17生徒会お茶会(10)
「ほらほら、今の話聞いたろ、立村が全部面倒見てくれるっていうから任せちゃおうよ。とりあえずさ、みんなこっちで食べようよ」
更科が乙彦および他の生徒会連中を素早くふたりから引きはなそうとしている。一方で立村は難波といたって穏やかに会話を交わしている。一方で水鳥中学出身のふたりと、青大附中卒業したばかりのふたりはせっかくの料理にも手をつけずにいる。自分のテーブルはと覗きこむと、泉州と阿木、そして名倉がもくもくとフライドボテトにかぶりついている。へたしたらもう乙彦の食べる分がなくなっているかもしれない。ちらと見下ろしたところ泉州が堀の深い顔立ちで愛想よく微笑んだ。
「大丈夫だよ、関崎の分はちゃーんととっておいてるからさ」
なんだかこの席はのどかすぎる。
「頼んだぞ」
名倉に伝えて、乙彦はもう一度立村と難波たちが固まっている方に向かった。
相変わらず難波は名探偵気取りでとくとく語っている。
「どうして今日のことがもれたのか正直俺には見当つかないんだが、霧島がやってきて、今日はどうしても生徒会、つまり俺たちの前で話したいことがあるから聞いてほしいと言い出した。はっきり言うが招かねざる客であることは自覚していたな、そうだろう、霧島」
「仰せの通りです」
霧島の様子は、さっき立村がかばう発言をした時に一瞬動揺を見せたものの、難波の前では傲慢さを隠そうとしない。
「たまたま面子としては事情を把握しているメンバーが揃っていたわけで、少しばかりのやりとりはあった。だが、結果としては霧島のほうが間違っていた。そのことを俺たちが懸命に説明している最中、お前がやってきたというわけだ」
立村を指す。当の本人も首を捻りながら問いかける。
「少しばかりのやりとりというのが気になるけど」
「つまり佐賀と霧島との間に生まれた誤解だ。一言で片付けるならば、霧島の勘違いに過ぎない」
気持ちいいくらいすっぱり切り捨てる難波を、文句言いたそうに新井林が睨み付けている。一応先輩である以上は敬わねばならないということで押さえているのだろうが、かなりしんどそうではある。力になってやりたい気持ちもある。幸いこちらは雅弘が懸命になだめている様子だった。さすが自分の弟分だ。中学時代しこんどいたかいがある。
口答えしようとする霧島を立村が睨み付けている。こちらも弟分に対してのみはきつい眼差しだ。なにか考えでもあるのだろうか。
「誤解じゃありません!」
「そのことについては、新井林ともうひとり、ほら、関崎の友達が証言している。どう考えてもこのふたりがそう答えているのなら間違いはないだろう。どちらにしてもだ。これ以上俺たちもこの件に深入りするつもりはない。とりあえずお帰り願いたいということで話をつけていたところだったんだがどうだ」
難波は結論まで突き進んだ。雅弘たちも真剣に頷いている。
立村だけが霧島と雅弘を交互に眺めてはため息つきたそうな顔をしている。
さて自分はどう入ろうか。乙彦はタイミングを探った。無理だった。
「僕は帰りませんよ!」
霧島がまたわめきだしたからだった。頭が痛い。冷静に戻れとばかりに店の人たちが水を運んでくる。立村は一瞥したのみ、難波がなだめるように声をかけるのみ。
「霧島、だから今はもう話は終わっているだろう」
「僕がここに来た理由をまだすべて話しておりません。すぐに帰らせていただきますが、ひとことだけ」
「霧島、やめろ」
立村もしぶしぶといった風に霧島を叱りつける。ふと、霧島が顔を挙げた。難波ではなく、立村にのみ目線をあげた。すぐに戻して、また水鳥・青大附中卒業連合チームに言い放つ。
「いまそちらのみなさんが、僕の話したことを全否定されましたが、それならそれで僕も出るところに出るまでです。学校側では僕が、杉本先輩にそそのかされてその上でいろいろな行動をとったような説明があったようですがとんでもない。杉本先輩は全くそのような情報を流してくれませんでした。しかしながら、杉本先輩は僕にそれで通せと勧めてくれました。理由は僕の身を守るためです」
