野巫の祭 63
野巫の祭 63
人だかりの中にいたはずなのだ。
奴らが。
「えっと、ですね。その女性以外にも声をかける人がいましたけど、まぁ野次馬ですからね。入れ替わり立ち替わり高瀬さんが倒れている姿を見ていたようです。そのうちに救急車が来ましたので。」
ん⋯
少し聞き方を変えよう。
「あの、救急車が来る前ですが、その女性の方のそばに他にも知り合いのような人はいませんでしたか。」
「え〜⋯っと。そうですねぇ。「大丈夫か」とか声をかける人はいましたけど⋯知り合い⋯ですか。ん〜⋯」
特に目立った動きをする者はいなかったのか。
いや、逆だな。奴らは動かないのだ。見ているだけだ。
「あの、その女性の近くに野次馬ではなく、見ている人っていませんでしたか。」
そう聞くと
「誰か、お知り合いがいたかもしれないと?」
いけない、これ以上は疑われてしまう。
何もやましいことが無いのに、こんな気を使わなければならないとは。
しかし話をそらさないとな。
「あ〜、いえ、その女性もそうなのですけどね。もし知り合いだとしたら救急車を呼んでもらいましたし、今度お会いした時にお礼も言わなければなりませんし。どんな方だったか頭に入れておきたいと思いまして⋯」
ごまかせただろうか。
警察官はすぐに答えてきた。
「なるほどですね〜。そうですよね、ご近所さんだったら尚更ですね〜。」
どうやら、ごまかせたか。
「でもね〜。そうなると、どうしてもあの立ち去り方が気になるのですよ。」
あぁ、またそれを思い出してしまったか。
「おかしいじゃありませんか。何も言わないでいなくなるなんて。ましてや身内だ娘だと言っていたのにですよ。まぁ、高瀬さんの名前と電話番号を知っていたのですからお知り合いの方だとは思うのですけど。なにも消えるようにその場を離れてしまわなくてもねぇ。」
「そう⋯ですね。」
これ以上は何も言わない方が良さそうだ。
黙ってうつむいていたら、警察官が膝をポンっと叩いて
「本官にはわからないことだらけです。しかし、これ以上はどうしようもなさそうですね。最後に高瀬さん、念のためにご連絡先を教えてください。」
そう言って紙とボールペンを出してきた。
そこへ名前と住所と電話番号を書き込んで返す。
「本当にこの箱(交番)のお近くなのですね。ありがとうございます。以上です。お時間かかってしまいすみませんでした。」
「いえ、こちらこそありがとうございました。」
「救急隊員の方も言ってましたが、キチンと病院へ行かるのがよろしいかと。余計なことですが暑さも厳しいですし体調が崩れてもおかしくありません。お医者さんに診てもらってくださいね。」
「あ、はい。ありがとうございます。そうします。」
椅子から立ち上がり、交番から出たところで振り返り挨拶しようとすると、座ったままの警察官が思い出して言った。
「そういえば、あの女性のそばに⋯何人かは正確に覚えていないのですが、何というか妙に冷静な人がいましたね。」
「えっ⋯」
「はい。あの〜野次馬ってわちゃわちゃしてるじゃないですか。特にこの街の人たちはサイレン鳴ると大騒ぎになるものなんですけど、そういう感じでもない人が何人かいましたね。高瀬さんに声をかけていたその女性が一生懸命だったから、余計にそう目えたのかもしれませんが。でも知り合いという感じでもなかったと記憶しています。」
「そうですか⋯」
「すみませんね。最後になって思い出して。」
「いえいえ、そんなことはありません。ありがとうございました。」
「はい。それではお気をつけてお帰りください。」
今度は入口まで見送りに来てくれた。
何度かお辞儀をして部屋の方へ向かって歩き出す。




