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祝福の王子

ご無沙汰しておりましたー。ごめんなさい。

最後の予定は考えているのですが、王子と再会のシーンは悩んでしまい書き詰まってしまい、結局クオリティなど考えず一気に突っ走ることに決めました~。


 少女はそういうわけで、陸揚げされ猟師にかつがれる運ばれるカツオのような有様で、不本意ながら王宮の門をくぐることになったわけで。

「やあ、ツバメさん。ひさしぶりだね」

 さわやかな笑顔で、なんでもない顔で、そんなことをのたまう王子との再開を果たし、その結果、暴れた。

 当然、暴れた。

「んがああああ、んぎぎぎぎぎ!」

 寒ブリのような動きで、兵士の肩の上で跳ねる少女の動きは新鮮だった。まちがいなく新鮮だ。

 兵士が無表情で、安定するように少女を抱きかかえなおす。

 王子は苦笑いして、少女の拘束を解くように施す。

「ほどいてあげてくれないかな。さすがに可愛そうだから」

 縄を解かれた少女は、ばっと立ち上がり、王子に喰ってかかる。

「よくもこんな目にあわせてくれたわね!あんた覚悟はできてるでしょうね!」

 そのまま鉄拳制裁よろしく王子に飛び掛るがひらりと避けられる。

 少女はリスのようにすばしっこくつかみ掛るが、王子はちっともつかまらない。

「避けるなぁ、ばかぁ!」

(以前は台座の上で一歩も動けなかった癖に生意気な!)

 少女の王子の軽やかな動きにさらに頭に血が昇る。

「ごめんよ、でもさすがに王子を公の場で殴っちゃったらいろいろと問題になるからやめてね。それにさすがに僕もこんな風にして連れてきてなんてお願いしてないからね?絶対につれて来てねとは言ったけど」

「どう考えてもそのせいでしょう!」

 そういえば前世でも口調は丁寧なのに、やたら押しが強い奴だった。

 そのせいですがり倒され、飛び立つタイミングを逃し、まさかの渡り鳥が冬に凍死なんてお間抜けな事件を起こしたのだ。

「お、落ち着いてください、ツバメさん」

 まだまだ噛み付いてやろうと王子の隙をうかがう少女を止めに入ったのは、気弱そうなふんわりと緩い顔をした少年だった。ちなみにふんわりと緩い顔というのは、少女が抱いた印象そのまんまを言葉にしたものだった。

「あんた誰?」

「ええー!覚えてないんですか!?」

 少女がそういうと、少年は気の抜けたビールのような顔及び声でショックを受けた。

(あれ、知り合いにいたっけ。こんなやつ)

 少女は少年の顔をじっと見つめたあと呟く。

「ああっ」

 少年の目がきらきらと期待に輝く。

「まったく知らん人だ」

 そして少女が断言すると共に、器用に全身を使って地面に倒れ伏した。

 見た目によらず俊敏な奴だ、と少女は少し印象を改めた。初対面という認識については、まったく改めなかったが。

「天使ですよ、天使!あなたが転生するときにいたじゃないですか」

 そういわれて少女は、生まれ変わる前の天国のときの光景を思い浮かべた。

「んん…、そういえば」

(なんかぷにゃ~んとしてほわ~んとした奴がいたような)

 少女が思い出した映像は、ふにゃふにゃとした肌色の丸い円に、金色の髪がぱさっと乗っかっているものだけだったが、少年の顔と見比べてほとんど合ってる気がしたので、それで納得した。

 少年は少女がうなずくと嬉しそうにしていたが、それから何かいやな事を思い出したようで、肩を落として目に涙を浮かべ呟いた。

「まあ、もう元天使なんですけどね」

 少年の肩には何か聞いて欲しいそうな雰囲気があったが、少女はスルーした。

「そういえば、なんで私が王都にいるってわかったわけ」

 何かの誤解で呼び出されたのかと一抹ぐらい思っていたが、今となってはその可能性は皆無だ。王子は確信犯的に私を呼び出した。でも、なぜ王都にいることが、わかったのだろう。そんな疑問が少女の頭に浮かんでいた。

 王子はあっさり言う。

「ああ、演説のとき見つけたんだよ。ちょうど見に来てたでしょ」

「はあ?!」

(あの群集の中から私ひとりを見つけたというのか。というか、そもそも私、だいぶ離れた所から座ってみてたんですけど。見えたのも一瞬だけだったし)

 少女は王子のセリフに大いに混乱しながらそう考えた。しかし、その疑問すらまだ甘かったことに気づく。

(いやいやいや、そもそも私いま人間だし。どうしてあのツバメだってわかるのよ。え、もしかして私ツバメに似てる?)

