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改めて言うまでもないことだが、天羽天音はすこぶる優秀だ。
何をやらせても一定どころかとんでもない高水準で成果を出し、勝手に高まる周囲の期待を汗一つかかずに完璧に応えて見せる超人。
その背景にどれだけの苦労と努力があるのか、あるいはあったのかは俺にとっては知る由もないこと。
俺に限らず彼女と関わるその悉くが多かれ少なかれ似たような感想を彼女に持つのだろう。
それこそ付き合いの長さや人の心を読めるかどうかに関わらず。
──天羽天音は風邪をひく。
だから、こんな当たり前のことをいつの間にか失念していた。
天羽さんなら何とかしてくれる。
天羽さんならうまくやってくれる。
天羽さんが居ればどうとでもなる。
天羽さんが体調なんて崩すわけがない。
まったくもってバカバカしいにも程がある。
何を見て、そんな無責任な期待を押し付けているのか。
少なくとも、お前だけはあの人が完璧ではないと知っていただろ。
……ちゃんと聞くべきだった。
たとえそれが藪蛇だったとしても、周りの雑音から不満と罵詈雑言に溢れた声を聞き分けて拾うべきだった。
きっとその中に聞き逃すべきではないSOSがほんのひとかけら混ざっていたはずだから。
だから、電話をする。
だって、これはそういう契約なのだから。
「もしもし、遥。悪いんだけど……天羽さんの連絡先教えて」




