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白 桃   作者: 藍月 綾音
桃 25歳 Ⅶ
37/79

4


結局早瀬がなにを言いたかったのは分からずじまいで、それ以上聞いても答えてはくれそうも無かったから、私はコーヒーを入れにキッチンに行くことにした。

拓海もついてきて、コーヒーのキャニスターを持った私の頭を叩いた。


痛いなぁ、今日はホントなんのよ。


拓海を見れば、本当に不機嫌そうに私を見ている。


「これから、アイツと二人になるなよ。食事も飲みもアイツとは禁止な」


「なに言ってるの?普通に早瀬とは友達だから。よく一緒にお昼ご飯行ったりするし、無理だよ」


「お前の友達の定義はあてにならないってこの前いっただろ」


この前?・・・・・・・・・・なんだったっけ?


「お前が友達だと思ってても相手はそうとは限らないっていっただろ!いいから、俺のいう事聞いとけ」


うわっ、出たよ俺様。

今まで私の交友関係にあんまり口をださなかったのに。


言い返したかったけれど、言い返せる雰囲気でもなくて、私は唇を尖らせる事ぐらいしか出来なかった。


「桃」


後ろから名前を呼ばれて、返事をしたくはなかったけれど、返事をしないと余計に不機嫌になるし。

渋々、拓海のほうを見れば思ったよりも拓海は近くにいて、尖らせた唇に掠めるようにキスをした。


早瀬が向こうの部屋にいるのにっ!!


不意打ちのキスに頬が火照るのが分かる。


「な?俺のいう事聞けるだろ?」


・・・・・・・・・・・・っっなんかもう、アレだ。私が怒れる訳ないって分かってるんだ。この男はっ。

勝手に機嫌が悪くなって、勝手に命令して、その挙句に私の事黙らせる方法を知っている。

勝手だと思うのに、逆らえないってどうなの自分。


そのまま拓海は私の腰を引きとせてピタリとくっつく。


後ろから抱きつかれるような形で拓海の表情は隠れてしまったけれど、私の耳元でそれはそれは艶っぽく囁いた。


「桃のあられもない姿見れるの俺だけでしょ?後でおんなじポーズとってみてよ」


馬鹿だ。馬鹿すぎる。

なんで私があんな格好をしなくちゃならないんだよ。


「いくら、拓海の頼みでも聞けることと聞けないことがあります。無理。以上」


羞恥でさらに顔が赤くなれば、拓海は楽しそうに笑った。


「いいよ、そう言ってれば。無理なんて言わせないくらいにわけが分からなくしてあげるから」


小さく囁いてから、耳にキスを落として、スッと体を離すとリビングに戻っていってしまった。


わけが分からなくってなんだっ!


拓海の色気にあてられて、私はしばらく呆然と自分の耳を押さえていた。


すぐに、冬馬と智がやってきて軽く自己紹介を済ませると、パソコンをセッティングして打ち合わせをしながら三人はカチャカチャとキーボードを叩き始めた。


例の画像を見たんであろう、冬馬の顔が真っ赤にそまって智にからかわれる。


「変な想像するなよ。拓海に殺されるから、しっかし、この犯人、すげー執念深そうだね。片っ端から登録してる感じだし、桃の合成写真どんだけ作ったんだよってくらい、色んな種類があるよ。」


・・・・・・・・・いろんな種類?ってことは、色んな種類の私の顔があるってことだよね?私隠し撮りでもされてたのかな。


「拓海これプリントアウトしてやろうか?」


とんでも無い事を言い出す。


「やめてよねっ。こっちは本気で嫌だと思ってるのに、冗談でもそういう事言わないで」


「いらない。本物ここにいるし、桃の裸なんかいつでも見られるからな」


リストを作成していた、私と拓海が同時に言った。

更に、冬馬の顔が赤く染まるのを目の端に捕らえながら、拓海の足をつねった。


「誤解されるような、変な事言わないで。下ネタ禁止、からかい禁止っ!」


鼻息荒くそう言うと、智は意地悪そうに私に流し目を送ってくる。ついでに鼻で笑いやがったぞ。


「桃、これ結構数あって、消去大変だよね?自分じゃできないんだよね?人数必要なんだろ。俺にそんな口きいていいと思ってるわけ?」


そっち系のからかいに耐えろと?今現在晒し者になってる私の写真を我慢してるのに?

