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会社で報告書と今日までの書類を作成して家に帰れると背伸びをしたのは、夜の10時だった。
オフィスにはもう誰もいない。
私の机の上にだけ照明がつけられていた。
携帯を確認すると、拓海からと牧からメールが入っている。
あと、見覚えのないメール?
開くと可愛いデコメが現れ、ゆいちゃんからだった。
そういえば、もう必要ないからとアドレス消したんだっけ。
消したといっても、自分のアドレスや番号を変えていたわけじゃないから、ゆいちゃんの携帯には私のアドレスが残ってたって事か。
もうお付き合いどころか、顔もみたくないのに。
メールを読むと、食事会に参加した事と、今度冬馬と一緒に遊びに行こうと書かれている。
行ける訳がないのに。
冬馬の様子を見ていれば、ゆいちゃんと連絡をとっていない事くらいは分かる。
いったい何を考えているんだか。
昔のように、ダブルデートでもしようと持ちかけて私の彼氏を連れてこさせて奪おうっていうのなら、私が乗るわけがないと分からないんだろうか。
流石にソコまで馬鹿じゃないんだけど。
昔遊びに行く時も、最初は彼氏と一緒に四人で遊びに行こうと誘われたっけ。
彼氏はいつも、急に仕事が入って会った事はなかった。
その内、三人で遊ぶ事に違和感をなくしてしまった。
あの頃、ゆいちゃんを疑ったことはなかった。
なんてメールを返そうか悩んでいると、扉の開く音がする。
いけない、こんな時間までいたら警備員さんに怒られちゃうよ。
言い訳しようと、慌てて扉を振り返ると、私服の冬馬が立っていた。
「お疲れ、やっぱりまだ残ってた。今日は大変だったな。初の撮影現場どうだった?」
「ん?うん、面白かったよ。まゆちゃんがやっぱり芸能人だなって。半端なく綺麗だったから、それよりどうしたの?こんな時間に」
不思議に思ってきくと、冬馬は曖昧な笑顔を浮かべて斜め左上を見た。
「忘れ物。今日家で仕上げようと思ってたのを忘れてて、警備員さんに入れてもらった」
なんか嘘くさいんだけど。
「っていうのが建前で、おふくろからメールがきた。ゆいに会ったんだって?桃の様子が少し気になるからって」
「まゆちゃんから?そっか、冬馬の彼女だったんだもんね」
顔ぐらい覚えてて当然か。
「いや、おふくろに会ったのは一度だけ。あの人一度見た顔は忘れないから。桃は大丈夫なのか。俺がいう事じゃないって分かってるけど、今日は相楽もいたんだろ?」
どっからその感の良さが生まれてくるんだかね。
「話聞かせてよ。桃の事だから溜め込むかなと。相楽の事心配だったりするんじゃないか?」
優しい眼差しで見つめられてもさ。
思わず下から睨み上げてしまう。
「トラウマの原因が話し聞くとかいうな」
思ったよりずっと低い声が出る。
「まぁ、そこは棚に上げとこうかな?」
こらっ、なに棚上げしてくれてんだ。
そして、後ずさりするなっていうんだ。
「こら、ヘタレのくせに格好つけるんじゃない」
「あぁソコは、ごめん。でも桃が心配なんだよ。ほら、あんまり人に相談するタイプじゃないだろ?」
それでわざわざ会社まで戻ってきてくれたの嬉しいけどさ。
その優しさに甘えてしまおうか。
正直、ゆいちゃんは私の中で最悪な位置づけだったりする。
今でもあまり思い出したくない事だらけなんだ。
「じゃ、どっかに飲みに行こうか。冬馬の奢りで」
「よし、明日は休みだし、トコトン付き合いましょうか」
ご機嫌で鼻歌でも歌いだしそうな様子の冬馬を睨む。
「馬鹿っ、なに鼻の下伸ばしてるのよ。ちゃんと拓海も呼ぶからね。冬馬と二人で飲んだら怒られるもん。とりあえず拓海が来るまで愚痴を聞いてよ」
