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本日二話連続投稿です。お気をつけ下さい。
なんで、こうなるのかよくわからない。
私は冷や汗を浮かべながら、控室で息を呑んでいた。
ドレスアップした美鈴が心配そうに私を覗きこんで暖かいおしぼりを差し出してくれる。
ありがたく受け取って首筋にあてる。これで少しでも緊張がほぐれるといいんだけど。
婚姻届を書いたあと、私はそのまま冬馬に連れられて、夏樹さんに会いにいったんだ。
冬馬は夏樹さんに短く報告して・・・・・・それが、本当に私がびっくりするくらい簡潔だった。
「桃と結婚するから。あっ、おなかの子供は俺の子として育てるけど相楽の子供だからよろしく。おっと、いい忘れるトコだった、一週間後から出社するから席あけといて」
・・・・・・いや、それで良い訳ないじゃんと隣で驚いたのなんの。だいたい、拓海の子供がお腹にいるって時点で駄目でしょ?
だけど、予想に反して夏樹さんはその場で私に駆け寄ってきてぎゅうぎゅう抱きついてきた。
「桃ちゃんっ!!こんな馬鹿息子と結婚してくれるんだ!ありがとう!!これでまゆりの攻撃から解放されるっ」
攻撃ってなんの?と突っ込みが出来るはずもなく私は戸惑うばかりだった。
「え?いや、でも冬馬パパあの・・・・ほんとに子供が・・・・・」
そう冬馬の子供じゃないのに、私は反対されるつもりだった。
それでソレを口実に婚姻届を破棄してもらおうって考えてたんだ。
卑怯かもしれないけれど、冬馬の目をみて結婚を嫌だと言えなかった。
冬馬の言葉に嘘はないと思ってはいたけれど、結婚というのは本人達がよければいいという話ではない。
家の家のつながりだったり、後継ぎの問題だったりと親の世代は思うから。
届けを出さなきゃ書くのは自由なんだからと、サインしたのに。
予想に反して、夏樹さんの喜びように戸惑いと不安を感じてしまった。
このままだと、本当に冬馬と結婚するって話しになっちゃうじゃないかっ!
それはやっぱり避けなきゃならないって思ってるのに!!
小踊りしそうな勢いで、夏樹さんは私の肩を両手でもって揺さぶった。
「そんなのどうでもいいんだっ!冬馬が自分の子として育てるっていうならそれで問題ないじゃないか。そんなの当人同士の問題なんだから」
・・・・・・・え?なんと仰いました?
駄目だよっ!そこは父親らしく他の男の子供を身ごもってる女なんて嫁として認めんっ!!って怒って反対してくれなきゃ。
タラリと背筋に冷たいものが流れ落ちる。
どうしようかと、考えているうちに夏樹さんは嬉々として携帯をとりだし電話をかけ始めた。
「やったよっ!冬馬くんが桃ちゃんと結婚するって!」
そう、電話の相手に言うと離れていてもよく聞こえるほども大きさで悲鳴が聞こえた。
まゆちゃんの声だ。
キャーと嬌声があがり一気に何かを捲くし立てている。
「落ち着けって。そう、そう僕も今日初めて知ったんだよ。いつの間にか拓海と別れて・・・・・えっ?今日の記事?あぁ、妊娠はしてるみたいだけど拓海の子供だって」
夏樹さんがそういった瞬間更に大きな怒声が携帯から漏れてきた。
コレはもう漏れるってレベルの話じゃないんだけど。
『拓ちゃんの馬鹿っー。私の桃ちゃんになんて事してくれたのよー!』
「でも、冬馬は自分の子供として育て・・・・・『当たり前よっ!そんな覚悟もできないヘタレなんて勘当してやるんだからっ!!』」
・・・・・・・・・あれ。まゆちゃんまで・・・・・・。
ここにきて、私は大変な事をしてしまったのではないかと思っていた。
婚姻届なんて書いちゃ駄目だったかも。
大した覚悟もせずに、夏樹さんやまゆちゃんが反対して破談になるだろうと高をくくっていた。
青ざめる私に冬馬は耳元で囁いた。
「馬鹿だな。逃すわけないだろ?観念しろよ、間違いなく俺が一番桃を愛してるから」
・・・・・・私の考えなんてお見通しで、夏樹さん達が反対しないのも分かってたのか。
いやに、確信をもったその言葉に冬馬に乗せられているのを感じた。
「じゃ、今から婚姻届提出してくるわ。あと、今日から桃と一緒に暮らすからウチの鍵返せ」
役所に行ったら提出しなきゃいけないじゃんっ!!
駄目だよっ!!なんとか止めないとっ!
と、焦る私の手を握り幸せそうに緩みきった笑顔を浮かべた冬馬は、役所に向う間中考えなおして欲しいと慌てる私の言葉を全く無視して婚姻届を出してしまった。
そう、だしちゃったんだよ。
今や私は冬馬の奥さん。
風間 桃になってしまった。
ぜんっぜん実感ないんだけどっ!
