第11棟 プリム編エピローグ 社長の矜持
あらすじ
ヤマト建設(冒険者ギルド)稼働開始!
「おーい!火起こし出来たぞ!誰か見といてくれ!」
「酒樽持ってきたけどどこに置いたら良いんだ?」
目の前を職人達がひっきりなしに駆け回っている。カレンはそんな喧騒をぼんやりと眺めていた。
(騒ぐなっていうほうが無理ですよね)
ブラックドッグ討伐から9時間後……書類手続きを終わらせたプリム工房改めヤマト建設の面々は祝勝会の準備に追われていた。
やることが少ないカレンは、倒れたヤマトの看病に当たっている。といっても病気や怪我ではなく過労と寝不足だ。こうしてベッドに付き添っているからといって何が出来るでもない。
「まさか私達がギルドマスターになるなんて……なに食べたらそんなこと思い付くんだろ?」
気持ち良さそうに寝息を立てている男に語りかける。自分とカレンの社会的立場の改善、プリム工房買収を巡る状況と窮地を脱する方法。手札が限られている中、僅かな時間で彼は作戦を編み出して手続きを完了させてみせた。それも自分の夢に近づく形で。
普通なら策士、切れ者と評価したいところだが、カレンにはそうは思えない。この男は自分の才能以上のものを引き出しているように見える。その原動力は……
「建設会社とやらを建てて、その先どうしたいんですか、ヤマト社長」
再度の呼び掛けをするが、夢を見ている男からの返事はなかった。
〜〜〜〜〜〜
―夕刻、いつかの場所で……―
「ほなそちらさんはウチに喧嘩売っとるっちゅうことでええんか?ああ!?」
バン!と机を叩く音。廊下で聞き耳を立てていた新入社員の大和築はビクっと肩を震わせた。
「喧嘩ではありません。ただ、わが社は法律に則り方針を定めます。それをお伝えしたいだけですよ」
あくまで落ち着いた声で応対する社長。もし何かあれば通報しろと言われていたが、スマホを持つ手が震える。仮にあのヤクザが刃物や銃を忍ばせていたら、間に合わないのではないか。
「ホーリツホーリツって、おどれに頭は無いんか?社長にもなって自分では考えることも出来ませんてか?」
入札が絡む巨額の公共事業。暴力団関係の企業は国に睨まれ仕事を受けることは出来ない。だからこうして落札した会社の下請けや取引先として絡もうとしてきたのだ。最初は善意のカバー企業として全うな名刺交換から……だが不審に感じた社長が調査をさせ背後関係を調べた途端に、相手は豹変した。
「こっちが穏便に出とるウチに態度改めた方がええんとちゃうか?オタクの社員さんに不幸があっても知らんで?」
恫喝するヤクザに対し、ドアの向こうで相対する社長は静かに、だが毅然とした態度で社服の胸ポケットからICレコーダーを取り出した。
「今の発言、録音いたしました。改正暴対法で規制範囲は公共事務事業全般に拡大されています。その上でわが社に対する不当な取引要求……全てを記録し、警察に届出させていただきます」
意味の聞き取れない罵倒が建物に鳴り響いたあと、ヤクザは事務所のドアを足で蹴り開け、捨て台詞を吐いて出ていった。
「ふぅ……」
気が抜けたように椅子に座る社長。胸ポケットからハンカチを取りだし、額の汗をぬぐう。大和は慌てて入室した。
「大丈夫っすか!社長!」
「ああ……君がいてくれて心強かったよ」
110番出来ると言っても、もし相手がこの場で殺そうとしてきたらどうするのか。そう非難した新入社員に、社長は笑いかける。
「そこまで悲観することはない。通報以外にも課長から警察署に相談してもらってるから動きは早いさ。連中はもう押し掛けては来れない。ムショ送り覚悟で暗殺するほど俺の首に価値なんてないからな……」
冗談のつもりだったがこちらの顔を見て社長は笑みをやめる。真剣に、若手の肩を軽く叩く。
「お前新年会で言ってたよな、『将来は独立したいっす』って」
「あれは……酒の勢いで……」
「まあ聞け、いいか?会社を持つってことは、部下社員とその家族全員の生活や人生を背負うってことだ。あんな社会の歪みと出くわす時も必ず来る。社長は絶対に逃げちゃいけないんだ」
優しい口調で穏やかな笑みではあったが、その言葉には壮絶な覚悟が感じられた。
「ヤクザだけじゃない。地上げ屋や総会屋、外国人投資家からの不平等な契約や買収……それらに備えて外国語や法律の勉強もしなきゃならん。お前は大卒だから勉強は得意だろうがな」
「俺……工学っすから語学法学系分かんないっすよ」
夢や情熱だけで業界に飛び込んだ若者に示すには早すぎる社会の厳しさ。だが後継、或いは独立にせよ、本気で目指せると見込んだから教えてくれたのだろうと今なら判る。
