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アトライア;VRMMOにおける水棲生物の生態観察記  作者: 桔梗谷 
第一の節 トカゲ落ちる
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 いや~大漁大漁。三時間ほど森をウロウロとしていたら出るわ出るわ薬草にネズミと素材だらけ。昨日よりも遭遇率が高かったのではないかな。インベントリが半分近く埋まっちゃいましたね。100個位なら入るのですけれど。やはり死体ひとつでインベントリ一枠が埋まるというのが問題ですかねぇ。

 ともかく、今回の狩りの成果の内訳はこうなりました。

 薬草×97、毒草×83、しめじ×12、マッシュルーム×9、雑草×127、露草×11、アルプの実×16、森ネズミ×32

 ソロで行動した割にはなかなかの成果だとは思いませんかね。水魔法のレべリングをしながら銛で突き殺すのは意外と効率がいいのではないかと思います。森ネズミ程度なら「気配遮断」にも気付かれることは少ないですしあっさりと急所に銛が刺さるので反撃もあまり受けないのが楽でいいですね。

 ああ、森ネズミしかないのはそれ以外のモンスターだったときはとりあえず逃げているからです。ウルフはともかくでっかい蜘蛛が出てきたときは相手をしてもよかったのかもしれない。でもねぇ、「弱点看破」で見ても急所の判定がやたら狭かったんですよねあれ。いわゆる副脳の場所を示していたのでしょうが、あれ一個潰すだけじゃ意味がないんだよね。ああいった手合いは無難にHPをゼロにすればいいんだろうけれど木と木の間に張った巣にへばり付いてたから銛じゃちょっと大変だったかな?水魔法を使えば叩き落とせたかも。

 とりあえず、この大量の素材を一回お金に変えたいものですね。これだけあればおそらく2万Gぐらいにはなると踏んでいます。……にしてもしめじとかマッシュルームってなんですかね?生えていたきのこに「鑑定」を使ったらそう出てきたので衝動的に採ってしまいました。……食材アイテムですかね。アイテムについての説明とかが見れないので利用方法がさっぱりわかりません。換金するときにでも聞きましょう。

 

 「はい、こちら全部で2万5430Gとなります」

 有難くいただきます。お金も大事だけれどアイテムについて聞かなければ。

 「あの、聞きたいことがあるのですが、これどういう用途があるのですか?」

 そう言いながらカウンターにどっさりと並ぶアイテムの山からいくつかの素材を指さして尋ねる。

 「ええと、これは露草ですね。利用方法としてはマジックポーションの材料でしょうか。珍しいものですのでそこそこ高額で取引されますね。あ、このきのこたちは料理で使われているものですね。きのこにもマジックポーションの素材になるものがありますので探してみるのもよいかと思いますけれど、森の奥でしか見つからないので滅多に見つかるものではないですね。無理して森に突撃するのだけはやめてくださいね」

 にっこりと笑いを添えながら説明をしてくれた受付の方にお礼を返して換金所を立ち去る。

 訓練所に用があるのであろうPCと思しき人たちとすれ違いながら玄関を抜ける。

 さて、どうしようか。装備を買うのもいいけれどこのお金じゃさすがに武器ぐらいしか買えないですね。そこそこ良いのを買うと考えるとまだ足りないかな。今日はもう少し狩りをするのがいいかね。

 そう結論付け、もう一度町の外へと行くことにする。今が大体18時くらいだから、あと二時間ぐらいで真っ暗になりますね。スキル欄の「遠視」を「暗視」に切り替えて臨むことにしましょう。


 昼間見た時と変わらずに人が多い平原を抜け、影が差し始めた森へと足を踏み入れます。雰囲気としては少し暗いといった風でしょう。まだ、森の中でも狩りは十分できるでしょうね。勿論これ以上暗くなってしまったら夜間でも狩りが出来るスキル構成にしておかないと難しいでしょうけど。

 では、このまま狩りを続けさせてもらいましょう。狙うは森ネズミと蜘蛛ですね。それ以外のモンスターが出た時は遠慮なく逃げさせてもらいましょう。夜間の森ほど面倒くさいものはありません。「気配遮断」と「索敵」が欠かせないですね。

 スキルを使いながら音を立てない様に森を歩いていく。「索敵」に反応が四つ。またウルフのようですね。

 どうも、時間がたつにつれてモンスターの出現配置が微妙に変わるみたい。昨日は夕方、今ぐらいの時間に狩りをしていたから、気にしていなかったけれど、ソロになって慎重に行動しようとするとそれが身に染みて感じられる。森ネズミも見つかるのだが、頻度が昼に比べて下がるのは否めない。比べるまでもないのだが、昨日は三人、今日は一人と状態が違うのだが、一時間たってもネズミが十匹程度しか狩れていないのが少し悔しくなる。ウルフを狩れたらいいのだが、さすがに複数を相手にするほどプレイヤースキルはない。最も銛は多対一を想定した武器ではないのだ。

 「むう、もっと奥まで行く必要があるのか?」

 さすがにあまりやりたくない。今いる場所は比較的町に近いところにいるが、これより深いところに行くとなると今度は遭難の可能性を考慮する必要が出てくる。ただでさえ今居る場所は道から外れているのだ。一旦迷ってしまったら死に戻りしかなくなる。そこで割り切れたらいいのだが、流石に迷ったから死に戻りするというのは胸がもやもやする。

 でも、ちょっとだけ。ちょっとだけならいいでしょ?

