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異世界転生ビルドマスター ~チートが無くても俺には土木がある!  作者: 孤狗


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第12棟 アリ駆除編 プロローグ 

あらすじ

 女性社員へのアルハラ·セクハラはダメ、絶対!

 下面中央に泥が塗られた最後のレンガが丁寧に積まれていくのを見送り、彼女は両手で持った杖を構えた。


「石化!」


 カレン·コーネリアが杖に魔力を込める。水と反応した土が固まり、レンガが固着する。


「終わりました……それじゃ私はこれで」


「あ、ああ……ありがと」


 そっけなく踵を返す魔女に、ぎこちなく応える若い男。染めた金髪に腰に着けた工具ベルト、この世界にはまだ無い素材で作られた薄汚れた作業着。

 転生された勇者としてはあまりに生活感がありすぎる彼はヤマトと呼ばれていた。


(う~ん、話しづらい)


 頭をポリポリと掻きながらレンガの調子を確認し始めるヤマト。本来ならカレンにもチェックしてもらい、彼女の石化魔法で微調整すべきなのだが、昨夜のしでかしで気まずい関係になっていた。


(しくったなあ……)


 まさか彼女がベッドに乗ってくるとは……エロハーレム展開は小説では大好物だが、同じ現場で働く同僚にセクハラしてはいけないというコンプラ意識は彼にもちゃんとある。全ては寝不足が招いた事態だ。


(とはいえまずは報告だな)


 打診棒や定規で新しく作ったレンガの壁に強度の問題や歪みがないことを確認し、ヤマトは振り返る。広大な庭がある屋敷、その一角にある小屋の壁の修理が彼の仕事だった。


「終わったのか?」


 テラスに置かれた安楽椅子に腰掛け、パイプを燻らせる老人が呟く。ヤマトに小屋の修理を依頼した上客のマクスウェルだ。


「はい」


 ヤマトは老人のもとに駆け寄り仕事の出来を報告する。遠くから見ると小屋のレンガの壁は違和感が全くない。修繕としては上出来だろう。

 だがマクスウェルは不満な様子だった。


「おめぇ……ゴルトー商会と揉めたのか?」


「……はい」


 素直に応える。この老人が資産家でボイルと関係があることは風の噂で聞いていた。もしボイルが取引に応じず、裁判が長期化する場合はこのマクスウェルに仲介を働きかける保険もあったのだが、そこは口には出さない。


「奴とは古い付き合いでな……お前との騒ぎとは別に、奴がやらかした悪事が魔法局に嗅ぎ付けれてケツに火が着いてたもんで、俺がプリム工房買収を巡る手続きの代行をしてやってる」


「それは……」 


「妙な勘違いするなよ?あくまで一時的な出資と事務手続きの名義貸しだ。お上の裁定には一切干渉はしてねえ。あのドワーフの工房はお前のもんだ」


 パイプから口を離し煙をふぅと吹き出す。


「今回は俺が魔法局から庇ってやると取引したから落ち着いたが、ボイルの奴はおめぇをかなり恨んでたぞ?」 


「でしょうね」


 一晩で魔犬は金に変えられ、プリム工房もカレンも奪われた。魔法局に捜査されている理由は知らないが、あの手の輩はその不満も自分への逆恨みに上乗せしてくるだろう。


「お前の腕は気に入っていたが、もう仕事は頼めねえな。俺に関わってるとボイル(あいつ)に感付かれて殺される」


 良いながら銅貨二枚を差し出す老人。ヤマトはお辞儀をして丁寧に工事代金を頂戴する。


「ありがとうございます。けど家の不具合があれば何時でも呼んで下さい、無料で見積しますんで。そしてもしゴルトー商会からマクスウェルさんに不利益な何かがあれば、冒険者を派遣して対応します」


 そう、ヤマト建設は建設会社でありながら冒険者ギルドでもある。おそらく自分のいた世界でもこの世界でも唯一無二の存在だろう。ヤクザ程度にビビってはいられない。


「ふん、そうか」

 

