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白 桃   作者: 藍月 綾音
桃 25歳 Ⅶ
38/79


なに事かと手を止めて、キッチンをのぞいた美鈴がふふっと微笑んだのが分かった。


「さくちゃん先輩、眼鏡フェチだからですよ。風間さんコンタクト派だったんですね」


・・・・・・・・・美鈴、なんで私の性癖知ってるんだよ。

言った事ないのに。


そう、洗面所から出てきた冬馬は銀縁の眼鏡をかけていた。


ドストライク!!ビバッ眼鏡!!


世の中、眼鏡をかけた人は五万といるけれどリアルでこんなにときめく眼鏡男子はいなかった。


私の理想の眼鏡男子が目の前にたってるんだよっ!!

妄想とかじゃないんだよっ!!

駄目でしょ!ぐっとくるでしょ、きゅん死にでしょっ!!


と思いの丈を心で叫ぶ。


口に出したら白い目でみられそうだから。


さらさらの黒髪に銀縁眼鏡。ついでに儚げな美青年っ!


おいしいっ!おいし過ぎる!


「なんだ、眼鏡か。それにしたって眼鏡一つでどうしてそんなに反応が変わるんだよ。俺は俺だろ?」


そうじゃないんだよ。冬馬は冬馬なんだけど、全然違うんだよぉぉ。


「なんかムカつくからそれ外せよ」


「別にいいけど、相楽もかけてみれば?桃が面白い事になってるから」


眼鏡を外した冬馬が眼鏡を拓海に手渡す。


ほっいつもの冬馬だ。胸を撫で下ろしたのもつかの間・・・・・・。


冬馬の眼鏡を拓海がかけてしまった。


だっ駄目だ。

心臓壊れるっ!!

冬馬と違った意味で、拓海の眼鏡もいいっ!

神様ありがとう。感謝感激あめあられっ!

まさかこんな身近にきゅん死に出来るほどの理想の眼鏡男子がいたとはっ!!

眼鏡をかけた拓海はいつもの数倍知的に見えて、後ろに束ねた長い髪の一房が頬に垂れている。

色気がっ!ただでさえもフェロモン振りまいてんのに、こっちも直視できない。

ヤバイ、眼鏡一つでここまできゅんきゅん来るとはっ。

眼鏡と私のフェチ度半端ねぇ!

だって、拓海も冬馬も輝いて見えるし、それだけで5割増しに格好良くみえるんだよ?


頭の中で趣味満開の一人ごとを言っているうちに、拓海が目の前で顔を近づけていた。


駄目っ、見れないから。

無理だから、眼鏡はずして。

いや、それももったいない気もしなくもなくもないっ。

ダメダメ、冷静になれ自分。

これは拓海なんだから、テレビの中から出てきたわけじゃあるまし、そんなに萌えるとこじゃないよ。


必死に自分に言い聞かせないと、なにを口走るか分かったもんじゃない。


「へぇぇ、俺でもそんなになるんだ?今度眼鏡かけたままイチャイチャするか?でも、お前総司は大丈夫だったよな?アイツも同じような銀縁眼鏡だろ?」


何をおっしゃいますかっ。

同じですと?!


「全然違うっ!!総司は駄目なの。眼鏡のよさを履き違えてる。だいたい、眼鏡をかけたら頭が良さそうに見えるからって、あの、頭弱い理由が許せんっ!!」


力説して拳を握る私を見て冬馬が吹き出した。


「眼鏡フェチね。いい事聞いた。じゃぁ、俺明後日から眼鏡かけて出社しないと」


ムムッそれは不味い。

気になって仕事が手につかなくなるじゃないか。


「風間そんな事して桃の気を引こうとしても駄目だからな。やらねぇよ?」


「別に貰うつもりはないけど?ただ、桃が俺のところに戻ってくるっていうなら受け入れるつもりなだけ」


「桃、てめぇ風間と付き合ってねぇって言ったよな?戻ってくるってなんだよ、あぁ?」


私の頬を引っ張りながら拓海がドスの聞いた声でいうけれど、頬が痛くて返事ができない。

付き合ってないって。

なに訳のわからん事いってんのよ。冬馬のアホ!


