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白 桃   作者: 藍月 綾音
冬馬 25歳 Ⅳ
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読んで頂きありがとうございます。

ダンッと机を叩く大きな音が部屋に響き渡った。

叩いたのは、最高に不機嫌な顔をした春臣だ。もともと綺麗な顔をしてるから不機嫌になると冷たさが増して恐い。


「ちゃんと説明しろよ。黙ってるなんて冬馬らしくない。桃の事だけなら聞かないけれど、うちの新人が関わってるなら話は別だろ」


桃に話をさせるのは、あまりにも酷だから二階にあがってもらい、春臣には俺が説明をする事にした。

この部屋は一階にある俺の仕事部屋だ。

春臣は、感情をコントロールしようともせずに俺を睨みつけた。


「なんで今更冬馬の元カノまで名前が出て来るんだよ。てか、元カノのメイクって誰?まさか桃に逃げられた時の彼女じゃないだろうね?」


・・・・・春臣は怒ると饒舌になる。しかも、仕事馬鹿で頭が固いから変な誤魔化しがきかない。

今回の件は公にはせずに、俺の胸の中一つで収めておこうと思っていたのに、相楽のやつが桃の部屋にまだいるから。


バンッとまた、春臣が机を叩く。


「冬馬っ!!だんまりは許さないよ」


俺は頭を乱暴にかき回してから、大きく溜息をついた。

春臣は俺を促すように、顎をあげた。


全く、この猫かぶりが。

桃の目の前だと随分とおとなしくしてたのにな。


「俺も、細かい事情を知ってるわけじゃないんだ。ただ、相楽が桃と暮らしていて、結奈と浮気をしたらしいんだ。それで別れ話がこじれて、ついでに桃と俺との関係を勘繰った相楽が桃に乱暴したってことは知ってる」


