第9棟 プリム編⑥ 「冒険者制度運営要領」
注意!
今話は設定説明を兼ねた伏線回です。本編ではありますが、ストーリーはほぼ進まない上に読みにくいです。あえて読みたい人以外は次回に読み飛ばしても構いません。
(読んでおくと次回~次次回辺りで少し気持ちよくなれるかもしれませんが)
夕刻、プリム工房二階プライベートエリアにて、
「あ~生き返るなあ」
ブロンドの長髪をタオルで拭きながら、カレンは上機嫌に廊下を歩く。ザクバから逃げてから数日、ようやく夕食と風呂に入れたのである。年頃の乙女としてはやっと人権を得られたと言っていい。
(プリムさんには悪かったかなあ)
当人曰く鍛冶の都合薪の余りはいくらでもあるので風呂を沸かすのは経費のうちに入らないらしい。しかもコンプライアンスの関係上家主に次ぐ二番風呂である。ここ最近男性不信になりかねないことが続いていた彼女にとって、久々に女でよかったと言える経験だった。
「さてと……」
今ならば他人に優しくなれる気がする。心に余裕が出来た彼女は、自分とは別の部屋を借りている同行者の部屋の扉をノックする。
「ヤマト社長~、お湯お先しましたよ~」
扉を開けると昼間から何も変わらず、机に座り複数の職人に翻訳を手伝って貰いながら書類束に向かうヤマトの姿があった。
「まだやってるんですかそれ?」
「……うん、まあ明日が勝負だからね」
目に隈を作りフラフラになりながらヤマトがこちらを向く。何やら体調が悪そうだ。昨夜はほぼ寝ずに何処かで過ごし、朝は冒険者ギルドに赴き、帰ってくるなりずっとこの有り様である。
「カレンちゃんが奴隷にされる前にケリをつけないとね、あと裁判」
「うぐっ……」
1割の喜びと9割の罪悪感が去来する。
「あ、明日が大変だからこそ休息が大切なんです。気を張りすぎると倒れちゃいますよ」
非常時に呑気に風呂を楽しんでいた自分を正当化するために適当に理由を作ったのだが、ヤマトは真面目に考えたようでふぅ~っと息をつく。
「あ~、そうっすね。ありがとうカレンちゃん」
仕事の合間を縫い交代しながら協力してくれた職人達にも礼を告げ、転生者はヨロヨロと立ち上がる。
「じゃ、御言葉に甘えてお風呂行ってきます」
ふらふら退室するヤマトに引き続き、職人達も部屋を出る。
「いやあ、あの人スゲーな」
「全くだよ。俺も単語の読み方教えてただけでろくに判らなかったんだぜ」
「ナール親方が生きてればあの兄ちゃんと仲良く出来たかもな」
「ちげぇねぇ」
雑談しながら男達は部屋に戻る。彼らは夕食後に風呂に入るようだ。
「……」
聞きたいこともあったが、わざわざ呼び止めるのも気が引け、カレンは彼らが出てきた部屋を覗き込む。
(何してたんだろう?)
まさかこのクソ忙しいときにストレス発散で小説書きに目覚めた訳でもないだろう。カレンはヤマトが座っていた席につき、書類に目を通した。
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冒険者及び冒険者ギルド制度運用要領
1 概要
本要領は「国際冒険者制度条約(大陸歴130年第3号条約)」(以下条約)締結に基づいた「アルト共和国冒険者法(大陸歴132年国王発令法第24号)」(以下冒険者法)制定に伴い、冒険者及び冒険者ギルドの運営指針を定めたものである。
2 用語
(1)冒険者
冒険者とは、国際社会及び魔法社会における治安維持、文化的・経済的発展に寄与するべく、国、領の枠を越えて各種治安維持業務に励む公的傭兵制度の認可を受けた者である。
本制度の資格は国家資格となる。
(2)冒険者従事者
冒険者と共に冒険者業務を行う者を指す。冒険者従事者が主体となって依頼を請け負うことは出来ないが、冒険者と「パーティ」を組むことで報酬を得ることは可能である。
(3)パーティ
冒険者と冒険者従事者で構成された小隊を指す。人数に制限は無いが、必ず4人あたり最低1名は冒険者を配置すること。
パーティは常時登録でも依頼毎に結成・解散を行っても問題ないが、必ず依頼受諾時に依頼の登録ギルドに別紙4「パーティ結成・解散届出書」を提出すること。
また、パーティを組まない冒険については、冒険者は可能だが冒険従事者単独での受諾は出来ない。
