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白 桃   作者: 藍月 綾音
冬馬 25歳 Ⅴ
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大きく扱われた見開きのページに文字が踊っている。


『ハルを!AKIを!Sのメンバーを手玉にとる魔性のOL!』


そして、目を隠してあるけれど上半身を写した写真が掲載されている。

知っている人が見ればすぐに誰だか分かるような写真だ。


桃の写真だった。


そのほかにツーショットの写真が何枚も掲載されている。

相楽に、春に、秋也。それに智とまこさん。

いつ撮られたのか、春と秋也は桃の部屋に出入りする写真だ。マンションの外観も大きく掲載されていた。

『S』のメンバーの写真は初夏のまだ相楽を付き合っていた頃の写真だ。

なにを考えているのか、会社名は伏せてあるが、『S』のCMの会社側の担当者だと書いてある。コレじゃ誰でも勤めている会社を知ることができるじゃないか。『S』のCM なんてまだ一社分しかないんだから。


記事の概要はこうだ。

桃がハルやAKI・・・・・・これは秋也の芸名な。それに『S』のメンバーと深い関係にあると書いてある。

マンションに出入りしているところを写真に撮られているからまるで本当の事のように聞こえるじゃないか。その上、この記事のOLは芸能人だけじゃなく、同じ部署のHやKとの関係も噂されていると書いてありコレは早瀬と俺のことだろう。

八人との交際が考えられ、独自の取材で妊娠していることも分かったと続き、果たして誰の子供か、お遊びが過ぎた代償だと締めくくってあった。


最初から最後まで、一環してからかうような口調で書いてありそれだけで不快感を感じるのに、桃の事を悪し様に書いてある。

だいたい、なんだこの桃の人格を否定するような記事はっ!

物凄く性格が悪いようなこと書いてあるぞ。

仕事がいい加減だなんて誰が言ったんだ!

いつも仕事に対して真面目で、頼んだこと以上の資料を揃えてくれていたことを俺は知っている。

頼まれもしないことを自分の判断で付け足せる人材は貴重だ。

その上、男にだらしがないだとか、尻軽だとか。普通の顔なのに皆何処に惹かれるのか理解に苦しむとかっ!!

インターネットに流れていた合成写真まで掲載されていて、さらに男を求める淫乱OL・・・・・・・・・っていえるかこんな台詞っ!!心の中でもNGだっ!!

だいたい、この写真をどこから手にいれたんだ?あの日の内にすべて手をうったはずだったのに。少しおかしいよな?

同僚や隣人の話としてかなり酷いことも書かれている。

こんなの桃が見たら、自殺しかねないんじゃないか?

こんなメジャーな雑誌で個人情報を垂れ流すような記事書いていいと思ってるのかよっ!!

桃が会社で立場が悪くなるじゃないか。せっかく俺が辞めたのにコレじゃぁ 会社で桃の事を守るほうが良かったんじゃなかったのか。

多少の気まずさなんてこの記事から桃を守ることを思えばたいしたことないぞ。

怒りに打ち震えながら、秋也を睨むと秋也は一歩後ずさった。


「俺が書いた記事じゃないからっ!!俺を睨んだってなんの解決にもならないからな!!」


今すぐにでも、桃と連絡をとりたいし、駆けつけたい。

けれど、それはもう俺の役目じゃなくて。

桃の隣には相楽がいるんだ。

俺が出て行っていいはずがなかった。

拳を握り締めて怒りを内に貯めることしかできない。


「事務所にもすごい量の電話がかかって来ているし、この女と誰か結婚するのかとか。そんな事許したら事務所に爆弾送るぞとか。意味分かって言ってるのか分からない電話が凄い」


・・・・・・コレに載ってるのウチの事務所の稼ぎ頭しかいないもんな。

そうか、事務所としての対応はしなけりゃならないよな。

兎に角、すべて嘘で桃は相楽の婚約者で・・・・・・胸が痛い・・・・・ってそんな事言ってる場合じゃないか。相楽の婚約者でハルとAKIとは地元の友達だとはっきりさせなきゃいけない。

ついでに、この雑誌社を名誉毀損で訴えなきゃな。

よし、事務所に行ってとりあえず現状把握。その次に親父に連絡して経営権を渡してもらって俺がこの件の対応をしよう。

莫大な損害賠償ふんだくってやるっ!!


決意を固めて早速身支度を始めた。

まずは伸び放題な髭剃らなきゃな。

俺たちを敵に回すとはいい度胸だこの雑誌社。

地獄の果てまで追いかけて、身包み剥いでやる。

桃を傷つけた代償は大きいぞ。

こんな記事みて、流産でもしたらどうしてくれるんだ。

妊婦って精神的なものでも流産するんだぞこらっ!!


この二週間で往生際の悪い俺は桃の為に妊婦やらベビーやらの雑誌や本を読みふけっていた。

することねぇしなっ!

全く、桃が相楽を選ばなきゃ子供ごと俺が引き受けるのに。

例え相楽が父親だろうと、桃の子供なら俺は愛せる自信があるのにっ!!

