決勝戦 夢のあと
「では、行きます」
立ち上がった彼は、そう言ってくる。
「私も格闘兵として本土へ戻るつもりだ。向こうで会おう。松浦、死ぬなよ!」
美紗の発破に、譲二はくるっと振り返って敬礼をした。
そうして、後は一度も振り向かずに、意志をみなぎらせた背中が遠ざかっていく。
「……何で泣いているのよ」
叶恵は隣に立っている美紗を見やり、溜め息をついた。
「汗が目に入った」
見え透いた虚勢を張る美紗。彼女は彼のことを弟のように想っていたのだろう。
(……まあ、私も人のことは言えないか……)
今は涙は出ていないけど叶恵も、大輝が連れていかれるときは似たようなものだった。
だって、あのとき、自分が年甲斐もなく恋をしていたのだと気づいてしまったのだから……。
それ以来、松浦くんには会えていない。
あの事件から数日も経たずに、彼も本土へ投入されてしまったからだ。
試合の約束も果たせる気がしなかった。向こうは最初からするつもりがなかったんだと思うけど。
これでいいのかもしれない。もう顔を見たくないってことなんだろうし……。
リングス基地は結局、閉鎖が決まり、修斗など他の基地への機能移管が検討されている。
羽稲島の強化兵は四期生までで廃絶されることになるというわけだ。
基地移管で私にも研究者として話が来たが、断った。
代わりに、衛生兵として前線への配属を希望している。けじめはつけなきゃね。
リングスの急な廃絶については、様々な噂や憶測がささやかれた。
軍所属の誰かが告発したとか、戦場を取材していたフリージャーナリストが報道各社に情報を流したなどで、IGウィルスや強化兵の存在が一部明るみに出て、国内世論の反発を買っているらしい。やれんのかプロジェクトの漏洩も時間の問題だろうと言われている。
現場における魔改造兵を含めたチート兵の所作がコントロールできず、受け入れの打ち切りが軍の上層部や防衛省で議論に上がっているとも。
また、合衆国に対しての条件降伏が検討されていて、案外もうすぐ戦争が終わりそうだという噂もあった。
どれが主原因かわからないし、全部が積み重なっての結論なのかもしれない。
ただ言えるのは、沖山敦くんは光になって、みんなの道を照らしてくれたということだ。
というわけで、今はあの島にはもう何もなくなったのだけれど。
新兵達を見ていると、いつでも思い出す。リングスの訓練兵のことを。まばゆい青春の中を生きていった少年少女達のことを……。
とりわけ、最後の四期生、私達に強烈な傷痕を残してくれた松浦譲二くんや市原大輝くん達、彼らF班のことを……。
昔の偉大な俳人の言葉に思いを馳せずにはいられない。“夏草や、つわものどもが夢のあと”。