みるみる春臣の顔色が青くなっていって、額に青筋が立ち始めた。


「それだけ解ってれば充分だっ!!自分の立場を忘れたわけじゃないだろっ。さっさと報告しろよ!」


「だから、当の本人の桃が『S』のデビューを楽しみにしているんだ。だから報告しなかった。今でも親父に話すつもりはない」


「ふざけるな。さっきもあいつに言ったけれど、コレは犯罪なんだ。殴っただけじゃないだろ?衝動的にそんな事する奴をうちの事務所で抱え込めって?冗談じゃないっ!!」


春臣のいう事は、もっともなんだ。なにかあった後では遅いのがこの商売。間違いを犯して、スポンサーとの契約を破棄しなければならなくなったら莫大な違約金が発生する。

リスクは少なければ少ないほどいい。

だから、誰をデビューさせるにも身辺調査を怠ったことは今まで無かった。

桃には話してないけれど、相楽達の身辺調査も済ませていた。少し、相楽の女癖の悪さが問題になったけれど、あれくらいならこの業界では大したことは無かった。

けれど、桃に対する暴行は話が別だという事は俺も解ってはいた。


「春臣、どのみちデビュー会見もCMのオンエアも明日なんだよ。何をしてももう、『S』に関して動きを止められない。後はこれからどうするかしかないんだ」


「切るつもりは無いって事?随分とお優しいね?」


嘲るような物言いに机のしたで拳を握る。

春臣の挑発にのったら、春臣の思い通りに事が進んでしまう。

会社の損失を考えても、『S』はデビューしてもらわなければならない。

そろりと腕を組むと、俺は足を組み直し出来るだけ冷たく聞こえるように配慮しながら次の言葉を吐き出す。


「まぁ、親父に報告するならしてもいい。けれど俺と同じ判断をすると思うぞ?それに、相楽と桃が別れたって知ったらどうなるか、お前でも分かるだろ?」


そう、どの道もう止められない。『S』のCD発売もCMと合わせて明日だ。

今更な話なんだ。


「じゃ、どうするのさ」


言いたい事を飲み込んで、春臣は搾り出すように言った。


「なにもしない。相楽のことは『S』のリーダーに任せておけば大丈夫だよ」


「どこにそんな保証があるんだよ。現に拓海くん全く桃と別れてるって感じじゃなかったけど?」


先ほどの相楽を思い出す。

まだ、桃の立場になって物を考えられていない相楽に正直腹がたつ。

けれど、『S』が才能あるバンドだという事も事実だろう。

先日出来上がったCMを、親父が持ってきて見たけれど、売れるだろうと思った。

親父の上機嫌さから、親父もそう思っている事が伺えた。

確かに、おふくろと競演しているにも関わらず、埋もれずに光を身に纏っていた。とてもじゃないけれど新人とは思えない。

CMの曲も、どこか懐かしい耳に残る曲で聞いているだけで胸が締め付けられるような感覚に襲われる。

多分、機材や環境も影響していると思うけれど、それでも今まで聴いてきたまこさんの曲とは違う出来の曲だった。


「お前もわかるだろ。この世界に保証なんてドコにもないよ。いつ何が起きるかなんて誰にも分からない。だけど『S』に才能があるのは確かだよ」


これからも『S』は成長していくはずだ。

歌の上手い奴、演奏の上手い奴、書く曲が素晴しい奴。

そんなのは吐いて捨てるほど居る。

その中でも、一握りの人間がプラスアルファを持っているんだ。

この巡り会わせに、どうしてと思わないくはないけれど、多分、『S』は一握りの人間なんだ。

しばらく春臣を説得していると、力なく扉が開き不安そうな顔をした秋也が入ってきた。


「おかえり。相楽どうだった?」


「うん。なぁ、桃ってなんか変な奴に目をつけられてねぇ?なんか釈然としないんだよな」


濁すような抽象的な言葉に、春臣がイラッとしたように舌打ちする。

だけど、心当たりがある俺は秋也の次の言葉を待った。一体相楽からなにを聞いてきたんだ?


「う~ん。なんだろこの感じ。てか冬馬の元カノもヤバイよね」


結奈が?もともと人を傷つけたり出来るタイプじゃないからヤバイって意味が解らない。


「だからなんだよ。早く話せよ」


「ん?あぁ、なんかさ最初は桃と連絡がとれないって冬馬の元カノからメールが来たって言ってたんだよ。なんでも桃の携帯が使えなかった日らしいんだけど」


あぁ、あの画像をアップされてた日かな。なんとなくそんな気がするな。


「で、そこからが納得がいかないんだよな。なんで、桃と連絡とれないってメールから、拓海と二人で会おうって話しになるんだと思う?」


そんなの俺に聞かれたって、答えられるか。

春臣もそう思ったのか、秋也の頭をはたいた。


・・・・・・最近、こいつ秋也の事兄だと思ってないよな。


「ってぇな、兎に角なんか桃の高校時代の話を聞きにいったんだって。主に冬馬と桃の関係を聞きたかったみたいだけど。そんなの俺に聞けば一発なのに、拓海、俺と春が兄弟だって知らなかったんだって」