「社長になるっていうのはそういうことだ。苦手だろうが死ぬ気で勉強しろ。どうしても自分ではダメならそれが出来る専門のスタッフを雇うんだな」
なあに、お前が女遊びするときみたいな感じで口説きまくれば人材は集まるさ……。
そう軽口を叩く記憶の中の社長を眺めた辺りで、ヤマトは明晰夢の自覚を持ち出した。
『俺……出来ましたかね?社長……』
〜〜〜〜〜〜
「へ?笑った?」
起きないことを良いことに、寝ているヤマトにぶつぶつ語りかけていたカレンだったが、突如満足げに笑みを浮かべるヤマトにギョッとする。
「あの……起きてます?」
笑みを浮かべた以外は相変わらず安らかな寝顔を浮かべる勇者。寝ているふりをしながら乙女の独り言に聞き耳を立てているのならば、許されないことだが……
「すぴー……」
落ち着いた寝息からは演技をしているようには見えない。
「むむむ……」
異世界から転生させたとはいえ、浮世離れした奇妙な男である。カレンはまじまじと生態観察するかのように男に顔を近付け……
「チューしな、チュウ♡」
「うひゃああ!」
突如耳元で囁かれ悲鳴を上げるカレン。うっかりベッドに乗り上げてしまう。声のした方を振り向くとプリムがニヤニヤとこちらを見上げていた。赤髪に褐色肌だが、いつもより顔に朱がさし目がとろんとしている。
「奴隷になりそうだったあんたを救った勇者様に、ときめく気持ちはよくわかるよ」
「な、何を……てか臭っ、プリムさんもう呑んでるんですか!?」
耳をすませば開け放たれた部屋の入り口からはワイワイと騒ぎ声が聞こえる。どうやら今回のお祝いがもう始まっており、主役のカレンとヤマトを連れてこようとしたのだろう。
「わかるよカレン。夢にひたむきな男は魅力的に映るもんさ。けど良いかい?こういう男は無茶をしてしまうものなんだよ」
聞いてもいないのにぶつぶつと語り出すプリム。ドワーフは皆酒豪だと聞いていたカレンだが、これはかなり面倒な酔い方だなと直感する。
「殿方を支えてあげるんだよ、わかったね」
「分かりました、分かりましたから退いてください」
適当に相槌をうちながら引き剥がそうとするが、酔ってなおドワーフの怪力は健在であり、カレンの体をシーツ越しにヤマトに押し付けてくる。
「アタシもね、あんたと同じだったからよくわかるよ。夢追い人を見てると自分も勇気を貰えるからね。けどそこで満足してちゃダメだ、女として、やるべき時はやらないとね」
何となく言いたいことは理解した。建前だろうが何だろうが、冒険者ギルドのギルドマスター兼冒険者となったのだ。自分も頑張らないととは思う。それを口にしようとしたカレンだったが……
「さあ!据え膳がそこに居るんだ。さっさと子種もらって子供をこさえな!」
「なぁにいってんですかぁぁあ!」
赤面しながら絶叫するカレン。プリムの目が据わっている。
「あの人の子を残せなかったのはアタシの最大の無念なんだ。アンタに同じ苦しみを味わわせるわけにはいかないよ」
「自分の欲求不満を私で解消しようとしないでください!てか私はヤマトさんとは……」
と、その時カレンの下敷きになっていた男がピクリと動いた、
「う、ううん……」
(しめた!)
ヤマトさえ起きてくれば安心だ。彼に騒ぎを謝り、二人でこの酔っぱらいをなんとかすればいい。
「や、ヤマト社長おはようございます!実は……」
「うへへ、ハーレムみたぁい……」
シーツの両側下からガバッと手が伸び、魔女と未亡人を纏めて抱き抱える。
「ほぇっ!?」
間抜けな悲鳴を上げるカレン。隣では泥酔したプリムが盛り上がっている。
「アタシも?良いよ、二人のはじめてを手伝ったげる♡」
「異世界でぇ……女の子ぉ……ぐぅ……」
「ぐうって……この人まさかっ!?」
あろうことかヤマトの目蓋は閉じたままだ。美女二人がのし掛かっているのを夢と勘違いしてるらしい。シーツにくるまれたカレンは本気で抵抗する。
「やめてくださいよ!酔っぱらいと寝惚けた相手に犯されるとか……」
生き遅れと言われようが乙女だ。相手はともかくはじめてのシチュエーションは選びたい。
「絶対……」
何とかシーツから抜け出した手がベッド脇に立て掛けられた魔法の杖を手に取る。
「いやあああああ!!!」
杖の柄を使った渾身のアッパーカットが転生者の顎を正確に撃ち抜き、ヤマトの精神を再び夢の世界に誘っていった。
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