(3)冒険者ギルド
冒険者の登録、支援、監視、パーティ管理を目的として、国からの許可を受け王都に冒険者ギルド本部を設置し、各自治体からの許可を受けた冒険者ギルド支部を設置する。
それぞれのギルドは許可を受けたギルドマスターが運営する。
本制度の資格はギルド本部は国家資格、各支部は領資格となる。
3 冒険者登録について
(1)資格
冒険者登録の資格を要する者は、冒険者法第2条第3項に規定する下記の者である。
ア 条約にて登録された各国冒険者
イ アルト共和国騎士団及び各領正規騎士団での勤務経験が5年を越えた騎士
ウ 魔法管理法第4条に定義する各公的機関魔法使い
エ 魔法管理法第5条に規定された各公的魔法教育機関卒業者
オ 冒険者登録資格者と共に冒険者業務に従事し、実働経験5年以上、依頼完遂数10件以上、規律違反5年で2件以下の実績をこなしたもの
カ ウ及びエの要件を満たす魔法使いの転生魔法によって転生した勇者
キ その他、国王及び各領領主が特別に定めるもの
(2)受験方法
冒険者希望者は、別紙2「冒険者登録・抹消申請書」に必要事項を記載の上、上記(1)ア~エの者については必要書類を添付、オの者については各依頼完了報告書を添付しギルド支部に提出すること。
(3)審査規定
上記(1)アからエの者については別紙2及び添付書類を受理した時点でギルド支部にて認定、その他の者についてはギルド支部からギルド本部での専決及び審議を経て1か月以内に登録の可否について決定すること。
(4)免責事項
下記に該当する者は3(1)の区分の別無く認定を認めず、認定後に発覚すればこれを取り消す。
ア 過去2年以内に刑法に定める懲役及び禁固刑を受けた者
イ 期限を持たず過去に魔法局の定めるB級以上の魔法犯罪で処罰をされたもの
ウ イで罰された魔法使いに召喚された転生者
エ 下記6に定められた登録料の支払いを行わなかったもの
オ 下記6に定められた監査の結果、冒険者としての適格性を欠くとギルド本部に判断された者
4 冒険者の業務
登録を受けた冒険者は、少なくとも月に1回は下記の任務を受けなければならない。
(1)民間の業務依頼
ア 魔物の生態調査、捜索、狩猟・討伐その他退魔関係業務(公的依頼を除く)
イ 旅客業や商業における護衛、警備その他治安維持業務
ウ 浮気調査や人・家畜、ペット捜索(刑法第204条や魔法局規定第78条に抵触する場合を除く)
エ 災害対策、復興、その他社会インフラに寄与する業務(公的依頼を除く)
オ その他民間依頼が妥当とギルドマスターが判断した業務
(2)国家並びに各自治体から受諾する公的依頼
ア 国策及び各自治体による大規模な魔物討伐等退魔関係業務
イ アルト共和国基本法に定める国事行事における王族、貴族、領主、その他国賓等への警護及び治安維持業務
ウ 国策及び各自治体が行う社会インフラに寄与する業務(民間依頼を除く)
エ 騎士団及び魔法局等への派遣、使役業務
オ その他国王及び各領主が定める公的業務
5 依頼の遂行手順
冒険者は依頼を受ける場合は必ず下記の手順に従わなければならない。
(1)冒険者ギルドが受諾し発布した依頼
ア 冒険者ギルドのギルドマスターに任務の受諾希望を申請する。
イ ギルドマスターの審査後、受諾した冒険者はギルドの職員立ち会いの元、依頼者を任務の説明及び報酬等契約を交わし、別紙3「冒険者依頼契約書」を作成しギルドマスターに預ける。
ウ イで定められた契約内で契約が交わされれば別紙5「任務完了報告書」を、任務が失敗した場合は別紙6「任務失敗顛末書」を作成し、帰還後5日以内にギルドに提出する。
なお任務失敗時にパーティ全員が死亡していた場合は、立ち会いを行ったギルド職員が代行する。
エ 別紙5を受理したギルドは1週間以内に冒険者に報酬を支払うこと。
6 登録更新手続き及び監査について
各冒険者は初登録から1月以内、それ以降は1年に1回登録料10万ゴールドを冒険者ギルド支部に支払い別紙7「ギルド登録料支払い報告書」を提出すること。
報告はギルド支部を通じて本部ギルドで審査され、疑義が生じる場合は本部に召致し監査を執り行う。
監査の詳細は別途規定する。
7 冒険者登録抹消について