立村が来る前に生徒会メンバーへ話したことと同じようにも聞こえるが、霧島の目線がときどき立村へ向かうところを見ると、たぶん、
━━立村に聞いてもらいたいんだろう。しかたない。
乙彦にはなんとなく霧島の本心が見えてきた。
━━こいつはとにかく、立村に今まで通り弟分として扱ってほしいだけなんだ。だから俺やあの、例の女子や、とにかくいろいろ姑息な手を打ってきたんだろう。ずいぶん遠回りだが、でも立村もまんざらではないようだし、丸く収まる話だ。
生徒会メンバーがびくついている様子が、傍観者たる乙彦からするとおかしくも見える。雅弘には、放っておいても無事収まるから安心しろと言い聞かせてやりたい。自分が巻き込まれていないからそう言えることなんだろうが、輪の外から眺めているとなんと分かりやすい構図なのか。
━━俺が外部生である利点はそこにある。
一方で内部生はひたすら騒いでいる。
「杉本先輩のせいにすればすべては丸く収まる。その通りでしょう。同時に僕に、佐賀先輩には決して近づくなとも釘を刺されました。もちろん僕も、平気で二股かけているような女子に近づくつもりなど永劫ございません。多少血迷ったところはありますが、自業自得だとその点は反省しております。ですが、僕のしたことが間違っていたとしても、あなたのしたことが事実だということだけは、一生僕の中に残ってますよ。どんなに学校側やいろいろなところで手が回ったとしてもです。たとえ僕がこの学校を追い出されたとしても、僕はあなたがなにをしていたか、僕にどのようにしかけてきたかを全部記憶してます。消すことはできません」
さすがに聞くに耐えないと判断したのか、立村が一歩前に出ようとする。難波が腕を押さえて制止しているのがちらと見えた。いざとなれば乙彦も飛びかかる準備を整えた。なに、多少の腕はある。
「学校側が杉本先輩のせいにして僕の気の迷いとして片付けようとしても、事実は事実、佐賀先輩、あなたはたしかに僕にそれをさせてくれた」
佐賀はるみはうつむき顔をおおうのみ。これは新井林に一発殴らせてやりたいが、さすがに店の中での暴力沙汰は避けねばならない。テーブルに近づこうとしたとたん、立村が難波の腕を払い、同時に霧島の前に立ちはだかった。即、片方の腕を押さえつけ、
「霧島、来るんだ。もうやめろ」
怒鳴りはせず、小声で、しかし凄みのある声で睨み付けた。
その後ろから今度は難波も、霧島の空いている腕を押さえつけ、立村と顔を合わせて頷きあい、引きずり出すように戸口へ引っ張っていく。霧島が抵抗する気配はない。思わず乙彦も声をかけた。追いかけようとしたとたん、
「立村、どうした、おい」
後ろから、名倉が乙彦の肩に手をおいた。
「早く食わないと料理が冷めるぞ。いや、もう残りは少ない。座れ、関崎」
新井林たちがどういう会話をしているかは聞き取れなかったが、雅弘が一生懸命なだめているのだけは把握した。やはり我が弟分、やましいことが全くない証拠だ。あとは機会があれば、霧島と手打ちすることができればいいのだが。
古川が立ち上がり、去ろうとする立村にのんびり声をかけた。
「まあ、立村も火曜、詳しい事情聴取するからよろしくね。ほらほら霧島、あんたも少し頭冷やしな。全くあんたも手がかかる弟だよ。どっちもねえ」
霧島の反応はわからないが、立村の返事は相変わらずのどかだった。
「邪魔してごめん。あとはこっちでなんとかするからさ。じゃあ、また火曜に」
そのまま出口に向かう立村を見送りつつ、隣で名倉がぼつっと呟いた。
「これだけ騒ぎを起こしておいて、明日、友達として遊ぶのか、この生徒会連中は」
━━全くだ。俺にはやはり、青大附属の人間関係が理解できない。とりあえず食おう。
完全に冷えきったパスタと、もうしわけなさげにケチャップのついたフライドポテトを一気に平らげた。ドラマがいくらあったとしても、とりあえず腹は減る。かいがいしく阿木が名倉にだけのこったパスタを取り分けている。あわれみをもって泉州が自分の食いかけたパスタを分けてくれる。なんだかこれが普通に思えた。




