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4 生徒会冬合宿(18)

 スピード勝負一、二回戦は乙彦が獲った。その後目つきが尋常ならざるものと変わってきた難波が一気に三、四回戦を奪い、とうとう最後の決着を付けるときがきた。

「ひゃあ、俺のトランプもうぼろぼろになっちまうなこりゃ」

 犠牲となったトランプを改めて点切りながら羽飛はさらに飛び掛らんばかりの難波をなだめつつ、

「スピードはめちゃエネルギー食うな。んじゃ、これから決勝戦、せっかくだから別の場所でやっか」

「どこでだ?」

 もう消灯の時刻も近い。もちろん素直に消すわけないとはわかっていてもやはりまずい。乙彦が問うと、

「ロビーで勝負つけたらさっさと戻ることにすればいいだろ。やはりこういう布団の上でやんわりやるのは緊張感ねえしさ」

「場所は関係ないだろ」

 難波も血走った眼差しのまま羽飛に訴える。

「さっさと決着つけさせろ。俺は早く寝たい」

「そうあせるなよ。ほら、更科」

「よっし」

 難波のセコンド役たる更科が一本ジュースを手渡す。それを見て何か感じることあったのか、名倉も乙彦にスポーツ飲料を脇に置く。

「それにしてもずいぶんお前ら熱いわな」

「当たり前だ。当然の権利を得るためには全力を尽くすのが俺のやり方だ」

 名倉からもらったスポーツドリンクを遠慮なく飲む。羽飛の言う通り、トランプスピード勝負はやはり疲れる。風呂あがりですっかり気分が伸びきっていた時にはやはりきついものだ。できれば朝、頭がすっきりしている時に行うべきだったんじゃないかとも思う。

「明日の朝ではだめか」

「だめに決まってるだろ。もう夜、安心して俺も眠りたいもんなあ」

 羽飛の言い分もごもっともだ。乙彦は隣りのセコンド名倉に手を挙げて礼を伝えておいた。


 ──やはり奴は本気だ。

 BCLをだしにして情報収集してきて正解だった。いきなりなぜここまで難波が本気でトランプの札をたたきつけてくるのか、その意味がよくよく理解できる。もし何も知らないまま今この時を迎えていたら乙彦も頭から煙を噴きながら思い切り手をひっぱたいていただろう。へたしたら勝負つく前にどついていたかもしれない。さりげないブレーキを用意しておけたといってよいだろう。

 ──さっきなんかトランプで手を切るかと思った。

 羽飛が用意したトランプがプラスチック製というのも影響していたのかもしれない。まさに殺気立っている難波に乙彦も圧倒されつつある。何もここまでなぜ、と言いたくもなるのだが事情を知ればそれもすんなり飲み込める。

 ──そこまでにしてこいつは霧島の姉のことを。

 難波はめがねを外してふき取りつつ側にいる更科に、

「まあこんなもんだろ」

 話しかけている。乙彦たちの方にはあえて目を向けようとしない。一方更科も難波には、

「やっぱりこういうのが一番いいよなあ」

 ちらと乙彦たちにも笑いかけつつ相槌を打っている。乙彦の見る限り更科はさほど外部生に対して敵愾心を持っていないようで、羽飛と同じく潤滑油のような存在として動いている。ただいかんせん、難波の態度が極端すぎるのだ。

 ──せめて、もし更科が難波の立場であったならな。

 乙彦ももう少し冷静に話ができたことだろう。けんかなんかしたくはない。理由を説明させてもらえればきっとわかってもらえたんじゃないかとも思う。しかし難波の態度にはもうどこにも隙はなく望むのも無駄だとわかっている。

