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12 二次会ゲスト(6)

 言い返したい。ここまで乙彦の渾身込めた訴えを嘲笑に変える奴を叩きのめしたい。

 ──露骨に笑いものにされる筋合いなどない。

 拳を握り締める。一応は「先輩」でかつ友だちの尊敬する相手である以上、無理に何か噛み付くわけにはいかないと分かっていても、腹から煮えくりかえるものを押さえるのが難しい。

 何が「論理が破綻している」だ。そりゃ、言葉はぐちゃぐちゃだったかもしれない。乙彦ももっと分かりやすく、丁寧に説明する義務はあったと反省しなくもない。だがそれ以上に、雅弘がよその女子にずうずうしく手を出す女好きと思われたくはない。自分の親友だけになおのこと。

 ──それになんだ、あいつがまるで、彼女をカモフラージュに使ってるなんて妄想どこから出てくるんだ! そんなくだらないこと考える人間がこの世にいるか! まかり間違っても、せっかく友だちになった新井林に対してそんな裏切るようなしたたかなまねするわけないじゃないか!

 喉まで出掛かっている爆弾のようなものを乙彦は一気に浴びせてやりたかった。目の前でげらげら笑いこけている本条先輩の顔を、全力で射抜きたかった。

 合わせて微笑んでいた清坂がふと、素に戻った。乙彦に向き直り、一歩座ったまま近づいた。

「関崎くん、もしかしてその人が、今度青大附高生徒会と交流したがってた可南の生徒会長さんなの?」

 もう隠し立てする気などない。憤りをあえて押さえずに答えてやった。

「そうだ。別に悪いこと考えていたわけではない。訳あって彼女の苦境を知って、なんとか助けてやりたいということで親友の俺に相談してきた、どこがおかしいんだ」

「正月のことなんだなそれ」

 羽飛も清坂につられる格好で乙彦に詰め寄った。

「問題はないはずだ。そういう話を聞かされれば人間として、当然一肌脱いでやりたくなるのが普通じゃないか。詳しい事情をお前らに説明したなかったことについては謝るが、何もそのことで俺をつるし上げるのは間違いじゃないのか」

 今度は更科が近づいてきた。

「そっか、今鴨河先生と難波のふたりで話を進めてるんだけど、そういう事情があればそりゃ関崎も肩入れしたくなるよなあ。ごめん、勝手に出番取っちゃって」

「出番もなにもない、関崎の事情を確認した段階でやはり俺がこの件を担当すべきだ」

 突然難波が乙彦の真正面に立ちはだかるようにし座り込んだ。ぐいと迫る。

「人間として、それは理解できる。中学時代の友だち同士助け合いたい気持ちは俺も心がないわけじゃないからわかるつもりだ。だが、お前の考えはあくまでも私情だ。生徒会同士でやり取りをする以上は、第三者たる俺が、渉外である俺が担当すべきだ。そうでないと今のお前のように感情に流されてしまうだけだ、いいか、もうこの件は俺と鴨河先生に預けろ。それが一番よいことだ」

 いきなり臨時の生徒会ミーティングタイムに切り替わってしまっている。乙彦があっけに取られている中、本条先輩に対してはいつのまにか古川が説明を試みている。

「なんか、他高の生徒会同士で仲良くしようよ的なイベントを今、生徒会で企画してるんですってよ。私ら三年の時にやったのとおんなじ。それこそあんときは立村が仕切ってた奴ですけどねえ。それを今度は、当時相手校だった関崎がやりたいって言い出したんですよ。そうだよね、その学校が可南女子高なんだってこと。さらに言うと今の話で出てきた、可南女子の生徒会長とのつながりがきっかけだってこと。すっごく話つながりません?」

 本条先輩はしばらく古川に頷きながら考え込んでいた。乙彦に対して生徒会役員たちがかじりつき、他の先輩たちもさりげなく、

「まあ外部生だから俺たちもこれから教育してくし、ここのところは少し手加減してやれよ」

 フォローしてくれている。どうやら乙彦に対して先輩たちは哀れんでくれているようだ。半人前と思われているからだろうしあまり面白くはないが、これだけ混沌としてくるとそれもありがたく受け取るしかないだろう。自分がやはりよそ者であることと、誰かの後ろ盾が存在しない限りはどうしようもないという現実にただ歯噛みするのみだ。


「よしわかった。関崎くんよ」

 突如、本条先輩が立ち上がった。めがねを指先でつんと上げて、

「お前さんの本気のメッセージはしかと受け取った。俺からしたらなんて都合いい受け取り方してるんだか笑止千万っつうとこだが、俺の弟分があれだけ世話になってることもあるし腹ん中が何にもないってこともよくわかった。んじゃあひとつ提案なんだがな」