 肯定も否定もせずに老人は目を閉じた。話は終わったのだろうと判断し、ヤマトは丁寧に頭を下げたあとその場を去るのだった。


~~~~~~

 屋敷の庭を抜け、門から外に出てすぐ3人の男達と目があった。制服らしい揃いの黒い衣装に外套(マント)。胸には意味は知らないがファンタジーらしい魔法陣様の紋様が刺繍されている。

 三人の男の内、両端の若い男は知らないが、真ん中の厳格そうな中年男性にはヤマトは見覚えがあった。その男に若手の方が報告する。


「コーネリア支部局長、別件参考人の勇者ヤマトです、いかがなさいますか?」


「そうだな……」


 顎に手を当て、面白そうにこちらを見るギルバート·コーネリア。ヤマトは嫌な予感がした。


「マクスウェル氏への参考人聴取は君達が行け。彼とは私が話をしよう」


~~~~~~


「……すいませんね、ご馳走してもらって」


 数分後、近くの個室のあるカフェにて、テーブルに出された紅茶を前にしてヤマトはとりあえず礼を言う。「まだ午前中なので飲食店よりは喫茶系でいいかい?」とこの店が選ばれたのだが、時間に関わらず元の世界でいう警察みたいな組織のお偉いさんにサシで呼ばれて、美味しくご飯を食べれる気はしない。何より目の前の男との因縁がヤマトを悩ませる。それは……


「カレンちゃんと……会いましたか?」


「君が出る少し前に見かけたよ。既にあれの身分証の効力は切れている。特段話すことはない」


(わざとやってんのかこの人)


 口には出さないが、内心毒づくヤマト。実の娘に才能が無いからと悪徳商人に売り渡した挙げ句、挨拶すらないとは。


「……冷酷だと思うかね?」


 こちらの表情から読み取ったのか、ギルバートは仏頂面のまま話を進めてくる。


「我々が追っていたのはボイルだが、その過程で君と娘の同行も概ね把握している」


 僅かに鼓動が早まるが平静さを保つ。別に知られようとやましいことは何もないはずだ。相手が魔法局支部長だろうがカレンの父親だろうが。


「冒険者ギルドを立ち上げたのは意外だったが……少しはこの世界のことは学べたかね?」


「どういう意味っすか?」


 相手に合わせて紅茶を口に運ぶ。そこまで趣味というわけではないが、元の世界の紅茶とは少し風味が違い、苦手かもしれない。


「冒険者制度を調べただけでも、この世界の仕組みと歪さには気が付いたんじゃないか?」


 こちらを試すように質問するギルバート。具体的なことは言っていないが、何となく言いたいことは伝わった。ヤマト自身感じたことだ。


「魔法使いだけ審査や権限が他と比べて異様に緩いことですか?」


 冒険者登録において、騎士や傭兵は長年の実績や経歴の審査が必要になる。国家を跨いだ傭兵という職種が持つ権限を考えればそれが自然だ。だが魔法使いは違う。


「魔法学校を卒業している、或いは転生魔法が使える者はその勇者も一緒に審査不要で冒険者になれる」


「そうだ」


 合格と言わんばかりに魔法使いの男は頷く。


「冒険者だけではない。魔法が使える者はあらゆる職種、コミュニティで特権を得る。()()()()()()()()()()()……」


 特権階級……それはヤマトの世界にもあったものだ。古くは王、そして王の血筋に連なる王族貴族、或いは資本主義に基づく豪商や資本家、民主主義により選ばれた独裁気質の国家元首。

 だがこの世界の魔法使いはそれらとは全くルールが違う。


「家庭や境遇、人柄に関わらずその人に魔法の才能があったら優遇、無ければ苦労する……なんでこんな仕組みで揉めないんすか?」


 率直な疑問である。貴族や王族の魔力が無い者がいれば、改革を訴えそうなものである。


「異世界出身の君らしい良い質問だな。教えてあげよう、()()()()からだよ。魔法使いにはな」


 ハッキリと断言するギルバート。口調は軽いが目は笑っていない。


「かつてこの世界では戦争があった。君が指摘する通り魔法使いを主体する国々とそれ以外の国でな……だが結果は明白だった」


 兵站、白兵戦、諜報や情報伝達、遠距離戦……あらゆる分野で非魔法使い(ノーマル)は魔法使いには勝てない。


「戦い自体は魔法使いの国が圧倒した……だがことはそう簡単には終わらなかった」


「何故っすか?」


「体制を維持できなかったからだよ」


 劣勢に立たされていた国から魔法使いが生まれてくると情勢は互角になり、戦争が長期化する。そうすると魔法使いの国でも非魔法使い(ノーマル)が増えてきて差別から内戦が始まった。


