1
お久しぶりです。ストックはまだまだ少ないですがこれ以上引き延ばすと私の筆が滞りかねないので投稿です。
では2章の開始です。
冷たい。水が冷たい。足が、尻尾が、全身が動くたびに周りが変化する。
ロマの森で浴びたものとは違う陽光が差し込む海の中。私は銛を片手に念願の海中水泳をしています。
尻尾と足をくゆらせると思うがままに泳ぐことが出来る。今の私は宙に浮かんでいるように思うがままに動くことが出来る。
「くふふっ」
思わず笑い声が零れ落ちる。我ながらちょっと気持ち悪い声と思ったのはご愛嬌だ。
しばしの間、水中遊泳を楽しんでいると顔の周りを小魚たちが横切った。
「あらら、忘れてた。最低一匹がお仕事の内容ですからね」
目の前を横切る小魚たちを見て自分がここにいる目的を思い出しました。忘れて戻ると叱られてしまうんですよ。…あの人怒った時物凄い笑顔になるんですよね。魔法でオオキリヤシガニを消し飛ばしたときは失禁するかと思いました。……流石にしないけどね。
柔らかい光を背に受け、海の底。ごろごろと岩が転がっているところまで潜る。岩の近くには影に隠れている魚というかモンスターというか…とにかく生き物が多いのです。それらに気付かれないようスキル「気配遮断」を使用して、岩陰で蠢いている影に近づきます。
岩に移るシルエットが大きくなるにつれて影が次第にはっきりと形を見せてくる。
『アーマーイール』
モード:パッシブ
コンディション:ノーマル
イール――ウナギの名の通りひょろ長い胴体をもち、大きくがっちりとした鱗が鎧のようにその身を覆っていることが特徴的なモンスターです。その鱗は硬く頑丈であり、生半可な剣はやすやすと弾き打撃に対しても衝撃を受け流すし魔法攻撃はそもそも水中では通常、詠唱が出来ない為にかなりのタフさを誇るモンスターです。黒くてつぶらな瞳は愛らしくも見えますが、これでも肉食性。もたもたしていると3mほどの体にあっという間に巻きつかれて息が出来なくなってそのままお陀仏となってしまう。岩陰を好む性質と割と浅い海でも出現しやすい為か海で出てくるモンスターを狩る人たちのいわば登竜門的なモンスターとしても扱われている。というか、このモンスターが狩れないと更に深い場所や遠い沖で出現するモンスターに対処ができなかったりするため割と切実な壁でもあったりもするのですけれどね。
今、目の前にいる個体は岩陰から覗く東部の大きさから考えて大体3m長程度、いわゆる成体でしょう。
(平均よりも少し大きいぐらい、かな?)
口には出さずに呟く。そのリザードマン特有のトカゲ面には余裕の表情がうかがえる。
アーマーイールはそのタフさと頑丈な鱗が厄介とされ、実際剣で切り付けても弾かれるほうが普通であるけれど対処法が無いわけではない。むしろ、ネア向きのモンスターであった。
ゆっくりと右手に携えた銛をアーマーイールに向ける。
アーマーイールは確かに硬く攻撃が弾かれやすいが、ネアの持つ銛や槍など点で攻撃できる武器ならばその鎧を比較的簡単に貫くことが出来た。
(しっかり狙って)スキル「弱点看破」が鱗の特に薄い部分を教えてくれる。ネアは表示される赤の線を狙って銛を構えるだけでいいのだ。
(よし! 今だ!)アーツ【シングルストライド】を発動。鋭利な銛の穂先は狙いたがわず、アーマーイールを貫き、そのまま岩へと縫い付けた。手首に重い圧力がかかる。アーマーイールがじたばたと暴れて銛から逃げ出そうともがき、その大きな体を岩に叩き付けているからだ。ネアはしっかりと銛を抱え込み、必死にモンスターを釘付けにする。穂先は返しがついているから逃げだされることは先ずない。それよりも勢いに負けて銛ごと持って行かれることのほうがまずかった。
手は絶対に話してはダメ。絶対に。出ないと手負いのモンスターがこちらに襲い掛かってくるから。
