野巫の祭 62
野巫の祭 62
警察官は救急車が到着するまでのことを話し出した。
「私が気になって伺いたいというのはですね⋯あぁ、どうぞ掛けてください。」
椅子に座るように言われて、今度は素直に座った。
「で、気になったというのは。」
「あぁ、それなんですけどね、そばにおられた女性に心当たりがないとのことですが。」
「はい。心当たりというか、わからないのです。」
「そうですか。いえね、あのぉ〜その女性ですが、救急隊員には身内で娘だ⋯と言っていたんですが、私が現場に到着した時にはあなたの名前を呼んでいたのですよ。」
「身内⋯だと言うのなら、そうなのでは。」
「いや⋯なんと言うか不自然なんですよ。」
「どんな具合にでしょう。」
「普通でしたらね、身内で娘だと言うのなら「お父さん」って呼ぶんじゃないでしょうか。」
「なるほど⋯そうですね。」
「でも名前を呼んでいたんですよ名字の方を。」
「上の名前ですか。」
「そうなんです。「高瀬さん高瀬さん」って具合に。身内だとしたら、せめて下の名前で呼ぶのではないでしょうか。」
「確かに⋯」
警察官は首を傾げながら
「ですから、てっきり近所の知り合いなのかと思ってましたらね、救急車が到着したら身内で娘だと言って、あなたの名前や電話番号を伝えていたんです。」
「スラスラと⋯ですか。」
「はい。はい。そうなんです、スラスラと。それでやっぱりお身内の方なのかと思ったのですが⋯」
言いかけて、また首を傾げた。
もどかしそうな顔をして、何度かこちらを見直した後に
「それが、消えて⋯しまった⋯でしょう。正確にはいなくなったと言うのでしょうが、目の前にいた私たちにとっては「消えた」というのが一番当てはまるのです。それで⋯」
また言葉に詰まりながら必死に言葉を選んでいるようだった。
そりゃそうだ。
誰だってこんなこと信じられるものか。
だからこそ、私の方も相づちしか打てないでいるのだから。
少しでも奴らのことを話したら根掘り葉掘り聞いてくるだろう。
誰かに聞いてもらいたいのは山々だか、目の前の混乱している警察官に話しても夢物語にしか聞こえないだろうし、悪くすればおかしな考えを持つ者と思われてしまう。
そうだ。
救急車が到着する前の状況を見ていたというのなら聞いておきたいことがあった。
まだ言葉を探している警官に向かって、ゆっくりと声をかけた。
「あのぉ〜⋯」
声を聞いた警察官はハッとした感じて
「はい。あっ、すみません。なんでしょう。」
「あのですね。救急車が来る前はどんな感じだったのでしょうか。」
「あぁ、はい。えっと、私が現場に着いた時はすでに人だかりができていまして、その中で倒れていた、えっと、高瀬さん⋯を確認しまして、救急車を呼んだとのことでしたから自分が確認したのと救急要請が出ているのとが同じか確認をしまして⋯」
「いぇ、あのですね、そうではなくて、私と一緒にいたという女性は、なんと言うか、私に何をしていたのでしょう。」
「あぁ、はい。えっと、その身内だと言っていた女性はしきりに声をかけておられました。お名前を呼んだり「わかりますか」と呼びかけたりしてましたね。」
「他には何か、あの、体の向きを変えたりだとか、服を脱がせようとしたりとか。」
「う〜ん⋯。私もずっと見ていたわけではなく、救急車の止まる場所の確保ですとか、人だかりの整理などもしていましたのでハッキリとは言えませんが、体に触ってはいなかったと思います。」
そう⋯か。
しかし、警察官も言っているが全てを見ていたわけではない。
私の持ち物に触っていた可能性はある。
人混みがあったとしても仲間もいたとすると、手助けのフリをして何かをしたかもしれない。
「それ以外で私のそばにいた人達はどんな感じでしたでしょう。」
そう、その女性一人とは限らない。
他にも何か野次馬とは違う動きがなかっただろうか。