畜生っ!やっぱり智は嫌いだ。思いやりの欠片もないし。


「智、桃が泣くから止めてやって?」


冬馬がやんわりと微笑みながら言うと、智はまたしても鼻で笑う。

拓海と早瀬も目を丸くして、冬馬を見た。


「桜田が?」


「桃が?」


その、裏にある気持ちがありありと分かる。

私がコレくらいで泣くような女に見えるかって事だよね。いや、もう最初から泣きそうですけど。


「桃が気が強そうなのは半分ふりしてるだけだから。コレは流石にキャパオーバーだよ。これ以上は止めてあげてくれる?」


ピクンと私の肩が揺れるのを自覚した。


あぁ、全く。コレだから冬馬は。

冬馬は正しく私の思いを導き出す。高校の時仲が良かったからってだけじゃない。


彼氏に言って欲しい言葉をさらりと言うんだから。

・・・・・・まぁ、拓海には無理か。基本拓海は人の立場にたって考える事をあまりしない。

わが道を突き進むし、言われなきゃ気づかない。


駄目だと分かっているのに、比べてしまう自分がいた。

人の心は一筋縄じゃいかない。こうしようと、頭で思っていても感情が追いつかない事がある。

まさしく今がソレ。

多分、私は今少し贅沢になっているんだ。

胸の奥の痛みがツキンと小さく疼き始める。

どこかで分かっているその痛みを、自分の卑怯なこの痛みの理由を考えるのは後回しにしようと思った。

桃が泣くなんてないないと、思いっきり否定する拓海を見つめながら小さく本当に小さく溜息をついた。


この、妙に冷静に自分を分析する自分が大嫌いになりそうだった。


しばらく作業に熱中していると、いつのまにか部屋の中が薄暗くなっている。

ガシガシと髪の毛をかき回して智が上を仰ぎ見た。


「これ、絶対一人で出来る量じゃねぇよ。少なくても電話がかかり始めたのは10時過ぎだろ?その少し前から始めたとしたって、複数だよな」


「たしかに、コピー&ペーストしたって結構登録とかに時間がかかるはずだろ?三人で削除依頼だして追いつかないもんな。闇のアダルトサイト片っ端から登録してやがる」


早瀬も溜息をついてこめかみをもんだ。


「なんかさぁ、朝のもだけど結構、気力、体力、労力つかってるよねぇ。私そんっなに恨まれるような事したかなぁ」


よっぽど恨みがあるか、嫌いなのか、根深い想いを感じる。


拓海を見ると、やっぱり疲れた顔で少し微笑んだ。


「何が楽しいんだろうな。こんな事して」


「ん」


頷くと、私はリストに目を落とす。レポート用紙に書かれたサイト名は、軽く40、50はある。コレは削除依頼をかけて、警察に通報するために作成したリストだ。拓海も作っているから軽く100は越してるはずだった。


ちょっと、もういい加減にしてほしい本当に執念だよなぁ。


ソコにチャイムが鳴る。


あれ?今度はなんだ?

今日は来客が多いなぁ。


扉を開けると思い掛けない人が立っていた。


「こんばんわぁ。差し入れ持ってきましたよ?」


思い切りめかしこんだ美鈴が立っていた。そういえば、今日は合コンだって早瀬が言ってったけ。


「美鈴、どうしたの?」


「早瀬さんから連絡きましたよ。さくちゃん先輩が困ったことになってるって。美鈴、かなり役に立ちますよん」


そう言って、ドーナツの箱を差し出した。

私が受け取ると、美鈴は驚いている私の横をすり抜けて部屋に上がっていく。


「え?ちょっと、美鈴。合コンどうしたのよ」


「えぇ~、合コンよりさくちゃん先輩のほうが大事ですもん。こんばんわぁ。あら?いい男が勢ぞろいじゃないですかぁ」


リビングに入った美鈴は可愛く首を傾げる。


「あっ、さくちゃん先輩の彼氏さん!!初めまして、垣内美鈴です。さくちゃん先輩にはお世話になってまぁす。ついでに早瀬さんも風間さんもお疲れ様でぇす」


鞄を置いて、スカーフを外すと、美鈴はゆるく巻いた髪を無造作に束ね、おもむろに鞄からPCを取り出した。

智の隣に腰を下ろすと、PCを立ち上げる。


「んふふ。男四人も揃って情けないですねぇ、疲れた顔しちゃって」


早瀬が嫌そうに顔をしかめた。


なに?美鈴、いつもとキャラがちがうんだけど。


「で、なにがどうなって、なにを困ってるんですって?」


赤く染めた唇を吊り上げた美鈴はいつものふわふわした感じが微塵も残っていなくて、どちらかといえば、妖艶という言葉のほうが似合う。自信に満ち溢れた微笑みだった。


口早に早瀬が説明してくれている途中で冬馬が私に手招きをする。


「どうしたの?」


「目がゴロゴロしてきた。洗面所貸して」


「あぁ、あそこの扉が洗面所だよ。好きに使って」


キッチンの奥の扉を指差すと冬馬は頷いて鞄を持つと洗面所に入っていった。


その間に、説明を聞き終わった美鈴は今までの美鈴からは考えられないほど、低い声で笑っていた。


「ふふふふふふ。へぇぇぇぇぇ。私のさくちゃん先輩になにしてくれてるんですかねぇ。警察?通報することなんかないですよ。美鈴スペシャルをお見舞いしてやりますから」


みっ美鈴?

