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「なにしてるのさ、冬馬こんなトコで話をしてる場合じゃないだろっ!」
は?俺?なにが?
あっけにとられて思わず春臣を見つめると、バシッと背中を叩かれた。
「昨日乱暴された相手と会ったんだろ。今きっと辛い思いしてるよ、こうゆう時こそ傍にいてやらなきゃ」
・・・・・・お前が説明しろって言ったんだろうが。桃に話をさせるのが嫌だから俺がここにいるんだろ。
「ほら、さっさと桃のトコ行っておいでよ。俺達は一旦帰るからさ」
なんか腹が立つけど、桃の様子がさっきから気になっていたから俺はありがたく席をたった。
「後の事はまた考えるよ。兎に角仕事面では相楽の事は『S』のリーダーにまかせておけば大丈夫だよ」
横を通りすぎる時、安心させるためにポンポンと春臣の肩を叩く。
「しょうがないから、騙されてあげるよ。でも、俺よっぽどの事がないかぎり『S』とは仕事しないからね。拓海くんは嫌だ。それと冬馬の元カノ」
「あぁ、俺ももう、冬馬の元カノもメイクは勘弁して欲しいな」
だよなぁ、まぁそれもなんとかなるだろう。
そうして俺は、桃の様子を見る為にそっと二階に上がった。
けれど、二階の廊下で俺は立ちすくんでしまった。
扉の向こうから桃のすすり泣く声が聞こえてくる。
あぁ、そうだよな。さっき相楽と会った時、手が震えていた。
今朝から何度もボゥとしていたし、平気な訳が無かった。
いつかのショッピングセンターで相楽と仲良く帰っていった時の表情を思い出した。
泣いていたけれど幸せそうだった、相楽への想いが溢れていた。
あの時俺は、相楽になりたかったんだ。
そっと扉を開けると床で膝を折り曲げて泣いていた。
桃が泣いているところを見ると胸が締め付けられる。
「桃、大丈夫か?一人にしてごめん」
そっと肩に手を奥と、さっと顔を上げた桃が俺に抱きついてきた。
驚きつつも床に尻餅をつきながら桃を受け止めた。
体が震えている。
そんなに恐かったのか。
しばらく無言で背中を撫でた。
嗚咽がだんだん少なくなってきて、泣き止んだかな?と思うと俺の胸に顔を埋めていた桃が何かを言った。
「なに?聞こえないよ桃」
「・・・・・・・・・・恥ずかしくなってきたって言ったの」
っっっ!!このっ!!ちくしょうっ可愛いじゃないかっ!!
昨日から俺、ヤバイよな。
なんでこんなに桃とキスしたくなるんだ?
「私昨日から泣いてばっかりだし、冬馬に慰めてもらってばっかり」
そっと頬に手をあてて上を向かせると、頬を赤くそめて潤んだ瞳が俺を映している。
桃の瞳に誘われるように顔を近づけるとそっと桃が目を閉じる。
あぁ、なんか今無性に嬉しい。
俺に体を預けて、キスに目を閉じて受け入れてくれる。
桃の腰に両手を回して力を入れた。
今まで誰といても、キスとしたいとか、抱きしめたいとか衝動的に思ったことはなかったのに。
いともたやすく桃は俺の理性を掻き乱す。
桃の柔らかいその体も、触れてているだけで幸福感が溢れ出す。
もっと触りたくて、もっとキスがしたくなる。
欲が出てきて、もっととキスを深めると桃がピクリと体を震わせてキスに答えてくる。
昨日はおずおずとおっかなびっくりみたいな答え方だったのに、今はまるでもっとと言われてるようで桃の首に手をあてて深く深く舌を差し入れた。
途端に鼻にかかった桃の声が漏れて俺を刺激する。
キスをして、こんなに気持ちがいいと思ったのは桃だけだった。
気持ちがあるキスと気持ちがないキスにこんな違いがあるなんて思いもしなかった。
