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「酷かったもんなぁ。一度なんかさ、拓海の携帯使ってかけてきて、エッチの実況中継されたこともあるよ流石に速攻で切ったけど。趣味悪いよね」
冬馬の片眉がピクンと上がる。
あれ?この話題は駄目だったか。
怒らせたかも。
「拓海っ!!お前っ、なにやってるんだ!!」
あれ?怒ったのはまこさんの方だった。
「ピー、お前ちょっと向こう行ってろ。さやかちゃん達は申し訳ないけどちょっと俺達だけにしてくれ」
帰れってことだね。
まこさんの顔無表情で、かえって恐い。怒りのオーラはすっごく感じるんだけどっ!!
思わず生唾を飲んで、おとなしく冬馬と総司の間に腰を下ろした。
さやか達は、私と拓海がどうのこうのよりも、まこさんの怒りが伝わったのか愛想笑いを浮かべて挨拶をするとすごすごと帰っていってしまった。
ほっとするけれど、まこさんの顔を見るとものすごく不味い事を言ってしまったような気になってしまった。
「ねぇ、やっぱり私が喋りすぎたかな」
小さい声で総司に言えば、眼鏡を押し上げながら首を傾げた。
「いや、拓海が悪い。俺等も褒められたもんじゃないけど、別に本命の彼女がいるわけじゃないしさ」
「なぁ、桃と相楽って付き合ってるって公言してなかったって事でいいのか?」
冬馬に聞かれて、総司と私は頷いた。
「実質拓海とまこの人気でライブがもってたから。まこは既婚者だし、拓海だけでも対外的には黙っておくってことになってたんだよ」
牧が小声で解説してくれる。
そんな中、まこさんと拓海は異様な雰囲気になっていた。
「おいっ。聞いてないぞ。お前桃に頼りきって生活出来てる自覚はあるよな?」
うで組をして正座をして座りなおすまこさんと、足を伸ばして壁にもたれる拓海。
「あるけど、それがなんだよ」
憮然と答えた拓海は、まこさんの顔をきちんと見ていなかった。
「なんだよじゃないだろ。確かに、最初のうちはお前の人気がライブのチケットの売上に直結するから、桃との関係は伏せておけって言った。だけど、それは浮気をさせる為に言ったわけじゃないぞ」
まぁ、そりゃそうだ。
拓海は俯きながら口を開いた。
「もうしない。遊びなんだし、いままで桃もなにも言わなかったんだから、もういいだろ」
まこさんと冬馬が息をのんだ。
「お前、ピーがどんな思いさせらていたのか、キチンと理解してないな!お前は、ピーが他の男とキスしたり、それ以上のことをしても平気なのか?」
「そんなの駄目に決まってるだろっ!なんで、そんな話になるんだよ」
「なんでもくそもあるかっ。お前の論理は桃が遊びだったら他の男とそういう事をしていいって事になるだろう?」
どちらかというと呆れかえったように、まこさんは片手で顎を擦る。
なにをどう、説明しようかと考える素振りだった。
「よし、これが一番手っ取り早いか。総司、桃後ろから羽交い絞め」
はっ?
なんで羽交い絞め?!
待った待った待った!!
可笑しい、おかしいよこれっ!!
総司は私が逃げるよりも早く私の腕をとり、後ろから羽交い絞めにされる。
まこさんも素早く拓海を押さえにかかっていた。
なに?ちょっとなにこれ?!
「よしっ、風間。桃にチューかましてやれ」
「「「はぁ?」」」
何を言い出すんだ!!
良識派のまこさんの言うことだとは思えない。
馬鹿言ってるんじゃないってーのっ!!
さては、まこさん素面に見せかけて酔ってるな!!
「おいっ!!ふざけるのも大概にしろよ!!いい訳がないだろっ!風間っやめろっおいっんんんーっ!!」
大きな声を出す拓海の口をまこさんが塞いでしまった。
私も避けようとするけれど、冬馬は少しだけ何かを考えた後、意を決したような表情で近づいてくる。
こらっ!!ヘタレのくせにソコに乗っかるんじゃないっ!!
私の頬に手を当てると、悪戯をたくらんだ子供のような表情で近づいてくる。
「えーっ。その役僕がよかったなぁ」
背後で智の恐ろしい台詞が聞こえる。勘弁して。無理だから。
てか、冬馬も無理っ!
なんで拓海の前で、押さえつけられてキスなんかしなきゃならないのよ。冗談じゃないっ。
「………あ」
けれど、冬馬はキスをしなかった。
丁度頬に当てた手の親指を唇に持ってくると、自分の親指に唇を当てた。
拓海のほうから見れば、キスしたように見えるに違いない。
すぐ後ろにいる、総司には見えたみたい。
驚いたみたいに声を上げたから。
しばらく、そのままで至近距離で冬馬の顔が留まった。
良かった。キスされなくて。
ホット胸を撫で下ろす。
本当にされるかと思ったよ。
でも、でもさ、でもなんだよ。
「ちょっと長くない?」
後ろでボソッと牧の声が聞こえた。
そうなんだよ。長いんだよっ!
