10 予餞会当日(2)
もう少し詳しい話を聞きたかったが本業の生徒会役員としての予定組みや先生たちに呼ばれていろいろと言い含められたり、さらには片岡から昨夜の内川の様子について聞かされたりと、とにかく暇がなかった。極めつけが通りすがりの結城先輩より、
「今日は楽しませてもらいに来たよ。期待しているよ」
プレッシャーになりそうな言葉を頂戴する始末。正直胃が重い。消化不良おこさないといいが。
「内川くん大丈夫だよ、昨日たくさん話をしたから。たぶん元気になってると思うんだ。けどさ、やはり公立高校の入試考えるとたいへんだよね。あと一ヶ月もないけどこのまま勉強することにきめたんだ」
片岡はさっぱりした笑顔で答えていた。内川だって今日は授業があるはずだし、いつまでたっても引きずるわけにはいかないだろう。幸いというべきかなんというべきか、本来は公立こそ本命のはず。手を抜くなかれ。一発気合いを入れるべきではないだろうか。そんなことをつぶやくと、
「だめだよ、そんなことしたら内川くんさらに落ち込むよ。関崎は知らないふりしててほしいよ」
いかにも邪魔者扱いされてしまいかなりかちんときた。しかたあるまい。内川ふくめて公立高校受験終了したらたっぷりぐりぐりしてやろう。
予餞会開催にあたり簡単に生徒会長の清坂が挨拶をし、ついで予餞会実行委員長かつ元生徒会長の挨拶と続く。それ以外の生徒会役員の仕事は見た目にはなく、生徒たちのイベントが始まるやいなや、即外に追いやられた。もちろんすることないからではなく、単純に生徒たちが外に出るのを防ぐためだ。
羽飛によれば、
「まあなトイレ行ったり忘れもの取りに行ったり程度ならいいんだがな。できる限り二階の生徒会室と職員室に
は近づけたくないんだわな。それと」
更科が続けて説明した。
「女性の先生も一人だけキャストがいるからその着替え室としても生徒会室提供しないといけないんだよ」
清坂がこの時だけは不機嫌そうに、
「めんどくさいったらないわよね」
と呟いていたのが意外だった。
話をまとめていくと、つまり生徒会役員たちは先生たちおよび南雲率いる規律委員の有志たちのきもいりで秘密を共有する仲間として認められたらしい。ならば、当然、協力を求められるのも当然か。
乙彦の思うのは今のところひとつだ。
──いい加減、俺も最初から企画に参加させろ。
大抵の話は清坂、羽飛がさっさとまとめてそのあと乙彦に提案するのがパターンだった。いくらなんでも副会長に対してそれはないと思うのは、甘えだろうか。
準備を一通り職員室で行い、休憩時間を使って場当たり稽古を行う。衣装はセミナーハウスから規律委員が往復して運んでくる。ということで現在規律委員は校内にひとりもいない。仕方ないので見張りを生徒会が請け負うというわけだ。
「じゃあ、関崎くん、悪いんだけど更科くんとふたりで生徒会室に詰めててくれる? これから規律委員の人たちが例の舞台の衣装を運んできて一時的に生徒会室においとくって」
「かまわないが、そんなに多いのか」
更科が頷いた。こいつも今朝、清坂たちと一緒にセミナーハウスまで差し入れに行ったので詳しいやりとり知っているのだろう。もちろん、乙彦が蚊帳のそとに追いやられているあいだにだが。
「やはりドレスとか多いからね。関崎も見ただろ? ウェディングドレスを立村縫ってたの。あれの嵩がでかいんだよ。下手なとこに隠せないし、なら生徒会室が無難だよ」
──たしかにあれは目立つ。
他の生徒会室役員たちがそれぞれ見張り番に旅だったのち、少しだけ落ち着いた。もっと荷物運びとか舞台の裏方としてこき使われると思っていたが意外に楽だった。
「先生たちにこきつかわれてるようなもんだしね。少しは楽できるよ」
更科はポットからインスタントコーヒーを淹れた。乙彦にも勧め席についた。
「関崎とはなかなかこうやって話す機会なかったしよかったよ」
「俺も同じだ」
それぞれの相棒がめんどうな性格のためなかなか腹を割って話しづらいのは確かだ。そんな中でも更科は元評議三羽烏の中でも比較的話がわかる部類に入るような気がしていた。乙彦も無駄に喧嘩はしたくない。いい機会だと思う。
「難波に譲ってくれてありがとう。あいつ絶対そんなこと口にはしないと思うけど、すごく感謝してるよ」
「可南のことか」
愛想よく更科は微笑んだ。
「事情は、知ってるよね。阿木さんから聞いてるかな」
「それなりには」
「たぶんお互いにとって、これが最初で最後になると思うから、どうしても悔いを残してほしくなかったんだ」
いわゆる外国映画の名子役を思わせるようなあどけない眼差しで、それでも高校生面した更科は続けた。
「霧島さん、って覚えてるかな。俺たちの代で評議やってた女子なんだけど」
「知ってる」
「その弟が、今、中学で生徒会長やってる霧島なんだけど」
いろいろとお騒がせの姉弟とは聞いている。
「彼女ね、この春に婚約するんだ」
「難波とか」
「まさか」
首を仰け反らせて更科は笑いこけた。
「それならこんなに無理強いしないよ。霧島が言うには正月に相手宅で結納すませてきたって。親の取引先がらみだってきいたよ。あ、誤解するなよ。リアルロミオとジュリエットじゃないから。うちのロミオはあんな体たらくだけど、ジュリエットは全くあいつのことなんか眼中にないし。俺たちも決してあの二人の応援してる訳じゃない。たださ、完全燃焼してほしいだけなんだよ」
「完全燃焼?」
「なんていうかあのふたりの関係、このまま引きずったら永遠に難波が惨めになるだけだしね。少しでも気持ちが向こうにあれば話別だけど、今のところ全然見込みなさそうなんだよね」
親友相手にずいぶん遠慮のないことを更科は言う。
「きっちり、終わらせられるのが一番だよ。どんな形でもさ。俺、ほんとそう思うんだ。ほら、昨日も中学で新井林と霧島が佐賀さん巡って決闘寸前になったって聞いただろ」
当然、乙彦が知っていること前提で更科はしゃべっているようだ。息を飲みつつ、気取られぬように聞き入る。
「ああいう風に白黒つけられるほうが、これから生きてく上で一番いいよね。立村が間一髪、弟分のために割って入ったらしいけど本当は停学覚悟で殴らせてやればよかったのになって、思うよね」




