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12 二次会ゲスト(5)

 乙彦の殺気立った様子にみな、先輩同輩ともに静まりかえっている。

 ──場を白けさせちまったか。

 せっかくの盛り上がりを無にしてしまったことについては後で謝るしかないが、ここでうっかり本条先輩の挑戦にひれ伏したくはない。みなが崇め奉っている本条先輩と言えども、やはり間違いは正さねばならないのではないか。

 ──あとで生徒会連中および先輩たちには謝るとしてだが。

 壁越しに聞こえるどんちゃん騒ぎを聞き流しつつ乙彦はしっかと正座して続けた。

 

「この際言ってしまいますが、佐川には以前からそれなりの付き合いをしていた女子がいました。俺の知る限り中学三年あたりからだったと記憶しています。交流会企画が立ち始めた後です」

「なるほど」

 声を作って本条先輩が相槌を打つ。気持ちよいものではない。

「その直前に、確かにあいつと佐賀とが妙に仲がいいという噂があったのは認めます。交流会イベントに、生徒会メンバーではないのにあいつを混ぜたのは俺の責任でしたし、当時は佐賀も評議委員ではなかったと聞いてますから同じ立場で共感したんだと思います」

「そうだな。あの子は二年で杉本から評議委員の座を奪い取ったからなあ」

 しみじみつぶやく。みな固唾を呑んで見守っているのが伝わってくる。

「ですがあくまでもそれは、単なる同じ立場同士の共感であって、そういう付き合いとは違います。現に雅弘、じゃなくて佐川はそういう誤解をされていると気がついてすぐに、本来の相手と交際を開始してます。つまり全くその気がなかったってことです」

「その気が、なかった、かい」

 鼻で笑うようなそのそぶり、ついかっとなる。

「その通りです。白状すると、俺も一瞬だけ疑ったことがあります。たまたま交流会の後に雅弘が、図書準備室っていうとこで本命の彼女と待ち合わせている時、立村がそれを誤解してあいつをぶんなぐったことがあって」

 清坂と古川が顔を見合わせてそれなりに笑っている。本条先輩は無言のまま目を閉じた。

「正直俺も、これはやはりあいつと佐賀とが密会してるんでないかと勘違いしました。立村が誤解するのももっともで、彼女はたまたま佐賀と同じ髪型で待ち合わせていたそうです。佐賀はさっさとひとりで帰っていて、雅弘はこっそりその彼女とふたりで会ってただけなんですが、立村はいろいろあってやはり、血が昇ったんでしょう。俺はあいつを責める気などありません」

「責める?」

 めがねの奥から透けてくる鋭い眼差し。負けたくない。軽く鼻であしらっているような感じがするし嘘八百を並べてもすぐに論破されてしまうだろう。そういう迫力がこの人にはある。もう完全に乙彦を敵認定しているであろうということも検討がつく。これから先面倒なことになりそうだとは思う。だが、自分の親友を人非人扱いされるのだけはごめん蒙りたい。友情こそ真実、友を守ることそれぞ自分の信念なり。

「あの時はいろいろありましたが結局誤解も解けて無事交流会まで持っていけました。立村もすっかり水に流してくれたし、今はクラスでいい友だち付き合いさせてもらってます。思い込みが激しいせいかいろいろ勘違いしやすい奴かもしれませんが、俺としてはそういうところもあいつのよさだと思ってます」

「思い込みが激しい、まあそうだな」

 目を閉じたまま本条先輩は力を抜いたようにつぶやいた。そこだけがやわらかだった。


「さて、関崎くんよ。君の友だちに対する熱い気持ちはよっく伝わってきた。論理的には思い切り破綻してるがこれだけ全力で守られたらさぞ、感動だろうよ」 

 いったん乙彦が口を閉じたタイミングで本条先輩はしみじみゆったり話しかけてきた。

「俺からしたら、佐賀と一緒にちちくりあってるところを俺の弟分に見抜かれ、慌ててその本命ちゃんと既成事実を作ってその上で一芝居打ったようにしか見えねえが、確かに関崎の言う通りかもしれん。新井林ともいい友だちだってことを考えるとな。立村は杉本のことになると理性のヒューズがぶっとぶのは今に始まったことじゃない。苦労したなあ清坂ちゃん」

