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10 予餞会当日(3)

──やはりあの二人決闘したのか!

色々噂は流れていたがやはり事実だったらしい。乙彦の驚き顔に更科の口も滑らかに動いた。

「話はおととい辺りかららしいけどね。阿木さん経由で聞いたことだけど、キリオと佐賀さんとの密着ぶりは新旧生徒会長同士の敬愛なんてもの余裕で越えちゃってて観るのも目に毒状態だったんだよ。冬休み前かららしいんだけどね」

──正月のあれもそうだったのか!

雅弘から聞かせてもらった話と一致する。となると霧島はすでに下心ありありで近づいていたのは明白だ。もちろんそうなると雅弘とのありもしない噂は消えるのでそれはそれでいい。だが、新井林とも一緒にカラオケで歌いまくる仲である以上複雑なものもある。

「新井林もさすがに裏付け取るのに時間かかったみたいだけど、最終的には佐賀さんが新井林を選んだってこともあって一件落着」

「新井林を選ぶと本人が言ったのか」

「らしいよ。それで新井林も動いて、霧島を呼び出して、正々堂々決着つけようよってことになったみたいなんだ」

軽やかな口調だ。愛想よし幼いかわいさ満載の更科は女子たちからかなりもてているように見えるが、実は年上好みとの噂もある。乙彦からすると天性の人たらしっぷりは青潟工業に生息するある男子を彷彿とさせる。

「それがおとといの話か」

「そうなんだ。けど、次の日つまり昨日、霧島学校に来なくってすごい騒ぎになったらしいんだ。実際は昨日、朝から高校校舎の近くうろついてたみたいだけど、新井林が放課後探し出して真冬の決闘しようとしたんだよ。もちろんそんなことしたらどっちも停学食らうよね。元評議委員長と元生徒会長とのバトルなんて最近の漫画でもやらないよ」

「あまりにもありふれてるからな」

一人の女子を巡る戦いというのも現実にはそうそうないような気がするのだが、青大附属ではごく日常の光景。乙彦の見ている世界も一年前とははるかにかけ離れてしまっているのかもしれない。

「ふたりともかっかしてたらたまたま聞き付けた立村が割って入ってきてなんとか収まったらしいよ。あいつも規律委員でたまたまセミナーハウスでウェディングドレスの仕上げに専念してたけど、誰かに呼び出されて弟分の仲裁に駆り出されたってわけなんだ。今のところ、キリオの兄貴分は立村だからね。第三者的には。まあもしあの時難波がいたらさらに話ややこしくなってたかもしれないし結果としてはよかったのかな」

──いいのか?

乙彦は更科にコーヒーのおかわりを頼んだ。頭を整理したい。


──すべてが繋がるな。

今の話に乙彦の見たもの聞いたものを繋げてみるとすべて辻褄が合う。

──年末あたりからだろう、あの二人の噂は。だが本当に霧島の一方的な片思いじゃないのか。手を繋ぐということはイコール相手にもその気があるということになるが。結局霧島ではなく新井林を選んだということは両天秤にしていたということか。

いや、手繋ぎは単なる阿木の見間違いの可能性もある。そうなると霧島はひたすらラブコールを佐賀に送り続け、佐賀も一応は後輩と言うこともあり無下にもできなかったということなのだろう。日を追うごとに霧島の要求が激しくなり、とうとう佐賀は恋人の新井林に助けを求め、決着をつけるはめに。

確かに、自然ではある。

「ただね、ちょっと気になることがあるんだ」

更科は遠慮がちに付け加えた。

「キリオも逃げ回ってたけど、ギャラリーいっぱい並んでる前で、佐賀さんにほんとのことすべて話すとか血迷ったこと口走ったらしいんだ」

「ほんとのこと、か」

「うん、やはりそれなりのことやってたんだらうなあ。佐賀さんは生徒会長時代から二面性ある人だって感じしたし、キリオにちやほやされてほんとはまんざらでもなかったんじゃないかな」

──俺と同じこと考えてるか。

「どっちにせよ、あの人、見かけと違って穴兄弟多そうな気がするんだ。新井林どうだろう。ゆるせるのかなあ、何度めかの浮気をさ。どう思う、関崎」

答えはひとつた。即答した。

「絶対に許さない」

「だよなあ、だよね」

更科はからからと笑いこけた。


どういう事情にせよ、傷つかない奴などいない結末のようだ。とりあえず乙彦は明日以降、新井林をカラオケに誘う必要があると判断した。懐が寂しかろうがあいつにはとことん歌わせて憂さ晴らしさせてやらねば。これは先輩の義務だ。

──立村も、あすから詫び参り大変だろうな。

困った弟分を抱えた兄貴の気持ちならいくらでも聞いてやる準備もある。明日、学校でゆっくり聞いてみよう。さすがに今日は予餞会できついだろうが。

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