なんだか黒いオーラが見えるし、あの可愛い美鈴がちょっと恐い。

それに私のさくちゃん先輩ってなに?

ついでに美鈴スペシャルってなにさ。


その疑問はすぐに解決した。


確かに美鈴スペシャルだわ。

いや、もう凄いとしか表現のしようがなかった。


美鈴の違う一面に私は唖然としてしまい、茫然自失で美鈴の指さばきをみた。


「ピー、最初からこいつ呼べよ。俺たちより遥かに役にたつじゃん」


呟く智に私は美鈴から目を離さずに首を振って答えた。


イヤ、こんな特技あったなんて聞いてないし知らなかったから。

いつもの美鈴は可愛らしくおっとりとしていて、舌っ足らずな話し方で笑顔を振りまいている。

仕事だって、割り振られたことはキチッと期日までにやるけれど結構のんびり派でいつも間に合うのかと冷や冷やさせられている。


それが・・・その美鈴が・・・・・・。


タカタカでもなく、ダカダカでもない。ターッという音が響き渡り、目にも止まらぬ速さでキボードを叩いている。普段仕事をしている時の指使いなんか比較にならない。

えぇぇぇぇっ!!普段手を抜いてたとか言わないよね?!


「あんまり大きな声では言えないんですが、美鈴どうやらコレに関しては才能あるみたいなんですよ。深く考えなくても何処にでもいけるんです」


にこやかにのんびりとした口調でいっていても、画面に視線は釘付けで指の速さは衰えない。

凄い、高速でキーボードたたきながら普通に話してるよ。

どこにでもいけるって、美鈴それは犯罪なんじゃ・・・・・・・・・。


「これ、逆探して相手のPCに忍び込んで何処にアクセスしたのか調べたほうが早そうですね。ん~と、んんん?ん~」


「逆探って、そんな事できるの?」


「はい、さくちゃん先輩の為なら、美鈴のもてうる限りの力使っちゃいますよぅ」


いやいや、情報収集力には一目おいていたけれどさ。

これって、ハッカーってやつ?だよね?


そういう事には疎い私でも、並の力量では出来ない事を美鈴がやろうとしている事は分かった。


「さくちゃん先輩すっごく疲れた顔してますよぅ。少し休んでてくださいよ」


いや、そう言われてもさ。

そうだ、お茶入れよう。

流石にコーヒーばっかりじゃなんだから紅茶にするか。

いそいそと席をたつと、私はキッチンに向う。

キッチンに入ったところで、冬馬が洗面所から出てくる。


「ありがとう・・・・・・って桃?どうしたんだ?」


どうしたって、冬馬がどうしたんだっていう話だよ。

洗面所から出てきた冬馬を見た瞬間、私の胸がきゅうぅぅぅっと音を立てるかのように締め付けられた。

すぐに心臓があり得ない速さで鼓動を打ち始め、顔が火照って真っ赤になるのが分かる。


ヤバイ、直視できないっ!!

どうしようったら、どうしよううっ!!


動揺する私を変に思ったのか、冬馬は首を傾げながら近づいてくる。


いや、駄目だから。それで近づかないでっ!!

あまりの恥ずかしさに、片手で口元を押さえて思わずじりじりと後ろに下がる。


胸がきゅんきゅんするっ!!

これが世間一般でいうきゅん死にってやつかっっ!!

自分初体験っ!!って言ってる場合じゃないっ!


冬馬が私の頬に触れようとするけれど、私は自分の状態に軽くパニックを起こしていて息を呑むことしかできない。


「おい、お前らなにやってるんだよ」


拓海が私の後ろから声をかける。ハッとして私が振り向くと顔を歪めた。


「なんて顔してんだよ。なに?もう浮気?」


浮気ってっ。そんなんじゃないし。でも少しは後ろめたいかも。


「っちが!」


否定しようとしても、冬馬の顔を見ると更に頬に熱が上がる。


「いや、桃が急に可笑しくなったんだけど。相楽なんかしたのか?」


「知るかよ。てめぇが手ぇだしんじゃねぇのかよ」


不機嫌そうに拓海が言うと、冬馬はそれこそ心外だとばかりに目を丸くした。


「おれ、洗面所から出てきただけだよ。そもそも相楽の目の前で桃を口説くわけないだろ。そんな事する意味ないし」


「じゃぁ、なんなんだよ、おいっ桃」


だって、だって、だって!!


「わたっ、私っ、駄目なの」


うわっ上手く言葉がでない。


「なにが駄目なんだよ」


拓海の声が近づいてくる。

今日は羞恥プレイとかそんな日なの?

この告白、すっごい恥ずかしいんだけど。

読んで頂きありがとうございます。

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