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そろそろストックの危機が始まりました。私事による理由ですが、あまり続きを書いている時間が取れないのが辛いです。

 「ここを通るのは難しいわ。回り道しましょう」

 「そうっすね」

 「ん」

 それぞれ首肯しながらある方向を険しい目つきで睨みつける。

 ソーディア。鹿のようにしなやかな肢体を誇り、刃物のように鋭く研ぎ澄まされた角を持つ四足の獣。私たちの目の前に群がるモンスターの名前です。

 それが、

 「ソーディアがこんなに群れているの、初めて見るわ~」

 りっちゃんさんのゆるゆるとした言葉の中にもわずかな緊張が見える。他の面々も同じように緊張が表情に現れています。そう、私たちの前には30体を超えるソーディアの群れがあったのです。

 本来ならば、ソーディアはそれほど対処に困るモンスターではないでしょう。通常であるなら群れていると言っても5、6体程度が関の山、ハウリングサイガの様な遠距離攻撃があるわけでも(さい)のようの見た目のモンスターであるブレードライノスの様な防御力があるわけでもない奴らに苦戦はすれど負けることはありません。けれど、

 「あの数は流石に無理ですね」

 これは無理、とはっきり結論が出ます。今の私達には殲滅力がありません。あのような数を相手にすることは自殺しに行くようなものです。

 「とりあえず、草に隠れながらやり過ごすわよ」 

 そのまま、全員で姿勢を低くしてソーディアの群れをやり過ごすことにしました。

 それにしても、ここまでの大群が出たのは何故でしょう。ふとした疑問を残しながらその場を足早に去ります。これ以上何もなければいいのですが……。


 「今度はこっちか。やっかいな」

 サクさんが毒づく。自分たちの不幸を笑うように。

 何事もなく順調にソーディアたちの群れをやり過ごした私たちの前には一匹のモンスターがいます。ふわふわの体毛に可愛らしくつぶらな瞳。羊の姿をしたモンスター『メニーメニーシープ』。愛らしい見た目とは裏腹に高い戦闘能力を持つ徘徊型のボス級モンスターです。相対した敵を逃がすことはなく背を向けるならば、瞬く間に攻撃を受けて行動不能になります。ボス級といわれるだけにここオース平原で最も強いのがこの『メニーメニーシープ』ということになります。

 「アーツ【狂詩曲】」

 アップテンポで明るい曲調の音楽が流れ始める。それを合図にするかのように呪文を唱え始めたり、得物を構えます。私も鉄鎧を呼び出し、モンスターに向かって前進させます。

 【狂詩曲】の効果で私たちの状態異常への抵抗値が引き上げられます。『メニーメニーシープ』を相手取るときは状態異常への備えが必要なのです。

 聞くところによるとこのモンスターはいわゆる初心者殺しといわれるそうです。見た目からは想像もつかない耐久力に攻撃力を持っていて、さらに厄介な状態異常攻撃を持っています。愛らしい見た目に騙されて突撃し散っていったプレイヤー達は数知れず。積極的に出会いたいと思うモンスターではないですね。

 「相手は一体です。【狂詩曲】の効果が効いているうちに速攻をかけます。状態異常には気を付けて」

 「人形使い」の職業スキル「指揮」の効果が発揮され、私たちの能力値を底上げします。パーティーリーダーが持っていると効果を発揮するこのスキルは人形を含めた全体に効果を及ぼします。先ほどのサイガを超える強敵です。相手に一手でも与えたらどうなるかわかりません。何かされる前に倒します。

 「戦闘開始!!」

 私の掛け声とともに前衛の二人が地を蹴って飛び出し、アーツを発動させながらメニーメニーシープへと襲い掛かります。メニーメニーシープはまるで凶悪なモンスターという事を感じさせない動きでのろのろと動いているだけ、初撃は違うことなくモンスターの胴体へと吸い込まれた。

 ふよん。

 ふざけた感触の音とともに叩き付けた剣が止められる。もこもことした毛皮に覆われている胴体は鋭い剣の一撃ですら滑らせる柔らかさを持っています。魔法ですら特定属性以外は効果が薄いこの素材はとても良いお値段になるのですが、倒すのが面倒という不人気な理由がここにあります。

 「ちっ、避けられた」

 「面倒っすね。首を狙ったのに避けられたッす」

 吐き捨てるように毒づく。もう一つ厄介なこととしてこの危機回避能力です。のろのろとした動きなのに急所だけは確実に回避しようとしてくるのが厄介です。でも、それならば

 「もろとも叩き潰して!!」

 鉄鎧に指示を与えます。鉄鎧には重量を増すために内側にいろいろと詰めています。それ自体が武器であり、凶器なのです。斬って駄目なら圧殺する。解体するときに嫌がられますし、品質も落ちるのでなるべくやりたくはないのですが今回は構わずに攻撃させます。