「付き合ってはないよ?だけど一番仲が良かったからそう言っただけ。まぁ?ほとんど付き合ってたようなもんだったけど。なぁ?」


なぁ?ってそんな私に振らないでよ。


「風間さんついでに詳しく教えてくださいよぉ。美鈴ソコが気になって気になって。会社の人にはいいませんからぁ」


こら、美鈴やめてよ。会社の人に美鈴が言わなくても、ふれ回るのがそこにいるじゃないか。


「俺としてもじっくりソコの真偽が聞きたいな」


眼鏡の奥の拓海の目が笑っていない。ちょっと恐いんだけど、やっぱり格好いい。拓海が始終眼鏡をかけてたら私心臓がもたないかも。


「・・・・・・・・・桃、そんな顔してると襲いたくなるからやめろって」


急にげんなりした表情になると、拓海は私の頭をポンポンと叩いた。

襲いたくなるって、みんなの前でなに言ってくれてんのよ。


「あぁ、わかりますぅ。今日のさくちゃん先輩、可愛いですしぃ。無防備なその部屋着がまたそそられるんですよねぇ」


相変わらずターという音を奏でながら美鈴が言った。


「美鈴?今なに言った?」


「ん?襲いたくなるって話しですよね?」


「なに、あんた同性愛者?」


智っ!初対面の相手になに失礼なこと言ってんだよ、まぁ、ちょっと私も聞きたいような聞きたくないような。


「違いますよぅ。ただ、さくちゃん先輩だったら同性愛でもいけますってだけですぅ。基本的に美鈴は玉の輿ねらいですからぁ」


「いっいっいけますって!」


思わず声が裏返ると、美鈴は手を止めて私と視線を合わせた。


「ただのたとえ話ですよぅ。でも大事な友達ですよ?美鈴、さくちゃん先輩のこと大好きだし、尊敬してますから」


美鈴はちょと顔を赤くして、鼻に皺を寄せた。


「もう、なんてこと言わせるんですか。やっぱりちょっと照れくさいですね」


なんか、いま感動した。

ついでに自分の心の狭さを猛反省だ。

ゆいちゃんの事があって、女友達を作ることを避けていた。

なんだか、どうやって信用してどうやって自分の気持ちを伝えたらいいのか分からなくなってしまっていたから。美鈴のことは好きだけど、なんとなく線を引いていた事は確かだった。

なのに、大切って言ってくれて今日は合コンをドタキャンして来てくれて。


「・・・・・・・・・美鈴」


私は拓海を押しのけて、美鈴の隣にいくと頭を下げた。


「ありがとう、そんでもってごめん。今までちょっと美鈴の事肝心な部分で信用してなかったかも」


ちらりと私を見ると、美鈴は花がほころぶように柔らかく微笑んだ。


「分かってますよぅ。いいんです。美鈴の第一目標これでクリアですから」


「第一目標?」


「そう、第一目標がさくちゃん先輩に信用してもらうで、第二目標が友達だと思ってもらうで第三目標が親友です!」


言い切る美鈴に驚いてしまった。


だって、親友って。

しまった嬉しくて泣きそう。曇りのない好意に胸が震える。


「さくちゃん先輩本当に気づいてなさそうだからちゃんと言っておきますけど、美鈴は会社で相当嫌われてますよ?」


少し目を伏せて悲しそうに美鈴が言うので更に驚いた。


「ぜんぜんそんな風に見えないけど?色んな女の子達とよく楽しそうに話してるじゃないの」


元気づける為に、思い過ごしだと思ってもらう為に明るく言うと、美鈴は苦笑いを浮かべる。

瞳が左右に揺れていた。


「美鈴はぁ、この喋り方とぉ玉の輿ねらいで男の人に媚売ってる淫乱女って影でいわれてるんですぅ」


・・・・・・・・・初耳、会社の子達はなんて陰口たたくんだっ!美鈴はこんなに可愛いのにっ!玉の輿狙ってたって、別に公言してみんなが知ってるんだからいいじゃないの!


いっそ清々しいわっ!


服だって髪だって化粧だって仕草だってっ!研究しつくして、可愛い女の子を自分でプロデュースしてるんだからいわゆる努力の結晶だろうがっ!

あったまきた。そんな事言ってる奴がいたら抗議してやるっ!