 少女は自分の体を思わずまじまじと見つめてみる。確かに栄養不足気味でちんちくりんなことを抜いても痩せ気味の腕は、ちょっと鳥の骨と似てるかもしれない。それにかなり体格も小柄だ。いや、ツバメに比べるとだいぶ大きいが。

 確かにこう悪いところは鳥っぽいかもしれない……。

(ツバメ似の女……)

 いくら前世がツバメだからって、別に容姿に自身があるわけではなく、むしろ器量は悪しと自覚していたが、それでも結構ショックである…。

「その綺麗な藍色の髪、すぐにわかったよ」

 そう思っていると急に王子が少女の髪に手をのせながら、やさしい顔で言ってきた。

 少女にとっては最大の反撃チャンスだったが、思わず反撃することすら忘れその顔に見入ってしまう。

「いや、だからって、あんなに離れていたのに……」

 少女のしどろもどろとした呟きに、天使、いや元天使がなんか嬉しそうに解説を始めた。

「そうなんです!王子さまの視力は山の麓から、山頂にいる鹿がはっきりと見えるほどなんです!」

(なんだその無意味な高スペックは!)

 少女は驚愕する。

 というか、いくらなんでも不公平ではないだろうか。前世が銅像だとはいえ一応の王子と流浪のツバメだからといって、今世では正真正銘の王子と、捨て子から身ひとつで成り上がり中の流浪人である。ちなみに成り上がり中というのは、かなり盛った言葉だ。むしろ現在、ほぼ文無しである。

 しかし、今世に入ってさらに差が広がっているとはどういうことだ。

 おまけに少女が聞いたところによると、剣術も達者で、勉学も優秀、人望厚し、そしてうわさに聞くまでもなく目の前にある顔は容赦ない美形である。まあ容姿については前世からこうだったけど。

(不公平だ……、不公平だ……)

「なんといっても、王子さまは神の祝福を受けた人ですから」

 今まで世を恨むことは決してなかったが、今回はさすがに五寸釘を打って丑の刻参りでもしてやろうかと思った少女に、元天使のなぜか自慢げな声が飛び込む。

「はあ?神の祝福?」

 なんだそれは。

 そんなものまで王子は受けているのか。ますます不公平ではないか。

「そうです。前世でツバメさんと王子さまがした行いによって、神様直々に生まれ変わる二人に祝福を授けることになっていたんです」

 少女はその言葉を聞いて、少し呆然としたあと、はっと気づいたように叫ぶ。

「ちょっとちょっと、あたしそんなのもらってないんですけど!」

 元天使の話によれば、王子だけでなく少女もその祝福とやらをもらう権利があったはずだ。しかし、少女が祝福を受けた記憶なんてない。というか、そんなもの授かっていれば、昨夜は晩飯抜きなんて生活してることはなかったはずだ。

 そういわれると、天使は急にきまづそうに、たどたどしい声になった。

「ええ……、だってあなた話も聞かずに、さっさと生まれ変わっちゃったんですもん……。僕は解説しようとしたのに……。神様も大天使さまも責任取りに地上にいってこいなんてひどいよぅ…ぅぅぅ…」

 途中から元天使が、なにやら涙目で愚痴を言い始めたが、それはどうでもよかった

「ちょ、ちょっと、じゃああたしの祝福はどうなったのよ!」

 そんな大層なものがあったなら、もらわなければ損である。というか、今の王子を見れば、損どころの話ではない。大損、いや大大損だ。

「それも王子さまに全部授けることになりました。なので今の王子さまは二人分の神の祝福を受けていることになります。といっても、もう生まれも育ちも頭の良さも容姿も最高だったので、あとは視力とかあげるのに使いましたけど」

 なんだよ、その視力とかってのは!

 物凄く無駄遣いしていないか。

「僕はいらないって言ったんだけどね」

 苦笑いしながら王子が言う。

「王子さま狩りとかはお好きでないので、あんまり意味なかったですね」

 元天使がしまりのない顔で笑う。

「笑い事じゃないわよぉ!いらないなら返しなさいよ!それもともと半分はあたしのなんでしょ!返せ!返せー!」

 少女は王子の胸倉を掴んで涙目でゆすった。ということはどうしようもない身長差から不可能であり、服の裾をつかんでゆすることになった。この身長差も祝福の差なのか。歯噛みする。

 それでも銅像とツバメだったころよりは縮まっているのだが、その分羽がないので高度が出せない。

「そ、それは無理ですよぉ。一度授けちゃったものはもう戻せません~」

 そういわれて、少女はへこんだ。

 なんてということだ……。商人として損をしないように、得するように生きてきたのに、最初っから大きな取りこぼしがあったのだ……。今度はお得な人生を歩もうと、王子から逃げようと全力を尽くした結果がこれである。

 お城のふかふかの絨毯にひざをついて沈み込んだ少女に、ぽんっと王子が優しく手をかけた。

 少女が見上げると、王子はやさしげな笑顔でいう。

「祝福自体は返せないけど、それを分ける方法ならあるよ」

 その言葉を聞き、私の目が輝きを取り戻す。

 何か方法があるのか。元天使はぜんぜんだめだめだったけど、王子のほうはさすが祝福を受けた金の王子である。その祝福も半分は私のものだったのだが、それはまあ置いておいてやる。

 少女はそう考え、王子の優れた頭脳が生み出す、その方法に期待を寄せた。

「僕と結婚すれば、身分や資産についてはそのまま分けてあげられるよ。その他の分は、僕が君にその都度何かしてあげればいいんじゃないかな。そういうわけで、僕のお嫁さんになってくれないかな?」

「…………」

 王子の言う素晴らしい方法を聞いた少女は数瞬の間、沈黙した。

 そして真顔で言った。

「あんたアホなの?」


 



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