はやい
「ふわっ~」
少女はあさ、目を覚ますと、上半身だけ起き上がり伸びをした。
昨日は安宿に泊まり、遅くまでランプの火で商売の本を読みながら、いつのまにか眠りについた。
「おはようございます、お嬢さま。寝起きで喉がお渇きでしょうから、レモネードをご用意させていただきました」
そう言って執事がレモネードを差し出してくれたので、それを口に含む。
さわやかなレモンの香りとはちみつの甘さが口に心地よい。
「お着替えはどうされますか」
少しだけ開いた扉の向こうに、ドレスをもった侍女が待機しているのが見えた。
「自分でやるわ」
少女がそう言うと、執事も無理強いをするつもりはないらしく、扉から部屋の外にでていった。
少女はてばやくいつもの衣装に着替える。
そうして部屋から出ると、部屋の外に待機していた執事が一礼をし、食堂のほうへと案内してくれる。
「朝食には、焼きたてのパンのサンドイッチとフルーツジュースを用意させていただきました」
昨日から何も食べてないので、それはありがたかった。
少女が食堂に足を向けると、後ろから執事や侍女、護衛の兵士たちがぞろぞろとついてくる。
宿屋の木のテーブルには、高級なテーブルクロスがかけられ、見間違えるようだった。その上に、美味しそうな具をはさんだサンドイッチと、よく冷えたフルーツジュースがおいてある。
少女がテーブルに座ると、侍女がまわりを囲み、お茶をサーブしてくれたり、いろいろ世話してくれる。
サンドイッチは口に入れると、美味しい肉が口の中でとろけ、しゃきしゃきの野菜が気持ちいい歯ごたえを伝えてきた。
その段階になって、初めて少女は執事に尋ねた。
「で、これはなに?」
安宿には、執事があさ起こしてくれるサービスなどなかったはずだ。寝てる間に固い薄布団をふかふかの寝心地のいい布団に交換してくれるサービスも無かったし、侍女が綺麗なドレスをもって着替えを手伝ってくれるサービスもない。
それどころか朝食のサービスすらない。
だって安宿だもの。
執事は一礼をすると、少女に告げた。
「王子殿下からあなたさまにお会いしたいということで、お迎えに上がりました。馬車を用意させていただきましたので、この後王宮へと向かって頂きたいとおもいます」
「ふーん」
少女は執事の言葉に相槌をうちながら、サンドイッチの最後の一口を口に入れ、甘いフルーツジュースで流し込んだ。商売人というのはえてして早食いがとくいだ。
「私は会う気がないのでさようなら!朝食はありがとう!」
そして次の瞬間、脱兎のごとく宿屋から駆け出した。安宿は前払いせいなので、踏み倒してはいない。執事サービスは別料金だと言われても、そんなの契約してないので知らない。
後ろから兵士が追いかけてきた。
兵士というものはいわば愚鈍のかたまりである。
身体ばっかり鍛えていて、動きはぜんぜん遅い。
うまく角を曲がりながら素早く移動すれば、簡単に振り切れる。
……。
なんてことはなかった。
こいつらめっちゃはええ…。
あの大きな体格から、どうやったら俊敏にうごけるのか。もの凄い速さで移動し、角をほぼ直角のような角度で曲がってきて、少女はあっというまに捕らえられた。
まるでETのような姿で連行される少女。
「それでは予定通り、王宮にむかわせていただきます」
そして執事はあくまで落ち着いた様子で一礼し、侍女たちは荷物や支度を整え、兵士は丁寧に少女を馬車へと担ぎ入れ、馬車に繋がれた馬はいななきながら出発し、たまたま見ていた市民たちはそれをぼけーっと見送り、空は連日通りの晴れ模様で、少女はうろ覚えの呪詛を全員に放っていた。
ひさしぶりの更新ですいません。
商人設定をちょっと気に入ってしまい、もう少し話を広げようかいろいろと悩んでいました。もともと短編を分割して書こうとしていたので。
でも、完結させるのも大切ですよね。
知識もないのに商人を書こうとするのは無謀ですし。
当初の予定通りサクッと完結させられるようがんばります。




