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アネモネ  作者: 宮っぴー
4/7

世違い

片方の空では願いが光となり、もう片方の空では電灯が夜を照らしていた。

魔王討伐の祝宴は朝まで続いた。

勇者レオンは城のバルコニーに出て、一人で夜風に当たっていた。

世界は救われた。

長かった旅も終わった。

あとは仲間たちと別れ、それぞれの人生を歩むだけだ。


「ここにいたんですね。」


聞き慣れた声がした。

振り返ると、魔法使いのミリアが立っていた。

旅の途中で出会った少女。

泣き虫で、危なっかしくて、放っておけなくて。

いつの間にか妹のような存在になっていた。


「どうした?」


そう聞くと、ミリアは少し俯いた。

手が震えている。

魔王と戦った時よりも。


「私、言いたいことがあるんです。」


レオンは笑う。


「改まってなんだよ。」


ミリアは深く息を吸った。

そして言った。


「好きです。」


風が止まった気がした。


「ずっと前から。」


レオンは言葉を失う。

彼女の顔を見た。

冗談ではない。

本気だった。

だからこそ、困った。


「……ごめん。」


その一言でミリアの全てが終わる。

ミリアは少しだけ笑った。

泣きそうな顔で。


「やっぱり、そうですよね。」

「だって私、ずっと女性として見られてない気がしてたんですもん。」


何も言い返せなかった。

事実だったから。

旅の最初からずっと。

守るべき子供だった。

大切だった。

…恋ではなかった。


「ごめん。」


二度目の謝罪は、ひどく空虚だった。

ミリアは首を横に振る。


「謝らないでください。」


そして夜空を見上げた。

無数の星が瞬いている。

あの星ひとつひとつに、違う世界が存在している。

その中のどこかには、彼女を妹ではなく、一人の女性として見られた自分がいるのかもしれない。


「私、思うんです。」


静かな声で彼女は続ける。


「もし違う世界で出会ってたら。」


レオンは黙って聞く。


「勇者と魔法使いじゃなくて。」

「守る人と守られる人じゃなくて。」

「ただの男の子と女の子だったら。」


ミリアは笑った。

今までで一番綺麗に。


「少しは可能性、あったのかな。って」


レオンは答えられなかった。

答えが分からなかったから。

ただ、この世界では無理だった。

それだけは分かっていた。

やがてミリアは踵を返す。


「おやすみなさいっ…」


彼女は振り返らなかった。

レオンも呼び止めなかった。

世界は救われた。

魔王は倒された。

誰もが幸せになった。

そう語られるだろう。

夜空の下でひとつだけ生まれることすらできなかった恋があった。

その恋は別の世界でなら咲いていたのかもしれない。

未来を映す水晶は最後まで二人を同じ景色に映さなかった。

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