桃が好きなんだと、キスをする度に思い知らされる。
「桃、好きだよ」
キスの間にそう囁くと、桃が体を震わせた。
俺、桃の事になるとホント駄目だよなぁ。
ん?そういえば、相楽が耳が弱いって言ってたな。
唐突に思いだして、悪戯心が顔を出した。
桃の耳に口元を持っていって、フッと息を吹きかける。
「っっん」
吐息と共に甘い声を上げる。
体がさっきよりも大きく跳ねるのを感じて、さらに耳たぶを咬んだり舐めたりすると縋りつくように俺のシャツを握った。
「・・・・と・・・・・まっ」
切なげな声に俺は堪らなくなる。
ヤベッ、無意識に手が桃の服の中にはいっていく。
ぐっと俺の口から呻き声が漏れた。お腹が焼け付くように痛い。
そのままスルリと桃が逃げていくのを感じたけれどあまりの痛さに屈みこんだ。
何が起きたのかいまいちよく分からない。
めちゃくちゃ痛いんだけど。
「こらっ!!調子に乗りすぎっ!!なに服に手をいれてんのっ!てか、頭きた、むかつく腹が立つ」
桃の雄叫びが響き渡る。
あぁ俺、桃に殴られたのか。
あんなに甘くて気持ち良さそうな声だしといてそりゃねぇよ。
けれど、桃のなにか吹っ切れたような声にこっそり胸をなで下ろした。
多分もう大丈夫だ。
高校の時も落ち込むだけ落ち込んで病気になるんじゃないかと思うほどなのに、どん底までいくとそれがすべて怒りに変わってしまって無性に元気になるんだ。
どうやら落ち込みきったなコレは。
今回ばかりはそれで乗り切れるとは思わないけれど叫ぶ元気があれば大丈夫だろ。
「なんか、すっごい腹が立ってきた。私は悪くないっ!浮気した拓海が悪いっ!ついでに今までなんどもヤッてんだから無理やりされたところで気にしないっ!!傷ついて泣いてたほうが時間の無駄だっ!!!!」
・・・・・・・桃。言葉選ぼうよ。
女の子がヤッてるとか言わない。
「アレ?冬馬どうしたの?調子に乗りすぎてバチが当たった?」
分かってて聞くなよ。痛てぇんだから。おもいっきり殴っただろ。
俺がうずくまっていると、急に心配になったのか、桃が近づいてきて俺の顔を覗きこんだ。
「やだ、ホントに痛かった?ごめんなさい。大丈夫?」
ホントに痛かった?って、思いっきりやったくせに。
「痛い。でも少し元気になって良かった」
やっと顔を上げてそういうと、確かにさっきよりも目が輝いている桃がいる。さっきまで泣いていたのが嘘みたいだ。
「うん。冬馬のおかげだよ。ありがとう」
まだ少し影を帯びるけど、綺麗に微笑む桃に目を奪われた。
なんで、こんなに惹かれんだろう。桃の内面から滲み出る強さと輝きにみとれてしまう。
すると、いきなり桃の顔が近づいてきてそっと唇が触れる。
……………唇が?
キス?
桃からキス!!
思わず飛び起きて、口を片手で覆った。
これは、ヤバい。
自分から、桃に迫ることはあっても桃からとなると全然意味が違ってくる。
今、完全にお腹の痛みが吹っ飛んだ。
熱が顔に集まってくる。赤い、絶対に顔が赤いぞ俺。
自分の髪を耳にかけ直しながら、桃は満足そうに微笑んでいる。
「もっ桃?」
動揺で声が上ずる俺に、さらに頬を緩めながらズイッと近づく。
思わず後ずさりしてしまった。
「なんで逃げるのよ」
口を尖らせて、怒って見せるけど目が面白そうに煌めいている。
「にっ逃げてない」
「じゃ、大人しく目を閉じてなよ」
形勢逆転?!
目を見開く俺を見て、桃が吹き出した。
「なんでそんなに驚くの?拓海の事忘れさせてくれるんだよね?ついでに大事にしてくれる?」
それって、そういう事だよな?