怒り心頭でまた心中で叫べば、美鈴は可笑しいそうに声をたてて笑った。

先ほどの暗い影がどこかに消えいつもの美鈴に戻ったように見えた。


「いま、だいたいさくちゃん先輩の考えてることわかりましたよ。そーゆー陰口とか言わないし真っ直ぐなトコを尊敬してるんですよ。だから、仲良くしてくださいね?」


ずっきゅーんって来たよ。胸打ちぬかれたよ。

美鈴可愛い。


「いや、こちらこそお願いしますって、これじゃお見合いみたいだね?」


顔を見合わせてひとしきり笑いあうと美鈴は顔を引き締めた。


「だから、さくちゃん先輩に危害を加えるなんて許さないんですよぅ」


再びカーという音を奏で始め、パソコンとにらめっこを始めた。

私はそれがとても嬉しくて、顔が緩んでくる。


「ピー、顔が間抜けすぎ。馬鹿みたいに見えるからやめとけば?」


「あれ?そういや、智、今日は猫被んないね?どしたの?」


ふと気づけば、早瀬や美鈴がいるのに普段の猫が何処にも見当たらない。


「ピーのこんな写真がネットで流れてるの見たらそれどころじゃないでしょ?俺たちの玩具をいいようにしてくれちゃってこれは、もう、お仕置きものだよね?」


今日は厄日だと思ってたのに、美鈴や智から思い掛けない嬉しい言葉を貰ってしまって、胸が熱くなる。


「・・・・・・・・・智」


感謝の意を込めて見つめれば、智は意味深な視線を私に送り、にぃと笑った。

アレ?なんか寒気が・・・・・・。


「なに勘違いしてるんだよ。ピーにお仕置きに決まってるだろ?手間かけさせやがって、わかってんだろうな?」


えぇっ!!私がお仕置きされるの?無理無理!無理だからっ!


「誰が、俺たちの玩具だ。桃は俺のだから、てめらの玩具じゃねぇ」


拓海がそう言って私を引き寄せた。


「はいっ、紅茶淹れたよ。ドーナツもどうぞ。休憩にしようよ」


お盆にお茶セットをのせて冬馬がリビングに戻ってくる。

いつの間にっ。


「ごめん、冬馬紅茶淹れてくれたんだ。よく分かったね」


「道具もティーセットも用意してあったから、それより、ずっと気になってたんだけど。桃の家のこのテーブルってなんでこんない大きいんだ?」


「あぁ、よく『S』が集まるから大きいんだ。この人たち集まるとお店広げるみたいに色んなもの取り出すからでもコレ、半分の大きさになるし、昇降式だから、ダイニングテーブルにもなるし便利だよ」


「へぇ、この家リビングも広いよな?何畳ぐらいあるんだ?」


「冬馬の家ほどじゃないよ。大人5人いれば結構狭いでしょ?」


お盆を受け取りながら、そういうと冬馬のお腹がぐぅと鳴った。


「あっ、ごめん。つい」


「いや、こっちこそごめん。そうだよね、お腹すいたよね?私なにか作るよ。早瀬と美鈴もご飯食べてって」


冷蔵庫になにがあったかな。

紅茶を配ってから、席をたつと智がついてきた。


「ちょっと、ピー俺にはお誘いないわけ?」


「智は言わなくたって、食べてくでしょ?最初から頭数に入ってるんだよ」


みんな貧乏だからね。ご飯にありつけるとなったらそんなチャンス逃さないから。

智と総司と牧は結構な頻度で家とまこさんの家出ご飯を食べていた。

まぁ、ちょっと前まであんまり拓海は帰ってこなかったから遠慮してたみたいだけど。


『S』のみんなが、集まってご飯やお酒を飲みながら自分達の夢を語るところを見るのが結構好きなんだ。

なんかきらきらしてて、羨ましくなる。

そんな時は拓海のいつもより子供みたいに見えたりしていた。


智に背をむけ、冷蔵庫を覗きこんでいれば玄関のチャイムがまたもや鳴る。


「なんなのよ、今日は」


玄関の扉を開ければ、ピザの配達員が立っていた。


「ご注文ありがとうございます。ピザのお届けにあがりました」


え?頼んでないけど?

思い当たる事がなく首を傾げれば、配達員のお兄さんは心配になったのか伝票を広げ、ここの住所と私の名前、それに携帯番号を読み上げた。


「お間違いないですよね?」


「それに間違いはないけど、私頼んでないんですけど」


「そう言われましても、確かにご注文をお受けいたしまして、こうしてお届けに参ったのですが?」


お兄さんが持っているのはLサイズのピザを三箱だ。

頼んでないけど、こうして来てくれていて住所も電話番号も間違いがないと思うと持って帰ってもらうのも忍びない。

まぁ、どうせ人数いるし、いっか。


「分かりました。頼んではいないですけど。受け取りますよ。おいくらですか?」


そういうと、お兄さんはほっとしたように笑ってピザを三箱私に渡すと、ちょっとお待ちくだいと止める間もなく身を翻す。

そんなに待たずに帰ってきたお兄さんの手にはLサイズピザがあと二箱あった。


え?三箱じゃないの??


呆然とピザを受け取れば、お兄さんはそれはそれはにこやかに言ったもんだ。


「では、お会計が21000円になります。いや、良かったですよ。五箱も無駄になったらアルバイト料からさっぴかれてしまいますから」


そんな事いわれても、変わりに私の財布が泣いているんだよ。

途方にくれながらピザを受け取り、お金を払うと笑顔でお兄さんは帰っていったと思ったら!

ドアを閉めるより前に、別のお兄さんが体をすべり込ませた。

読んで頂きありがとうございます。

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