冒険者登録を抹消(引退)するものは、登録時にギルドに提出した別紙2の抹消欄を記載し、ギルドに提出すること。
抹消は現在引き受けている依頼の他冒険者への引き継ぎが完了している場合のみ受け付ける。
8 冒険者特権について
国際的な活動及び任務毎に警察権や武力行使権が付与させる冒険者の特性上、冒険者には本条約、冒険者法及びこれに基づく法律訓令規約以外は、いかなる国際法、国内法、身分制度、契約にもその活動を妨げられない(ギルドを介した冒険者と依頼者間の契約を除く)
冒険者への契約上の問題については、ギルド支部を通じてギルド本部で受け付け、審査する。
9 冒険者ギルドについて
(1)ギルド登録について
冒険者ギルド本部は国王の推薦で首都に設置する。ギルド支部は各領に最低1つは設置されることとしているが、登録希望があれば二つ以上登録することを妨げるものではない。
登録を希望するものは「冒険者ギルド登録・抹消申請書」を作成し、50万ゴールドの登録料と併せてギルド本部或いは最寄りのギルド支部に提出すること。
(2)ギルド登録資格
ギルドの登録資格については下記のいずれかの資格を有することを条件とする。
ア アルト共和国発行の名誉勲章授与者、並びにこれに準ずる褒章を受けた冒険者。
イ 任務完了数70件以上、又は魔物討伐数50体以上の冒険者。
ウ 登録から20年以上経過した冒険者で、任務失敗数が10件以下の者。
エ その他上記に準ずる社会貢献を行っている者で、冒険者ギルドの運営を全うできると国や自治体が認めた者。
(3)ギルド施設の要件
ギルドマスターとして登録をした者は、登録から1か月以内に冒険者ギルドの事務所を立ち上げなければならない。事務所は依頼管理の他、冒険者の支援のため下記のいずれか又は複数を兼ねた建物であることが望ましい。
ア 宿泊施設
ホテル、ロッジ、コテージ、アパート、民宿など、最低2名を宿泊させられる施設。(入浴・食事が無い場合はその旨を入り口に明示すること)。
イ 飲食施設
レストラン、酒場、喫茶店等最低8名以上を飲食させる設備とスペースを持たせた施設(テイクアウトのみは不可)。
ウ 冒険支援施設
武器防具雑貨各種魔法装備の販売、売却、レンタル、鍛冶等を請け負う施設。
エ その他公許良俗に反しない、社会貢献に役立つ施設。
(4)ギルドの業務
ア 冒険者の登録及び抹消の管理
イ 公的、民間問わず依頼の管理
ウ 冒険者と依頼人の契約締結の補佐
エ 冒険者への支援
オ その他社会貢献
(5)ギルドの報告義務について
ギルドマスターは冒険者ギルドとして携わる前記(4)のア~エの業務について、毎月の収益をギルド本部に報告するとともに、その収益の一割をギルド本部にマージンとして支払うこと。
ただし、(3)に記した業務及びその他副業、ギルドマスター自身が冒険者として得た依頼報酬等についてはマージンを控除する。
(6)ギルド監査
ギルドマスターは、年に一度、ギルド本部にて活動の監査を受けること。監査の詳細は別途規定する。
(7)その他
ギルド支部の具体的活動指針については、別途規定する。
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「うわ……何これ……」
途中まで読んだところでカレンはうんざりと呻いた。目が滑る。読ませることや理解されることをまるで考えていない、典型的なお役所の書類だ。改行や言い回しが独特で、効率的に書いているつもりだろうが実に非効率的だ。要約した参考書でもないとまともに読めたものではない。
しかも引用だらけで読みにくい上にその引用先の注釈が文書内に書かれていない。書類の側には規定の大本となる条約やら法律やらの本も積み上げられていた。
「見てるだけで目眩がする……」
カレンは興味を失い、部屋を後にした。
御読了ありがとう御座いました。
毎度書いていることではありますが、今週は特にここまでわざわざ読んでくださった方には本当に感謝致します。
作者には巧みな伏線張りのスキルはありませんので力業で表現した超自己満足回でした。
次回は普通に話が進みます。
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