 いきなり難波を指名した。

「ホームズ難波、お前が生徒会渉外か、可南女子高校生徒会長と接触することができるのは」

「そういうことになります」

 わざとらしくかしこまって答える難波。満足げに本条先輩は頷き、次に清坂へ、

「清坂ちゃん、とすると順調に行けばその交流会が始まるのはいつごろになりそうだ?」

「そうですね、できれば春休み前には一度集まりたいなって。三月には期末があるし、さすがに勉強しなくっちゃまずいし」

「もっともだ。留年したくわねえわな。打ち合わせは顧問が担当してるんか」

「そうです。今までだったら私たちが積極的にアクセスできたんですけど、先生たちの力が高校って想像以上に強くって。だから今回の予餞会みたいな面白いイベントもできちゃったりするんですけど、ちょっぴり窮屈ですね」

「よし、それじゃあ、ひとつ俺様の提案だ」

 本条先輩は生徒会一同の顔をひとりひとり見ながら、

「俺からしたらどう見ても新井林の彼女と青潟工業の奴とはできてるという判断なんだが、ここにいる副会長殿の直訴内容も話を整理すれば検討に値する。それであればだ、目の前にずらっと並んでいる案件をちゃちゃと処理しちまおうじゃねえか。せっかく間男とされる奴の本命と接触可能だったら清坂ちゃん、ここは手っ取り早く非公開で会合でも開いていったんご挨拶したらどうだ?」

「ご挨拶、ですか? でもまだ」

 戸惑う清坂を制するようにして、割り込んだのは羽飛だった。それまでほとんど口を出さなかったのに気負い気味に、

「つまり、生徒会という組織を抜きにして、友だちぽくってっことっすか? 関崎経由でせっかくだったらこっそり飯でも食おうぜってことで。それならいけると俺、思います。よかったら俺仕切ります!」

「そうきたか! だな、そうだ。人間ってのはまず飯を一緒に食って盛り上がるのが一番ってとこよ。何も不思議ねえだろ流れとしちゃあ? 他のがっこの仲間と飯食ってるとこに今のがっこの友だちが集まってきた。挨拶がてら相席しましょ、ごくごく普通のことじゃあねえか」

「確かに」

 納得するのは難波だった。更科も手を打って、

「さっすが本条先輩、いけてますねえ」

 熱く守り立てる。天性の太鼓持ち。

「それをどうさりげなく持ってくかってとこになると、他の学校のからみもあるがそこんとこを関崎くん、君のほうでうまく準備してもらえるとな」

「俺の方で準備となるとたとえば」

 まさか、水野さんと雅弘と三人で会っているところに流れ込んでくるという流れか。それはまずい。さすがにこれだけありもしない噂を吹き込まれた生徒会メンバーが雅弘の顔を見てとんでもないことをぶつける可能性が大だ。

 腹の中を見てとったのか本条先輩は乙彦を見下ろすようにして、

「もちろんお前さんの親友を無理に引っ張り出す必要なんかないさ。たとえば、可南の生徒会長ちゃんを何か理由付けて呼び出すとか、なんかあるだろ? 俺たちだって容疑者が目の前にいる中でわいわい盛り上がるなんてできねえしな。彼女だけ引っ張りこんでさりげなく事実を語ってもらうと。もし関崎の言う通り全くの濡れ衣だったとしたらここから先は水に流して一気に交流会準備に突入すればいいじゃねえか。ついでに言うと、彼女にうまいこと言っておけばそれだけ性格のいい子なんだから、向こうの顧問を言いくるめて青大附高にもうまいように持ってってくれるぞ。一石二鳥じゃあねえか」

 立て板に水のごとくとうとうとまくし立てる本条先輩に、全員が硬直したまま聞き入っていた。離れていたかった乙彦も、ただ射抜かれるだけだった。

「彼女が関崎くんの親友としっかり出来てて、新井林の彼女を巡る三角関係とは縁がないと判明すれば、新井林も一安心。んま、そうするとキリオが哀れだが難波、あとはお前に任せた。どういうことかはわかってるな」

「承知してます」

 端的な答えのみの難波。意味がわからない。

「それといっちゃん大切なことだが、いいか」

 本条先輩はしっかり留めを指した。

「ここで話したことはもちろん内緒だ。まかり間違っても立村だけには言うなよ」

「なんでですか」

 非常識といわれようがかまわない。乙彦が問うと本条先輩はちらとにらみつけるようにして、

「俺が噛み砕いて伝えねえとあいつの頭では理解できねえからな」

 吐き出すようにつぶやいた。

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