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キミがいて夢になる  作者: スパイシーライフ


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三原と水原

 北野がプロテクトから外されていることを知って激怒した男がいる。シーサーペンツ1軍監督の三原だ。彼は密かに北野を来シーズンの秘密兵器とし大きな期待を寄せていたからだ。

 

 シーサーペンツは長年先発投手不足と左投手不足に悩まされていたが、三原は就任した以上本気でこのチームを優勝させるつもりでいた。そんな彼にとって北野は2つの問題点を一気に解消してくれるかもしれない期待の星のうちの1人だった。

 

 2軍監督の広岡と2軍投手コーチの若生が強力にプッシュするこのピッチャーのピッチングを、実際に見たのは昨年の春季キャンプだ。

 そこで惚れこんだ彼は、先発投手として育て鍛えあげるよう自ら指示をした。部下の自主性を重んじる彼にとって、それは異例ともいえる行動だ。

 

 その後フレッシュオールスターで活躍して脚光を浴び、今季は精神的なものから調子を大きく崩したもののようやく持ち直し、夏には初の1軍入り寸前までこぎつけた。


 残念ながら最後の最後でアクシデントに見舞われて1軍での登板は白紙となったものの、三原は来シーズンこそ1軍のローテーション投手として北野に活躍して欲しいと願っていたし、その手応えも感じていた。


「なのに、いったいなんてことだ! なんてことをしてくれたんだ!」

 

 チームの編成部は一言の相談も無く北野をプロテクトから外した。プロテクトして欲しいという要請を再三したにもかかわらず、だ。

 

 シーサーペンツがプロテクト選手を発表した時に、この報を聞いて一番驚いたのは他でもない三原だった。何しろ彼は北野をプロテクトしてくれているものだと思い込んでいたのだから。

 

 

「あれだけ言ったのに、どうして北野をプロテクトしなかったんだ!!」

 

 三原は球団事務所に単身乗り込んで、編成担当者たちを叱責した。

 

 こんなことは本来やってはならないことだが、三原はどうしても我慢出来なかった。

 自分の意見を説明もなく無視されたような気分の悪さもあるにはあったが、もちろんそれだけで怒ったわけではない。

 本気で優勝を目指す彼にとって、北野は重要な戦力に成り得る選手のうちの1人。そんな選手を手放したくないのは当然だろう。

 

 だが三原と球団編成部との間には埋めようが無いほどの温度差があった。編成部は三原が考えているほどには北野翔というピッチャーのことを評価していなかったのだ。

 

「心配しなくても、福岡アルビオンが北野を指名することはありませんよ。なぜならアルビオンが欲しいのは投手は投手でもリリーフの方ですから。北野はリリーフでは使えませんし、ましてや故障明けですよ? 間違いなくアルビオンが北野を指名することはありません。そう思ったからプロテクトを外して他の選手にまわしたんです」

 

 編成部の人間はそう言って三原を必死になだめたが、三原の怒りは収まらなかった。

 いや、むしろ彼は編成部が北野は絶対指名されないとタカをくくっているようにしか感じないし、その考えがあからさまに表れていることへ苛立ちを隠せなかった。

 

「逆にお聞きしますが、三原監督は北野のどこをそれほどに評価なさっているのですか? 彼の秘めたポテンシャルは認めますが、だからといってそれだけを理由に何年も契約し続けるわけにもいきません。北野はもう3年目、来年は4年目の選手です。高卒とはいえ、いい加減目に見える結果を出していなければならない時期です。その意味で彼よりも結果を出している選手がいる以上、そちらを優先せざるを得ません。プロテクトの人数が限られている以上、誰かが弾き出されるのは仕方のないことです。そして、それを決めるのが我々の仕事なんです」

 

 確かに常識的には編成部の考えが正しいかもしれない。

 しかしアルビオンの現監督は、一昨年のフレッシュオールスターでオールウエスタンの監督を務めた水原だ。そこに三原は一抹の不安を抱いていた。

 

 水原は相手チームの監督として北野のピッチングをその目で見た上に完璧に抑えられた。試合後にはそのピッチングを大絶賛していた。その後も三原と顔を合わせるたびに北野のことを尋ねていた。


 興味を持っていることは明らかなのだ。


 だからこそ警戒の意味も含めて北野をプロテクトしてくれと彼は要請した。理由もキチンと説明した。

 

 敵チームを抑えるためにじっくり育ててきたピッチャーだ。それが自チームではなく敵チームでブレイクなどしたら目も当てられない。正に敵に塩を送ったようなものではないか。


 丹精込めて自チームを苦しめるピッチャーを自ら育ててきたなんて、それはあまりに皮肉が過ぎるだろう。

 

(1軍経験の無い若手投手を指名するわけがないと決めてかかっているが、本当にそうなのか?)