 そんな気持ちがむくむくと持ち上がる。いや、森ネズミとウルフと蜘蛛しか見てないからほかにも何が居るのかちょっと気になるのですよ。

 日が落ちるような時間にはもうちょっとあるし、何があるのか少しでいいから奥に行ってみたいんです。

 そんな誰にともつかない言い訳をしながら、私は森の奥へと歩を進める。大丈夫、いざとなったら死に戻ればいいんです。え?死に戻りたくない?そんなの一回経験してしまえば慣れますよ、きっと。

 赤い夕暮れに染まる森を歩きつつ周囲を警戒する。まだ、かろうじて夜ではないと言える時間帯であるが、少しずつ暗くなっているのがわかる。初めのほうは目印をつけようとしていたのだけれど途中であきらめました。無理ですって!!傷をつけたと思ってふと目を離すと元通りに戻っているのですよ!?どうやら、完全に破壊しないと傷が残らない仕様のようです。さすがの運営もそういうものにまで容量を割く気にはならなかったようです。

 仕方がないので行き当たりばったりで移動することにしました。もう完全に死に戻りコースです。まぁ死んでもステータスペナルティと一定時間獲得経験値が半分になるだけですからね。ログアウトしている間に終わるペナルティです。気にすることはありません。

 そうこうしているうちにも周囲は暗くなっていくばかり。いくつかの反応は感知できるのですが、一瞬だけ反応したりといった風にどうもよく分からない反応の仕方をしています。プレイ二日目の「索敵」ではまだわからないことが多いという事だろうね。

 不意に前方から一つの反応が近づいてくるのが分かった。

 それはがさがさと草木を揺らすことなく近づいてくる。……たぶん、飛行系のモンスターだろう。

 油断なく周囲に気を巡らせて集中するネア。それが近づいてくるにつれ、かすかにぱたぱたと音が聞こえてくる。

 さっと目をやるとそこには人の頭より少し小さい程度の大きさをした……コウモリだった。

 でかっ!? いや、小さかったら攻撃当たらないから困るけどさ……。えと、「鑑定」と。

 吸血コウモリ、と表示が出る。

 相変わらず名前しかわからない……。レベルが低いのかね。

 少しげんなりしたネアを尻目に勢いよく飛び掛かる吸血コウモリ。ただ単純に直線的に向かってくるだけなら問題はない。ネアは銛を構えてカウンターでアーツを叩き込もうとすると、不意にぐらりと体が傾いた。

 え!?なにこれ!? 体がうまく動かない。

 千鳥足を踏むかのごとくふらふらと体が定まらない。なぜ?と軽くパニックになる私の首にコウモリが牙を突き立てた。

 「ぐっ!?」

 首筋に鋭い痛みを感じ思わず声が漏れる。噛まれた痛みでぼんやりとした頭が少しはっきりした。ふらつく体に鞭を入れ、なおも牙を食い込ませ続けるコウモリを無理やり引っぺがし翼膜を食いちぎる。

 かなり厄介な能力を持っていた反動なのか、あっけなく翼が取れた。ポリゴンの結晶を撒き散らしながら地に落ちるコウモリへダメ押しとばかりに銛を突き立てる。

 動かなくなったコウモリをインベントリに入れ終わるとふっと力が抜け地面にへたり込んでしまう。

 「うへぇ、まだ、頭がくらくらする」

 ステータス画面を開いてみると状態欄のところに『酩酊』と表示されていた。おそらく、吸血コウモリのスキルだろう。

 酩酊にさせられた攻撃に全く気付かなかったですね。……何かのスキルが要るのでしょうけど私はそのスキルを持っていないから探知できないと考えていいでしょう。まさか、探知不可能な攻撃をする敵を用意するなんて流石に無いでしょうし。とりあえず、あのコウモリが出た時は状態異常にさせられると考えましょう。

 攻撃が感知できない以上、対策するのも無駄と考えてネアは思考を放棄する。

 HPゲージが減少していたのでポーションを飲む。少しねっとりとした喉越しに苦みが相まって絶妙に拙い。……牛乳とか入れたら飲みやすくなるかしら。

 HPが全快になったのを確認するとネアは重い腰を上げて立ち上がる。どうやら、かなりスタミナ値を消耗しているらしく、体全体が少し重く感じる。

 「流石に戻るべきか否か。どちらにしようかな」

 戻るべきか戻らざるべきか。正直なところ、これほど厄介な能力を持つモンスターがいるとは全く聞いていなかったが何とか倒せたこともあり彼はこのまま進んでみようと考えた。もはや選択肢にすら表れていないが、死に戻り前提で行動を決めていることには目を逸らしている。