今お世話になっている漁師の人に教えてもらった心構えを思い出しながら、必死に手綱を取るネア。どちらかというと細長いフォルムのアーマーイールだが、その膂力は流石モンスターと言えるものでかなりの馬力がある。油断は禁物だった。
ひたすらに岩にモンスターを押し付けていると次第にその動きが緩慢になっていく。「特効ブースト」も働いているはずだろうにかなりの時間暴れられたのはアーマーイールがかなりタフであったこととネアが持っている武器の攻撃力がそれほど高くない為であろう。動かなくなったモンスターをインベントリに放り込んだネアは急いでその場を後にすることにした。血の匂いを嗅ぎつけているのかはさておき、あまり長く一か所に留まっているとほかのモンスターが寄ってくる可能性があったからだ。
第一の町であったカーライスの町からさらに方位北北西へと足を進め、横たわる海を越えた先にある大きな―でも大陸と言うほどでもない―島の沿岸部。少し人里離れた場所にネアはいた。
桟橋にくくりつけられているかのように海の上にぷかぷかと浮かぶ建物。実はアーティファクトと呼ばれるもので出来ているこじんまりとした建物が今私がお世話になっている場所。扉の前に立ち、ポールを掴んで横にスライドさせる――引き戸なのです。
「ただ今戻りました。」
扉を開けた私の声を聞いて椅子に座って本を読んでいた女性がこちらを向く。金色の豊かな髪がさらりとこぼれる。尖った耳が髪から覗く――エルフだ。その女性の横を小さな影が通り抜けてくる。
「ああ、ネア君お帰りなさい。大丈夫だった? フリージアちゃんがまだかな~って言ってたわよ」
「ネアおにいちゃ~ん!!」
私の声を聞いてとてとてと年端のいかない少女が駆け寄ってくる。飛びついてくる犬耳の少女を両手で抱きかかえる。
「はい、ただいま。いい子にしてた?」
「フリージア、いい子にしてたの! ネアおにいちゃんホメてホメて!!」
「はいはい、えらい子えらい子。フリージアちゃんはいい子ですねぇ」
「わふー」
さらさらとした栗毛色の髪を撫でると気持ちよさそうに顔を緩めた。ぴんと立っていた三角耳がふにゃりと倒れる。
「ネア君今日は何が取れたの? 前回頼んだのはクルーエルスプライトだったよね」
フリージアちゃんを撫で繰り回していると金髪のエルフの女性――セントーレアさんが催促するように言う。口調からは分りにくいが、その瞳は爛々と輝いている。
「あれはもうこりごりです。あんな攻撃的な海藻なんてもう見たくありませんよ。銛じゃ海藻に歯が立ちませんでしたから死ぬかと思いました。今回はアーマーイールだけですね。タフって言われていましたけど本当ですね。かなり手間取りました」
「仕方ないわ。あれは銛じゃどうしようもないもの」
そう言って彼女はころころと笑った。
「それで実物はどのような?」
「今出します」
催促するような視線を受けながらインベントリから獲物を取り出すとセントーレアさんの表情が喜色一面になり、そこにだけ大輪の花が咲いた。
「これは立派な成体ね。ネア君ならアーマーイールぐらいならもう大丈夫ね」
「ええ、銛なら最初から相性は良かったですし。さほど苦労せずに狩れましたよ」
セントーレアさんがうんうんと頷く。
「ま、アーマーイール自体はそれほど攻撃能力があるわけじゃないからね。あ、そうそうアーマーイールはね、普通一つの岩の周りを縄張りにしているんだけど偶に縄張りを追い出されたはぐれイールが得ることがあるの。そっちのほうは危険だから気を付けてね。鱗が薄い代わりにかなり好戦的な性格をしているし、歯も縄張り持ちに比べると鋭いから危険だよ」
一気にしゃべり始めるセントーリアさんを見て苦笑する。この人はこの建物を拠点に発掘や生態調査をしている学者なのです。そのためか、彼女はいったん話し出すと止まらなくなる癖があるのですよ。もう、私は慣れましたけどね…。
両腕に抱きかかえているフリージアちゃんの顔をちらと見る。苦笑いを浮かべている私と違ってフリージアちゃんはきょとんとした感じの顔をしています。この子には若干早い内容かな?
