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野巫の祭  作者: 凡栄
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野巫の祭 65

野巫の祭 65




今夜は2杯でやめるとして、つまみが少し足りないな。

壁のお品書きを眺めていると


・ささみと紅ショウガの天ぷら


これに目が止まった。


ささみと紅ショウガかぁ。

これは揚げ物とはいえ、サッパリと食べられそうだ。


「すみません。ささみと紅ショウガの天ぷらください。」


「はぁ〜い。」


お母さんの柔らかい返事は満席の店内でもよく響く。


揚げ物だから時間がかかるかもしれない。

ビールはゆっくり飲もう。


後ろにあるテレビの音に気を向ける。


まだ残る避難所や、仮設住宅での暮らしぶり。


地域によって、かなりの違いがあるようだ。

また、生活再建が進まず収入を得る方法が無い人たちも大勢いるとのこと。


地震と津波と、そしてなんといっても原発事故による放射能の影響で、元の仕事ができなくなっていると。


また、避難先がバラバラになっていた影響で役場の機能もあちらこちらへと移動していた。

その中で「浪江町」の名前が出てきて思わず振り返りテレビの画面を眺めた。

どうやら私が調べた双葉町の中に入っている浪江町役場は窓口だけで、本体は二本松の役場に入っているらしい。


帰ったら、もう一度調べなくてはな。


それと、忘れていたがFAXを繋いでもらわないと。

確かマンションには共同で光回線が入っていたはずだ。

本体は明日にでも届くはずだから連絡してみよう。


そんなことを考えていたら料理ができてきた。


「は〜い。お待ちどう。」


皿に盛られたササミの天ぷらには中の紅ショウガが所々に赤い色をのぞかせている。

これは食欲をそそられるな。


「ありがとう。」


そう答えて、さっそくに箸をつける。


揚げたてなので熱々だが、ササミと紅ショウガの香りが一体となって、これはたまらない。


「おう⋯旨い。」


思わず声が出る。

これはいい。

箸もビールも進むな。


今日の出来事が一瞬でも忘れられて、いい心持ちになれた。


一気に食べて、一気にビールを飲み干し、混んでもいたので長居は無用と立ち上がり、お会計を頼んだ。


「はぁ〜い。ありがとうございます。」


「ごちそうさまでした。」


お母さんに挨拶して出口へ向かうと、カウンターの中からお父さんと息子さんが


「ありがとうございま〜す。」

「ありがとうございます。」


「ごちそうさまでした。」


二人に挨拶をして外へ出た。


馴染みばかりという感じで居心地の良いお店だったな。

これはまたすぐに来ることになるだろう。


帰りはまた同じ道を戻る。


交番のある信号を渡って合羽橋道具街のアーケードに入り、一つ目の信号を右に曲がれば菊水通り。


曲がって立ち止まり、この時間に、この方向から入るのが初めてだったことに気がついた。








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