そして今日、冬馬の社長就任のセレモニーがもようされ、その場でパートナーとして紹介されることになったのだ。
そして今、緊張のしすぎで吐きそうだ。
あれよあれよという間に、物事が進みすぎて戸惑っているといったほうがいいのだろう。
今まで袖を通した事もないような高価なドレスを用意されて、お化粧も髪もプロがしてくれたからか、自分で見ても詐欺じゃないかと思えるくらいに綺麗に整えられている。
シルクの滑らかな生地で作られた白いドレスは、感動するほど着心地がいい。
採寸をして作るものってこんなに違うのかと思う。
・・・・・・・じゃなくてね。
そんな事よりも、今日をどう乗り切るかだよ。
冬馬とは、ここ一週間顔も合わせていなかった。
仕事を始めたら、滅茶苦茶に忙しいみたいで会社で寝泊りしているみたい。
だから、結局冬馬の家に住んだっていっても一人暮らしとそう変わらなかった。
最初の一週間はスッゴク甘かったんだけど。
今日だって、支度を終えて、もうすぐ会場へいかなければならないのに冬馬の顔すら見ていなかった。
・・・・・今日は拓海とも会わなきゃならないし、冬馬の顔見て安心がしたかった・・・・・・・・。
・・・・・・安心?なに恥ずかしい事考えてるのよ私っ!!
なんであんなヘタレの顔見て安心するのよ。馬鹿じゃないの?
「さくちゃん先輩。もうそろそろですよぅ。あっ社長がきましたよ。美鈴は先に会場いってますからね」
意味深に笑うと、美鈴は部屋を出て行ってしまう。
すれ違いに冬馬が部屋に入ってきた。
黒のタキシードに身をつつみ、普段は柔らかそうな髪もきっちりと固そうにまとめてある。
格好いいけれど、少しやせたみたいで私は眉を顰めた。
「ちゃんと寝てる?疲れた顔してるよ」
私は言いい終える前に冬馬の腕の中に納まっていた。
「冬馬?」
無言のままの冬馬に不安になって問いかけても、私の肩に顔を埋めて答えない。
どうしたんだろう。
疲れてるのかな?寝る間も惜しんで働いてるみたいだし。
そう思って、冬馬の背中に手を回しておとなしくしていることにした。
でも一週間ぶりの冬馬の腕の中は無性にドキドキする。
なんか、もっと凄いことしてるのに、冬馬の腕に抱かれているだけで体温が上昇するのは何故なのか。
「あのっ馬鹿親父っ」
・・・・・?馬鹿親父っていった?えっと、夏樹さんだよね?
ギュウっと更に腕に力を込める冬馬に本当に戸惑う。
しばらく冬馬の背中をさすっているとふいに冬馬が離れて私を見て微笑んだ。
「久しぶりの桃だ。せっかく結婚したんだから、毎日顔見れて手料理食べてと思ってたのになぁ。奥さんの顔見るの久しぶりって、くそっ!!親父の野郎俺の事こき使いすぎなんだよ。淋しくなかった?」
「淋しくは無かったけど。冬馬が体壊さないか心配だよ」
スッと体が離れると、冬馬が不機嫌そうに拗ねている。
「お前なぁ、ソコは淋しかったって言えよ。仮にも奥さんなんだから」
「奥さんの自覚ないもの。なんかまだ結婚とか実感ないし。それに今日が終わらないと安心できない」
不安が心に忍び込んでくる。
今日、嫌がらせをする人間に幸せアピールをしてやれって言われてるから。
冬馬は私を優しく見つめると顔を近づけてくる。
その様子にキスをされるのだと思い冬馬のおでこを押さえて押しのけた。
「駄目だよ。綺麗にお化粧してるから。今キスしたら冬馬に口紅ついちゃうし、また口紅塗りなおさなくちゃならなくなるから」
っていってるのにっ!!
お構いなしってことか?
私の話し聞く気ない?
おでこにあてた手を掴まれてそのまま腰を引き寄せられる。
あっと思ったときには唇を吸われていた。
「・・・・・・ん」
一週間ぶりの冬馬のキスは、爽やかなミント味だ。
口の中に清涼感が広がるのに、絡みつく舌は爽やかとは言えなくて。
冬馬にすっかり体重を預けて震える膝を誤魔化した。
久しぶりっていうのも影響してるのかな。
冬馬のキスはなかなか止まらない。
どんどん思考力が鈍ってきてとろりと瞳がうるんでくる頃には緊張どころかなにも考える事ができなくなっていた。
結婚という形は、なにかこう、冬馬のタガを外してしまった気がするんだけど。
どんどん深くなって、そのあげくに手が、手が、手がっ!!