「なんだよ、保護者付きか。しょうがないな。俺、相楽に信用全くないし、信用されても困るし」
意味分からない事を呟く。
私は素早く拓海にメールを打った。
この時間じゃまだ飲んでいるだろうから、一応保険でまこさんと牧にもメールを打っておいた。
流石の拓海も、今日の今日でゆいちゃんとどうこうなる事はないだろうけど。
前後不覚にまで酔っ払うと問題有りだよなぁ。
じみじみと溜息を吐いて、荷物を持った。
「先に下に行っててよ。ロッカーに寄ってから下に降りるからさ」
「一緒に行くよ。もう会社内だいぶ暗いし、心配だからさ、ほら」
ほんっとーに、さりげなく手を繋ぐよね。
「冬馬、手は繋がなくていいから、子供じゃないんだし」
「いいんだよ。俺が繋ぎたいんだから。これぐらいで浮気カウントつかないから」
「つくよ。絶対つく。だから駄目」
最近の冬馬は隙あらばスキンシップとろうとするから困る。
会社でも随分と噂になって、まだまだ下火になるような感じはしないんだよねぇ。
まゆちゃんが社長に余計な事を言ったのも原因だけどさ。
今、会社内では第一次冬馬争奪戦が勃発中だったりする。
おかげで、女の子達の冷たいこと冷たいこと。
手を振り払ってから、更衣室いって帰り支度をした後に、飲みに向ったのは結局いつもの大将の店だった。
「あっピーちゃん!!いらっしゃい!今日は彼氏さんと一緒ですかぁ?」
「山崎くん、彼氏じゃないって言ってるでしょ?だたの同僚。後から拓海もくると思うから四人席よろしく」
丁度四人席の片付けをしていた山崎君の手伝いをする。
「うへぇ、すいませんですぅ。ピーちゃん今日は何の気分ですか?」
「日本酒の気分かな。ちなみに残業でなんにも食べていなからお腹に溜まるもの希望。適当にお願いでいい?大将が作るご飯は、何でも美味しいから」
食器を大将に持っていくと、大きな口をあけて笑いながら食器を受け取ってくれた。
「おつかれさん。どこの仕事も大変だなぁ。いっぱい食べてけよ」
この大将のおおらかな笑顔が大好きなんだよなぁ。頼れるお父さんって感じで。
「大将のご飯大好き。よろしくね」
「おうっ!!」
ふきんを持ってテーブルに戻るとさっと拭いて冬馬を座らせた。
「なんか、お前随分この店に馴染んでるのな」
「あぁ、うん。しょっちゅう来てるから。客の枠通り越しちゃったっていうか」
布巾を山崎くんお盆にのせて自分も座った。
今日も大将のお店は繁盛していた、ここの他に空いている席はなかった。
なんかタイミングが良かったみたい。ラッキーだね。
「で、どうだったんだよ」
……………ちゃんと話聞いてくれるんだ。
どうしようか、まぁ、七年も昔だし?いいか。
大きく溜息をついて、冬馬を見た。
「あんまり言いたくないんだけど」
「だから、俺の事は棚上げしていいって」
棚上げの意味分からないからね。
「だから、ちょっと待った。ありがと山崎くん」
1升瓶と升にはいったグラスを持ってきた山崎くんに一杯そそいでもらい、一気に飲み干した。
ん、戦闘準備完了、エンジンかかるまで後少しだ。
「おかわり」
トンとグラスを置くと山崎くんが二杯目を注いでくれ、もう一度飲み干してから冬馬を見た。
「ピッチ早いですねぇ。はい、ピーちゃんお疲れ様です」
三杯目を入れてもらって、冬馬も日本酒を注いでもらう。
「あっ先に飲んじゃった。ごめん。はい、飲もう、飲もう」
「ん、乾杯」
グラスを合わせて冬馬と乾杯する。いい具合にお酒が回ってきたぞ。
「ほれ、話してみろよ」
「だからぁ、ゆいちゃんは駄目なのっ!!初めて好きになった冬馬がゆいちゃんとつきあう事になって、初めて付き合ってる拓海がゆいちゃんとどうにかなっちゃたりしたら、私の女スキルってどうなってんのよっ!!」