 ──どちらにせよ、あいつを水野さんに差し向けるわけにはいかない。雅弘にあとで何を言われるかわからないぞ。ただでさえ追い詰められている水野さんに対して。

 命の水、スポーツドリンクを飲み干した。絶対勝つ。


 決勝会場は玄関ロビーのソファーにて、テーブルを挟んで行うことにした。羽飛が何を考えてか、

「ちょっくら、女子も呼んでくる」

 わざわざ女子部屋に声をかけに行った間、四人で手持ちぶたさでたむろっていた。思い切り気まずい。それぞれの相棒と話をするしかない。

「関崎、お前なんでそんなに拘るんだ」

 半ばあきれた風の名倉が乙彦に顔をしかめて尋ねる。

「何度も言っただろう。あれは俺が持ち出した件だからだ」

「だが、女子高だぞ」

「知り合いは女子なのだからしょうがない」

「女子か」

 名倉はつぶやき、顔を挙げてさらに畳みかけた。

「そんなに仲のよい相手か」

「いや違う」

 即座に否定した。下手な誤解されたら水野さんに迷惑だ。

「同じ学校の同じ学年の女子だっただけだ」

「それにしてはずいぶん拘るな」

「そういうわけではないと言ってるだろ」

 少し苛立つ。そうだ、友だちでもなく、ただの知り合いに過ぎない。親しくはない、ただ、親友の。

 ──雅弘の。

「なんでもない」

 テーブルの向こうで難波と更科がじっと見据えていたがあえて無視した。


 女子三人が足を忍ばせて現れたところで、羽飛がトランプを手早く赤と黒に分け始めた。乙彦と難波のみ椅子に座り、テーブルの上を見つめている。集中力を高めるともいう。

「ふたりとも、二勝二敗なの?」

 清坂が羽飛の隣りでカードを見下ろしながら尋ねる。

「ああ、そういうこと」

 物言いたげに見えるがあえて何も口にしない残りの女子たちはいつのまにか乙彦の後ろにまわっている。もちろん阿木の狙いが名倉であることはよくよく分かっているのだが。更科が呼びかける。

「阿木さん、昔なじみだしこっちで応援しようよ」

 和やかにやり取りしている中で、乙彦と難波だけはじっと口を結んだまま身動きひとつしない。こんなことに何故必死になるのか自分でもわからないがはっきりしているのは、

 ──絶対こいつに、先手取らせてはならない。

 これだけだった。いかなる事情があろうとも。

「じゃあ、始めるぞ。みな、黙ってろ。一瞬のうちに終わるからな。

 札を渡し、それぞれの前に四枚ずつ札を並べる。

「いっせーのーで、で始めるからな」

「いっせーのーで!」 

 全員で声を合わせて号令をかけた。瞬間、乙彦の頭は空と化した。何も耳に入らず、ただひたすら並べられていくカードを順ぐりに重ねるのみ。絵札が重なり、どんどん自分の札が減っていく。勝ちパターンの予感あり。堅いプラスチック製の札を並べた、難波もほぼ乙彦と枚数は変わらないように見える。ほぼ、五分五分だ。

「いっせーのーで!」

 あと三枚。たぶんこれで勝てるだろう。乙彦は裏返したままの手札から一枚抜いて場札として重ねた。ジョーカーだった。判断が一瞬止まった。それが命とりだった。

 まだ枚数が残っていたはずの難波は一瞬のうちに並べた札をを巻き取り、最後の一枚にジョーカーを重ね、とどめを刺した。

 ──しまった、向こうもジョーカー隠してたか!


「よっしゃあ!」

 札をさばききった難波が立ち上がり、廊下に響きわたらんばかりの声で雄たけびを上げ、ガッツポーズを見せたのをみな、冷めた目で眺めていた。燃え尽きた乙彦に名倉はささやいた。

「悪いこと言わん。いい加減あきらめろ」

「何をだ」

「いろいろだ」

 鴨河先生がなにごとかとばかりに姿を見せたのをタイミングに、みなそれぞれ部屋に戻った。一気にテンション高まり興奮気味に更科へまくし立てている難波をよそに、言い訳しに向かった羽飛と清坂を見送りつつ、乙彦は名倉の肩を借りて廊下を歩いていった。

 

 ──ぬかったか。最悪だ、あいつがジョーカー隠してたこと、なんで読めなかったんだ!



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