそんな「デート」など無縁の生活を送っている。そりゃ確かに外部三人組と一緒に公園でおにぎり食べたり資料館で油売ったりすることはあるかもしれないが、とてもじゃないがロマンチックのかけらすらない面子だ。

「内川、あまり妙な妄想するな」

 さすがにここはさりげなく釘を刺しておいたほうがいい。乙彦は口を挟むことに決めた。

「女子の友だちがいるだけで十分だろ。そんな恋愛沙汰やらかしたって結局別れるとか浮気したとか弱み握って脅迫したとか、いろいろ怖い話聞くぞ。お前にそんな修羅場耐えられるか?」

「怖いですね。関崎先輩経験者ですか」

 むせそうになる。まさか、そんなわけがない。首を振る。

「いや、そういう奴が実際いるってだけだ。俺とは縁のない世界だ」

「そうなんですか。あ、そういえば」

 思い出したように内川が手を打った。

「この前、佐川先輩が水野先輩と一緒に歩いてたんですけど、あれもデートですか? 俺、あのおふたり見てて、きっと高校ではばら色の学園生活送って、やまとなでしこのお嬢様とデートして、あんな風に手をつないで歩いてみたいなあとイメージトレーニングしてるんです!」

 

 ──雅弘が、水野さんと。

 肉を飲み込み、ウーロン茶で流し込んだ。


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