ギロリと冬馬を睨む。
「桃は可愛いよ?」
「馬鹿っ!!もとを正せば、てめぇだっつーの。今更好きとかありえないからねっ!いつまでたってもゆいちゃんみたいに可愛く男の人に甘えられないんだよ」
「う~ん。そうか?充分可愛く甘えてると思うけど?くだ巻いてる桃も可愛いし」
「冬馬の頭には花が咲いてるんだよ。自分に魅力がないくらい知ってるもん」
あっ、いけない酒の勢いで涙が出てきた。
「ぐすっ。だって、拓海がいなくなったら私一人になっちゃうし。ゆいちゃんは相変わらず可愛いし、拓海はいつでも浮気の虫飼ってそうだし」
あぁ、本当に涙でてきた。
そうなんだよね。拓海がいなくなったら、本当の意味で一人になってしまうんだ。
今日は久しぶりに兄貴の事を思い出しちゃったし。
「桃?お前他にも辛い事があるんだろ?」
「あちゃぁ、ピーちゃん悪酔いしちゃいましたかねぇ」
山崎くんがから揚げと、あんかけチャーハンを運んできてくれた。
「この間、お兄さんと来たときが初めてだったんですよ。ピーちゃんがあんなに酔っ払ったの」
こら、余計な事は言わなくていいから。
「そゆ事は言わなくていいのっ。兎に角、ゆいちゃんが嫌いなのっ!!一人になるのも嫌なのっ!!」
ぼろぼろと涙が出てきて、悲しくなって、久しぶりに感傷的になる。
「うぇ、田舎の事なんて思い出すからぁぁぁぁ!!」
「桃、愚痴じゃなくなってるけど。ホームシック?」
「五月蝿いっっ!!飲めっ!」
山崎くんから1升瓶を奪い、冬馬のグラスに注いで自分のグラスにも注ぐ。
やってらんないつーの。
なんでいまさら冬馬やら、ゆいちゃんやら、七年前の事に頭を悩ませなきゃならないんだ。
そーだよ。いくら冬馬が気になるっていったって、今は拓海がいるんだから。
やっと拓海も先が見えてきて、音楽に専念できて、お金がもらえてバンバンザイの筈………ってゆいちゃんが拓海に目をつけてなければだけど。
「ちぃ~すぅ。ありゃ、ピーが泣いてる」
「おっあれ?ピーの元彼。なにピーを泣かせてるのさ」
「拓海!!ピーが大変なことになってるぞ!!」
ありゃ、みんなの声が聞こえてきたぞ?おかしいな呼んだのは拓海だけだったはずなんだけど。
「桃?お前なに泣いてんだよ。店に迷惑だろうが、おいっこらっ。やめろ馬鹿っ!!」
隣に立った拓海を見ると更に涙が溢れてきた。
「拓海ぃぃぃぃぃ!!どこにもいっちゃやだよぉぉぉ」
腰をつかんで抱きつく。
「おいっ、風間どんだけ飲ませたんだよ」
「いや、自分で日本酒をグラスに六杯くらい注いでたぐらいだけど。いきなり泣き出しちゃって」
必死で拓海にしがみついていると、拓海に抱えられる。
「大将、迷惑かけて悪い。奥空いてる?空いてなかったら、帰るから」
「駄目っ!!まだ飲むのっ!」
帰るという単語が聞こえて、拓海の洋服を引っ張る。
「酔っ払いは黙ってろ」
「大丈夫ですよぅ。なんだかピーちゃん辛い事あったんじゃないですかぁ。最初ッから飛ばしてあっという間に酔ってましたから。あっ、奥使っていいですよ」
「こら、山崎っさっきから余計な事いわなくていいんだよ」
拓海に言わなくてもいいじゃんか。
「ピーちゃん泣きながら凄んでも全然恐くないですよぅ。今日は朝まで開いてますから、気が済むまで飲んでいって下さいよぅ」
「よし、山崎許すっ」
拓海にしがみつきながら、わざわざ屈みこんで私の顔を覗きこんで笑う山崎くんの頭を撫でた。
私はそのまま拓海に抱上げられ、奥の座敷に運ばれる。
「たぁくぅみぃぃぃぃ!」
「分かったから。風間、何かあったのか?」
「冬馬っ!言ったら許さないからね!」
「だそうだ。田舎がどうのとか言ってたかな」
だから、喋るなって言ってるだろうがっ!