 武器を持たせていない鉄鎧は両手を握った拳を振り上げて打ち下ろすようにモンスターの胴体めがけて叩き付ける。ごう、と空気を空気を押しのける音が聞こえた。

 「避けられましたか……」

 一歩さがる様にひょいと軽やかな動作であっさりと避けられてしまった。メニーメニーシープはそのままの状態から鉄鎧に向かって頭突きをしてきた。ごつんと鈍い音が響いて鉄鎧がたたらを踏む。

 鉄鎧が遅くて攻撃がうまく当たらない。一撃を入れるためにはどうにかして動きを止める必要があるようです。

 「【ライトニングボルト】」

 紫電が走り、モンスターの体を直撃します。バチバチという破裂音が響く。

 「効果無しですか……」

 わかってはいましたけれど実際に体験してみるとまったくもって厄介です。正直なところこのモンスターに対しては私の持っている魔法は基本的に効きが悪いです。

 「【白矢(びゃくし)】」

 りっちゃんさんの呪文詠唱とともに光魔法アーツ【白矢】が発動。凝縮された光が矢のように突き刺さります。甲高い悲鳴がモンスターの口から飛び出します。

 「これなら効くみたいね~」

 そう言って再び呪文詠唱を行い始めるりっちゃんさん。光魔法のアーツは軒並み戦闘向きじゃない中【白矢】は数少ない攻撃系アーツです。威力はあまりないものの貫通力に優れたアーツですが、単体しかねらえないこともありサイガ戦ではりっちゃんさんはサポートとして回復に専念してもらうことになっていました。そのため、出番が少なかったのは少し不満そうでしたが。

 「【ダブルストライク】」

 「【パワースラッシュ】」

 あやめちゃんとみいこちゃんの武技アーツが牙を剥いてメニーメニーシープへと襲い掛かります。痛みに苦しむ悲鳴を上げながらその体がふっと動き、

 「きゅわぁぁあぁぁ!?!?」

 悲鳴が上がった。見ると足とその付け根からポリゴンが噴出しています。ダメージはあまり大きくないですが動きを止めるほうを重要視したようです。

 「それなら!!」

 すかさず鉄鎧に指示をだし再度打撃を加えさせます。モンスターはそれを避けようとふらりとよろけるように動く。

 「【白矢】」

 じゅっと何かが焼けるような音がしてメニーメニーシープの体を光の矢が貫く。動きを止められた一瞬に鉄鎧の振り下ろした拳によって地面に叩き付けられる。

 そのまま、動かなくなるモンスター。「まだ生きてる」いぶかしげに見ていると鋭い声とともにあやめちゃんが飛び掛かり、首に短刀を振り下ろした。

 ぽよん。

 飛び上がる様に跳ね起きたメニーメニーシープの体毛がそれを弾き返しあやめちゃんのがら空きになったお腹に向かって頭突きをした。

 頭が押しのける様に叩き付けられたあやめちゃんはそのままごろごろと転がりながらこちらへと戻ってくる。モンスターからころころと笑いかける様な音が響きだす。サクさんの演奏している【狂詩曲】を遮る様に響くその音は綺麗だけれどどこか不快でもあった。

 「ここからが本番ですか」

 目の前のモンスターが一匹また一匹とだんだん増えていく。そのどれもが先ほどまで戦っていたモンスターと全く瓜二つの見た目をしています。メニーメニーシープの厄介きまわりない能力である分身が発動したようです。

 「まだ、催眠のほうが楽だったっすね」

 まだいけるという風に軽口を叩くみいこちゃん。

 「さてこうなったらどれが本物かわかりませんね」

 この目の前にいるたくさんのモンスターのうちのどれかがこの幻覚を見せている本体のはずですが、まったくわかりません。この状態からでも催眠の状態異常を引き起こす攻撃をしてくるのでサクさんは引き続いて【狂詩曲】を演奏してもらわなければなりません。万が一誰かが戦闘不能になればそれだけで瓦解する可能性があります。攻撃が出来ないのは痛いですが仕方ありません。

 ひとまずはこの分身たちをどうにかしなくてはいけません。そう考え呪文詠唱を始めます。

 その意気を感じたのかみなさん、分身を消すように近い個体から攻撃を加えていっています。分身体は攻撃を一撃でも加えれば消えるような脆弱なものです。それに紛れて攻撃を加えられると厄介なだけであり、これ自体に攻撃能力は全くありません。それでも視界を埋め尽くすほどのモンスターの群れは見ていてきついものがありますが。

 ころころとした笑い声の調子が変わる。その楽しそうな声とは裏腹に途端に体が重くなってくる。

 これが催眠の力ですか。見るとりっちゃんさん達の動きも重くなっているように感じます。声に対抗するように響いているサクさんの演奏だけが空しく響きます。

 (面倒な)