「そう言えば、サウロさんはどうしたんですか? また、調査ですか?」
サウロさんというのはもう一人のここの居候(?)です。彼は私と若干違いハイリザードマンです。同じリザードマン系の上位種族ですね。ちなみにセントーリアさんも上位種族で正確にはエルフではなくハイエルフです。フリージアちゃんはコウショウと同じワ-ウルフですけどね。
サウロさんはここでセントーリアさんの研究のお手伝いというか雑用とかをしている人で、私を鍛えてくれてもいます。
「ええ、そうよ。ネジマキケダムっていうここでしか見つからないモンスターがいるらしいから捕まえて来てって行ったんだけどまだ、戻ってきていないの。そろそろ飯にしたいから戻ってきてほしいのだけど……」
「ごはん……」
ごはんと聞いてフリージアちゃんが物欲しそうな顔をする。どうやらお腹が減ったようです。お腹を手で押さえながら見つめているのを見るとなんだかほっこりします。
「ええ、早くご飯にしたいわね。もうそろそろ戻ってきてもいいはずなんだけど…」
セントーレアさんが宥める様にフリージアちゃんの頭に手を置いた時、ドアが開く気配とともに私の後ろにぬっと誰かが立った。首を回して振り返るとそこには私のトカゲ面を幾分か精悍にしたようなサウロさんが立っていました。
「戻りました」
渋い。声まで渋いです師匠。
「そう、成果はともかく先にご飯にしましょう。フリージアちゃんが待ちきれ無さそうだしね」
「分りました」
その一言とともに厨房に足を進めるサウロさん。
「じゃあ、席に着きましょうか」
その後ろ姿が厨房に消えるのを見送った後ににこりとセントーリアさんが言った。
「やっぱり、サウロが作った料理はおいしいわね。いつ食べても最高よ」
「おいしい~」
目の前に並べられた料理に舌鼓を打ちながら顔をほころばせている女性陣。並べられているのは獲れたての魚介を使った料理が大半です。かくいう私も新鮮な刺身をつまみながら舌鼓を打っています。私は特にガボの刺身が好きですね。脂身が少なくサッパリとしてコリコリとしたこの触感がたまりません。サウロさんは料理も得意なのです。
「というかセントーレアさんが料理作れないのが不思議というかなんというか……」
思わず、ぼそりと呟く。セントーレアさんは料理が全くできない。作ろうとすらしない。本人曰く、素材を生かした料理が得意とのことですが、それは切って並べただけではと思ったのは心の中に留めておきました。彼女の長い人生の中で料理をする機会は何度あったのでしょう。気になりますが、聞きたくはないですね…。
「それにしてもネア君が砂浜に打ち上げられて今日で何日目だっけ。ネア君憶えてる?」
セントーレアさんが唐突にそんな話を振ってきた。私は、
「今日で一か月半ぐらいですかね」と返す。現実時間では二週間。来週には年が明けてしまいます。
「セントーリアがこいつを拾ってきたときは驚いた」
「なの~」
頷く面々。あの時、ケツァルコアトルスに運ばれて海の上から落下した私はここフィラン島に流れ着き、砂浜に打ち上げられていたところをセントーレアさんに拾われたのです。さすがに死んだ、と思ったのですけがね。何とか命をつないだ、ということでしょうか。なんにせよ彼らは私の恩人と言えるでしょう。
「いや、本当にその節はお世話になりました。今もこうして研究所に置かして頂いていますし、本当にお世話になりっぱなしで申し訳ないです」
思わず萎縮してしまう私にセントーリアさんは、
「その代り、雑用を手伝ってもらっているから対価はもらっています。それに放浪者(PC)の方を拾うなんて経験は滅多にできないわ。こちらだって楽しんでいるからいいのよ。それにフリージアとも遊んでくれているしね」
片目を瞑りながら返す。
「ネアおにいちゃん遊んでくれるから好き~」
焼き魚をはむはむ齧りながら満面の笑顔を浮かべるフリージアちゃん。思わず、手を差し伸べて頭をぐりぐりしたくなりますが、今は食事中。自重します。
「てがぷるぷる?」
「……なんでもないですよ?」
……大人二人の生暖かい視線がつらいです。
「むー?」
視線の意味が解らずに首をひねるフリージアちゃん。
「むむむ?」
「さすがにそれ以上は危ないよ」
首をどんどん捻るせいで椅子から転げ落ちそうになっているのを支えてやる。
そんな風景を見てみんなの表情がだらりと緩む。ただ一人状況がつかめていないフリージアちゃんだけがむむむと顔をしかめていくが、その愛らしい仕草にさらにみんなの表情が緩むのでした。
ちなみに私の認識ではこの2章は修行回(作業回)だと思っています。ゲームなら普通の作業ですね!!
懸念があるとすれば私はMMOなどやったことが無いのでこれでそもそもゲームとして成り立っているのか、が激しく気になります。
そこのところ如何なんでしょう? 実際。