 にっこり笑う清坂と、

「あのお、今でも苦労してるよねえ私たち」

 ふくれっつらで訴える古川のコンビでふと場が笑いに包まれた。乙彦だけは笑えなかった。

「んで、その本命ちゃんとは今も続いてるのか?」

「いったん別れたと聞いてます」

「ほう」

 誤解させてはならない。あれは雅弘の思い遣る気持ちが現れたに過ぎない。

「言葉ではそういうことになりますが、雅弘はきっと彼女を縛りたくなかっただけです。違う学校に行って彼女がもし別の相手を、とかそういうことも考えたんだと思います。ただそれは、俺からしたら絶対に間違いです」

「なんでだね」

「それは、もちろん」

 言うつもりじゃない言葉があふれ出した。

「彼女は、そんないい加減な人ではないからです。俺が保障します」

「君も相当思い込み激しいなあ」

 からかう口調の本条先輩に乙彦はしっかり言い切った。

「彼女は今、可南女子高校の生徒会長を勤めています。まだ一年なのに、先生たち生徒たちから認められて、一生懸命に重い責任を果たそうとしてます。決して目立ったりずうずうしく立ち回ったりする人ではないのできっと苦労も多いと思うんですが、彼女のようなまっすぐな人であれば必ずやり遂げるはずです。そんな彼女がまさか、雅弘以外の男子にふらつくことなんてありえません。雅弘は勘違いしたんだと、俺は断言します。絶対に」

 さあどうだ、これでぐうの音も出まい。

 みな息ひとつ聞こえない。がなりたてる歌声が壁の向こうから響くのみ。

 突如、本条先輩が天井のミラーボールを見上げた。


「なんだあそりゃ、するとなにか、生徒会長になるようなお嬢さんは尻軽じゃないしお前の親友を裏切ることなんてない、そう断言できるのかよ、ったくなんだよその論理の飛躍、少し数学勉強しろよ。英語科だからって理系捨てるなよ」

「理数系は得意です」

「なんだよその返し方は。頼む、笑えるだけどなんとかなんねえの」

 ばつが悪そうに先輩たちも本条先輩をなだめに入る。ひとり、乙彦に、

「お前、説得力なさ過ぎるぞ。純情極まりすぎじゃねえの。もう顔から言葉から本音あふれ出しっぱなしだって気づけよ」

「俺は親友のために」

 笑いこけているのは本条先輩だけではなかった。更科と難波も吹き出しそうになるのを必死にこらえている。背中震わせているのがその証拠。女子ふたりにいたっては笑うというよりもただただ「にこにこ」。穏やかに微笑んでいるのみ。結論、全く本気で聞こうとはしていない、というわけだ。

「あのなあ、俺は青大附中時代評議委員長だったわけだが、悪いが一途とか純情とかそういうのからは全く縁なしだ。それに青潟東高には元生徒会役員だとか結構なポスト付きの連中がわんさといるんだが、みな、えれえ遊び人ばかりだぞ。中学時代の彼氏彼女はさっさと切り捨てるとか当たり前だっての。そりゃお前さん、かのあばずれ学校の生徒会長さんがまっすぐで一途ないい子ちゃんかもしれないが、だからといってお前の親友が浮気しないってわけじゃない。むしろあれだ、新しい彼女つくりやすくなってラッキーだろ。それにだ、もっというとだ」

「違います、だから今、あいつなりに彼女を支えようとして必死に俺に訴えてきてるんです。生徒会長に押し上げられた彼女をなんとかして助けようとして、青大附高生徒会と交流して少しでも彼女を楽にさせようって、提案してきてるんです」

 いくら熱弁しても本条先輩には伝わらない。いったいどうしたものか。




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