夏祭り
「またね」は叶わぬ約束だった。
毎年、夏祭りは彼女と回っていた。
幼稚園の頃からの幼馴染。
名前を呼ぶのも、隣を歩くのも当たり前で。
気づけば、好きになっていた。
今年こそ告白しよう。
そう決めていた。
浴衣姿を見たら緊張してしまうかもしれない。
上手く言葉が出ないかもしれない。
それでも伝えようと思っていた。
夏祭りの一週間前。
彼女から呼び出された。
いつもの公園。
夕暮れのブランコ。
風が吹くたびに、近くの軒先に吊るされた風鈴が小さく鳴る。
「急にどうした?」
そう聞くと、彼女は少しだけ照れたように笑った。
「あのね。」
その笑顔を見た瞬間。
なぜだか嫌な予感がした。
「彼氏できたんだ。」
一瞬、意味が分からなかった。
彼女は続ける。
「隣町の高校の人。」
「優しくてさ。」
「この前告白されて。」
楽しそうに話す声が遠い。
頭の中に入ってこない。
ただ一つだけ理解できた。
遅かったのだ。
「そっか。」
やっとのことで、それだけ言った。
「驚かないんだね。」
「…まあ。」
嘘だ。
驚いていた。
泣きそうなくらい。
そんな顔は見せられなかった。
見せたくなかった。
風が吹く。
彼女は空を見上げる。
「あとさ。」
「私、来月引っ越すんだ。」
今度こそ言葉を失った。
転校。
鹿児島の学校らしい。
もう簡単には会えない。
毎年一緒に回っていた夏祭りも。
放課後に寄ったコンビニも。
くだらない話をした帰り道も。
全部、今年で終わる。
「だから最後の夏祭りだね。」
彼女は笑った。
その笑顔が少し寂しそうに見えた。
祭り当日。
彼女は薄い水色の浴衣を着ていた。
綺麗だと思った。
言葉にはしなかったけれど。
二人で屋台を回る。
焼きそば。
りんご飴。
金魚すくい。
去年と同じ。
一昨年と同じ。
変わらないはずだった。
でも、もう何もかも違った。
帰り道。
神社の石段を下りる。
言おうと思った。
好きだと。
ずっと前から好きだったと。
言おうとしてやめた。
今さら伝えても困らせるだけだ。
彼女にはもう恋人がいる。
もう遅い。
「どうしたの?」
立ち止まる彼女に聞かれる。
「いや。」
首を振る。
そして笑った。
「向こうでも元気で。」
彼女は少し驚いた顔をした後、柔らかく笑った。
「うん。」
風が吹く。
ちりん、と風鈴が鳴った。
それが合図のようで、とてつもなく悲しかった。
彼は最後まで、その言葉を口にしなかった。
風鈴の音だけが残る。
夜空には綺麗な火の花が咲き誇る。
その下で、ひとつの花は咲けずに終わった。