 

 確かにアルビオンが欲しいのはリリーフかもしれない。先発投手の頭数は揃っているが、リリーフ陣は頭数も能力も足りないからだ。

 

 しかし、だからといって先発がいらないわけではない。

 北野を獲って今の先発陣から1人リリーフにまわしたって結果は同じなのだから、その投手より北野の方が中継ぎ投手として優れていると判断すれば、そしてその投手がリリーフをこなせるのならば北野を指名する可能性は大いにある。


 なにしろ水原は、確実に北野を気に入っているはずなのだから。

 

(編成の連中はそこまでして北野を採るわけがないと思っているようだが、水原はそんな単純な男じゃないんだよ)

 

 水原のことを良く知る三原からすれば、名も無い若手ピッチャーであろうと、それが実力を備えている者ならば投手陣全体の編成に手を加えることなど何ら躊躇しないだろうとわかっている。

 

 それでチーム力がアップするのなら彼は迷いもしない。


 それが水原という男なのだが、しかしどうやら他の人間には理解できないようだ。

 三原は大いに不満ではあったが、しかし既にプロテクトメンバーを公式発表してしまっている以上は、もうどうしようもない。

 

「こうなったらもう、アルビオンが北野を指名しないでくれることを祈るしかないか……」

 

 しかし、残念ながら三原の祈りは通じなかった。


 アルビオン側が人的補償の対象として指名したのは北野翔だった。三原がその報を聞いてどれほど落胆したかは想像に難くない。


 


「それにしてもどうして1軍経験もない、しかも先発でしか使えないようなピッチャーで妥協したんですか? 北野って、そんなに有望なピッチャーなんですか?」

 

 福岡アルビオンの編成担当者の1人は水原1軍監督にそう尋ねた。

 その疑問も無理はない。

 

 常識で考えれば北野の指名は有り得ない。アルビオンが抱える不安を考えれば、指名すべきは先発投手ではなく即戦力のリリーフ投手なのは明らかだからだ。

 

 当初アルビオンの編成部は当然のごとく1軍で即戦力となりそうなリリーフピッチャーに候補を絞っていた。これはシーサーペンツ編成部の見立て通りだ。

 

 しかし意見を求められた水原は、あろうことか北野を採ってくれと願い出た。リリーフ陣の充実を最優先課題と考えていた編成部の頭に、そんなピッチャーの名前などあるわけがない。

 

 昨年のフレッシュオールスターでの快投は当然知っているが、彼らは単なる野球ファンではなく球団の編成部だ。チームの補強が仕事なのだ。

 彼らの頭に1軍経験が無いうえにリリーフでは全く使い物にならない先発限定のピッチャーなどあるはずがない。

 

 チームの補強すべき部分とは全くもって異なっているとなれば、当然編成部側としては考え直して欲しいと諭した。

 しかしそれでも三原は自分の希望を押し通し、最終的には編成部側が折れて監督の望む通りにしようということになった。

 

「どうしてかって? そりゃあキミ、三原への嫌がらせだよ」

 

 水原はいかにも愉快そうに笑いながらそう答えた。

 編成担当者はそれが真面目な発言なのかジョークなのか判別することが出来ず戸惑い、何も言わず黙り込んだ。

 その様子を見た水原は表情を切り替え、今度は真面目な口調で話し始めた。

 

「それはまあ冗談として、私は北野のフレッシュオールスターでのピッチングを敵将として目の当たりにしていただろう? 私はね、彼のピッチングに惚れたんだよ。特にあのチェンジアップ、討ち取られたバッターたちが口を揃えて見た事も無い変化だと言った、あのチェンジアップに惚れたんだ」

「確かにあの時の彼のピッチングは素晴らしかったですが……でもそれだけで?」

 

 編成担当者は水原に理解を示す一方で、やはり同意できない部分もあるようだ。

 

「もちろんそれだけじゃない。その後で彼はシーサーペンツの三原の秘蔵っ子だという話を聞いてね。実は個人的に北野翔というピッチャーの情報を集めてもらっていたんだ。親しい記者なんかにね」

「はぁ、監督自らそんなことをしていたんですね」

「それぐらい私は個人的に惹かれてしまってね。そうしたら彼は、ケガをした試合で無事に投げきっていれば1軍昇格確定だったらしいじゃないか。結果的にケガで昇格は出来なかったけれど、それはもう素晴らしいピッチングだったと耳にしている。来季こそはと三原が期待をかけていることも聞いている。それだったら北野を取ればウチの戦力アップにもなるし、シーサーペンツの戦力も削げるし、三原の構想も崩すことが出来る。一石二鳥三鳥になるとは思わないかね?」

 

 どこまで本気でどこからが冗談なのか。やはり真意を測りかねる編成担当者が目を白黒させている様子を見ながら、水原はまた愉快そうに笑った。

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