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これにて第一章は終了です
冷たい風が肌を撫でる。力なくだらりと垂れさがった手足は風が吹くたびにぶらぶらと揺れる。腰のあたりをがっしりと掴まれているので身動きが全く取れない。
もういいや、と半ば捨て鉢でログアウト画面を開こうとしたらノンアクティブ状態だったためにログアウトもできずにゆらゆらと運ばれることしかできなかったのです。現在さすがに拘束されているときはログアウトできないのですか、と項垂れています。
このゲームは決まったエリアでしかログアウトできないとかそういう制限みたいなものは全くないのでもしかしたらと思ったのですが流石に無理でしたね。ログインしたら海に落ちるでしょう。今ですら、強風が吹くたびにつるりと滑り落ちそうで心臓がバクバク鳴っています。
下を眺めても青一色。海ばかりで何も見えません。とっくの昔に海辺は見えなくなりました。白い砂浜が無くなってからはひたすらに海上を運ばれています。時折暴れてみてもビクともしません。
ホント、どうしましょう?
それから更に飛び続けていると私を掴んでいるケツァルコアトルスの進行方向にぽつりと黒いなにかが見え始めます。あれは、崖でしょうか。絶壁というものでしょう。ケツァルコアトルスの目的地はそこのようで、心なしか速度が上がったように感じます。
ああ、これで終わりか…と私が思う間もなくケツァルコアトルスは私を掴んだまま、何かを避けようといきなり身体を翻しました。天と地が逆転する。ぐるりと視界が反転する感覚がして頭がくらりとする。突然のことに固まっている私の目の前を空気がはじける音を響かせながら紫電が目を灼いた。
「ぐぁぁ!?」
突然の光に目が見えなくなる。目を押さえている最中にもばりばりと雷鳴が轟き、ぐるぐると体が回転する。
急な反転や回転のせいで気持ちが悪い。今にも吐きそうだが、鳴り響く雷鳴がそれを許さない。次第に目が見えるようになっていく。また、目が見えなくなってはたまらない。ゆっくりと目を細めながら開くく。
『プリオプレシャス』
モード:アクティブ
コンディション:ノーマル
うわぁ、二体目の恐竜です。しかも首長竜。どうやら、此方に向けて電撃を吐いていたようです。長い首と鋭い牙の生えた顎。大出力の雷光が大気を割って襲いかかってくる姿は恐ろしくもありますが、どこかアトラクションを体験しているような気分になります。まぁ、私が電撃を避けているわけではありませんからね。気が楽です。
枝葉のように広がる紫電に行く手を阻まれ、隙を突くかのように雷の柱が大気を貫きます。翼竜はそれを風の結界で散らしながら複雑な機動で迫りくる紫電を避け続けます。すごい揺れます。何が? 私が。
しかしこんな大きなモンスターまでいるとはさすがゲームです。でも、こんなイベントはいらないです。のしつけて送り返したい気分ではありますが、今の私には何もできません。せいぜい、この翼竜が無事に逃げおおせられることを祈るばかりです。しかし逃げおおせた場合、私の処遇はどうなるのでしょう。何かの本に書かれていましたが、一部の動物は半殺しにした獲物を子どもに狩らせるそうです。私が殆ど無傷で運ばれているのも子どもへ与える生きのいい餌だと思われているのではないでしょうか。なぶり殺しの目に合うとかは御免ですよ!! 逃げて! と言いたいのに逃げたら地獄とはどうすればいいのでしょう。
激しい空中機動に揺さぶられながら現実逃避をしていると、ふっと重力がなくなる感覚を感じました。
えっ? と思う間もなくケツァルコアトルスが広げた大きな翼が小さくなっていきます。
「え?」
高台から飛び降りた感覚。それをもっと強烈にしたものが体を襲います。
(え? ……落とされた!?)
持っているのが面倒になったのでしょう。ケツァルコアトルスは私を手放しエラスモサウルスを本気で相手にするようです。その代り私は空から落ちているの? です?
「――っ!?!?」
声にならない叫びが喉を突く。とっさのことに体が強張ってしまっている。何かアクションが取れたとしてもこの状況を覆すことが出来るかと言われても私には無理だろうけれど。
モンスターたちの争いで雷鳴が轟き、竜巻が荒れ狂う風景をぼんやりと見ながら「どうやったらこいつら倒せるのかねぇ? ムリゲーかな?」と脳裏によぎったが、そのまま海面に激突して意識を手放した。
「う…? ん? ……?」
さわさわと水の音が聞こえる。目蓋越しに強い日差しが届いてくる。眩しい。思わず顔をしかめる。……ええと、私はあの化け物に連れ去られて…その後はどうしたんだっけ?
ぐるぐると固まらない考えをまとめようと頭を働かせながら日差しを遮ろうと腕を動かす。
ざりっ。
砂のような細かいものがまとわりつく感覚がした。
ここは?
疑問に思うも眩しくて目が開けられない。
日差しを求めて腕を動かそうとすると鋭い痛みが走って思うように動かせない。
仕方が無い為、そのままの体勢でおとなしくしていると不意に影が差した。
目を開く。
「大丈夫?」
「……」
そこにはこちらを見下ろす綺麗なブルーの瞳があった。
綺麗な金の長髪。目を見張るような美貌。整ったうりざね顔が目の前にあった。そして…。
「……誰?」
そこにはエルフのお姉さんが立っていました。
これで一章が終わりましたが、それと同時にストックも消し飛びました。二章に入るには今しばらくの時間が必要となりそうです。長くお待たせするつもりはありませんが、再開までしばしの間御待ち下さい。
また、割烹を開くことにしました。作品に関しての詳しいお話はそちらで行おうと思いますので興味のある方はぜひ一度覗いてみてください