やっと、冬馬が離れて総司から解放されてホッと一息つけば、人を一人ぐらい眼力で殺せるんじゃないかってくらい殺気だった視線を冬馬にむける拓海がいた。
冬馬はいつもの間の抜けた笑顔でニコニコと拓海を見返す。
ヘタレって言ってごめん。
あの拓海に笑って返せるって凄いわ。私には無理。
思わず後ずさりして、牧と総司の間に体をすべり込ませた。
「総司の馬鹿っ!!」
脇腹に軽く拳を入れておく。
「ってぇな。まこさんには従うでしょ?」
「だからってやっていい事と、悪い事あるでしょっ!!見なよあの拓海の顔っ!」
私が拓海をそろっともう一度見ると、まこさんを振りほどいて、冬馬に殴りかかろうとしていた。
「ってんめぇっ!!桃になにしてんだよっ!!」
あっと思った時には、大きく腕を振りかぶっている。
拓海が振り下ろそうとしたその時に、冬馬は満面の笑顔で首を傾げた。
「してないよ?」
拓海は勢いのついた腕を慌てて止めようして、バランスを崩した。
さっとまこさんが後ろから支えて机に突っ込みそうになった拓海はまこさんと二人で後ろに尻餅をついた。
「は?」
呆然と冬馬を見返す。
「だから、キスしてない。桃が嫌がる事はしない主義なんで」
してやったりとまこさんが笑ったとこが見えた。
…………まこさん、そこまで見越して冬馬っていったんだ。
智や総司だったら絶対にキスしてただろうからね。
流石だまこさん、一生ついてく。
「どういう事だ?」
狐に包まれたような顔をする拓海に、冬馬は立ち上がると拓海が避ける隙も与えずに頬に手をあてた。
「こうやって唇のトコに、親指あててたから」
「はぁ??なんだよそれっ!!」
目を丸くする拓海にまこさんが拳を振り落とした。
「今のお前以上に桃は嫌な思いしてんだぞ?ホントに反省して、浮気はやめろ。いくらなんでも桃が可哀相だろ」
「まこさん…………」
私の為に………って、思うかっ!!
「それから、桃もそんなにつらい思いしてるんだったらキチンと俺たちに言えよ。一人で抱え込むことないだろ」
「こらっ。まこさん、そんな良い台詞で誤魔化されないんだからっ!!ライブに打ち上げの後に拓海が女の子達とどっかに消えてるの見てたじゃんか」
恨めしげにまこさんを見ると、ばつの悪そうな表情をすると誤魔化すようにはははと笑った。
「そこは、ほら、なぁ?」
じゃないっつーの!!
拓海は財布を出すとお金を机に置いて立ち上がった。
「桃、帰るぞ。まだ飲みたかったら後は家で飲めばいいから。これ、俺と桃の分」
えっ?帰るの?もう?
今のでひと段落?マジで?
頭をひねっていれば、いつの間にかに後ろに立っていた拓海に抱き上げられる。
「じゃ、月曜日スタジオで」
「えーちょっと、拓海下ろしてよ。靴履いてないしっ!」
弱って冬馬を伺いみれば、へらへらと笑って手を振っている。
「桃、また月曜日な。相楽とよく話しておきなよ」
いやいや、話すことないし。ゆいちゃんと浮気しないでって話しだし。
拓海は私の靴を自分で持って歩きだしてしまった。
慌てたまこさんに私の鞄を渡されて、半分訳の分からないまま拓海に担がれて客席を通っていくハメになってしまった。
「うへぇ、ピーちゃんなにやってるんですかぁ?」
山崎くんが驚く顔が見えた。
「あっ!!山崎っ!!さやかがきたんだったら報告してよねっ!!今度から絶対だよ」
話しているのに拓海はドンドン歩いて店の外にでてしまう。
最後に驚いて私を見ている大将の顔が見えたから、一応手だけふっておいた。
店の外に出ると、夜風が頬を撫でていく。
季節はもう、初夏を迎えようとしていた。少し湿った風が心地いい。夜の住宅街には私と拓海しか歩いていなかった。拓海はなにも言わずに歩いている。私、かなり重いはずなんだけど。
さっきは、お姫様抱っこだったにも関わらず今は肩にかつがれていて、拓海の表情は見えなかった。
「重いでしょ、いい加減におろしてよ」
ピタッと拓海は止まる。
「手、放すから少し自力で捕まってろよ」
「え?えぇぇっ。まった、もうっ!!」
本当に手を放すから、慌ててバランスとって拓海にしがみついた。
拓海は、自由になった両手で私に靴を履かせると肩から私を降ろす。
「ありがと。?どうしたの?」
拓海を見ると、どうも私と目をあわそうとしない。私が顔を覗きこんでも顔をそらして避けられてしまう。
あっ、なんかちょっとショックかも。
ツキンと胸が痛んだ。
それでも、私の手をとるとぐんぐん先に立って歩きはじめた。
「ちょっと、拓海。ホントどうしたのよ。なんか怒ってる?」
やっぱりさっきの冬馬のキスもどきを怒ってるのかな。
でも、あれ、私悪くないよね?!
悪いのは総司とまこさんと微妙に乗っかった冬馬だよね?
てか、冬馬って今更なんだけど、だいぶ前にとっくにキスされてるし。
皆の前でキスされなかったのは、本当に良かった。
されたら立ち直れないし、当分口きいてやらないんだから。
結局拓海はなにも答えないまま家に着いてしまった。
もぉ、なに怒ってんだか。
リビングに鞄を置いて、台所に水を取りに行く。
「拓海は?水飲む?」
冷蔵庫を開ながら振り返り、心底驚いた。
真後ろに気配もなく拓海が立っていたから。
あんまりに近すぎて、ドキリと心臓が波打つ。
「驚かさないでよ。ホント拓海可笑しいよ?」
水を取り出そうとすると、拓海の手が伸びてきて、私の手に重なった。
何がしたいんだ?
そう思って、もう一度振り返ると無言で拓海は抱きついてくる。
後ろでパタンと冷蔵庫が閉まる音がした。
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