「内乱、革命、逆転が数十年続き……人々は気づいたのだよ。()()()()()と」


 ドワーフのような亜人は種族毎に同じ特性·魔法適性を持つ。だが人間のそれは血筋に依存せず完全にランダムなのだ。例え極めて強大な魔法で王に上り詰めた男がいたとしても、その子が才を継ぐかは定かではない。底辺奴隷に産ませた子が突如として才能に開花し虐げたものに逆襲することも珍しくはない。


「結果、人々は血筋権力資本とは切り離した特権として、『魔法』を受け入れた」


 社会の基盤はそのまま、だが魔法を使える者は極端に優遇されるし、人々はそれに異を唱えることはない。

 その歪さを言語化されたヤマトは腑に落ちると同時に、新たな疑問が一つ浮かんだ。


「それで世の中回るんすか?」


「回ると言えば回るし、そうでないとも言えるな」


 再び紅茶を飲むギルバート。心なしか、楽しそうだ。


(多分この話題、この世界の人に話したらタブーなんだろうな)


「この社会が出来て数百年は経つ。今生きる人は生まれた時からこれが当たり前だ。私が歪さに気付いたのは仕事で異世界人と話す機会が多かったからだ」


 魔法局支部長……その業務の一端として、この世界に召喚された自分を強制送還しようとしていたことをヤマトは思い出した。


「魔法があるものはあらゆるチャンスが肯定される世界。だがそれは極めて憂慮する事態を引き起こす。君なら分かるはずだ」


「魔法を悪用した犯罪者が出てくるんでしょ?」


 別に子供でも分かる理屈だ。人間は良心だけ持つことはない。もし自分に自分だけの魔法があったらどうするか……ふと透視能力で女湯を覗いている自分が脳裏に浮かび、ヤマトは頭を振った。


「そうだ、ボイルのような輩が世の中にはごまんといる。私は君を評価しているが、だからこそ心配もしている。冒険者となる以上、魔法犯罪者と対峙する機会もあるだろう、気を付けるんだ」


「ご忠告感謝しますよ、けど……」


 我慢の限界だ。どうしてもこの一言だけ言いたかった。


「その言葉、何で実の娘(カレンちゃん)に言ってやんないんですか?」


「私はあれの気質を好みはしない。特に魔法局職員としてはな。だから君に娘を任せる、頼んだぞ」


「いや俺そんなのじゃ……」


 喧嘩のことを思い出す。自分達はそんな関係ではない。

 これ以上話すとボロが出そうなヤマトは、仕事を言い訳にして帰ろうと席を立った。


「長居させて済まなかったな、ここは私が勘定をしておくよ。……あぁ、ただ」


「まだあるんすか?」


 うんざりとするヤマトだったが、ギルバートの次の発言で目が覚める。


「魔法使いは勿論だが、勇者にはそれ以上に気を付けたまえ」


 勇者……異世界から無理やり転移させ生まれ変わらせた人造人間だ。


「転生者はこの世界の常識すら通じないし、世の理を無視した『スキル』を持つ。もし敵の魔法犯罪者が勇者を連れていたなら、迷わず引いて魔法局(われわれ)に通報しろ」


 形だけ転生されここにいるヤマトだったが、それがどの位恐ろしいことなのか、予想できないことが一番恐ろしいと思えた。


〜〜〜〜〜〜

 工房に戻ると、皆で昼食をとっているところだった。


「遅いですよ社長!何道草食ってるんですか!?」


 スプーンを片手にプリプリと怒るカレン。その左手には炒飯にもパエリアにも見える、何やら旨そうなご飯に似た料理が載った皿が握られていた。


「会社とやらの方針決めるのが()()何ですよね!なら早く次の仕事決めてくださいよ!」


「まあまあ」


 横からエプロン姿のプリムが現れる。小さな体に不釣り合いな大きなフライパンを片手に、ヤマトの席の皿に料理を盛りつつ彼に着席を促した。


「食べながらでいいさね」


 ヤマトは日本式にいただきますをして食べ始めながら事情を聴く。ギルド登録をした事業者は本部に50万ゴールドを支払わなければならないが、先日の魔犬討伐の儲けは大半が工房の借金返済に充てられている。別口で金を作らなければならない。


「ウチはまだお抱え冒険者とか居ないし、自分達で仕事貰わないとね……ってことではいこれ」


 プリムが数枚の紙をテーブルに広げる。ヤマトはご飯を口に頬張りつつ目を向ける。


「なんすか?これ?」


 疑問に答えたのはカレンの方だった。


「プリムさんが別のギルドマスターに掛け合って大口の仕事を何件か譲って貰ったんです」


 何でも駆け出しギルドにはそうしてやるのが習わしらしい。ギルド本部としても、一部ギルドに依頼が集中して順番待ちが発生するよりは、こうして分散してくれた方が依頼者の為になるので推奨されるとのことだ。


