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4 生徒会冬合宿(9)

「どうした、関崎」

 意味ありげな言葉を残して去った羽飛と入れ違いに、名倉がこれまた疲れた顔で現れた。

「どうもしない。羽飛としゃべっていただけだが」

「俺は会長に捕まった」

 問い詰められるかと思いきや、名倉は乙彦の脇に滑り込みかすかに聞こえるか聞こえないかの声で、

「何を考えてるんだかわからん」

 首を振った。わからないのはお互い様だがさすがに話すわけにはいかないことで、

「会長って、何か文句言われたのか」

「いや違う。やたらとなれなれしいだけだ」

 ──名倉の一途っぷりはもう誰もが知らないわけないと思うんだがなぜ清坂もちょっかい出すんだろう。

 せっかくなので聞いてみることにした。こうやってみると名倉も生徒会に入って以来ずいぶん女子に引き手あまた、こういう場所で一緒にからかい合える静内がいないのは本当にもったいない。


「話自体はたいしたことじゃない」

 名倉は切り出した。時々入り口あたりを一瞥しながら、

「会計の仕事は面白いのか、どういうことを先輩方から習っているのかから始まった」

「そういうのが好きらしいな」

 清坂の見た目からは意外に思えるが、以前何度か話をした時に会計自体に興味があるようなことを確かに話していたことを思い出した。

「誰から聞いたかわからないが、俺が簿記三級目指すという情報がいつのまにか伝わっている」

「お前がしょっちゅう俺たちに話しているのを聞かれたんだろう」

 名倉はその点結構アバウトだ。驚いた風に名倉が乙彦をにらむ。

「まさか、お前が話したのか」

「そんなわけないだろう」

 心外な。告げ口なんてだれがするか。

「そうだな、関崎がそんなことやらかすようになったら世紀末だ」

 納得したかのように頷いた。

「どちらにせよ俺はあの会長連中と癒着はしたくない。会計である以上は中立を守りたい」

「名倉、安心しろ。清坂の狙いはそこじゃないだろ」

 乙彦は軽く制した。せっかく同じ生徒会という輪の中にいるのだ、無駄に波風を立てるのはごめんだし名倉もいやだろう。

「俺も清坂から話を聞いたことがあるんだが、向こうさんはもともと数字がらみの話が好きらしい。これは羽飛からも聞いた。夏の自由研究ではデータを集めて分析したりとかそういう統計関係のことに興味津々らしいんだ。見た感じ全然そう思えないんだが」

「そうなのか?」

 ちらっと立村からも聞いた記憶が蘇る。確か夏の自由研究において清坂は、過去の新聞やら広告やらを図書館や資料館からコピーしまくりその無機質な数字のみでさまざまな憶測を膨らませたのだという。数字に弱い立村なので具体的に何とは聞きそびれたけれども、

「らしい。そんなこんなでお前のやってる会計の仕事にも興味があるだけだろう。それと、たぶんあの、お前の例の」

 名前が出てこず口ごもると、名倉は照れもせずに手を打った。

「奈良岡の友だちだからか。それはしかたない」

 ──どこがしかたないだかわからないが、機嫌を直したしまあいいだろう。


 ようやくみな、午後の部に突入と相成る。食器を返しに行った難波と更科もずいぶんと時間をかけて戻ってきたし、女子三人もそれなりにおしゃべりで盛り上がり始めていた様子だった。鴨河先生は自分ひとりでのんびり缶珈琲タイムを過ごしていたし、みな休憩は満喫していたようだった。

「十分胃も休まったところで、さてと会長、続きいきますか」

 促すのはやはり顧問の務め。清坂会長を集会室の最奥お誕生席に置き、両サイドに羽飛と乙彦が、その隣りには名倉、泉州、阿木、さらにその真向かいには難波と更科が陣取っている。結構密着状態ではある。

「はーい。じゃあ今日の一番の議題なんですけど、始めさせていただきます。ではでは、緊急ってわけじゃあないんだけど、実は新春早々関崎くんから提案されてたことがあって、その相談です。関崎くん、あのこと、しゃべっちゃっていい?」

 ──あれか。

 ぴんときた。何を思い切りつるし上げるつもりなのかはわからないが反対側で目をさりげなく合わせる羽飛に逆らうことはまだできない。しかたなくそのまま返事する。

「ぜひ頼む」

「じゃあ進めますね。ええと内容としては関崎くんのお友だちのことなんですけども」

 清坂は少し緊張気味に、それでも声は明るく切り出した。

「冬期講習の時に、関崎くんのお友だちが私たちと同じ学年でありながら他の高校でいきなり生徒会長をまかされてしまい戸惑っているという話を聞かせてもらいました。そうだ、この件関崎くんが話したほういいよね?」

 そうさせてもらえるのが一番ありがたい。乙彦は立ち上がった。書記ふたりが熱心にノートをとっている。

「会長の言う通りなんだが、俺の中学時代の知り合いである学校の生徒会長をいきなり押し付けられてしまった女子がいるんだ」

 ふわあとささやき声。鴨河先生も一緒に驚いているのが解せない。

「その女子はまじめな人で、生活委員を三年間しっかり勤めるような性格なんだがどう考えてもいきなり生徒会長に立候補してひっぱっていきたいと考えるタイプじゃない。詳しい事情を聞いたところによると、かなり困惑しているみたいなんで」

「関崎も堅物そうに見えるけどずいぶんもてるねえ」

 勘違いした感慨を抱いているのは泉州だった。思い切り無視した。

「そこで、もしよければ青大附高の生徒会でせっかくだから、何か助け合えないだろうかと思って、それで会長たちに話した次第です」

 真正面から難波がじろりとにらんだ。用があるなら挙手すればいい。羽飛が乙彦に愛想良く問いかけた。

「女子なんだよなあ。すげえなあその子。どこの学校?」

 ──言わせる気か。

 事実を隠すつもりはない。単に今は言い忘れただけだ。

「可南女子高校」

 校名だけ告げた。


 ──どうした? お前ら?

 阿木が手元から消しゴムを落とした。斜め前にいる更科がどんぐり眼をさらに見開き難波に「ホームズ、ホームズ」何度か呼びかけている。そのホームズこと難波は身じろぎせずただ黙ったまま乙彦を見据えている。今にも飛び掛ってきそうなその眼に背筋が冷える。一方名倉と泉州はお互いふうんと頷きあうのみ、羽飛と清坂が顔を合わせなにやら意思疎通をしているのだけ伺えた。


 

 

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