俺、もう待たなくていいんだ。
「冬馬?どうしたの?ちゃんと聞いてる?」
言葉にならない想いが、溢れてきて喉がつまる。
その想いのまま、桃の腕を掴んで引き寄せて抱き締めた。
「ちょっと、冬馬」
「クーリングオフないからな。返品不可だ。やっぱりやめるとか言ったら泣くぞ」
「泣くの?!」
桃はまた吹き出して、それでも俺の背中に腕を回した。
その仕草に心臓が大きく鳴り出す。すっと桃の手を離してしまった事を後悔していた。
もう、交わらないだろう思っていた桃と俺の道が今、再び同じ方向を向こうとしている。
夢みたいだ。
まだまだ当分片想いだと思っていたのに。
予想外に早く桃からお許しがでた。天にも昇る気持ちって、多分今の俺だよ。
「冬馬こそ、やっぱり昔と違うから嫌だとか言わないでよ。結構変わったってもう知ってるだろうけど」
「言うもんか。桃こそ俺がストーカー寸前なの知ってるだろ」
桃は笑いながら、少し俺から体を離した。俺の目を見ながら鼻をつまむ。
「いいよ、降参。しばらく本調子じゃないけどいい?」
桃の首をもって引き寄せながら囁く。
「決まってるだろ。桃が好きだ。桃は?」
「好きでもない相手とこんな事しないよ」
目を閉じながら、桃が小さく拗ねたように言う。
頬がほんのりと紅くて、まだ腫れの残るこの頬にそっと手を添えた。
やっと飛び込んできた桃を壊さないように、想いが伝わる事を祈ってそっとキスを交わした。
付き合うって言ったもんな。
いいんだよな?
何度かついばむようなキスを交わしてさらに深めようと首筋にあてた手に力を入れようとした時、突然桃が勢いよく体を離した。
「よし、そうと決まったら。春くんとご飯食べに行こう!!」
・・・・・・なんでそうなる!!
意表をつかれて何も言えない俺の手を握ると嬉しそうに笑う。
「私、ハルの大ファンなんだよね。今日一日春くんだと思って過ごしちゃったけど、勿体ないじゃん。せっかくめちゃくちゃ好きな人に会えたんだもん、堪能しなきゃ!!ついでに美鈴にもサイン貰おうっと」
あんまり嬉しそうだから、頷きそうになるけれど今の台詞聞き捨てならない。
「春臣のファンでめちゃくちゃ大好きなんだ?桃、まだ俺の事好きだって言ってないけど?春臣の事は好きって言っちゃうんだ」
だいたい、今の流れだったらもうちょっと甘くてもいいじゃないか。
もっと桃と触れあっていたいのに。
だいたいそうと決まったらの意味が分からないだろ。付き合うんだよな?俺の彼女になったんだよな?
一抹の不安を覚える。
けれど、あらぬ方向を見て耳まで真っ赤にする桃を見て、ホッと安心した。
なんだ、恥ずかしいのか。
「だって、冬馬調子に乗りそうだもん。さっきだって服に手をいれるし。そーゆーのはまだ嫌だよ?」
「桃が相手じゃしょうがないだろ」
そう、しょうがない。俺は結構我慢してる筈。俺は自分を褒めたいぐらいだ。
「・・・・・・ひらき直らないでくれる?兎に角駄目だし、言わないからね」
顔真っ赤にして、口を尖らせる姿は可愛くてしょうがない。ほら、俺ブレーキなくなってる。
桃の細い腕を握りながら、そんな事を考える。
「なんでそんなに笑うのよ。恥ずかしいでしょ!」
最後にもう一度、桃を抱きしめて、要望通り春臣に電話する事にする。ちょっと癪だけどな。
たけど俺は浮かれ過ぎていて、そんな場合じゃない事を失念してしまっていた。
桃を守りたい。
それが一番の願いだったのに。
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