だんだんやらしい手つきに・・・・。
さすがに、こんなトコで駄目だって。ドレスだって着てるんだし。勘弁してよ。
「・・・・あ・・・・・んんんっ。駄目だって」
離れたと思ったら今度は耳元に唇が移る。
ゾワゾワと背筋に這い上がるような感覚に思わず声が漏れる。
体の線をなぞるように、緩急をつけて大きな手が撫でていて。
私は流されないように、拳を握ってみた。
「・・・・・冬馬、駄目だって」
頼むから、こんなトコでこんな格好でその気にさせようとしないで欲しい。
「ん、もうちょっとだけ。桃の声聞きたい」
なんか、私は声に色がついてしまったようなのに、ちょっと行動とは裏腹に冷静な冬馬の声に腹が立つ。
それでも、耳を愛撫されれば甘い声が漏れてしまって。
ピアスを口に含みながら、耳たぶを刺激されれば、体が勝手に跳ねてしまう。
もう、これは冬馬のいいように操られてる私。
冬馬がくすりと笑う。それにまた、言いようのない羞恥に襲われる。
「桃、桃は今一番幸せだろ?普通にしてればいいんだよ」
まぁ、悔しいけど幸せだと思う。
冬馬は帰ってこなくても、キチンと連絡をくれる。
ソレが一人じゃないと思わせてくれる。
暗い部屋でいつまでもひとりで冷めたご飯を見つめることはない。
あの孤独をどう、言い表していいいかわからない。
あんな思いは二度としたくない。
いつの間にか、キスは止まり冬馬の腕の中に閉じ込められ、幸せを感じる。
「いいか?もし、桃が今までつらい思いをしてきたのなら、それはいい事もあるんだよ。例えば小さな幸せが増えるんだ」
小さな幸せ?
それってなんだろう。
私は小さな幸せを思い浮かべようとした。
それを見透かしたように、冬馬は続ける。
「例えば、何日もご飯を食べてない人と、毎食きちんとご飯を食べてた人がいるとするだろ。その二人に同じ塩おにぎりをわたすとする。そうすすると、毎食キチンと御飯を食べていいた人は普通のおにぎりだと思うだろうし、もう一人にとっては例え様も無いほど美味しい料理になるんだ」
あぁ、当たり前の事が本当は当たり前じゃないってことか。
「家族がいない桃には家族のありがたみが分かる。日々挨拶できる人がいる喜びを知ってる。何気ない日々が幸せだと思えるだろ?」
「何気ない日々?今の毎日ってことなら。そうだね幸せだね。冬馬がいてくれて私を認めてくれるから」
最近分かったことがある。
自分という人間を丸ごと認めてくれる人がいるっていうのは何事にも代えがたい幸せをくれる。
例え意見や、考え方が違っていたって私とはそういう人間なんだって認めてくれるから。
冬馬はお腹の子供をどうしても産みたいという私を丸ごと引き受けてくれた。
私に考え方を押し付けないし。まぁ、その代りに自分の考えも納得しない限り曲げないけど。
それでも私の意見や希望を聞いてくれて尊重してくれる。
それは、心がくすぐったくなるほど甘い感情を引き出してくれた。
どんな自分を見せても大丈夫な相手なんてなかなか見つけられない。
少なくとも私は相手に嫌われないように自分の考えはあまり言わないようにしていたかも。
冬馬にならなんでも話せる。
それが今私が幸せだなって思えることだ。
「別に、現状に満足する事がすべて良いって話じゃないぞ?向上心や野心も時には必要だし。だけど、日々の生活が幸せだ思えると生きてることが楽しいだろ」
私は冬馬の胸に顔を押し付けた。
「うん。そうだね、あと好きな人と一緒にいるのも幸せだね。言い忘れてたけど、私冬馬の事好きだからね」
キュッを冬馬の腕に力がはいり、こめかみにキスが落とされる。
「知ってる。俺は愛してるだけどな。今日はこのパーティーが終わったら一緒に帰ろう。仕事が入っても絶対無視するからっ!」
ちょっと切実な思いがこもってて頬がゆるんだ。
冬馬の匂いと腕に包まれて。
ここが私の居場所なんだと改めて思った。
その時、控室のドアがノックされる。
返事をして体を離す前に、美鈴が入室してきてしまった。
抱き合ってる私たちを見て、美鈴はニヤリと笑う。
「んふふふ。社長は本当にさくちゃん先輩に会うと元気でますねぇ。さっきまで死にそうな顔してたんですよぅ?」
・・・・・・・美鈴、その顔やめて。
なんかすっごい恥ずかしいから。
「さ、時間です。大勢人の集まる場所ですから、何もないとは思いますが、さくちゃん先輩は社長から離れちゃ駄目ですよぅ」
もう一度、冬馬は私にキスを落とすと自分の唇を拭って私の頭をなでる。
そして、挨拶のために先に会場に向い、私は散々美鈴にからかわれながら化粧直しをして、気合を入れて会場に向ったんだ。
読んで頂きありがとうございます。




