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4 生徒会冬合宿(8)

 羽子板決戦もかなりエネルギーを消耗することがよくわかった。バドミントンと違う重さの羽根つきラリーはなかなか続かない。一方で落ちるところをすぐ把握できるので慣れさえすれば拾いやすいといったところもある。

「さーてお待ちかねの昼飯といくか!」

 用意されたのは学食から出前注文したカツ丼だった。器がお重なので高級感は確かにあるが口にする分にはごくごく普通の味がする。

「なんだか中途半端な疲れだな」

「ああ、もっと別の運動ってのはないのか」

 名倉と隣り合いぼそぼそ食っていると、今度は隣りにまたまたやってきた女子ふたり。いつのまにか席は二グループにぱっかり分かれている。せっかく羽子板決戦でメンバーを混ぜ合わせて盛り上がったにも関わらず、「元評議チーム」と「外部+α」の四人ずつにいつのまにか分かれている。注意されるかと思ったが鴨河先生もひとりのんびり食べていることだしさほどの問題もない様子だった。

「それにしても盛り上がったよねえ。なんでうちの学校ああいうレトロな遊びが好きなんだろうね」

 泉州が阿木を連れて乙彦の隣りに陣取った。まだ手を付けていないらしく勢いよく蓋を開け、豪快にかっくらい始めた。阿木はさすがにおとなしくちょぼちょぼ口に運んでいる。

「昔からそうなのか」

「雪合戦するしね、カルタするしね。百人一首じゃないいわゆるカルタ」

「なんか中高生がすることじゃない遊びしてるよ。あ、たまに花札も」

 花札は確かにレトロかもしれない。それ以前に学校に持ち込んで平気の平左で札配っていいのかと、規律委員的な部分で心配になる。それを問うと、

「あ、それ大丈夫大丈夫。うちの学校その辺あまり気にしないからね」

 あっさり退けた。それにしても泉州はすごい。香水を相変わらず派手に付けていながら食欲が一切衰えないのだから。隣りの乙彦も食べるには食べているがその匂いに気力が萎えかけている。あまり趣味のよい香水ではないんじゃないだろうかとも思う。

「泉州は片岡の家に泊まりに行ったそうだがどうだったんだ」

「ああ、そうね。盛り上がったよ。それこそ花札で」

 げらげら口の中を見せたまま笑う泉州。乙彦の隣りにいる名倉が露骨に顔をしかめてひたすら食べることに集中している。

「私の目的は小春ちゃんに会うことだったんだけどね。今回片岡が来なかったから私だけもう据え膳上げ膳、超もてなされまくり。片岡の家ね、なんかもう檀家さんのいなくなったお寺を自宅にしてるんだって」

「そんなことできるのか」

「できてるから人が住んでるじゃないの! それでさ、あそこのうち、片岡のお母さんが午前中から午後まで小さな子の面倒見てるの。いわゆる保育所みたいな感じでね。その手伝いを小春ちゃんしてて私も一緒に加わってさ。その間に小春ちゃんひとりでいっぱいビジネス書読んで勉強してて。私もちょこっとかじったけどやっぱちびちゃん追っかけてるほうが楽しかったなあ」

 よくわからないが、泉州の親友で片岡の許婚らしき女子はそれなりの仕事をしているようだ。正式な保育所、託児所ではないようなのでいわば、友だちの家にきた子どもたちを遊ばせているような感覚なのだろう。しかし、一方でなぜビジネス書を読むのだろうか。そのアンバランスさがつかめない。

「ビジネス書というと、なんだそれは」

「私も覚えてないけど、フランクリンとかカーネギーとか、あと中国の歴史書とか。もうちんぷんかんぷんなんだけど小春ちゃんは興味あるみたいで。うちでひましてる時はそういう本を一杯読んで勉強してるようなんだ」

「ひとつ疑問をぶつけていいか」

「いいよ。なんでも」

 乙彦なりに不思議なところを問うてみた。

「彼女は、学校に通ってるのか」

 泉州が箸をくわえたまま固まった。阿木も興味深そうに覗き込んでいる。まだ、かつ丼半分も手がついていない。

 お茶で流し込んだ後泉州は息を整え答えた。

「行ってない。中卒ってことになるよね」

「高校はどうするんだ」

「今年受験するかもしれないし、しないかもって話してた。あ、筆談でね」

「しないなんて、許されるのか」

「わからないけど、小春ちゃんが選択したことならきっとそれが正しいんだよ。私はね、あの子信じてるから。それに片岡も一緒に応援してるから。あと、私のいとしい桂さまも!」

 ──桂「さま」か?

 小さな違和感があるが、人の好みに口を出してはいけない。乙彦は急いで残りのカツ丼をご飯粒まで平らげた。味が染みるとやはりうまい。


 食事し終えた後、食器を重ねて運ぶ途中羽飛に呼び止められた。

「関崎、悪いがちょっと」

「何か用か」

 女子たちはみな歯ブラシを片手に洗面所に向かっている。羽飛が難波と更科に、

「これ生協まで運んでってくれねえかな」

 頼むとすぐ難波が乙彦の運ぼうとしていたものをひったくり、無言で出て行った。付けたしのように更科が、

「そんじゃあ行って来る!」

 と愛想よかったのだけが救いだ。先はかなり長そうだった。ふたりの姿が見えなくなったところで羽飛は改めて小声で、

「学校でこの前話した、例の件だけどな」

 訳ありげに、あちらこちらちょろちょろ見ながら、

「これから美里がうまく話を持ってくから、お前さん悪いがうまーく調子合わせてもらえねえかなあ」

 両手を合わせた。

「何のことだ」

「ほら、可南の生徒会長のことだよ」

 すぐ頭が切り替わった。頭が完全に冬休み仕様で錆付いていた。悪かった。

「あのことか!」

「そうなんだよ。一応美里とも相談して、顧問もいるところで正式な活動として組み込もうってとこまで話してるんだが、この件をできれば難波に任せたいんだよ」

「清坂もそんなこと言ってたな」

 一応、渉外だ。担当をきっちり決めたいのであればそれでもいいとは思う。

「そこで、美里がひたすら難波を持ち上げるは褒め殺しするわでいろいろしゃべるだろうが、お前さんはそこでじっとがまんの子、ひたすら耐えててほしいんだな」

「そんなに耐える必要があるのか?」

 よく訳がわからない。話を持ち出したのは乙彦だが、他の高校への橋渡しを難波にさせるのは決して悪くない。理屈は通る。なのになぜ乙彦にそんな、噛んで含めるような手回しが必要なのだろう。

 羽飛は背中を振り返りながら早口で続けた。

「まあ、わかるだろ。難波の奴少々気が立ってるし、ましてや内部と外部のあれやこれやでかーっとなっちまうから、そこで多少附属上がりのプライドをつつくような言い方をたぶんすると思うんだ。それで外部組には少々痛いとこもあるかもしれないんだが、そこをだな」

「そんな言い方しないとまずいのか」

 こちらもぴりりとくるものがある。羽飛を見返すと、

「絶対に、お前さんの友だちの生徒会長さんの力にはなるからとは美里の伝言なんだが、そこのところどうか耐えてもらえると非常に助かるんだ。悪い。この通り」

 羽飛はふかぶかと頭を下げた。

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