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野巫の祭  作者: 凡栄
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野巫の祭 56

野巫の祭 56





暗闇の中で身体が揺れている。


かガシャガシャと金属のぶつかり合う音もする。


なんだ?一体どうなったのだ。


正面の遠くの方に点のような明かりが見える。

その明かりはどんどん大きくなって、光の中へ飛び込んだようになった。


また正面に何かが見えてきた。

明かりではなく灰色のかたまりだ。

それがだんだん大きくなって、灰色の中で何かが動いている。


人影だろうか。

灰色のかたまりが景色として見えてきた。


人らしきものが、こちらに向かって何か言っているが、口以外の部分がぼやけていてよく見えないし、声も聞こえない。


さらに口だけは動いている。


「⋯⋯さん!⋯⋯高⋯⋯さん!」


何を言っているのだろう。


「高⋯⋯⋯高⋯さん!」


なんだ?


そう思った途端、景色がハッキリとした。

大きな声が耳の中に響く。


「高瀬さん!高瀬さん!」


呼んでいる相手の方を見ると白いヘルメットをかぶった男性が私の名前を呼んでいた。


「わかりますか、高瀬さん!」


反射的に「うん」とうなずく。


「よかった、意識が戻りましたね」


そう言われて周りを見ると、ここは救急車の中だった。


「大丈夫ですからね、これから病院へ行きますから」


「病院⋯」


そう言って身体を起こそうとすると


「あぁ、無理をしてはいけませんよ。まだ横になっていてください」


冗談ではない。

目を回して倒れただけなのに病院まで連れて行かれてはたまらない。


「いや、大丈夫です。もう起きられます」


そう言って身体を起こした。


「念のために病院へ行って調べてもらいましょう」


調べる⋯


そう聞いて胸の血豆を思い出した。

これを人に見られたら何と説明すればいいのか。


これはいけない。

何としてもここを出なければ。


「ほ、本当に大丈夫です。お騒がせしました。ありがとうございます。」


「ダメですよ、道端で意識を失ったんですから、病院で検査してもらいましょう。ね!高瀬さん!」


向こうも必死だが私も必死だ。


「いや、本当に大丈夫ですし病院へ行く必要もありません。もう歩けます。」


腕に巻かれていた血圧計のベルトをベリベリと外した。


「あぁ、ダメですって。病院へ行って調べてもらいましょう。高瀬さん。」


「い、いや大丈夫。もう帰れま⋯⋯」


なんだ⋯何でこの救急隊員は私の名前を呼ぶんだ。

なぜ、私の名前を知っているんだ。





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