「ふーん……」


 グラスに注がれた水を飲み飯を流し込みながら依頼書に目を通す。こちらの文字は一夜漬けで覚えただけなので詳細は分からないが、大まかな件名と報酬·条件だけは何となく理解できる。


「ペット探しは簡単だけど流石に報酬渋いっすね、こっちの商隊護衛は額は75万だけど拘束2ヶ月は長過ぎ……」


 中々そんな上手い話はないのは分かっていた。となるとペット探しや独自のリフォーム等小粒な依頼を短期間で相当数こなしていくしかないか……と思ったとき、


「お?」


 一枚の依頼が目に止まる。報酬55万ゴールド即金、期間1週間以内(可能ならば至急)とある。しかもその案件名は……


「お、これ良いっすね」


「え?これやるんですか!?」


 ヤマトの提案にカレンが驚く。


「これ多分かなり専門的な奴ですよ、もっと簡単で安全確実な方が……」


「大丈夫!俺前の世界で関わったことあるから、多分いけるって!」


 自分の知識を活かせそうだと得意気に依頼書を手に取るヤマト。その紙にはこう書かれていた。


― 至急、 アリ駆除求む ―


〜〜〜〜〜〜

― 夕刻、魔犬養殖場跡地にて…… ―


 洞穴が崩落し山の斜面ごと崩れたそこは、遮る木々もないため夕日が差し込み、まるでスポットライトに照らされた舞台のように目立っていた。


「ここか……」


 一人の男がブーツで土を踏み締める。年の頃は20代半ば、短く刈り揃えられた茶髪に髭一つ無い端正な顔立ち。美青年と偉丈夫の中間のような印象を与えるが、特に眼力が強かった。

 金属製のチェストプレートに四肢の関節を補強する革の籠手や脛当。腰に下げた長剣の鞘を含め、明らかに戦いを生業としている人間だと分かる。


「異世界からの転生者が戦ったというのは」


 男は腰の剣の鞘を上げる。その崩落規模から戦いの激しさを推察しようとする。その背後から別の声が投げ掛けられた。


「山を崩して中に居た300体の魔物を狩ったそうです。その報酬をもって、冒険者及び冒険者ギルド登録を同時にやったと……」


 それは女だった。男に僅かに遅れて山を登ってきた彼女は20より若く、少女とギリギリ呼べるくらいの年齢に見える。だが修道女を思わせるハビットのような装束(ヤマトの世界と違い、こちらは白を基調としている)、包帯が巻かれた左腕とそこに持つ大きめの木製の杖から、彼女がただの町娘でないことが分かる。


「彼は勇者ヤマトと名乗り……ギルド名はヤマト建設だそうです」


 少女が噂で聞いた知識を男に伝える。彼らが情報を知り得たのは単純な話で、同じ業界……冒険者だったからに過ぎない。


「ふん……力のみで認定か、危険だな」


 男は目を細める。魔法使いが特権を得るこの世界で更に力を持ちやすいのが転生魔法で召喚された勇者だ。人智を超えたスキルで世界に名を轟かせるが、それが勇名か悪名かはその者次第だ。


「如何なされるのですか?……!?」


 男に問いかけて少女は気付く。崩落現場の近くから1匹の魔犬(ブラックドッグ)が忍び寄ってくる。地下から抜け出たのか偶々外に居て崩落に巻き込まれなかったのか、ただ仲間が大量死したことで気が立っているようだった。唸り声を上げながら真っ赤な目で二人を睨み付けている。


「当然、俺がこの目で見定めるさ」


 男は少女の前に歩み出る。涎を滴しながら魔犬が突進してくる。


― キン! ―


 魔犬が飛び上がり、男の喉笛に噛み付こうとしたまさにその瞬間、犬の首が両断され地面に転がった。男の右手は剣の柄に僅かに触れてはいるが、剣を抜いた様子はない。


「転生能力(スキル)を悪用する輩は斬る。同じ()()としてな」


 踵を返す男。少女は犬の骸に祈りを捧げてから、彼の後を追い、森に消えていった。


  

 


 

 御読了ありがとう御座いました。2~3週間に一度更新致します。

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