第六試合 1.作戦会議
松浦譲二達F班は、遮蔽のために積まれた土嚢を背にしゃがみ込んで円陣を作り、頭を突き合わせていた。
各々が迷彩模様の施された戦闘服を着、戦闘用ヘルメットを被っている。
ペイント弾用の小銃が数丁、地面に置かれていた。模擬戦ではペイント弾を使用し、一発でも当たったら即アウトというルールになっている。
そう、この時間は歩兵の実技訓練、訓練兵VS滞在中の正規兵選抜の模擬戦だった。あの、食堂での因縁浅からぬ対決だ。
「いいか。ブリーフィングで提示されたシナリオとしてはこうだ。海から進入して山を越えてきた敵チームを市街地に入らせないように迎撃する」
市原大輝がブリーフィング時に配布された地図を広げてくれる。譲二は現在位置の後方に当たる山麓に赤い線が一直線に引かれているのを指差した。
「相手は東側から攻めてくる。俺らは西側で防衛。赤線が引かれているのがわかるな? これが、今回のシナリオにおける俺らのデッドラインだ。敵にここまで攻め込まれたらミッション失敗。逆に、六十分守り切れば勝利となる」
宮前健吾と東条幸進がやや意気込んだ様子で首を縦に振る。譲二もつられて頷きながら、
「出撃人数はほぼ同数だ。こっちの欠場は三名」
「誰だよ」
幸進が水を差された感じで口をとがらせる。
「C班の女子一名が病欠。後の二人はA班リーダーの滝上翼とD班の仁村智哉で、編入が決まったそうだ」と大輝。
「あー、聞いた」と、健吾が手を叩いた。「成績が良かったもんで、そいつらは飛び級だそうだぜ」
「そうなんだ。凄いや」
と、沖山敦が素直な称賛の声を上げる。
そういや、と譲二は思い至る。D班の仁村智哉って、キックボクシングのスパーリングで大輝からダウンを奪取したやつだ。
ちら、と横目で大輝を見やる。意識しているそぶりはまったくなかった。
「私語は後にしろ。続けるぞ」
ぴしゃりとそう言い、譲二は説明を続ける。
「あっちの戦闘服はグレー。俺らのはこのとおり緑色だからな。間違えて味方を誤射するなよ」
譲二は自分の戦闘服を親指で指し示した。この度の模擬戦のステージとなる森林に合わせて採用された、緑色を基調とした迷彩が主張をしている。
相手の迷彩はどちらかというと市街の外壁に溶け込むためのもので、森林では少し浮いてしまうカモフラージュ色だ。対訓練兵のハンデという意味合いもある。
「編成はいつもどおりだ。健吾と幸進がアサルト。敦も二人の支援を頼む。大輝は狙撃手で、俺がその援護役」
沖山敦が緊張した面持ちで頷く。
「いいか。相手は正規兵で、兵科の熟練度も上だ。俺ら訓練兵は連携が肝心だぞ」
譲二はヘルメット内部に付いているヘッドセットを示した。模擬戦出場者全員のヘルメットに付いているものだ。
チューナーを切り替えることで班員同士での通話が可能。更に、管制室からの定期連絡や教官の指示も入ってくる便利な代物である。
「通信に支障がないか確認をする。デフォルトで管制室リンクになっているのを切り替えて、まずは……」
「おーし、相手が誰だろうとF班の絶対無敵フォーメーション“男祭り・FUMETSU”は破られなァいっ!」
高揚した健吾が突然拳を振り上げて叫んだために、チューナーをいじっていた譲二達は耳近くのスピーカーから発せられた大声量に首や上半身を仰け反らせる羽目になってしまった。
「うるさいっ!」
譲二は健吾の頭をぱしんと叩く。
「痛ぇ!」
「男祭り何とかを破られる前に俺達の鼓膜が破れるわっ!」
幸進も怒って、健吾の上腕辺りをグーパンチした。ちなみに、絶対無敵フォーメーションについては譲二も初耳だ。
大輝はすぐにヘルメットを脱いで被害を軽微に抑えられたようで、「まったく……」とヘルメットをくるくる回していた。敦の方は目をぐるぐる回している。
『開始まで後、五分です。繰り返します。あと五分でスタートです。各自、小銃の発射パワーチェックをしてください』
管制室のオペレーターからの伝達がヘッドフォンに入ってきた。皆の姿勢がしゃんとする。
「まあ、事前に示し合せがなされてて、言ってしまえば半分は八百長試合みたいなものだからな。あまり緊張しなくて大丈夫だ」
大輝はそう言って、安心させるように敦の肩を軽く叩いた。
「そうそう。最終的にはこっちが勝つようになっているんだから。食堂で挑発してきたヤツらの目にものを見せてやろーぜ」
健吾もにっ、と敦を勇気づけるような笑みを作りながら、小銃を拾い上げた。
「敦はいつもどおり、俺達の一列後ろでサポートを頼む」
幸進が立ち上がって、ヘルメットを被り直しながら、林の奥を見据える。
「う、うん。できるだけ足手まといにならないようにがんばるよ」
という敦の言葉に健吾は目を丸くして、小銃をかつぐ途中のポーズで固まっていた。
「いやいやいや。あ、ジョーク?」
「え?」
敦は意味がわからず、健吾としばし見つめ合った。
「えっと。敦が足手まといだなんて、俺達思ったことないんだけど……」
大輝も口をぽかんと開けている。こいつのこんな顔なんてレアものじゃないだろうか、と譲二は密かに思った。
「ほ、本当?」
「おまえ、俺らの誰よりも射撃のスコア良いじゃないか」
譲二は笑って、肘で敦の肩を押した。
「F班の点取り屋が何惚けたこと言ってんだよ。……嫌味か?」
幸進がジト目でやや呆れ気味に言って、ヘルメットに付いている模擬戦仕様の透明フェイスガードを下ろす。
そうなのだ。敦はF班の射撃トップスコアラーだった。格闘技への適性は未だ不明なものの、射撃の方は教官顔負けの腕前なのだ。
以前、移動しながらの連続射撃テストで高得点を出した敦に、どうしてそんなに上手くできるのかと聞いたら「ガンシューティングのゲームがあって、よくやっていたから」と、理由になってないような理由を言われたことがあるのを譲二は覚えている(おそらく、一種の才能なのだろう)。
格闘技以外の兵科訓練は、一応歩兵なので当然といえば当然なのだが、射撃が大半を占めている。その射撃訓練ではいつも敦が点数を稼いでくれていて、彼はF班の小さな巨人といってよかったのだ。
「また頼りにしてるぜ、ポイントゲッター」
「俺達がついている。チームプレイで行こう」
「大丈夫だって。俺らが揃えば無敵だって!」
「もっと自信を持てよな。やれるんだからさ」
各々からの励ましに、敦はやっと笑顔を覗かせていた。




