表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/41

第38話 敵と味方

 どれくらい走っただろうか。


 右へ左へと角を曲がり辿り着いた空き部屋で、私達は息を整えていた。


「ぜぇ……ぜぇ……す、すみません、足を引っ張ってしまって……」

「短時間とは言え、休憩を挟んだ我々と違って、相川先生は走り通しでしたから、仕方ありませんよ」


 体力の限界を迎え、倒れてしまった相川先生を休ませるために、慌てて逃げ込んだ形だが、正直助かったと思う。

 私も、ギリギリだったから。


「カナエちゃんもかなり辛そうだし、一度休憩できるのはよかったんじゃない? それより――」


 西崎さんは、そこで言葉を切って、相川先生へと視線を向ける。


「先生は、どうしてこんな所に?」

「はぁ……はぁ……そ、それは――」

「――息が整うまで、代わりに私から説明しましょう」


 絶賛息切れ中である、相川先生の言葉を引き継ぐように、森島先生が口を開いた。


「先日、鞠片さんと七不思議について話した後、昼休みに相川先生に呼び止められまして、会議に使う視聴覚室のプロジェクターが調子悪いので見て欲しい、との事でした」

「視聴覚室……」


 二人の向かった先が、旧校舎への入り口がある視聴覚室と聞いて、思わず西崎さんと顔を見合せる。


「えぇ。 そして、脚立を使って、天井に設置されたプロジェクターを確認していた時に――」






――

―――――

――――――――







「おや、だれもいないようですね」

「あれ? 金橋先生達、どこに行ったんでしょう……」


 キョロキョロする相川先生を尻目に、用具入れから脚立を取り出し、天井に設置されたプロジェクターの下にセットする。


「金橋先生の事ですから、喫煙所かもしれませんね」

「あ~、あり得ます……あ、脚立、支えますね」


 「お願いします」と伝えて、脚立を昇っていき、プロジェクターの外カバーをはずしてみた。


 かなり埃等は溜まっているようだが、これと言って異常は見当たらない。


「森島先生、どうですか?」

「見たところ大きな故障は無さそうですね。 ただ、配線が緩んでる所があるみたいですので、それだけ締め直してみましょうか」


 脚立を支えてくれている相川先生から、ドライバーを受け取り、配線を固定しているリングのネジを締め直していく。


「さて、これで一度――」

「な……何ですかあなたは! や、やめ……ゃあぁぁ――ぁ……」


 一度試してみようと言いかけた瞬間。


 相川先生の焦ったような声と、直後に響いた“バチッ”という音、そして短い悲鳴が聞こえ、慌てて下に視線を向け――



 見てしまった。



 力無く床に倒れた相川先生と、そんな彼女を見下ろす、黒いローブのようなもので全身を覆い、白い仮面をつけた誰かを……。


「相川先生!? いったい――うっ……」


 慌てて脚立から降りようとした所で、仮面の人物が右手を振り上げ、手に持ったスタンガンを私に押し付けた――





――

―――――

――――――――





「――その後の私は、鞠片さん達が知る通りです。 この地下の一室で目が覚めました。 なので、おそらく相川先生も――」

「――はい。 気が付いたらここに居て、隙をついて逃げ出した後、皆さんと遭遇しました」


 そう言って、力無く笑う相川先生。

 最初は探るような鋭い視線を向けていた西崎さんも、森島先生の証言があるためか、今では多少リラックスして、幾分かいつもの雰囲気に戻りつつあった。


「なるほど……あ、そう言えば、さっき西崎さんが殴り倒したのって――」

「えぇ、金橋先生でしたね」


 と言う事は、恐らく……


「って事は、先生達を“神隠し”した実行犯は、金橋先生で決まりかな?」

「単独とは限りませんが、1人は確定だと思います。 相川先生、視聴覚室の準備って何人いたんですか?」


 私の質問に、目を泳がせたようにも見えたが、それも一瞬。


「えっと……私と、金橋先生と……中田先生の3人ですよ」


 顎に人差し指を添えながらそう答えた。


「――って事は、まだ確定じゃないけど、中田先生もグルかもね」

「法律を教えている中田先生まで……とは、信じたくないですが……。 どちらにしても、ここで話していても埒が明きませんし、そろそろ出発しましょう」


 本音を言えば、今無事なメンバーだけでも一旦脱出して、警察に連絡したいところだけど……。


 確かに、ここでこうしていても、状況は好転しないだろう。

 

 他のメンバーも同じように思っていたのか、誰からともなく立ち上がる。


 そして、西崎さんが通路の方を確認ながら発した『行こう』の言葉を合図に、私達は休憩に使っていた空き部屋を後にする。


「(なんだろ……この違和感)」


 再び西崎さんを先頭に、薄暗い通路を進みながら、私はさっきの部屋での会話を反芻していた。


 特に不自然な内容は無かったはずなのに、頭の片隅で何かが引っ掛かっている気がするのだ。



 でも、結局違和感の正体がわからないまま、状況は進んでいく。


「ゴール、かな?」


 先頭を歩く西崎さんの言葉で前方へ視線を向けると、今までの部屋とは違い、凝った装飾が施された、観音開きの扉が見えた。


「扉の作りが今までと違いますし、可能性は高いかもしれません」

「……ここに、親父のやってる事の手がかりが――」


 そう呟きながら、取っ手に手を掛けた西崎さんが、一気に扉を開いた――




 ――瞬間。




 ドンッと押され、体勢を崩した私は、半ば倒れるようにして、扉の中へと押し込まれる。


「なっ、にが……あぐぅ」


 何とか倒れずに、バランスを取ったと思ったが、足を払われて、うつ伏せに転倒してしまった。


「カナエちゃん!」

「……動かないで下さい、2人とも」


 倒れた私を抑えつけながら、首筋に冷たい金属製の物を押し付けられる。


「鞠片さん! ――相川先生……貴女も、でしたか」

「アッハハハハ、そう言うことー。 さっき疑われた時はちょっと焦ったけど、弁護してくれて助かりました、森島センセ♡」


 背中越しに聞こえてくる声を聴きながら、私は混乱する頭の中を必死に整理していた。




 怖い。




 でも、幽霊みたいな、得体の知れない相手じゃない。





 殺されたくない。





 でも、ちゃんと実体がある人間なら、隙を突くことだって出来るかもしれない。


 私が人質でなくなれば、西崎さん達で相川先生を取り押さえられるはず。





 しっかり考えるんだ……






 この状況を、打開するために。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