4 生徒会冬合宿(17)
しばらく羽飛は難波たちと、内部生しかわかりそうにない話を交わしていた。その後自分の寝床を整えた後、ひょいと外部生ふたりの様子を覗き込んだ。
「ずうっと気になってたんだがなあ」
ひょいと立ち上がり、乙彦の手元にあるラジオをまじまじと見る。
「関崎、なんでそんなにラジオにかじりついてるんだ?」
「前にも話したかもしれないが、BCLってのをやっている」
「予防注射か?」
興味を持たれたらしかたない。別に隠すことでもない。乙彦は会う人ごとに何度も説明した「BCLとは何ぞや」を繰り返した。
「外国のラジオ局をふつうのラジオで聴いて、手紙で聴いたぞ聴いたぞってレポートを送って証明書もらうって流れかあ。ずいぶん地味な趣味だなあ」
「地味じゃない。本格的にやるなら本当は短波ラジオがほしいところなんだ」
「やっぱあれなんか、英語科だからはまってるんか?」
羽飛は全く方向違いのところから尋ねてくる。乙彦の隣りでは知らん振りして名倉が読書にふけっている。
「別に、英語科だからというわけではないが。第一ほとんど英語は流れて来ない。中国語韓国語ロシア語がほとんどなんだ」
「そっかあ。んじゃ、立村も役立たねえなあ」
ひとりごちた羽飛は、アンテナをつつきながら、
「せっかくの夜だし枕投げしたいんだがどう、やらねえ?」
またまた妙なことを振ってきた。悪いがさすがいこの面子ではしんどい。首を振ると、
「まあそうだな。それじゃあ、トランプでもやっか」
「持ってきたのか」
「まあな」
かばんからトランプの小箱を取り出し、テレビの前でしゃべっている難波と更科にも、
「おおい、お前らも久々にやらねえ?」
のどかに呼びかけた。
無視を決め込んでいた名倉にも、
「さ、勉強はあとあと、やろうぜやろうぜ」
無理やりふとんからひっぺがし、五人全員を自分の布団回りに集めた。いかにも面白くなさそうな難波だが、更科が説明するには、
「ホームズさ、さっきまで『日本少女宮』のつぐみちゃん引退特集テレビでやってたからそのダメージがでかいだけだよ。さ、もう終わったから気分替えてやろうよ」
要は結城先輩とほぼかわらないアイドルマニアであることを教えてくれた。羽飛も納得してすぐに点を切りつつ、
「とりあえず、最初はシンプルにばば抜き行くか」
札をそれぞれに配り始めた。内部外部それぞれ公平に話しかけている羽飛に対して、いまだぎこちない残りの四人。乙彦もタイミングを見て何か口にしようとは思うのだが、うまい言葉が思い浮かばない。そのまま無言で札を時計回りで相手から引き抜いていくのみだ。仲介点羽飛は更科にも、
「まあ落ち込む気持ちわかるわな。俺ももし優ちゃん引退するなんてことになっちまったら人生真っ暗だわなあ」
「羽飛は鈴蘭優一筋で生きた四年間だもんなあ」
アイドル話を持ちかけている。こうやってみると青大附属の男子はアイドル好きが多いという傾向があるのかもしれない。心にメモをしつつ、乙彦はどんどん札を捨てていった。うまくいった。あっという間に上がらせてもらった。ばばを引いたのは難波だった。
「ちっくしょー! なんだこれ、ざけんなよこれ」
口汚くののしる難波をまた保護者役の更科が慰める。
「手始めはそんなもんだろ。そうエキサイトするなよ。あっそうだ、羽飛、せっかくだったらもっとストレス発散できる奴やろうよ」
ついでに羽飛にも話しかける。札をまとめて再度点をさくさく切りなおしている羽飛は、
「ストレス発散だと何か? 神経衰弱あたりか、それとも大貧民か」
トランプゲームの名前をすらすら挙げる。
「いやさ、俺思うんだけど、こうみんなでしゃべりながらやるものよかさ、むしろ一対一の勝負って感じのほうが面白いんじゃないかなってふと思ったんだ」
「スピードか」
「うん、どうだろ、関崎も名倉もスピード知ってるだろ?」
ずいぶん失礼なこというものだ。水鳥小学・中学時代より乙彦はトランプ勝負で負けたことなどほとんどない。水鳥中学生徒会室でも、内川相手によく遊んだものだった。トランプ程度は校則違反にならず持ち込めたので堂々とやってたものだ。腕は磨いている。
「そっか、じゃあいいこと俺も思いついた」
羽飛は胡坐をかいて外部生と内部生それぞれの間に割って入り、乙彦と難波をそれぞれ指さして、
「お前ら、ここであとくされなく決着つけねえ?」
人のよさそうな笑顔で提案してきた。
「あとくされ、なんだそりゃ」
最初に口を切ったのは難波だった。むっつり黙り込んだまま、めがねを指で軽く持ち上げる。乙彦も続いた。難波のつっかかりにひっからないように、
「そもそも決着ってなにつけるんだ?」
確認した。たぶん、例の、あれのことかと思うのだが。
「決まってるじゃん、なあ。今朝から鴨河先生のめんどくせえ仕掛けでもう俺胃がめっちゃくちゃ痛いんだけどなあ。なんであんなどうでもいいこと持ち出してくるんだかってな」
「だが事実は事実だ」
難波がきっぱり言い返す。同時に乙彦をもじろりとにらむ。果たし状の眼差しだ。
「正直な感情持ってどこが悪い」
「悪くねえけどさあ。とりあえず俺言いたいのは、例の可南女子高校の件だけお互いどっちがひっぱるか主導権をゆずってもらいたいってことなんよ」
のんびりした口調で羽飛は続けた。もやりとするものが乙彦の喉元にも伝わる。
「だが、持ち出したのは俺が最初だろう。もちろん手伝ってもらうのは悪くないが」
「だから清坂が俺にちゃんと頼み込んだだろうが!」
思わず飲まれそうになる。売られた喧嘩は買うべきではなくても思わずひったくってしまいそうになる。いつの間にか隣りに座っていた名倉が腕をひっぱる。羽飛も制した。
「お前ら、だからこうやって決着つけようって言ってるんだって。何もどちらも一回手を引いたからもう手伝わないって言うんじゃあなくて、最初の挨拶の時だけ誰が特攻隊長になるかそれを決めたいだけだっての。関崎にはどちらにせよこれから頼まねばならない仕事いっぱいあるんだし、難波も渉外としてここいらできっちり仕事したいだろ。美里もたぶんそこんとこで難波を選んだと思うんだがな」
羽飛は改めて乙彦と難波の肩をそれぞれの手でがっちり押さえた。両肩を組むともいう。
「とりあえず、明日だけはうまくまとめてくんろ。な、明日じっくり美里たち女子軍とも話をまとめて、実力試験終わった頃にいったん可南女子高校側へ先生たちに書類渡して、交流会の提案を持ってってもらう。そこんところのまとめ役だけまずは決めちまいたいんだ」
「だがもうとっくに決まってるだろ」
難波の言葉を遮った。羽飛の指先がすばやく札を赤と黒それぞれに分けていく。スピードの準備だった。
「五回勝負で行こうか。それで勝った方が最初の渉外代表として可南にて先生がたと一緒に挨拶しに行く。そこんところはもう文句は一切言わないと約束する。ただその後の交流会についてはまた、必要に応じてまた勝負付ければいい。んなとこでどうだ」
──どちらが生徒会に立候補するかをあみだくじで決めた奴なんだ、羽飛は。
忘れていた。これも附属上がりいつものやり方ということを。