 今、この程度の行動阻害効果で済んでいるのはサクさんのアーツ効果のおかげです。しかし、それもMPが尽きるまでの話。それまでに片を付けないとこちらがやられます。

 「【エアハンマー】」

 広範囲を薙ぎな払うように風の槌が辺りを薙ぎ払う。ごっそりと目の前にいるモンスターの幻影が消える。

 「目を瞑って!!」

 りっちゃんさんの掛け声とともに【瞬光】が発動する。目を閉じてなお灼けそうなほどまばゆい光に包まれる。

 耳障りだった笑い声が途切れた。閉じていた目を開くとそこには分身たちは消え、苦しげに頭を振っているモンスターがいた。

 「今のうちに!!」

 掛け声とともにみいこちゃんとあやめちゃんがアーツで新たなダメージを狙う。私も人形に指示を与え追撃に向かわせます。この攻撃でメニーメニーシープを仕留めるつもりで。

 「【パワースラッシュ】!!」

 「【ダブルストライク】!!」

 二人のアーツが体毛に覆われていない部分を狙って放たれる。足や顔を斬り付けられ動きが止まったところに鉄鎧の攻撃が加わる。さらにりっちゃんさんの【白矢】が体を貫く。

 形勢は完全にこちらに傾いた。


 「終わったッす……」

 「長かったわね……」

 どさりと倒れているメニーメニーシープの死骸を前に倒れ込むように座る私達。その様相は大きな傷こそないもののボロボロでした。

 形勢が完全にこちらに傾いてしまえばそれほど苦戦する相手ではなかったのが幸いだったのでしょう。単体での戦闘能力を状態異常攻撃に頼っているところが大きかったメニーメニーシープはその攻撃さえどうにかできればただの硬くてタフなモンスターになります。あの笑い声を封じるために喉首に短刀を突き立て、暴れられない様に足を切りとばし、鉄鎧で押しつぶしたところでメニーメニーシープは力尽きました。状態異常攻撃を封じた後でもさんざんに暴れられたのは流石、ボス級モンスターといったところでしょうか。

 「ともかくこれで町に戻れるわよね」

 「ええ、早く帰りましょう。これ以上ここにいてまた襲われたらたまらないわ」

  珍しく疲れ切った表情のりっちゃんさん。サクさんも似たような様子です。メニーメニーシープの死骸を回収しながらふらふらとみんな立ち上がり、町へと急いで帰るのでした。



 「おお、これですぞ。依頼したものは」

 ウォーラーの町の中央近くにある何階建てか分らないくらいに高い建物。星見の観測所とも言われている研究施設の中、大きな望遠鏡とドームの様な覆いがかけられた部屋に私たちはいる。

 クエストの引き渡しを直接行う為です。

 りっちゃんさんが差し出した共鳴石の入った袋をでっぷりとまるまるした男の人―館長だそうです―がニコニコと笑いながら受け取った。

 「これは錬金素材や魔法道具、鍛冶にも使える素材でしてな。結構な需要があるのですよ」

 「そうなのですか」

 「ええ、そうなのですよ。っとそれよりも報酬でしたな。持ってきますのでしばし待っていて下され」

 適当に相槌を打ちつつ部屋を見回していると館長さんは思い出したかのように報酬を取りに部屋の奥に入っていきました。

 そのまま、少しの間部屋を見物していると何かを抱えて館長さんが戻ってくる。

 「これが報酬です」

 そう言って抱えたものを見せてくる。棒のようなものが集まって丸っこい球体になっている。外側の外殻には小さな点がまばらに散らばっていてその球体の中心には丸くて大きな球がある。その球から同心円状にいくつも輪が広がっている。

 「これは?」

 「天球図ですな。天の瞬きの動きを形に表したものです。星のまとまりを見るのに最適ですぞ」

 「はぁ、ありがとうございます」

 これを欲しがっていたのはりっちゃんさんなので彼女に手渡しします。

 「それではこれで」

 「また、何かあれば」

 報酬を受け取ってしまえば用事はないので早々にその場を去ることにした。

 「ねぇ、りっちゃん。これは何に使うの」

 サクさんが不思議そうに問いかける。

 「これはねぇ。「占星術」の発動補助が出来るアイテムなの。このアイテムがあれば、いちいち夜を待たなくても占星術が発動できるのよ~」

 「へぇ、これでねぇ」

 そう言ってサクさんはまじまじと天球図を見ます。

 「これで「占星術」が戦闘でも使えるようになったし。スキルレベルも上げられるわ~」

 「そう言えばまだ一桁でしたっけ。レベル」

 「そうなのよ~。いくら仕様でももう少し早く欲しかったわ~」

 そう言ってぶちぶちと文句を言うりっちゃんさん。その気持ちはわかります。

 「まぁ、とにかくこれで問題が片付いたんすからどっか行きましょうよ」

 「賛成……」

 「そうね、私も疲れちゃったし。現実(リアル)のほうでどこか行ってみる?」

 サクさんが思いついたといった風に提案する。

 「私はこの前駅前にできた喫茶店に行きたいわ」

 「あそこっすか! あそこはおいしいらしいっすよね」

 「そうなのよ~。特にタルトがおいしいとかなんとか」

 そう言ってりっちゃんさんは体をくねくねさせた。

 「じゃあ、今度其処に行こうか。勿論みんなで集まって」

 「いいですね」

 そうして、わいわいがやがや騒ぎながらゲームをログアウトしました。

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