 「にしても、少し奥へ入っただけでこれだと、先が思いやられるな……」

 思っていたよりもコウモリに苦戦したことについて思い返しながらもぽつりと呟く。誰も居ない森の闇の中へとその声はゆらり溶けていく。いつの間にか辺りは真っ暗。

 夜になっていた。



 すっかり暗くなってしまったが、最初のコウモリとの戦闘からそろそろ三十分が立つ。

 二回三回とコウモリに襲われたが、流石に一回目の時のような醜態を晒すことはありませんでした。二回目からは銛で刺すのではなく柄で叩き落とす方向にシフトすることで噛まれる前に叩き落とすことが出来るようになりました。『酩酊』状態にする攻撃への対処方法は未だにないですけれどとりあえず気合で意識を保とうとしてみましたところどうにかふらつく事がなくなりました。残念ながら、武器を振り回そうとすると体はふらふらしますが……。突きよりかは範囲が広いのでタイミングさえ合えば掠らせるぐらいのことはできるまでになりました。

 HPが少ないのか少し掠るだけでも体勢を面白いぐらいに崩してくれます。まぁ、その時には私もフラフラなんですけれど。

 とりあえずの対処法が確立できたところでずんずんと森の奥へと進んでいます。深くなってくるにつれて足場が悪くなってきます。心なしかコウモリとの遭遇が減った気がします。おそらく、木々が邪魔して飛びにくくなってきたのだろうとは思いますけれど、今度はモンスターとさっぱり出会いません。どうにも、痕跡らしきものがかすかに見えるのですけれどどうにもはっきりしません。

 「暗視」のレベルが低いせいか朧げにしか見えないのですよね。「索敵」にも何も反応しませんし、これは何か嫌な予感がしてきます。

 ゲームでいうところのボス前の部屋にいる気分でしょうか。辺りが真っ暗で音がよく響くのが不気味です。どうにも自分の足音しかしないのは気味が悪いです。「気配遮断」のレベルが低いのですかね。足音も消して欲しいと今切実に思います。

 ネアが辺りに目を凝らしつつ歩いていると「索敵」に反応が一つだけ引っかかる。

 「やっと、何かお出ましですか。もう待ちくたびれました。死に戻り前提で来ているのにモンスターとである気配すらなくなっていて正直暇だったんですよね」

 一人の淋しさを誤魔化す為かそれとも恐怖を隠す為か。どちらの色もまじりあったような声が出る。モンスターの襲撃が途絶え始めてから結構な時間がたっている。次に出てくるモンスターがどのような存在かはネアにはわからない。それほど熱心にモンスターについての情報を集めていたわけでもないため、ここにいるモンスターがどれほどの種類が居るのかも全く知らない。

 ある意味道への恐怖とともに反応があった地点へと足を進める。

 「ん?…消…えた?」

 反応が消えた。一瞬だけ反応が大きくなったような気がしたが、すぐに消えてしまった。反応が大きくなるという感覚すら初めてのネアにはそれがどういった意味を持つのかはわからない。

 私にできそうなのは突撃ぐらいかな。

 シエナ海岸へと行くことが第一目標のネアにとってはこの森をある程度踏破できることが移動期間のショートカットになると考えているためにここにいるモンスターについてある程度の情報が欲しかった。wikiにも情報が順次上がっていってはいるがそれは間に大きなタイムスパンが挟まれている。wikiにいないモンスターが出る可能性があることも踏まえてなるべく自分の目でモンスターを見ておきたかったのだ。

 そんな目論見もあるため彼は無謀と感じていても異変を感じた場所へと向かう足を止めなかった。

 そこは私が居た場所からあまり距離が離れているわけではなかった。しかし、私がそこにたどり着いた時にはそこには何の痕跡も見えなかった。

 「「気配遮断」系のスキル持ちでしょうか?でもそれなら姿ぐらいは見えると思うのですが……」

 勿論辺りを見回しても影ひとつ見えない。すでにどこかに消えたと考えたいがどうにも腑に落ちない。

 反応があったのは前方に見えるそこそこ大きな木のあたりだ。

 私はその木へと近づいて行った。

 ここにある木はすべからく立派な大きさをしている。密集しているというよりもそれぞれの木が大きいのだ。木が大きいのだから当然その木の根っこも大きい。

 私が木に近づこうとした瞬間だった。

 その木の根っこのあたり一メートルほどがいきなり持ち上がり、その暗闇から飛び出した長い脚が私を絡め取りぽっかりと開いた穴の中へと引きずりこんだ。

 いきなりのことに驚き、体が硬直している私が最後に見たのはぬらぬらと光る一対の鉤爪だった。

 次の瞬間私は町の中にいた。ざーっと水音が鳴り響く噴水の前で私はただ茫然としていた。

 ああ、私は死に戻ったのですね。

設定おかしくないかな?

なるべく見直したりはしますが、書いている時は私の頭は若干混乱気味になっているので変な記述とかがあるかもしれません。

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