あぁっ!!腹が立つっ!

この数週間の間にたまりに溜まった怒りの矛先をみつけ俺は勢いよく身支度を済ませ親父の経営する芸能事務所、『パラダイスドリーム』(ネーミングセンスないんだよ。親父たち。何処のキャバクラだって感じだろ?)に向った。


秋也と事務所に付くと、表玄関がお祭り騒ぎになっていた。

何台ものカメラにレポーター。怒号が飛び交っている。

鬼気迫る光景に身をすくませて、地下の駐車場に車を止めエレベーターを使って社長室を目指す。

コレだけ騒ぎになってれば、流石の親父も社長室にこもりきりになるだろう。

案の定、親父は社長室で頭を抱えていた。

俺の顔を見てハッと顔を輝かせる。


うん、経営に向いてないの分かってるから。


「冬馬くんっ!!やっとその気になってくれた?」


声が嬉しそうに弾んでいる。


「やっとその気になってくれたじゃないよ。なんで記事が出る前に押さえられなかったんだよ。俺に連絡も無かっただろ」


「うん、事前に情報が流れてこなかったんだ。もうすぐ春君も『S』のメンバーも揃うはずだから、冬馬くん頼むよ」


眉を八の字に下げて、俺を見る様はとてもじゃないけど四十半ばには見えない。

化け物夫婦め。

昔からトラブルに弱いんだからな。


溜息とともに、経営権を渡せと言おうとした時社長室の扉が開け放たれた。


「社長!!この記事どういう・・・・・・。冬馬っ?!なんでここにいるのさっ!!他に行くトコあるだろう?」


海外ロケから今日帰国する予定の春だった。

額に怒りマークが浮かんでいる。


まぁなぁ、こんな書き方されちゃ頭にくるのも分かる。


「他にって。どこに?」


「・・・・・・・・・まさか、僕の居ない間に桃と別れたなんていわなよね?」


・・・・・なんでそんな確認。


「いや、その通りだけど?桃が相楽とより戻すから別れてくれって・・・・・・」


「待った!!なんだよそれ!俺そんな話聞いてないよ?」


秋也が叫ぶのと同時に親父が叫んだ。


「冬馬が桃ちゃんと付き合ってる?!そんな事一言も聞いてない!拓海の彼女だろ?どうして冬馬が??」


・・・・・・・・・・・・そういや、面倒になりそうだから、親父に報告してなかったな。


ボンヤリそう思った時に、いきなり頬に痛みが走り俺は勢いよく床に倒れこんだ。

親父と、秋也が息を呑む。

頬を押さえて上を見上げると、春が右手を振って俺を睨みつけていた。


なんだ?俺、春に殴られたのか?

てか、なんで問答無用で殴られなきゃいけないんだよ。


文句を言おうと立ち上がると俺が何かを言う前に春の怒号が響いた。


「見損なったよ。桃に関しては冬馬事信用していたのにっ!!なにやってるんだよっこのっ甲斐性なしがっ!」


・・・・・・・甲斐性無し?ってなんで俺が春にそんな事をいわれなきゃならないんだよっ。


「桃が相楽を選んだ?そんな事あると思ってるわけ?その目はいつ節穴になったのさ。少し考えれば分かる事なのに、なにを腑抜けてるのさ」


相楽を選んだって桃が言ったんだぞ。

俺になにをしろっていうんだ。


「あぁ!!もう!!冬馬のヘタレっ!相手の意見を尊重するっていのうは時と場合によるんだよっ!それともなに?こぶつきは例え桃でも嫌なわけ?」


瞬間で頭に血が昇り怒鳴っていた。


「そんな事あるわけないだろう!!例え桃が相楽の子供を産んだって桃が俺を選んでくれるんだったらっ!子供と桃両方引き受けてやるっ!!」


当たり前だろっ。俺は、俺は桃じゃないと駄目なんだ。

こんなに誰かを愛しいと思ったのは桃だけなんだ。

この想いは子供がいるくらいでくじけやしない。


「じゃ、なんで別れたりしてるわけ?子供ごと桃と一緒にいたいって口説き倒したわけ?拓海君に譲っちゃうくらなら大した想いじゃないってことだろ。子供に尻込みした負け犬だって言われてもしかたないよね?ついでに僕が相楽の子供の父親になってもいいってことだよな?」


・・・・・・・・・・なにを馬鹿な。

春が?桃を?

え?


一瞬何を言われたのか解らずに、黙ってしまうと入り口から呆然とした声が聞こえてきた。


「・・・・・・俺の子供?」


入り口に視線を移すと『S』のメンバーが勢ぞろいしている。

いや、智がいない。

相楽が呆然と俺を見た。

なんだその、信じられない事を聞いたみたいな顔は。

それに今何て言った?

俺の子供?って言わなかったか?

だって、子供には父親が必要だから相楽とよりを戻すって言ってたじゃないか。

だから、相楽と仲良なおりしたんだとばかり。

そうだよ。相楽がここに居て、俺がここに居る。

それじゃぁ・・・・・・今。

桃は誰と一緒にいるんだ?