馬鹿だよなぁと秋也は笑う。

そうか、桃は相楽に話していなかったのか。

だけど、あの独占欲が強い相楽の事だ。例え過去の事でも桃の事は知っておきたかったんだろう。


「でさ、何度か話をしてるうちに冬馬の元カノに痣がよくあることに気づいてそこから旦那についての人生相談になったらしいんだけど、冬馬、いつ結婚したの?」


急に俺に話をふるから、驚いた。


「なんで俺の話になるんだよ」


「それがさぁ、元カノの旦那がそりゃもう酷いやつでさ。働かないわ、飲むわ打つわ、奥さんを殴る蹴るのDV 野郎なんだってさ」


だから、なんだって俺が話に出てくるんだよ。イラッとするな、秋也の話し方。


「そのDV旦那って冬馬の事らしいよ?」


すぐに何を言われているのか理解が出来ずに首をかしげた。

なにか今、意味の分からないことを言われた気がする。


「ふぅん。冬馬いつ結婚しのさ。てか、さっき言ってた結奈って例の年上の桃の時の彼女だよね?まだ、冬馬の周りうろちょろしてるんだ」


「春臣、結奈はそういうんじゃない。俺はアレっきり会ってないし、たまたまだよ。でも俺と結婚してるってどうしてそんな嘘を・・・・・」


本当に結奈は何をしたいんだろうか。


「ま、それで拓海はコロッといっちゃったらしいんだわ。保護欲をかられたっていうか、年上の綺麗なお姉さんに頼られて、旦那から救ってやりたくなったんだってさ」


まぁ、その気持ちは解らなくはない。俺の時も似たような感じだったし。

確か、彼氏に酷い目にあってて悩みを聞いているうちにクラッと魔がさしちゃったんだよな、俺。

頼りなさげな表情と、あの妙な色気には逆らえないというか。


「で、兎に角相楽は旦那の名前は知らなかったんだってさ。それで、なぜか桃に浮気がバレて桃に言われて、冬馬の元カノに聞いたら確かに冬馬の名前をだしたらしい」


まさか、結奈は嘘をつけるような性格じゃないだろ。どっちかっていうと、騙されるほうだし、兎に角男運が悪いし年上の癖にほっとけない危うい感じはいまでも変わらないだろうと思う。


「それで騙されたって気づいたんだってさ。最初から全部嘘だったみたいだし。桃に罵倒されて随分へコんでた、反省もしてるしもう絶対しないから帰ってきて欲しいって言ってけど?」


あぁ、この馬鹿ほだされて帰ってきたのか。


「それにさ、桃の家のポストがすごい事になってた。生ゴミが一杯つまっててすっげー匂いなんだよ。アレはありえない。ドアにも落書きされてたし」


今度は落書きか?

昨日の今日で?


「拓海は冬馬の元カノともう連絡とらないって言ってるし、すっげー反省してるみたいだから、桃と話しさせてやったら?」


秋也の言葉に溜息しか出てこない。ホントに悪ぶってる癖に根が正直というか、人が良いというか。


「出来るわけないだろう。相楽が桃にした事は許される事じゃない」


「だって、ただの浮気だろ?男だったらそういう時もあるじゃん」


・・・・・・・そうか秋也、馬鹿だった。


流石に口の端がひきつる。どうしてあの流れで雰囲気で察する事ができないんだよ。


「馬鹿は黙ってたほうがいいみたいだよね」


「誰が馬鹿だよっ!お前兄に向ってなんて事言うんだ」


「馬鹿は馬鹿だろ。なにが話をさせてやってもだよ。桃の殴られたあとも体の痕も相楽がやったんだよ」


吐き捨てるように春臣が言う。

基本フェミニストな春臣は、女性に酷いことをする事を毛嫌いしている。だから余計に腹がたつんだろう。


「えぇ?!拓海が?まさかっ!!あいつすっげー反省してたし、そんな事する奴じゃないよ?」


「桃が俺と関係を持ったんじゃないかって思ったらしい。自分の事棚に上げて嫉妬したんだろ。だから、桃が望まないかぎり相楽とあわせる気はない」


誰かが桃に嫌がらせをしている。

それと、結奈が嘘をついて桃の彼氏だとわかっていて相楽を誘惑したって事か?

けれど俺にはちょっと信じられない。結奈はそんな事をする人間じゃない。誰かに騙されているんだろうか。

タイミングよく桃の携帯が繋がらない時に連絡してくるなんて画像をアップした奴に脅されてるとか。

でも、そうすると辻褄があわないか。なんで桃に嫌がらせをしている奴と、結奈が結びつくんだって話しだし。

七年も前の人間関係を探るなんて普通はしない。そもそも嫌がらせにしちゃ手が込んでよな。


何者かの悪意にぞっとする。


やっぱり桃を一人暮らしさせないほうがいいんじゃないか?

少なくともネット上で、何人もの男をあつかえる奴だ。

済んだことだと思っていたけれど、ひょっとして何も解決していないのかもしれない。

桃の写真をどうやって手に入れたのか解ってないし。

今だ、アパートでは嫌がらせが続いているみたいだし。

顔が見えない悪意は、桃を更に苦しめているのかもしれない。


「後さなんか変な男が、アパート覗きにきてたんだよ。黒い帽子にサングラスでひげもじゃ。めちゃくちゃ目立ってたんだけど、桃の部屋の前をいったりきたり何度もしてた」


男?ひげもじゃの?なんだそりゃ。


「てことは、なに、桃が嫌がらせされて弱ってる時に拓海くん浮気したの?そのうえ乱暴?」


春臣の周りの温度がドンドン下がっていく気がするぞ?怒らすと恐いんだって。


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