24 反省。
私は、カーザの国を闊歩する。山を掘って作られた道。
血塗れのブラウスと血に濡れた口元のまま。
帽子を被り直して、もふもふのスヌードは脱いだ。
後ろには、三人の従者と一人の友だちが、拘束したリザードマンの賊を引き連れている。ドワーフの住民は、注目していた。
門番も付き添っているから、大所帯だ。
そんな私達の目的地は、カーザ国のギルド会館。
「おねーさん、おねーさん」
私の姿とリザードマン達を見て、ごった返していたギルド会館は静寂に包まれた。
そんな場所に、私は声を響かせる。
「外に出たらリザードマンの賊に襲われたから、みーんな捕まえちゃった!」
無邪気に笑ってみせた。
さっき対応した受け付け嬢は、これでもかと目を見開いている。
私の姿は、戦闘に加わったことは明白。シャツに穴が空き、血に濡れている。
「報酬、くれるよね?」
ワントーン落とした声を発して、笑みを消す。
受け付け嬢は、ビクンと肩を震わせた。
「は、はい! ただ今!」
青い顔をした受け付け嬢が、慌てて手続きを始める。
ヴィオがそれに付き合っている間、私は壁に寄りかかって待っていた。
「……そこの吸血鬼の子よ」
「なーに?」
族の頭、アトランに話しかけられる。
「名はなんという?」
「ヴェルミ」
「……そうか、ヴェルミか。すまなかったな」
それっきり、アトランは黙り込んだ。
私も話すことはなかったので黙る。
そして、アトランは牢獄へ仲間とともに連行された。
報酬をしっかりもらったヴィオを見て、私達もギルド会館をあとにする。
金貨を茶色い袋に詰めてもらったけれど、いくらだろう。
なんて頭の後ろで腕を組みながら、歩いていたら呼び止められた。
「ヴェルミ」
振り返れば、ヴィオが傅く。
「我が主……罰してくれ! オレの失態で……あなたが死にかけた……申し訳ありません!」
頭を深く下げて、ヴィオは謝罪をする。
「うん、わかった」
私はヴィオの元まで歩み寄ってから、ペシッとデコピンをした。
ヴィオは額を押さえて、瞠目する。
「はい、罰した」
「!? そ、そういうことではなく!」
「あのね、罰して欲しい気持ちはわかるけれど、あれは私かヴィオが受けるしかなかった。いや影遊びで防ぐべきだった。完全に私の選択ミス。だから、謝罪はいらない」
「ヴェルミ……」
「それより!」
私はちょっとだけ躊躇をしてから、問う。
「幻滅……した?」
「え?」
「……呆気なく、敵の一撃食らって、倒れた私という主に幻滅したんじゃない?」
手に持っていたもふもふのスヌードで口を隠しつつ、ヴィオ達の反応を伺った。
「まさか! オレのせいでっ! オレのために、オレを庇ってくれたヴェルミを幻滅するわけがないだろう!」
ヴィオが否定すると、リーノ達も横に並んで傅く。
「お守り出来ず、申し訳ありません! ヴェルミ様!」
「我らは反応すら出来なかった! 申し訳ない!」
「あなたの命を危機に晒してしまい、申し訳ない」
ミーニ、リーノ、ナータの順番で頭を下げられた。
「いや、お前達はよくやってくれたよ。助かった。ちゃんと一日一回血を飲んでいれば、お前達に手間かけてなかったのに……」
「……猫の指示がなければ、オレ達はあなたを失っていた」
猫? ああ、チェシャね。
そう言えば、声がしていた気がする。
ことが終わった頃には姿は見えなくなっていたから、きっと影の中に戻ったのだろう。
「……ごめん」
すると、後ろにいたアッズーロまでもが、横に並んで膝をついた。
「ごめん、ヴェルミっ。ごめんっ。ごめんっ」
大粒の涙を、ポロポロと落とす。
アッズーロが、泣いている。
何に対して謝っているのかは、わからない。
でも必死に謝罪の言葉を口にするから、私は戸惑いつつも頷く。
「……私の方こそ、なんか、ごめん」
子どものアッズーロだって、目の前で死にかけられて怖かったかもしれない。
そんな目に遭わせて、申し訳ない気持ちを言葉にした。
「オレの方がごめんっ、くぅん……くぅんっ。くぅーんっ」
涙を袖で拭いながらも、謝り続けるアッズーロ。
情けない声を出す。鳴き声か。
「はぁーもうキリないから、この件を謝るのはもうやめにしよう。反省したってことで」
ナータ達がアッズーロに続いて、また謝罪を口にしてしまう前に、私は終止符を打つ。
本当にキリがなくなってしまう。
「私もお前達も、二度とこんなことがないように気を付ける。それでいいな?」
そう言えば、ぱっと顔を明るくさせたリーノとミーニ。
ヴィオは少し目に涙を浮かべたが、ナータと同じく決意を固めたような表情をした。
「……」
私は、フッと笑みを溢す。
全然幻滅されていないことに、ちょっと安堵した。
これからもいるってことが、当たり前に決まっている。ちょっと嬉しさを覚えた。
綻ばさせずにはいられない顔を、巻き付けたスヌードで隠して、再び歩き出す。
公衆の面前で傅いていた従者と友だちも立ち上がって、私の後ろをついてきた。
「ところで、ヴェルミ様。あの男は何者ですか?」
ミーノが、問う。
チェシャのことだろう。
「あれ? 初めて見るの? リーノ達と戦った日にも出てきたけど……私の影にいる黒猫だよ。チェシャっていうの。何者かは……私も知らん」
「黒猫って、たまに連れていた!? 影に? ……そうなんですね」
不思議そうに、ミーノは私の影を見下ろす。リーノもだ。
「さっきのドワーフの店に戻る前に着替えましょう!」
「それもそうだね」
胸に穴が開いた血塗れのシャツのままで来店したら、リリースさんが怒りそう。
スースーするし、着替えておこうか。
「新しい服を買おう」
期待の眼差しで、ヴィオがちょうど見える婦人服店を指差した。
おさがりばかりを着ている私としては、わざわざ買う理由がわからない。
誕生日はすぎたし。
「却下」
しょぼんとした顔をするヴィオ。
逆になんで、いいって言うと思ったの?
「それはもう使い物にならないから、新しい服を買うべきだ」
ナータが、背中を軽く押してきた。
確かに今着ているものは、使い物にならないか。
購入の理由がある。
「可愛いの買いましょう!」
ミーノがその気になって、先に進む。
リーノもヴィオも、続いた。
いや、買うって言ってないのに。
「安物でいいよ?」
しょうがないので、私は歩いて追いかけた。
お待たせしました。
2年ぶりの更新orz
20210928




