番外編・アレクは想う
アレクサイドです。
幼い頃から幼馴染のユニカをかわいいと思っていた。
それが妹のように、ではなく、一人の女の子としてかわいいと思うようになったのはいつのことだったろうか。
日に日に成長し、それでも変わらぬ笑顔で迎えてくれる。
いつしかその笑顔に、苦しくなるのを感じていた。
だってユニカとは結ばれない運命にあるから。
だから、ゲームの通りに、彼女が大人の女性として恋をするようになるための踏み台として、叶わぬ初恋の人に徹しようとも思った。
けれど彼女はゲームのストーリーが始まる年ごろになっても、変わらずアレクだけを見ていた。
友達を作るように言った。
男の子とも付き合えと言った。
それでも彼女は必ずアレクの元に帰ってきた。
かわいくてかわいくてたまらなかった。
けれど、このままではゲームが破綻してしまう。
幼馴染とめでたく両想いでは、幸せなのは当人たちだけで、見ている人にはつまらないから。
それではヒロインである彼女がどうなってしまうかわからない。
元のゲームよりも面白くならなかったら実験は失敗なのだ。不要となったこの世界は、なくなってしまうかもしれない。
だから彼女を遠ざけた。
けれどアレクは、ゲームにあったエンディングを迎えた後、彼女を迎えにいくつもりだった。本当に手放すつもりなど毛頭なかったから。
ゲームのストーリーに左右されなくなるまで、待つ。
けれどその間に本当に他の人を好きになってしまっては困る。
だから、彼女の中にアレクが強く強く残るように、いずれはアレクの元に帰ってくるように、自分の存在を強く刻み付けていた。
だけど、つい願いは大きくなってしまった。
離れていかないように。いつだって自分だけを見ていてほしい。
そんな思いが、手を離すふりをした彼女をいつだって繋ぎとめてしまう。
だからユニカが離れられないのはわかっていた。
アレクも今更その手を離すことなんてできそうにもなかった。
それでも事態は動き始め、ついにユニカの周囲に群がり始めた男たちが、鬱陶しくてならなかった。
ユニカに触れる姿を見ると、血が沸騰した。
こんなに我慢しているのに。
気安く触るな。
そう言ってやりたかった。
それはできない。
だから。
例えその身が離れても、ユニカの心を離してはならない。
これは、アレクだけのゲーム。
アレクのすべてを賭けた、アレクが欲しいものを手に入れるための。
そうしてアレクは長い時をかけて、心から欲しかったものを手に入れた。
隣で眠るユニカの額に、優しく唇を落とす。
目を覚ましたユニカが、アレクに微笑みを向けられていたことに気が付いて、ぼっと頬を赤らめる。
「おはようユニカ。僕の大好きな……僕の奥さん」
隣に置かれた小さなベッドから、小さなふにゃふにゃとした泣き声が聞こえた。
すぐにユニカが飛び起きて泣き声の主を抱える。
アレクはユニカの腕の中の赤ん坊にも、同じように唇を落とした。
暖人のゲームがエンディングを迎えても、アレクが己に課したゲームをクリアしても、物語は続いていく。
命は紡がれていく。
ここは、命の溢れる現実なのだから。