拓海が改めて回した腕に力を込めた。
「あぁ、思い出して少し自棄になったのか」
分析しなくていいから。飲ませろっ。
そう思っても、拓海から離れがたくてもう少しだけと肩に額を押し付けた。
お姫様抱っこをスマートにやってのけるのは拓海だからかな。
「思い出してってなにを?」
「あぁ、風間まだ聞いてないのか。じゃ、教えてやらない。その内桃が言いたくなったら言うだろ。それまでほっといてやれよ」
山崎くんからハンドタオルを受け取って拓海は乱暴に私の顔に押し付けた。
「ピーは片意地張ってるわりに、淋しがりやだよねぇ。さっさと拓海にアイソ尽かして、僕に乗り換えればいいのに」
「智ってピーの事そういう意味で好きだったの?」
牧の声が近くから聞こえる。
「うん。だって理想の使いっぱしりだよね。絶対Mだし。相性いいよ思うけど?」
おい、智。さりげなくなに危険な発言してるんだよ。私、Mじゃないからねっ。
冗談じゃないよ?
智って真性のSだよね。
あのローソクとか、鞭とか、好きだったりするよね。
酔った頭でも、智が鞭持ってる姿を易々と想像できて恐い。
「智なんか知らないっ!!冬馬、お酒っ!!絶対に許さないんだからっ」
座敷に降り立って、そのまま机に突っ伏した。
今だ涙止まらず、もらったハンドタオルで目を押さえながら、さらに日本酒を呷った。
「初っ端から桃の言ってること、結構支離滅裂なんだよ。そうとう溜め込んでる気がする。相楽が彼氏なんだから、もっと気を配ってやれよ」
「あぁ?五月蝿ぇよ。てめぇこそ、桃と二人で飲みに行こうとか言ってんじゃねぇぞ」
ん?なんか喧嘩始めた?
ま、いっか。
さらに日本酒をグラスに注いで、いつの間にか隣に座っていたまこさんと乾杯をする。
「んふふふふ~。まぁこさんっ!!おめれろうございましゅ、なぁんか、たのしくなっれきたのれす」
だんだん呂律が回らなくなってきたぞう。
「ほら、桃。今日は飲んでていいから、とりあえずまこに抱きつくなって。こっちきてろ」
ぐいっと腰を抱かれて、拓海にぴったりとくっついて座らされる。
「ゆいちゃんがなんらっ!!」
「はぁ?ゆいって今日のメイクさんの中に居なかった?ピーの知り合い?」
「しょうじ、ゆいちゃんろなまえらすなっ」
「イヤ、桃が出したんでしょうが。で?こんだけ酔ってるのはそのゆいちゃんが原因なわけ?となると、風間もそのゆいちゃんとやらとお知り合い?」
冬馬の隣に座った、牧が冬馬の顔を覗きこんでいた。
「あ~、ん~。まぁね」
まぁね、じゃないでしょうが。
あぁ、本当に無性に腹が立つ!
ソコにまるで逆撫でするかのように拓海の携帯が鳴り始めた。
「たくみぃぃぃぃぃ!!ゆいちゃんに携番教えたでしょう?」
女の感が告げている。
絶対、ゆいちゃん。
間違いない!!
読んで頂きありがとうございます。