「・・・・・・・桃が風間との間に子供が出来たから、風間と結婚するって。だから俺とはよりは絶対に戻さないっていったんだ」


相楽は片手で頭を押さえて、宙を見つめる。必死で感情を抑えているように見えた。


「それは違う。相楽の子供でしかあり得ないんだよ。」


自分の声が遠くに聞こえる。

なにもかもめちゃくちゃだ。

なんだって?相楽は俺と桃が一緒にいるって思ってて、俺は相楽と一緒にいるもんだと信じてて。

春が何故か桃の妊娠を前から知っていて、桃と結婚してもいいと思ってて。


・・・・・・・・俺が、馬鹿だったのか。


そうか、春の言うとおりなんだ。桃の言った事を鵜呑みにしちゃいけなかったんだ。

いくら桃でも、相楽にあんな事をされてよりを戻すなんて出来っこなかったんだ。

桃はいつだって優しいから、人の事を優先するから。

子供の為ならそれも有りなのかって納得してしまった俺が駄目なのか。

それが桃の意思なら尊重すると考えて、子供がいても桃が好きで一緒に居たいと俺は伝えていない。

そう、俺は何も言わずに、伝えずに引き下がってしまったんだ。


「ほら、そんな事ある訳がないんだ。桃だったら冬馬に相楽の子供を育てさせるなんて事はしない。かといって相楽とよりを戻すのも有り得ない。一人で産んで育てる筈だよ。そんな簡単なことも分からないほど、冬馬の目は曇ってるんだ」


静かにチクチクと棘を刺すように尖った声で俺の心をさすのは春だ。


そうだ、こんなトコで話をしている場合じゃない。

すぐに桃の所に行かなければ。


部屋をでようとすると、いないと思っていた智が携帯を握り締めて廊下の向こうから走ってくる。

その表情が切羽詰まっていて、なにか良くないことが起きているのだと感じた。


智は相楽を見つけると今の表情が嘘のように満面の笑顔を浮かべると俺の事など目に入らないかのように脇をすり抜けた。


相楽に駆け寄ると何故か、後ろに片手を振り上げる。


「・・・・・・あ」


春のつぶやきと共に智の片手は相楽の鳩尾に綺麗に埋まった。


「っっっっ!!」


ゆっくりと相楽が床に膝をつく。

その様子を満足気にまるで聖書に出てくる聖母のような笑顔で眺める智は秋也をいたぶる時の春そっくりだ。


もしかして、智と春って同類?


桃の所へ行こうとしていたはずなのに思わず立ち止まってしまっていた。


「拓海。桃が会社首になったってよ。お前のせいだってことは分かるよな?俺、聞いてなかったんだけど、桃に乱暴したって?」


そこで言葉を切って、さらに笑みを深める。


「ねぇ、拓海。いくら彼女だってやっていい事と悪い事あるよな?お仕置きが必要だねぇ。桃は俺のお気に入りなんだけど?」


声にならい相楽の声に気づきよく見ると、智のブーツが相楽の太ももを踏みつけていた。


・・・・・・・こえぇぇぇ!!


「ねぇ、拓海。桃の事妊娠させたって?そーゆーの気にくわないんだよね。男は種つけてそれで終りだけど、女の人はそうはいかない。一生物の問題なんだよ」


ぐいぐい足に力が込められる。相楽は反撃もせずに眉をしかめて耐えていた。


「ソコを思いやっての男だろ。なにしてくれちゃってるのさ。俺達全員桃に食べさせてもらってたようなもんだよな?それって、命の恩人って言い方できるのわかってるの?」


俺は驚いて智を見た。


『S』のメンバーは口は悪いけど、やたらと桃の事大事にしてるなとは思ってたけど。

さっきから智は桃の事をキチンと名前で呼んでるし、一人称が僕から俺になっている。


これって本気で怒ってるってことじゃないのか?


「おいっ、冬馬。なにつったんてんだよ。拓海は俺がお仕置きしておくからさっさと桃のところへ行けよ」


智に怒鳴られて俺はハッとした。


そうだ、桃のところへ行かなきゃ。


「安心していいよ。見えるところにはなにもしないから。あぁ、精神攻撃も素敵だよねぇ?」


恐ろしいほど嬉しそうな恍惚とした声音の智を後ろに聞きながら、そのまま身を翻して俺は走り出した。

仕事を首になったって言っていたよな。

きっと泣いている。

となりに春が並んだ。


「僕も一緒に行くよ。多分あの写真で桃の家も特定されてる。外にマスコミがいたら僕が引き受けてあげるよ」


さっき、桃が好きなような事言ってなかったか?こいつ。

俺の気持ちを汲み取ったようにしれっと呟く。


「馬鹿だね。冬馬が桃じゃなきゃ駄目だって知ってるよ。それよりもこの僕がマスコミをひきつけてやるって言ってるんだから、死ぬ気で桃の事口説き落としなよ。桃はどうも昔から頑固だからさ」


それから俺達はこれからの事を相談しながら桃のマンションへと車を走らせた。


読んで頂きありがとうございます。

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